和書がトップになったのはフォトブック人気ランキング史上初めてだ。同書のオリジナルは、1971年に私家版で約1000部が刊行されている。フォトブックの代表的ガイドブック”The Book Of 101 Books”(Andrew Roth、2001年刊)、”The Photobook:A History volume 1″(Martin Parr/Gerry Badger、2004年刊)にも収録されているコレクターズアイテムだ。荒木と陽子との新婚旅行の全貌が収録されたこの幻のフォトブックは、これまでは長きにわたって新潮社版「センチメンタルな旅・冬の旅」に収められた21点のダイジェストでしか見ることができなかった。本書はオリジナル版の108点がすべて収録されて限定復刻されたもの。納得の1位獲得といえるだろう。
ジャック=アンリ・ラルティーグのカラー作品を初めて本格的に紹介した”Lartigue: Life in Color”、
サラ・ムーンのドイツ・ハンブルグのダイヒトーアホール美術館写真館(House of photography of the Deichtorhallen)で開催された展覧会に際して刊行された”SARAH MOON NOW AND THEN”、ピーター・リンドバークの”A Different Vision on Fashion Photography”、マイケル・デウィックの幻の写真集が未収録作を追加して復刊した”The End: Montauk, N.Y. ” (10th Anniversary Expanded Edition)が入っている。
2015年暮れに発売されたウィリアム・エグルストンの”William Eggleston: The Democratic Forest”は10分冊の豪華版写真集。さすがに高額本なのでベストテンには入らなかったが、予想以上の売り上げだった。2016年の年末にかけて同書から新たにセレクション・編集された廉価版が刊行されている。2017年には間違いなく売上の上位に登場するだろう。
2016年ランキング速報
センチメンタルな旅, 荒木経惟
Morandi’s Objects, Joel Meyerowitz, 2016
Vivian Maier: Street Photographer, 2011
Tim Walker Pictures, 2015
Uncommon Places: The Complete Works, 2004
Lartigue: Life in Color, 2016
The End: Montauk, N.Y., Michael Dweck, 2016
Sarah Moon: Now And Then, 2016
Peter Lindbergh:A Different Vision on Fashion Photography, 2016
主要市場での高額落札の上位20位の落札総額を比べると、2015年比で約15%増加している。高額セクターは比較的順調だった。これは2016年2月クリスティーズ・ニューヨークで行われた、珠玉のヴィンテージ作品多数そろえた”Modern vision”オークションの影響だと思われる。ちなみに2016年の最高落札は上記オークションに出品されたギュスターヴ・ル・グレイ(Gustave Le Gray)による、港を去っているフランスの皇帝の艦隊帆船のイメージ”Bateaux quittant le port du Havre (navires de la flotte de Napoleon III)、1856-57″で、落札予想価格上限を大きく上回る96.5万ドル(@115/約1.1億円)だった。
もう一つの新しい表現は、抽象的な作品が含まれていること。デジタルの方が抽象的なヴィジュアルを作りやすいかどうかは私は専門家でないので判断できないが、明らかに絵画を感じさせる表現が増えている。フィルムだと現像しないと画像がわからないが、デジタルはその場で確認できる。たぶんそのような作成過程の違いが、抽象的なヴィジュアル探求のきっかけになったのだろう。彼女は元々は絵を描くアーティストなので、新たな方向性としてカメラによる絵画制作に挑戦していると思われる。
ワイフェンバックは来年4月に静岡県三島のIZU PHOTO MUSEUMの個展が決定している。伊豆で撮り下ろされた作品群を中心に、2005年のモノクロ作品”The Politics of Flowers”も展示されるという。新作の一部を見せてもらったが、古の日本人が山河で感じた自然の神々しさが表現されているように感じた。そこにも抽象画を感じさせるような作品が含まれていた。同展ではかなり大きなサイズの作品が展示されるという。これもデジタル写真の恩恵といえるだろう。全貌が明らかになるのが非常に楽しみだ。
なお、ブリッツでも4月にテリ・ワイフェンバックの個展開催を予定している。
“As the Crow Flies”展は、アート写真のコレクターはもちろん、写真撮影を趣味とする人にも技術的に興味深い展示だ。ワイフェンバックはフルサイズのデジタル・カメラで、ウィリーは8X10のアナログ・カメラを使用。両者の写真には、絞り解放のカラーと絞り込んだモノクロという明確な違いがある。そしてともにインクジェットで制作された作品なのだ。ワイフェンバックは元々はCプリントのプリントを自身で行っていた。いまでも学校で写真とプリントを教えている。今回のカラーの展示プリントもプリント専門家の彼女により制作されている。
現在、”As the Crow Flies”展をテリ・ワイフェンバックとともに開催中の米国人写真家ウィリアム・ウィリー(1957-)。ヴァージニア大学アート部門の教授も務めているベテラン写真家だ。彼の展示作品”The Anatomy of Trees”(木の解剖学)”シリーズは、全作が8X10の大判カメラで撮影され、インクジェット・プリンターで制作されている。アクリル越しという理由もあるかもしれないが、銀塩写真だと思いこんでいる人もいるくらいだ。多くの人がプリントの高いクオリティーに驚いている。
今回の”As the Crow Flies”展では、テリ・ワイフェンバックがカラー、ウィリアム・ウィリーがモノクロのインクジェット作品を展示している。米国のスタンダートになっているデジタルによるファイン・プリント2種類を見比べることができる絶好の機会といえるだろう。ブリッツでの写真展は12月17日まで開催しています。