鋤田正義 写真展の見どころ
AIが生成できないファッション写真

ブリッツ・ギャラリーでは、鋤田正義の初期ファッション作品と有名ミュージシャンのポートレートを紹介する「SUKITA : Photographs from Early Fashion to Rock Icons」展を開催中。本展で展示されているのは、ファインアートに成りうるファッション写真。現在主流の洋服の情報を提供する目的で制作される、美しいだけのイメージとは異なる。写真家が自らの身体で感じ取った撮影時の世の中の無意識、つまり当時の時代の気分や雰囲気、都市の空気などが反映された写真なのだ。それらには写真家がその時、その場所で受けた感動が詰まっており、そのメッセージを通して見る側とのコミュニケーションが発生する可能性がある。その先に、もし写真からストーリーが立ち上がってくれば、見る側にとって意味ある写真作品となる。ファインアート写真としてのコレクションの対象に成りうるのだ。

鋤田は70年代初めから若者文化の最前線の地にあこがれて、ロンドンやニューヨークに旅立っている。60~70年代といえば反抗と自由、そして退廃と解放の緊張が世の中に横たわる時代だった。特に当時のロンドンは活気に満ちていた。50~60年代の新しい若者文化が開花した、スウィンギング・ロンドン直後の熱量がまだ溢れていた時代だった。またエキゾティシズムがもてはやされており、歌舞伎の上演などもあり、ジャポニスムが再注目されていた。

今回の展示作品は、そのような当時の世相が見事に反映されている。モデルの山口小夜子が山本寛斎デザインの洋服を着た作品3点展示されているが、それらはエキゾティシズムが反映されたファッション写真の典型例だろう。日本人モデルの起用により当時の身体感覚が強く作品に表現されている点にも注目したい。「Motion Blur series」では、眩い色彩とモデルの動きで当時のサイケデリック・ムーブメントの世相を見事に取り入れている。
そして鋤田は、ミュージシャンも時代の気分づくりに欠かせない象徴的な存在だととらえていた。彼にとっては、特にボウイのポートレートは、時代性が反映された広義のファッション写真なのだと理解したい。

なぜ鋤田のファッション写真が私たちの目に魅力的に映るのだろうか?
いまはAIがどんな画像も生成してくれる。たとえば。60年代風、70年代風のファッション写真も簡単に生成される。しかし、それらは各時代の平均的な面白みのない画像でしかない。AIは写真家が感じ取った時代性を写真に反映させ、再現はできない。だから私たちは実際にその時代に生きた写真家の生の写真に魅了されるのだろう。それらには、各時代の人々の持つ、身体感覚、価値観、社会的緊張、欲望、あこがれや夢が反映されている。鋤田は実際にその時代に生きていたが、AIは生きていない、また肉体を持たないAIは身体性も表現できない。いまアート界は生成的・ネットワーク的世界観を持つ作品が趨勢を強めている。このような時代だからこそ、AIには代替できない、時代の気分が濃厚に刻まれたファッション/ポートレート写真、そのなかでも特に手作業で個別に制作された銀塩写真はますますコレクターに求められるようになると考えている。ちなみに、どの時代のファッション写真の市場での人気が一番高くなるかをAIに質問したところ、「1960〜70年代」と「1990年代」とのことだった。都市の空気が写真に一番刻まれていて、社会の変化とファッションが密接に連動していたからという、珍しくあまり違和感のない回答だった。

鋤田はいま過去のファッション写真のアーカイヴを本格的に見直している。今回セレクションされた作品はほとんどがスタジオでの撮影だった。私が興味あるのは、スタジオから飛び出してストリートで撮影された鋤田のファッション写真の発見だ。彼は当時英国のファッション写真にストリートやドキュメントの撮影を導入して新風を巻き起こした、デヴィッド・ベイリーやダフィーの作品を見ているはずだ。間違いなく、自らのファッション写真で当時最新のアプローチを取り入れていたと思う。彼がボウイを京都で撮影した1980年の一連の写真は極めて有名だ。これらこそがまさに背景の時代性を取り込んだストリート系のファッション写真だといえるだろう。今後のアーカイヴ調査の進展に期待したい。
Photographs ©SUKITA

(お知らせ)
好評につき写真展の会期が2月22日(日)まで延長されました!
2月11日の祝日も通常営業します。
ぜひ鋤田の濃厚な時代性を感じるファッション作品をご高覧ください。

“SUKITA : Photographs from Early Fashion to Rock Icons”
2026年2月22日 (日)まで
水曜~日曜、 1:00  PM~ 6:00  PM
月曜火曜は休廊、 入場無料
ブリッツ・ギャラリー