京都ではちょうどアンビエント・ミュージックの第一人者で、ボウイのベルリン3部作の制作に関わったブライアン・イーノの音と光の展覧会「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」が8月21日まで、京都中央信用金庫 旧厚生センターで開催中だ。鋤田はイーノが手掛けたボウイの「Heroes」のカバーを撮影している。京都は鋤田に、ボウイ、イーノとの不思議な縁をもたらしている。
アートフォトサイトで既報のように、5月14日にクリスティーズ・ニューヨークで開催された「The Surrealist World of Rosalind Gersten Jacobs and Melvin Jacobs」オークションではマン・レイの歴史的名作”Le Violon d’Ingres, 1924″の、極めて貴重なヴィンテージ作品が、写真作品のオークション最高落札額となる12,412,500ドル(@128/約15億8880万円)で落札された。 本作は、サイズ19 x 14 3⁄4 inch (48.5 x 37.5 cm)の1点ものの銀塩写真、落札予想価格は500万ドル~700万ドルだった。 これまでの写真のオークション最高額は、2011年11月にクリスティーズ・ニューヨークで落札されたドイツ人現代アーティストのアンドレアス・グルスキーの”Rhein II”の4,338,599ドル。ちなみにいままでのマン・レイの最高額は、2017年11月9日にクリスティーズ・パリで開催された「Stripped Bare: Photographs from the Collection of Thomas Koerfer」に出品されたヴィンテージ作品“Noire et Blanche, 1926”で、2,688,750ユーロ(@135/約3.63億円)だった。今回の落札はもちろんマン・レイ作品のオークション最高落札額になる。
Christie’s NY, Helmut Newton “Big Nude III (Variation), Paris, 1980”
5月10日に同じくクリスティーズ・ニューヨークで開催された「21st Century Evening」オークションで、唯一出品された写真作品のヘルムート・ニュートン(1920-2004)“Big Nude III (Variation), Paris, 1980”が、落札予想価格は80万ドル~120万ドルのところ2,340,000(@128/約2億9952万円)で落札された。196.2 x 110.8 cmサイズの大判作品で、記録上1点しか存在しないプリントで、1990年に写真家から著名なギャラリストのルドルフ・キッケン(Rudolf Kicken)に寄贈された作品とのこと。今回はニュートン作品のオークション最高落札額になる。ちなみにいままでのニュートン最高額は、2019年4月4日にフィリップス・ニューヨーク「Photographs」オークションに出品された“Sie Kommen, Paris (Dressed and Naked), 1981”。美術館などでの展示用の197.5X198.8cmと196.9X183.5cmサイズの巨大組作品で、落札予想価格60~80万ドルのところ182万ドル(@110/約2億円)で落札されている。
Christie’s NY, Richard Avedon “Blue Cloud Wright, Slaughterhouse Worker, Omaha, Nebraska, August 10, 1979”
続いて5月13日に同じくクリスティーズ・ニューヨークで開催された「Post-War and Contemporary Art Day Sales」オークションで、リチャード・アヴェドン(1923-2004)の「In The American West」シリーズの“Blue Cloud Wright, Slaughterhouse Worker, Omaha, Nebraska, August 10, 1979”が、落札予想価格は25万ドル~35万ドルのところ378,000(@128/約4838万円)で落札されている。142.2 x 113 cmサイズの大判で、エディション6/6の作品。ちなみに2016年11月3日にフィリップス・ロンドンで161,000ポンド(@130/2093万円/@1.25/約201,250ドル)で落札された作品。手数料や保管管理を無視して複利で単純計算すると約6年間で11.08%程度で運用できたことになる。 同オークションでは、シンディー・シャーマン(1954-)のカラー作品“Untitled、1981”も、落札予想価格は40万ドル~60万ドルのところ882,000(@128/約1億1289万円)で落札されている。こちらは61 x 121.9 cmサイズで、エディション1/10の作品。
Christie’s NY, “Photographs from the Richard Gere Collection(Online), ”František Drtikol「Temná vlna (The Dark Wave), 1926」
2022年の大手3業者によるニューヨーク定例アート写真オークションは、昨年同様に各社の判断で、オンラインとライブにより4月に集中して開催された。複数委託者による”Photographs”オークションは、クリスティーズが4月5日(オンライン)、フィリップスは、4月6日(ライブ)、サザビーズは、4月13日(オンライン)に行われた。また前回紹介したように、クリスティーズは4月7日に俳優リチャード・ギア(1949-)の写真コレクションの単独セール”Photographs from the Richard Gere Collection”をオンラインで開催した。今回は4月に行われた4つのオークション結果の分析を行いたい。 ちなみに、平常時はオークション開催時期に同じくニューヨークで行われるファインアート写真の世界的フェアのipad主催のThe Photography show。2022年は、5月20日~22日にニューヨーク市のCenter415で開催される予定だ。
厳しい外部環境の中、高額落札が期待された作品が苦戦し、5万ドル以上の高額作品の不落札率は54.4%と高かった。フィリップス“Photographs”では、シンディー・シャーマンの「Untitled #580, 2016」、落札予想価格25万~35万ドルなど、高額落札が期待された彼女の3作品が不落札、アーヴィング・ペンの「Woman in Chicken Hat (Lisa Fonssagrives-Penn) (A), New York,1949」も、落札予想価格8万~12万ドルが不落札。 サザビーズ“Photographs(Online)”では、リチャード・アヴェドンの代表作「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1980」、57.4 x 45.7 cmサイズ、エディション50の作品が、落札予想価格18万~28万ドルのところ不落札。1979年プリントの同じ作品は、クリスティーズ“Photographs(Online)”で、落札予想価格15万~25万ドルのところ、なんと12.6万ドル(約1512万円)で落札されている。 サザビーズのオークションでは、高額落札が期待された、ダイアン・アーバスの本人サイン入りの代表作「Family on Lawn One Sunday in Westchester, N.Y」、イモージン・カニンガムのヴィンテージ・プリント「False Hellebore (Glacial Lily)」が不落札だった。 今春のオークションでは、入札には高値を追うような力強さが欠けており、特に高額価格帯のファッション、ドキュメンタリー系が弱い印象だった。
今シーズンの最高額は、クリスティーズ“Photographs from the Richard Gere Collection(Online)”に出品されたチェコ出身のモダニスト写真家フランチシェク・ドルチコル(František Drtikol)による希少性の高い女性ヌード作品 「Temná vlna (The Dark Wave), 1926」だった。落札予想価格10万~15万ドルのところ35.28万ドル(約4233万円)で落札されている。
Sotheby’s, “Photographs(Online)”, Thomas Eakins「Untitled (Male Nudes Boxing), c1883」
3位もクリスティーズ“Photographs from the Richard Gere Collection(Online)”の、アルフレッド・スティーグリッツ(Alfred Stieglitz)によるオキーフのポートレート「Georgia O’Keeffe, 1918」。落札予想価格30万~50万ドルのところ30.24万ドル(約3628万円)で落札されている。
昨秋にジャスティン・アベルサノ(Justin Aversano/1992-)の、“Twin Flames”シリーズのNFT(Non-Fungible Token)写真作品を出品して話題をさらったクリスティーズ。今春も、複数アーティストによるNFTの12セットとなる「Quantum Art: Season One, 2021-2022」を出品させている。落札予想価格15万~20万ドルのところ16.38万ドル(約1965万円)で落札、これは同社の今シーズンの最高額落札になった。
Christie’s NY, “Photographs”, Various Artists「Quantum Art: Season One, 2021-2022」
2022年春の大手業者によるファインアート写真の定例オークションは、3月下旬から4月中旬にかけてニューヨークで開催された。今シーズンで注目されたのが、米国の俳優リチャード・ギア(1949-)の写真コレクションの単独セール「Photographs from the Richard Gere Collection」だった。クリスティーズが、3月23日から4月7日にかけてオンラインで開催した。
Christie’s, Diane Arbus, “Audience with projection booth, N.Y.C., 1958” Sold at $75,600.
最高額は、チェコ出身のモダニスト写真家フランチシェク・ドルチコル(František Drtikol)による希少性の高い女性ヌード作品 「Temná vlna (The Dark Wave), 1926」だった。落札予想価格10万~15万ドルのところ35.28万ドル(約4233万円)で落札されている。
Christie’s, František Drtikol, “Temná vlna (The Dark Wave), 1926”
Christie’s, Alfred Stieglitz,”Georgia O’Keeffe, 1918″
3位は、エドワード・ウェストン(Edward
Weston)の「Nude on Sand, Oceano, 1936」。落札予想価格7万~10万ドルのところ10.71万ドル(約1285万円)で落札されている。
Christie’s, Herb Ritts, “Djimon with Octopus, Hollywood, 1989”
リチャード・ギアの友人だったハーブ・リッツ作品は12点出品され10点が落札されている。最高額は「Djimon with Octopus, Hollywood, 1989」、83.8 x 68.5 cmサイズでエディション12の作品。落札予想価格2.5万~3.5万ドルのところ4.788万ドル(約574万円)で落札されている。
今年最初の大手業者による写真オークションが2月17日にサザビーズ・ニューヨークで開催された。これは投資家デビッド・H・アリントン・コレクションからのアンセル・アダムス(1902-1984)作品約100点の単独オークションとなる。2020年12月に行われ、約640万ドルを売り上げて大成功を収めた同コレクションからアンセル・アダムス単独の“A Grand Vision: The David H. Arrington Collection of Ansel Adams Masterworks”セールのフォローアップ・オークションとなる。 近年、来歴の良いアンセル・アダムス作品に対する需要は極めて高い。特にサイズの大きな作品は現代アートの視点から再評価が進行して高騰している。いまや彼はアナログ時代に「ゾーンシステム」などの技法を駆使して、銀塩写真の表現の可能性拡大に挑戦してきた先駆的アーティストだと考えられているのだ。今回の結果でも貴重なアダムス作品の人気の高さが改めては確認された。 100点のうち不落札は僅か2点で、落札率は驚異の98%。落札額合計は約380万ドル(約4.37億円)だった。入札も活発で、落札予想価格上限を超える落札も数多く見られた。
Ansel Adams “Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941” / Sotheby’s New York
最高額は、20世紀写真を代表する名作“Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941”。極めて貴重な1940年代にプリントされた、イメージサイズ31.1 X 40.7 cmのヴィンテージ・プリント。落札予想価格50万~70万ドルのところ、50万4,000ドル(約5796万円)で落札された。 アンセル・アダムスの同作“Moonrise”は極めて暗室でのプリントが困難なことで知られている。 かつてアダムスは、“It is safe to say that no two prints are precisely the same.”「正確に同じプリントは2つとないといってもいい」と語っている。実は彼は、1948年12月にネガの再処理という苦渋の決断をしている。それ以降のプリントは数十年にわたり次第に濃くなり、1970年代後半には空が真夜中の黒の様に変化していった。従って、今回のようなオリジナルネガによる空部分があまり濃くない初期プリントは極めて貴重で高価になっているのだ。
実は同作“Moonrise”のオークション最高落札価格は、2021年10月6日にクリスティーズ複数委託者による“Photographs”に出品されたプリント。60年代後半にプリントされた103.8 x 150.4 cmサイズの超大判作品。このサイズは15~20作品位しか存在しないと言われている。落札予想価格50万~70万ドルの上限を超える93万ドルで落札されている。 この落札価格93万ドルと、今回の50.4万ドルとの違いは現代のマーケット状況が反映されている。市場を席巻する現代アート分野のコレクターが好む大判サイズという事実が、かつての20世紀写真でのヴィンテージプリントの貴重性を上回って評価されているのだ。
ちなみにアダムス作品のオークション作家最高額は、サザビーズ・ニューヨークで2020年12月に行われた第1回目のデビッド・H・アリントン・コレクション・セールに出品された、“The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942”。60年代にプリントされた、大判約98X131cmサイズの銀塩作品で98.8万ドルで落札されている。
Ansel Adams “Clearing Winter Storm, Yosemite National Park,c1937” / Sotheby’s New York
さて今回のオークションの高額落札の2位は、“Clearing Winter Storm, Yosemite National Park, c1937”だった。 やや低めの落札予想価格3万~5万ドルのところ、22.68万ドル(約2608万円)で落札されている。 3位は“The Teton Range & the Snake River,1942”で、 こちらも低めの落札予想価格5万~7万ドルのところ、20.16万ドル(約2318万円)で落札されている。
Sonya, Poles Montauk, New York, 2002 ⓒ Michael Dweck
初期代表作“Sonya, Poles Montauk, New York, 2002”の大判サイズ作品は、2018年10月のササビーズ・ニューヨークのオークションにおいて168,750ドル(@112/約1890万円)で落札された。現存する写真家としては異例の高額落札で、市場関係者を驚かせた。2004年に刊行された彼デビュー写真集「The End: Montauk, N.Y.」(Harry N.Abrams, Inc.,刊)は、発売後わずか数週間で5000部を完売。その後レア・フォトブック市場で一時期1万ドル(@115円/約115万円)で取引されたという伝説の写真集だ。
その後のドウェックの創作活動はドキュメンタリ映画の監督/制作にシフトしている。もともと彼の写真作品や写真集は、明確なテーマと、それを伝えるストーリー性を持つヴィジュアルのシークエンスが見られた。複雑な作品テーマは静止画よりも動画の方が表現しやすい面があるのだろう。2018年には、米国地方都市の消えゆく伝統的ストックカーレースを舞台にした初の長編ドキュメンタリー映画「The Last Race」を、グレゴリー・カーショウとともに監督/制作している。
(*1)「Friends of the Truffle Hunters Conservation Program」 マイケル・ドウェックとグレゴリー・カーショウは、同作を撮影中にトリュフ・ハンターとその世界に魅了された。そして撮影地の森を保全・保護するためにこのプログラムを結成する。これは映画を支えてくれた多くの個人篤志家の人々の惜しみない寄付によって成り立っている。彼らが最初に行ったのは、ピエモンテ地方にある55エーカーのトリュフの森を購入し、保護することだった。この保護活動は、15人のトリュフ・ハンターのグループ(Terre Di Tartufi)がボランティアとして現地で管理し、保護活動のサポートや将来の世代への教育を行っている。作品の販売収益の一部は、このプログラムに寄付される。