以下が立川直樹氏の展覧会の紹介文。 この展覧会はその時にボウイと訪れた場所を鋤田が40年の時を超えて撮影した写真の組み合わせにより歴史や、文化、伝統、前衛が入り交じった京都の地で”時間”と題して開催される。BOWIE X KYOTO X SUKITAという時空を超えたコラボレーションは、2人のマスターの魂の交歓が結実したもので魔法のような時間に観客を誘ってくれる。(プロデューサー 立川直樹)
2021年のファインアート写真オークションが2月2日から始まった。中堅業者のボナムス・ニューヨークで米国人女性写真家(Ruth Orkin, 1921-1985)の単独オークションが開催された。彼女は女性フォトジャーナリストの草分け的な存在。フリーランスとして雑誌の「ライフ」、「ルック」などの仕事で世界中で撮影旅行を行っている。フォトブックでは、ニューヨーク市のアパートからセントラルパークをカラーで撮影した「A World Through My Window」(Harper Collins, 1978)が知られている。1995年にはニューヨークの国際写真センター(ICP)で回顧展が開催されている。今回の単独オークションは、彼女の生誕100年を記念するとともに、最近の20世紀に活躍した女性写真家の再評価の流れの一環だと思われる。ファインアート市場がまだ成熟していなかった1985年に亡くなっていることからサインが入ったプリント作品の流通量は多くないと思われる。
今回の総売り上げは約17.63万ドル(約1851万円)、54点が出品されて33点が落札、落札率は約61.1%だった。最高額は彼女の代表作<<An American Girl in Italy (1951)>> で、US$ 52,812(約554万円)だった。
Bonhams NY, Photographs by Ruth Orkin, “American Girl in Italy, 1951”
興味深いのは、本オークションには同作のモダンプリントが複数点出品されていたこと。上記の最高額で落札されたのは80.7 x 122cmサイズの、サイン付き大判作品だった。一方で10.5 x 21.2cmサイズの、クレジット、写真家アドレス、スタンプのみ、サインなしの作品はUS$ 1,020(約10.7万円)、28 x 35.5cmサイズのサイン入り作品は US$ 12,750(約133万円)だった。作品のサイズ、サインの有無が相場に与える影響が明確に反映されていたと思う。
落札ランキングでは、ここ数年の市場の低迷から特に現代アート系の高額落札件数が大きく減少している。2016年以来、300万ドル越えの高額落札は記録されていない。2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響による市場の先行き不透明感から、現代アート系の高額作品の不落札が相次いだ。その影響から年後半には高額の写真作品の出品取り止めが多く見られた。 2020年の現代アート系第1位は、ササビーズ・ニューヨークで6月29日に開催された“Contemporary Art Evening Auction”に出品されたリチャード・プリンスの約152X228cmサイズ、エディション1/2のタイプCプリント作品「Untitled (Cowboy),2015」で、約128万ドル(@110/約1.4億円)だった。しかし総合順位では第2位となる。
Sotheby’s NY, “Contemporary Art Evening Auction”, Richard Prince, 「Untitled (Cowboy),2015」
2020年の高額落札は、7月10日にクリスティーズが実施した企画オークション“ONE, a global 20th-cantury art auction”に出品されたリチャード・アヴェドンの代表作「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1979」。約203X161cmサイズ、エディション9/10の銀塩プリント作品で、落札予想価格は80~120万ドルのところ、なんと作家最高落札額の181.5万ドル(約1.99億万円)で落札されている。
Christie’s “ONE, a global 20th-cantury art auction”, Richard Avedon「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1979」
2019年は、総合の高額落札ベスト10のうちの20世紀写真系が1位を含む7作品を占めた。2020年も、20世紀写真系が1位を含む5作品を占めている。特にササビーズ・ニューヨークで12月に開催されたアンセル・アダムスの単独セールの“A Grand Vision: The David H. Arrington Collection of Ansel Adams Masterworks”では、高額落札が相次いだ。総合3位になったのは、60年代にプリントされた、約98X131cmサイズの銀塩プリント作品の「The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942」で、98.8万ドル(約1.08億円)の作家最高落札額を記録している。
1.リチャード・アヴェドン 「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955」 クリスティーズ “ONE, a global 20th-cantury art auction” 2020年7月10日開催 約1.99億円
3.アンセル・アダムス 「The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942」 ササビーズ・ニューヨーク “A Grand Vision” 2020年12月14日開催 約1.08億円
Sotheby’s NY,“A Grand Vision: The David H. Arrington Collection of Ansel Adams Masterworks”, Ansel Adams 「The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942」
4.アンセル・アダムス 「Half Dome, Merced River, Winter, Yosemite Valley, 1938」 ササビーズ・ニューヨーク “A Grand Vision” 2020年12月14日開催 約7,540万円
4.アンセル・アダムス 「Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941」 ササビーズ・ニューヨーク “A Grand Vision” 2020年12月14日開催 約7,540万円
国内外の珠玉の作品を展示している「Pictures of Hope」展は12月20日まで予約制で開催中。どうぞお見逃しないように!
2021年は、2019年11月16日に81歳で亡くなった、英国人写真家テリー・オニール(1938 – 2019)の追悼写真展 「Terry O’Neill : Every Picture
Tells a Story 」を開催する。なお、本展はいまだに収束の兆しが見えない新型コロナウイルス感染防止対策を行った上で、完全予約制での開催となる。東京での感染状況の悪化によっては中止や延期になる可能性もある。
2015年に来日したテリー・オニールさん、写真展会場にて
テリー・オニールは、ブリッツで過去に何度も写真展を開催している思い出深い写真家だ。ギャラリーが広尾にあった1993年に「TERRY O’NEILL : Superstars of 70s」、目黒に移ってからは 「50 Years in the Frontline of Fame」(2015年)、「All About Bond」(2016年)、「Rare and Unseen」(2019年)を行っている。2015年には待望の初来日を果たしている。 写真展のタイトルは、2015年にテリー・オニールと共に来日したアイコニック・イメージ代表のロビン・モーガン氏が行った講演のタイトルから取らしてもらった。「Every Picture Tells a Story」は、「1枚1枚の写真が物語を語る」といった意味。彼によると、コレクターが好むのは、作品を壁に飾った時に、ゲストに対して撮影時の様々な背景や裏話が語れる写真。テリー・オニールの写真の人気が高い一因は、様々なエピソードが語れる写真だからだという。そして、彼の代表作が生まれたエピソードを本人との対話の中で披露してくれた。 撮影秘話があるのは、写真家と被写体とのコミュニケーションが濃密だった事実の裏返しだ。ただ有名人を仕事で撮影したり、スナップしただけだと何もエピソードは生まれないだろう。その後、同名の写真集「Terry O’Neill: Every Picture Tells a Story」(ACC、2016年刊)が」刊行されている。
フィリップス・ロンドンの“Photographs”は、予想外に良い結果で市場関係者を驚かせた。総売り上げ約270万ポンド(約3.78億円)、173点が出品されて149点が落札、落札率は約86.1%と良好な結果だった。 高額落札には、リチャード・アヴェドン、マリオ・テスティーノ、ハーブ・リッツなどのアート系ファッション写真が続いた。最高額はマリオ・テスティーノの、“Exposed, Kate Moss, London, 2008”だった。
Phillips London “Photographs”, Mario Testino “Exposed, Kate Moss, London, 2008”
これは230X170cm、エディション2の大判カラー作品。ヴォーグ誌英国版の2008年10月号に掲載された作品。落札予想価格8~12万ポンドのところ、23.5万ポンド(約3,290万円)で落札された。 続くはリチャード・アヴェドンの“Brigitte Bardot, hair by Alexandre, Paris, January 27, 1959”。約58.7X51cmサイズ、エディション35もモノクロ銀塩作品。ハ―パース・バザー誌1959年3月号に掲載された作品。落札予想価格18~22万ポンドのところ、21.25万ポンド(約2,975万円)で落札されている。
一方で、ササビーズ・ロンドンのオンライン開催の“Photographs”は苦戦を強いられた。総売り上げ約107.7万ポンド(約1.50億円)、149点が出品されて77点が落札、落札率は約51.6%と非常に厳しい結果だった。 特に高額価格帯が不調で、最高額の落札予想作品だった、今年亡くなったピーター・ベアードの巨大サイズ作品“Large Mugger Crocodile, Circa 15-16 Feet, Uganda,1966”は、落札予想価格10~15万ポンドだったものの不落札。トーマス・シュトルートの“MUSEE D’ORSAY I’, PARIS, 1989”も、落札予想価格8~12万ポンドだったが不落札だった。最高額で落札されたのは、これもフィリップス・ロンドンと同じマリオ・テスティーノの、“Exposed, Kate Moss, London, 2008”だった。こちらは、サイズが多少小さい180X125cm、エディション3の作品。落札予想価格6~8万ポンドのところ、7.56万ポンド(約1,058万円)で落札された。 この中で好調な結果を残したのが、ウォルフガング・テイルマンズ。8点が出品されて7点が落札。そのうち5点が落札予想価格上限越えの高値による落札だった。
Sotheby’s London “Photographs”, Wolfgang Tillmans ““PLAN, 2007”
クリスティーズ・パリの“Photographies”は、結果が極端だった上記2つのオークションと比べるとちょうど平均的だった。総売り上げ約209.9万ユーロ(約2.62億円)、129点が出品されて90点が落札、落札率は約69.7%だった。 最高額はヘルムート・ニュートンの代表作“Elsa Peretti as a Bunny, Costume by Halston, New York, 1975”だった。
Christie’s Paris “Photographies”, Helmut Newton “Elsa Peretti as a Bunny, Costume by Halston, New York, 1975”
Phillips NY “Photographs”, László Moholy-Nagy, “Fotogramm1925-1928”
今シーズンの写真作品の最高額は、フィリップス “Photographs”オークションに出品されたラースロー・モホリ=ナジ(1895-1946)の、“Fotogramm, 1925-1928,1929”だった。落札予想価格8万~12万ドルのところ37.5万ドル(約4125万円)で落札された。 続いたのはクリスティーズ “Photographs”に出品されたリチャード・アヴェドンの大判156.2 x 149.8 cmサイズの“Tom Stroud, oil field worker, Velma, Oklahoma, June 12, 1980,1985”。落札予想価格8万~12万ドルのところ35万ドル(約3850万円)で落札された。本作は2000年10月13日のクリスティーズ・ニューヨークのオークションで3.525万ドルで落札された作品。ちなみに1年複利で諸経費を無視して単純計算すると約20年で約12.16%で運用できたことになる。
Christie’s NY “Photographs”, Richard Avedon “Tom Stroud, oil field worker, Velma, Oklahoma, June 12, 1980,1985”
ササビーズの“Classic Photographs”には、アンセル・アダムスの39.7X48.9cmサイズの30年代後半から40年代前半にプリントされた貴重な “Clearing Winter Storm, Yosemite National Park, California, 1937”が出品された。こちらは落札予想価格20万~30万ドルのところ約27.7万ドル(約3047万円)で落札されている。
Sotheby’s NY “Classic Photographs” Ansel Adams “Clearing Winter Storm, Yosemite National Park, California, 1937”
今秋のオークションでは高額落札が期待された作品の不落札が目立った。 フィリップスでは、アンドレス・グルスキーの“Sao Paulo, Se, 2002”、落札予想価格40万~60万ドル、ササビーズの“Classic Photographs”に出品されたダイアン・アーバスの“A Family on their Lawn One Sunday in Westchester, N.Y., 1968”と、ヘルムート・ニュートン“Charlotte Rampling at the Hotel Nord Pinus II, Arles, 1973”がともに落札予想価格30万~50万ドルだったが不落札だった。
デジタル時代になり、IZU PHOTO MUSEUMで開催された「The May Sun」展あたりから、彼女は表現の一部として自由に空間を演出するようになった。今回は本人不在にもかかわらず、彼女の意図がほぼ正確に反映された展示になっていると思う。会場設営の実務を的確に行った実行委員会のチームがとても良い仕事をしたと評価したい。
ブリッツも同芸術祭での展示に合わせて、ブリッツ・アネックスでテリ・ワイフェンバック作品を展示する。内容は今春に2週間開催して延期になり、その後に予約制で再開した「Certain Places」からのセレクションとなる。コンパクトに彼女の写真家キャリアを回顧できる内容だ。ただしスペースの関係で春に紹介された全作品の展示は行わない。作品はもちろん購入可能、希望作品の海外からの取り寄せも行う。限定数だが、写真集や過去のカタログの販売も行う。一部にはサイン本も含まれる。今春の写真展に来られなかったワイフェンバックのファンはぜひこの機会に来廊してほしい。 ブリッツで現在開催中の「Pictures of Hope」展と同じく完全予約制となる。
1980~1984年に撮影された一連の作品はニューヨークの写真界で高く評価され、ブルックリン国立博物館、ニューヨーク市立図書館ショーンバークセンター、ニューヨーク市立博物館などでコレクションされている。また中村が1984年に帰国後、1985年に写真集『ハーレムの瞳』(築摩書房刊)としてまとめられている。80年代中ごろに帰国し東京に事務所を開き、その後は広告分野で活躍。2000年に新宿コニカ・プラザで個展「MIHARU」を開催している。 ブリッツでは、アート・フォトサイト・ギャラリーで2004年に「New York City Blues」、2006年に「How’s your Life?」を開催。「Pictures of Hope」展では、中村ノブオ「ハーレムの瞳」を特別展示。代表作と貴重なヴィンテージ・プリントを特集して展示している。80年代にいち早くアフリカ系米国人の未来への「Hope(希望)」を意識して作品制作を行っていた中村の業績にぜひ再注目したい。
「Pictures of Hope」-ギャラリー・コレクション展 – 2020年9月18日(金)~ 12月20日(日) 予約制で開催/1:00PM~6:00PM/休廊 月・火曜日/入場無料 ブリッツ・ギャラリー