百瀬俊哉「Silent -scape」展
心に沁みる写真/見どころを紹介

ブリッツ・ギャラリーでは百瀬俊哉「Silent-scape」を開催中。
本シリーズでは、以前に解説したように地球環境問題が意識され、「水」をモチーフにした、ノルウェー、アルゼンティン、エジプト・カイロ、ツバル、ウズベキスタン、ベニスの作品が多くセレクションされている。一見すると外国の美しい都市や風景の写真に見えるが、その背景には私たち人間が宇宙/自然の一部である事実を思い起こさせるアーティストのメッセージが込められている。
作品の背景にあるアイデア/コンセプトが一番わかりやすいのは、7月にソニーイメージングギャラリーで展示する最新シリーズ「地の理 (Chinokotowari) セレニッシマ/ヴェネチア(7月11日~7月24日)」展用の案内状に使用されている水没したベニス市街地の写真だろう。実は地球温暖化の被害が顕在化した最前線の写真なのだが、百瀬はまばゆい色彩の一種ミステリアスな静謐な風景として作品を提示している。逆説的にそのような美しいシーンが地球環境の変化により危機に直面している事実を私たちに訴えているのだ。

「Silent-scape」シリーズの写真は、百瀬独自の一定の撮影ルーティンを経て、自分自身を客観視しながら撮られている。そこには、アマチュア写真家のような風光明媚な風景を撮ろうというエゴが一切ない。それゆえに、彼の風景写真は決して特別な世界ではなく、逆にそれが大きな魅力になっている。それらの写真は、撮影場所がどこであれ、普通に旅先で遭遇するさりげないシーンなのだ。そして、ありきたりの世界だからこそ、私たちは自分の存在を彼の写真世界の中に自然と重ね合わせことができる。見る側は写真家とのコミュニケーションを通して、百瀬の風景写真の魅力に引き込まれていく。

百瀬の撮影地は、日本の東京や博多などの近代的大都市からみれば、辺境と呼べる地域や途上国だろう。しかし特に古代遺跡や未踏のジャングルなどの記録を目指してはいない。ほとんどのイメージに人間の姿はないが、人の気配を感じる、生活の痕跡が残るシーンを多く撮っている。喧騒に満ちた現地マーケットやコミュニティーの中に入り込んで、直接に現地人と対峙してドキュメントするのではなく、あえて距離を置いているように感じる。たぶん彼は誰も知り合いがいない、言葉も通じない外国の地に身を置いて、写真撮影を通して自分自身と向き合っているのだろう。そして一見普通のイメージが私たちの心に沁みるのは、そこに人間の人生や存在をリアルにとらえた彼の生き方が反映されているからだろう。それは、日本独特のムラ意識や皆が一蓮托生のような認識ではなく、アーティストとして孤独と自由を求めて生きる姿勢が反映されている。人はどのように生きようが、所詮一人で生きて死んでいく存在だという、冷徹な人生を見つめる感覚が反映された写真作品は私たちの心を揺さぶるのだ。

本展では、本人制作によるピグメント・インクジェット・プリントも見どころだといえるだろう。使用しているのは、フレスコジグレー・ペーパー(Fresco Giclee paper)。漆喰のシート化技術を応用して開発された表現力豊かな高級ペーパーだ。その特徴は、デジタル画像データを元にしながら、アナログ的な自然な奥行き感のある画像が得られること。再現される画像は、一般インクジェット用紙のようなインク受像層を持たず、光透過性と独自のテクスチャーを持つ「未硬化の漆喰」に顔料インクが浸透することで生まれるとのこと。使用されている漆喰は自然素材「石灰石」で、山口県秋吉台の良質な石灰岩を原材料にしているとメーカーは公表している。興味深いのは、プリント後に漆喰の炭酸化反応によって顔料インクがCaCO₃=炭酸カルシウムの薄膜で覆われ、有機物である顔料インクの酸化劣化を抑える構造に変化するという特徴だ。百瀬によると、プリント後に時間が経過すると、表面に被膜ができて写真が落ち着いてくるという。ただし制作時の取り扱いにはかなり気を遣うと語っていた。特に古い壁面や建築物などの素材、またクルマなどの質感がとても表情豊かに感じる。興味のある人はぜひ会場で実物を見て確かめてほしい。ちなみに、7月にソニーイメージングギャラリーで展示する百瀬の最新シリーズ「地の理 (Chinokotowari) セレニッシマ/ヴェネチア(7.11-7.24)」展では、表面にアクリルを使用しない展示方法が採用されるという。フレスコジグレー・ペーパーの質感そのものが直に確認できるだろう。

百瀬俊哉 写真展 「Silent Scape 静寂の風景」
2025年5月16日(金)~7月6日(日)
プレスリリースは公式サイトで公開中

なお百瀬の在廊予定は、6/28(土)時間未定、6/29(日)終日、を予定。ただし、事前の告知なしに予定を変更、中止する場合があります。あらかじめ、どうかご了解ください。目黒方面にお出かけの際はぜひご来廊ください。

2025年春NewYork写真オークションレヴュー
アンセル・アダムスの名作が高額落札!

2025年春の大手3業者によるニューヨーク定例アート写真オークション、今回は4月上旬から中旬にかけて、複数委託者によるライブとオンラインの合計3件が開催された。
フィリップスは、4月2日に複数委託者による”Photographs”(223点)、サザビーズは、4月3日に複数委託者による”Photographs(Online)”(128点)、クリスティーズは、4月17日に”Photographs(Online)”(222点)を開催した。
さてオークション結果だが、3社合計で573点が出品され、451点が落札。全体の落札率は約78.7%と秋の約75.6%よりも若干改善した。ちなみに2024年秋は出品737点で落札率75.6%、2024年春は出品766点で落札率73.5%だった。総売り上げは約1009万ドル(約14.9億円)、昨秋の1466万ドル、昨春の約1159万ドルより減少している。落札作品1点の平均落札金額は21,691ドルで、昨秋の約26,328ドルより減少、ほぼ昨春の約20,600ドルと同じレベルだった。

過去10回のオークションの落札額平均と比較したグラフを見ても、総売上高は再び減少に転じている。今年も、ダイアン・アーバス、エル・リシツキーなどの高額評価のヴィンテージ作品が現代アート系オークションに出品されている。”Photographs”分野は中低価格帯の作品が中心になるので、売り上げの減少傾向は続きそうだ。

業者別では、売り上げ1位は久しぶりに約374万ドルを達成したクリスティーズ(落札率76%)、2位は約353万ドルのフィリップス(落札率80%)、3位は約281万ドルでサザビーズ(落札率80%)という結果だった。

しかしフィリップスは、2025年3月18日にウィリアム・エグルストンによるダイ・トランスファー作品43ロットの単独オークション「Color Vision: Masterworks by William Eggleston from Guy Stricherz and Irene Malli」を行い、約566万ドルを売り上げている。実際はフィリップスが売り上げ1位だったといえるだろう。

Sotheby’s NY, Ansel Adams,”Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941″

今シーズンの最高額落札は、サザビーズ”Photographs(Online)”に出品されたアンセル・アダムスの”Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941/c1942″だった。イメージサイズは37.5×47cm、落札予想価格50~70万ドルのところ63.5万ドル(約9398万円)で落札された。本作は、40年代初頭にプリントされた、現存数が少ない1948年12月のネガ再処理以前の貴重な初期プリントの1枚。

Phillips NY, Richard Avedon, “Avedon/Paris, 1947-1957”

第2位は、フィリップスに出品されたリチャード・アヴェドンのファッションの有名作”Avedon/Paris, 1947-1957, 1978”だった。本作は、1947年から1957年にかけてハーパーズ・バザーのスタッフ・フォトグラファーとして撮影された初期の写真で構成されたポートフォリオ11点。1978年にメトロポリタン美術館で開催されたアヴェドンのキャリア初期の回顧展のために編集。1950年代の「ニュールック」ファッションを定義したファッション写真だと言われている。落札予想価格15~20万のとろ、21.59万ドル(約3195万円)で落札されている。

Christie’s NY, Alfred Steieglitz, ”The Hand of Man, 1902”

高額落札第3位は、いずれもクリスティーズに出品された、アルフレッド・スティーグリッツによる、24 x 31.7 cmサイズのphotogravure作品”The Hand of Man, 1902/c1910”と、アンセル・アダムスのポートフォリオ15点の”Portfolio Two: The National Parks and Monuments”で、ともに17.64万ドル(約2610万円)だった。

米国経済は、トランプ政権による通貨や通商の秩序を変えようとする動きで不確定要素が多くなってきている。関税、財政、インフレなどの先行きが非常に読みにくい状況だといえるだろう。米国の中央銀行に当たるFRBは「様子見姿勢」を明確にするなど、早期の利下げも遠のいたようだ。このような社会・経済の環境の中、アートの高額価格帯市場では、知名度の高いアーティストの資産価値が確かな代表作に人気が集中し、20世紀写真や若手新人のコレクションは様子見のような状況が続いている。また一時よりも円高になったものの、今の為替レベルは肌感覚ではまだまだ円安水準といえるだろう。日本のコレクターは、積極的購入には動き難くい状況だと思われる。輸送費の高騰も心理的に影響しているだろう。最近は日本のSBIアートオークションなどに良質の海外アーティストの写真作品が出品されるケーズが散見される。これらは、今の為替レートよりも円高のレベルで作品が評価されていると思われる。また国内だと作品輸送費が低く抑えられるメリットもある。まだ写真作品は少ないが、今後の出品状況を注視したい。

(1ドル/148 円で換算)

静謐でミステリアスな風景
百瀬俊哉「Silent -scape」展

ブリッツ・ギャラリーは、5月16日(金)から、写真家 百瀬俊哉(1968-)の「Silent-scape(静寂の風景)」展を開催する。当ギャラリーでは、2013年に開催した「Silent Cityscapes」以来の個展で、本展はその続編となる。百瀬は東京都出身、九州産業大学大学院芸術研究科修了。90年代より世界の都市風景を撮影し、写真展や写真集で作品を発表している。作品は、清里フォトアートミュージアム、東京都写真美術館、九州産業大学美術館で収蔵。現在、九州産業大学芸術学部教授を務めている。

百瀬は、7月にソニーイメージングギャラリーで最新シリーズ「地の理 (Chinokotowari) セレニッシマ/ヴェネチア」の個展を開催する。ブリッツの展示は、彼の過去約14年の作品を振り返ることで、ヴェネチアの最新作へと展開していった創作の経緯を紹介する意味合いを持つ。また本展は、前回の写真展後に亡くなった、百瀬の写真集を数多く手がけた窓社の名編集者の西山俊一氏を追悼する写真展でもある。

百瀬の風景写真は、ただ感覚的に優雅で美しいシーンを探して撮影しているのではない。彼には、いま宇宙、自然界、また都市のストリートのどこかで、誰も気付かない見たことがない、心が「はっ、ドキッ」とする、美しく整っている奇跡的な瞬間が出現しているはずだという認識がある。「Silent-scape」シリーズは、そのような日常に出現した宇宙の神秘的シーンを発見し、その瞬間を撮影して集める行為なのだ。撮影時に、彼は自分をニュートラルな心理状態にして、一般的な良い写真を求めるエゴから自由になろうとする。あえて外国に行くのは、自分が生まれ育った日本だと、無意識のうちに様々な歴史文化や社会的な価値観の影響を受けてしまうから。彼は意識的に先入観が全くない外国の環境に身を置いて創作しているのだ。

そして撮影地に着いたら、市内地図を買って、撮影用の4×5インチサイズの大判カメラを持って、全ての通りをひたすら歩き観察を続ける。それは1日8時間にもおよぶこともあるそうだ。外国での撮影なので、時差と疲労により途中で睡魔が襲うこともあるだろう。このように自らを極限に近い状態に追い込んでの撮影では、湧き上がってくる様々な雑念やエゴは完全に消え去っている。撮影セッションは座禅や瞑想も近いような行為で、彼は宇宙もしくは自然のリズムと一体化し、過去にも未来にも囚われずに真に今という時間を生きて、心が「はっ、ドキッ」とする奇跡的な瞬間の訪れを待つのだ。

いま写真は広い意味で現代アートのひとつの表現法になっている。写真家は作品制作した理由をオーディエンスに説明する責任を負う。しかし自然や都市を撮影した写真はアート作品としてのテーマ性を提示するのが非常に難しいカテゴリーだと言われている。今回の百瀬の「Silent-scape」シリーズでは、地球環境問題が意識されている。21世紀のいま、化石燃料を消費して経済成長を続けていく近代の経済モデルは、それが原因で急激な気候変動や環境破壊を世界的に引き起こし、誰もが持続不可能だと感じている。彼は頭で思考するのではなく、自分の内面に向かい心で世界と対峙してこの問題に取り組んでいる。彼は心を落ち着かせて日常にある宇宙の神秘を世界中で探し求める。そして、まばゆい色彩の一種ミステリアスな静謐な風景を通して、逆説的にそのような美しいシーンが地球環境の変化により失われつつある事実を私たちに訴えている。いま地球温暖化によりツバルやベニスの海面水位が上昇しているとマスコミで盛んに報道されている。百瀬のこの地で撮影された風景写真を見て、それらの美しい地が水没の危機に瀕しているという事実に多くの人は気づくのではないだろうか。

また私たちは本作をきっかけにして、広大な宇宙に思いをはせることができるだろう。普段は忘れている宇宙の中の小さな自分の存在に気付かされ、忙しい日常生活を送るなかで、思い込みにとらわれている自分を客観視できるのだ。「Silent-scape」シリーズは、旅立ちから撮影までの一連の創作行為自体が作品の一部になっている。一見すると外国の美しい都市や風景の写真に見えるが、その背景には私たち人間が宇宙/自然の一部であることをもっと意識して行動しようという深淵な現代社会へのメッセージが込められているのだ。

本展では、2011~2024年までにノルウェー、アルゼンティン、エジプト・カイロ、ツバル、ウズベキスタン、イタリア・ベニスで撮影された作品が初公開される。全作品が本人制作によるピグメント・インクジェット・プリントで、漆喰のシート化技術を応用して開発された表現力豊かなフレスコジグレー・ペーパー(Fresco Giclee paper)が使用されている。

ぜひ世界中で撮影された、百瀬俊哉の心洗われる、ミステリアスで静謐な写真世界を堪能して欲しい。

百瀬俊哉 写真展「Silent-scape 静寂の風景」
2025年5月16日(金)~7月6日(日)

公式サイトでは展示作品画像などを公開中

ファッション写真を特集したオークション開催
フィリップス・NY・PHOTOGRAPHS

Phillips NY” PHOTOGRAPHS”, Horst P. Horst “Mainbocher Corset, Paris, 1939”

フィリップス・ニューヨークで開催された春のオークション「PHOTOGRAPHS」では、ファッション写真の特集が興味深かった。ミッドセンチュリーのリチャード・アヴェドン、アーヴィング・ペン、ヘルムート・ニュートン、ウィリアム・クライン、フランク・ホーヴァット、リリアン・バスマンなどの戦後時代のファッション写真と、単独コレクションから「VENUS」と命名された、主に80年代から2000年代のコンテンポラリーのファッション写真を絶妙に織り交ぜてセレクションされていた。たぶんオークション内覧会に行くと、20世紀ファッション写真を網羅する展覧会のような構成になっていると思われる。

Phillips NY” PHOTOGRAPHS”,Chuck Close “Kate Moss (diptych)、2008”

単独コレクションから出品された「VENUS」は、理想化された女性像の神話的な姿を意味するとのこと。落札結果のウェブ上のオークションカタログを見ると、Horst P. Horstの戦前の名作“Mainbocher Corset, Paris, 1939”から、2000年代のChuck Closeによる “Kate Moss (diptych)、2008”までの20ロットが紹介されている。解説文には22点と書かれているので、もしかしたら2点は出品取りやめになったのかもしれない。出品作の中心は80年代と90年代で、各6点と8点。
写真家も当時を代表する11人が名を連ねている。内訳は、パトリック・デマルシェリエ(Patrick Demarchelier) 4点、アルバート・ワトソン(Albert Watson) とハーブ・リッツ(Herb Ritts)が 3点、サンテ・ドラツィオ(Sante D’Orazio) とホルスト(Horst P. Horst) が2点、デボラ・ターバヴィル(Deborah Turbeville)、チャック・クロース(Chuck Close) 、ブル-ス・ウェバー(Bruce Weber) 、アーサー・エルゴート(Arthur Elgort) 、 マイケル・ドウェック (Michael Dweck) 、ランキン(Rankin) が1点となる。被写体は当時のスーパーモデルたちだが、ケイト・モスの写真が8点と多く、なんと7名の写真家が撮影、続くのがクリスティー・ターリントンが4点、シンディー・クロフォードが2点となる。ケイト・モスはこの時代に多くの写真家の創作意欲を掻き立てた代表的なミューズだった事実がよくわかる。

Phillips NY” PHOTOGRAPHS”, Michael Dweck “Mermaid 128, Aripeka, FL, 2002″

個人的にはブリッツ・ギャラリーが取り扱う、最近は映画監督としても有名な
マイケル・ドウェックの「Mermaids」シリーズ作が含まれていたことが嬉しかった。“Mermaid 128, Aripeka, FL, 2002”は、落札予想価格3,000~5,000ドルのところ、4,445ドル(@150/約66.6万円)で落札。同シリーズは実はドキュメント作なのだが、間違いなく広義では時代性が反映されたファッション写真だと思う。

「VENUS」のオークション結果だが、20点が落札。落札予想価格の上限以上の落札が15点、予想範囲内が5点、下限以下の落札はないという、好調な結果だった。このようにカテゴリーを特集したオークションは、とても宣伝効果が強い。今回も間違いなく、インテリアにも相性が良いこの分野のコレクターが注目したのだと思う。また、いまやファインアート系のファッション写真のカテゴリーは、人気コレクション分野として確立している事実が改めて印象付けられた。

Phillips NY” PHOTOGRAPHS”,Deborah Turbeville, “Three Nudes, 1986”

最高額はChuck Closeによる“Kate Moss (diptych)、2008”。落札予想価格15,000~25,000ドルのところ、24,130ドル(@150/約362万円)で落札されている。ちなみに、デボラ・ターバヴィルの“Three Nudes, 1986”は、落札予想価格3,000~5,000ドルのところ、8,890ドル(@150/約133万円)で落札。これは作家のオークション・最高落札額になるとのことだ。近年進行している、女性ファッション写真家再評価の流れが影響していると思われる。

Phillips NY” PHOTOGRAPHS”, Richard Avedon “Avedon/Paris, 1947-1957, 1978”

全てのオークションでのファッション系最高額はリチャード・アヴェドンの有名な“Avedon/Paris, 1947-1957, 1978”だった。本作は、1947年から1957年にかけてハーパーズ・バザーのスタッフ・フォトグラファーとして撮影された初期の写真で構成されたポートフォリオ11点。1978年にメトロポリタン美術館で開催されたアヴェドンのキャリア初期の回顧展「Avedon: Photographs 1947-1977 」のために編集。当時の劇的な社会文化の変化に対応した、ストリートや野外で撮影された動きのある映画的なアプローチの作品が収録されている。それらは、1950年代の「ニュールック」ファッションを定義したファッション写真だと言われている。いま見ても十分に斬新でカッコいいイメージ群だ。落札予想価格15~20万のところ、215,900ドル(@150/約3238万円)で落札されている。個別作品には、もちろん人気・不人気があるが、平均すると1点はだいたい294万円くらいになる。アヴェドンの代表的なパリのファッション作品なら、決して高価すぎないように感じるのは私だけだろうか。

2025年春のニューヨーク・ファインアート写真オークションはまだ一部が17日まで行われている。近日中に全体レビューをお届けしたいと思う。

ウィリアム・エグルストンの珠玉のダイ・トランスファー作品
単独オークションがフィリップスNYで開催!

2025年3月18日、フィリップス・ニューヨークで マスター・ダイトランスファー・プリンターのギー・ストリチャーズ(Guy Stricherz)とアイリーン・マッリ(Irene Malli)のコレクションからのウィリアム・エグルストンによるダイ・トランスファー作品43ロットの単独オークション「Color Vision: Masterworks by William Eggleston from Guy Stricherz and Irene Malli」が開催された。
同コレクションからは、ヒロ、ブルース・ダビッドソン、ジョエル・スタンフェルドなどのカラー作品のセールが2025年を通して開催予定という。
カラーのダイ・トランスファー・プリントは、1994年にコダック社がこの手法に関連する感材の製造を中止しているので、新たに作品が制作されることはない。従って、本オークションは美術館やシリアスなコレクターにとって、有名写真家による本プロセスで制作された最高の作品を手に入れるまたとない機会となり、多くの市場関係者の注目を集めた。
結果は、予想通りに出品43ロット完売、業界用語のホワイトグローブ・オークションとなった。ほとんどの作品が落札予想価格の上限超えで落札、落札予想価格下限以下の落札はわずか3点、総売り上げは、5,665,950ドル(約8.5億円)を達成した。

Phillips NY,「Color Vision: Masterworks by William Eggleston from Guy Stricherz and Irene Malli」

今回の目玉は、1965年~1974年までに撮影されたエグルストンの代表作「Los Alamos」のポートフォリオ。今回、オリジナルの75点のセットに、2組の各13点からなるダイ・トランスファー作品の「Cousins」と「Lost and Found」が追加されており、プリント総数は101点におよぶ。今回のような、オリジナル・ポートフォリオを含む包括的なシリーズのオークション出品は初めてとのこと。落札予想価格は、200~300万ドルのところ、 1,875,000ドル(約2.81億円)で落札。これはアーティスト単一ロットとしては新記録となる。
ちなみに以前の最高額は、2024年11月にクリスティーズ・ニューヨーク、「Christie’s 21st Century Evening Sale」で落札されたフレームサイズ60 x 44 in(約152 x 112 cm)、2012年制作のエディション1/2のピグメント・プリント「Untitled, c.1971-1974」。落札予想価格70~90万ドルのところ、手数料込み1,441,500ドルで落札されている。

Phillips NY, 「Color Vision: Masterworks by William Eggleston from Guy Stricherz and Irene Malli」William Eggleston「Memphis (tricycle)、1970」

もう一つのハイライトは、2015年に制作された「The Magificent Seven」として知られる大判ダイ・トランスファー・プリント作品の出品。このグループは、エグルストンの最もよく知られた象徴的な作品7点が本人により厳選されたもの。70年以上にわたる彼の芸術的業績といえる作品群。このプロジェクト実現のために、エグルストンは、コダックが製造中止して久しいダイ・トランスファー材料の在庫を調達していたマスター・プリンターのストリチャーズとマッリと緊密に協力している。最終的に、エグルストンは、7点の厳選した作品をダイ・トランスファー・プリントで10点ずつ完成させている。いずれも、このプロセスでこれまでに制作された最大サイズの作品。この「マグニフィセント・セブン」の全作品がオークションに出品されるのは今回が初めてとのことだ。
同シリーズ中の最高額は写真集表紙にも掲載されている代表作「Memphis (tricycle)、1970」。イメージサイズ43.2 x 67.9 cm、エディション10、落札予想価格30~50万ドルのところ508,000ドル(約7620万円)で落札。
もちろん、これはダイ・トランスファー作品のオークション最高落札額となる。

Phillips NY, 「Color Vision: Masterworks by William Eggleston from Guy Stricherz and Irene Malli」William Eggleston「Untitled (Peachs!),1973」

続いたのは、「Untitled (Peaches!)、1973」。イメージサイズ43.8 x 67.9 cm、エディション10、落札予想価格15~25万ドルのところ482,600ドル(約7230万ドル)で落札されている。

第3位の高額落札は「Greenwood, Mississippi (red ceiling)、1973」。イメージサイズ44.5x 67.9 cm、エディション10、落札予想価格25~35万ドルのところ431,800ドル(約6477万円)で落札されている。

Phillips NY, 「Color Vision: Masterworks by William Eggleston from Guy Stricherz and Irene Malli」William Eggleston,「Greenwood, Mississippi (red ceiling)、1973」

いまや2012年制作のエディション2の大型サイズのピグメント・プリントは、写真ではなく現代アート分野の作品と認識され、落札予想価格の上限以上での取引が一般化している。一方で今回の目玉だった「Los Alamos」の101点の包括的で貴重なダイ・トランスファーのポートフォリオは、落札予想価格の下限以下での落札だった。かつての20世紀写真の時代、ダイ・トランスファーなどのプリント制作手法は作品価値の最重要素の一つだった。いまや、それと作品の市場価値とは関連性はあるものの、絶対的な要素でなくなっているようだ。
しかし今回のダイ・トランスファー作品のオークション高額落札は、間違いなく今後出品される大型サイズのピグメント・プリントの更なる高額評価につながると思われる。

(為替レート 1ドル/150円で換算)

日本の写真オークション最前線
「BLOOM NOW」
@SBIアートオークション

欧米では写真はファインアートのひとつの表現方法として定着している。ギャラリーのプライマリーとともに、オークションのセカンダリー市場も大きな取り扱い規模を誇る。
2024年、私どもは欧米市場で開催された約60の写真関連オークションをフォローした。トータルで7663点が出品され、5313点が落札。不落札率は約30.67%だった。ドル、ポンド、ユーロでの落札なので、円換算して総売り上げを集計すると約126.3億円。2024年は円安が大きく進んだので円建ての数字はかなり増加した。

SBIアートオークションで開催された「BLOOM NOW」のカタログ

翻って日本では、残念ながら現在では写真専門のオークションは開催されていない。実は2006年~2007年にかけて、東京オークション・ハウス・アール・ローカスで写真専門のオークションが開催されていた。主に海外の有名写真家の作品を取り扱うライブ・オークションだった。しかし、開催回数が増えるに従い、作品の落札予想価格が、海外相場より高めに設定されるようになった。たぶん委託者の購入価格以上での売却希望が反映されたことによったと思われる。すでにインターネットは普及していたので、コレクターの大半を占める海外からの入札が入りにくい状況だった。同オークションは、日本で写真コレクションの浸透と拡大目指した意欲的な試みだったが、景気の低迷と落札率の低迷で撤退を余儀なくされた。

東京オークション・ハウス・アール・ローカス

その後、大手のシンワ・アート・オークション、アイアート・オークション、SBIアートオークションが20世紀、21世紀アート・カテゴリーの一部で写真作品を取り扱ってきた。しかし、国際的に人気の高い外国人写真家は少なく、ほとんどが荒木経惟、森山大道、杉本博司、植田正治、森村泰昌などの作品だった。

ところが今年の3月8日にSBIアートオークションで開催された「BLOOM NOW」では、久しぶりに世界的アーティストたちの写真作品が出品されて注目された。これは世界中のコレクターが注目する「アートフェア東京」の開催時期に合わせて、同じ東京国際フォーラムで毎年行われる同社が一番力を入れているオークションになる。カタログには、「日本のマーケットでは流通量が少ない国際的なブルーチップアーティストの作品等を含む、およそ90点の魅力ある作品を皆さまにお届けします」と紹介文が掲載されている。

写真関連では、杉本博司、ウォルフガング・ティルマンス、テリー・オニール、リチャード・アヴェドン、アンドレアス・グルスキー、ゲルハルト・リヒター、JR、荒木経惟、今坂庸二郎の作品が出品された。いまの世界のアート市場は、政治経済などの外部環境の不透明さから、様子見気分が強い。本オークションでも特に落札予想価格の上限を超えるような勢いはなかった。しかし、ほとんどの作品が落札予想価格の範囲内で落札された。一般的に日本での写真作品の落札率は低いので、関係者は胸をなでおろしたことだろう。

Andreas Grusky, “Em Arena II, Amsterdam, 2000”, SBI Art Auction Tokyo, “Bloom Now”

落札結果だが、現代アート系では、アンドレアス・グルスキーの「Em Arena II, Amsterdam, 2000」が写真作品の最高額の落札だった。Chromogenic print mounted on plexiglas、イメージサイズ 229.7X161.8cm、エディション6の大判作品で、落札予想価格20,000,000~25,000,000円のところ、23,000,000円だった。
ゲルハルト・リヒターの「MV. 34, from Museum Visit, 2011」、Lacquer on colour photograph、イメージサイズ 10 X 15 cm作品は、落札予想価格7,000,000~14,000,000円のところ、8,050,000円で落札、
杉本博司の「Mediterranean Sea, Cassis, 1989」、Gelatin Silver print、イメージサイズ 42.3X54.2cm、エディション25作品は、落札予想価格1,800,000~2,800,000円のところ、4,140,000円で落札された。
20世紀写真では、リチャード・アヴェドンのアイコニックな「Nastassja Kinski and the Serpent, Los Angels, California, June 14, 1981」は、残念ながら不落札だった。これも超有名作のテリー・オニールの「Brigitte Bardot, Spain, 1971」、イメージサイズ 35.9X54.7cm、作家とバルドーのサイン入り、エディション50 作品は、落札予想価格1,200,000~1,800,000円のところ、1,380,000円で落札された。

Terry O’Neill, “Brigitte Bardot, Spain, 1971”

写真関連では、9点中8点が落札。開催日前の週からに為替市場が一転して円高傾向になり、外国人入札者にはやや不利な状況だったといえるだろう。オークションは複数の入札者が競り合うことで価格が上昇していく。そして写真コレクションの中心地は圧倒的に北米になる。今回のオークションは東京時間の13時スタート。欧州、英国のコレクターは早起きすれば参加可能だったが、写真コレクターが最も多い米国は深夜の時間帯になってしまう。写真に関して限定して考えると、北米を意識したオークション開始時間を検討してもよいかもしれない。

どちらにしても、日本ではSBIアートオークション以外は、あまり高額で売れない写真の取り扱いに積極的ではない。しかし、バブル時代から20世紀後半にかけて、海外の優れた写真作品が大量に日本で輸入販売されてきたのだ。21世紀に入り25年が経過した。これらをコレクションした人たちはかなり高齢になり、コレクションの整理を検討しだす時期だと予想される。今後は外国人コレクターが好むような優れた世界基準の写真作品のオークション出品は増えていくのではないか? 日本での今後の写真関連オークション市場の拡大に期待したい。

(落札価格は手数料込)

シンディ・シャーマンのキャリア初期作品
オークション高額落札の背景を考察する

「Untitled #94, 1981」 Christie’s NY、”Post-War and Contemporary Art Day Sale”、2024-11-22

前回、2024年のオークション高額落札ランキングで上位を占めたリチャード・プリンスのカウボーイ・シリーズの市場人気の背景を考えてみた。
実はもう一人忘れてはいけない重要なアーティストがいる。2024年のランキングで「Untitled #94, 1981」が8位の$806,400.(約1.23億円)で落札された、米国人女性アーティストのシンディ・シャーマン(SHERMAN, Cindy)だ。写真関連作品オークション歴代高額落札でもベスト10に2作品が入っている。6位が「Untitled #96, 1981」で、2011年5月8日にクリスティーズ・ニューヨークで$3,890,500、そして7位が「Untitled #93, 1981」で、2014年5月14日サザビーズ・ニューヨークにおいて$3,861,000で落札されている。
この上記3点はいずれも80年代初頭に制作された「Centerfolds」(Untitled #85–#96)シリーズの約61X120cm サイズ、エディション10のカラー(color coupler print)作品となる。ちなみに2014年5月12日にクリスティーズ・ニューヨークで落札された、リチャード・プリンスのカウボーイ・シリーズの最高額落札「Untitled (Cowboy), 1998」は、$3,749,000.で、歴代9位なのだ。

「Untitled #96, 1981」 Christie’s NY、 2011-5-8

シンディ・シャーマンは1954年ニュージャージー生まれ。現代社会を取り巻くマス・メディアの状況に対応したピクチャーズ・ジェネレーション(リチャード・プリンス、ルイーズ・ローラー、シェリー・レヴィン、ロバート・ロンゴを含むグループ)の最も重要なアーティストの一人だ。彼女を有名にしたのが23歳のときに始め、1977年から1980年まで主に野外で制作されたモノクロ写真の「Untitled Film Still」(アンタイトルズ・フィルム・スチール)シリーズ。 スチール(still)とは、動画に対する語で、動きのない静止画のこと。これは仮想のスチール映画写真で、50年代のハリウッドやヨーロッパのB級映画のワンシーンを想像させる設定で、彼女がマリリン・モンローやソフィア・ローレンなどのような様々な出演女優そっくりに扮装して自らを撮影した8×10インチサイズのモノクロ写真シリーズ。B級映画に描かれている多様な女性のステレオタイプのアイデンティティを自分自身で演じることで表現、当時のアート界で高く評価された出世作だ。1995年にはニューヨーク近代美術館が「Untitled Film Still」シリーズのAP(アーティスト・プルーフ)を一括購入しており、その後は作品価格が上昇傾向をたどってきた。2014年11月12日のクリスティーズ・ニューヨークのオークションでは、8X10“インチサイズの本シリーズからの21点が$6,773,000で落札されている。

“Untitled Film Stills”, Christie’s NY, 2014-11-12

彼女の作品の市場での高い評価には時代背景が大きく関係しているので確認しておこう。1960年代後半から1970年代前半にかけて、女性解放運動が世界中で広まった。フェミニズムの意味をネットで調べると”政治的・経済的・個人的・社会的な面におけるジェンダーの平等を確立することを目指す一連の社会運動と思想のこと”と書かれている。いまの時代の女性には当たり前なのだが、実際のところ80年代までアメリカでも、フェミニズムは一部の女性たちのもので、公的な場で問題にすべきことではないという考えが強かったのだ。シンディ・シャーマンの作品が、まだ保守的な考えが残っていた時代の米国で生み出された点は押さえておきたい。

1980年代初頭、シャーマンは影響力のあるアートマガジン「Artforum(アートフォーラム)」掲載用に新作の制作を依頼される。彼女は横長フォーマットの、「プレイボーイ」のような男性向けエロティック雑誌のセンターフォールドを参考にした作品制作に取り組み、合計12枚の大型カラー写真(Untitled #85–#96)が「Centerfolds」シリーズとして制作される。前作の「Film Stills」シリーズとは異なり、この作品に映し出されているのは、男性視線を意識して用意されたセクシーで魅惑的な女性ではなく、感情的に曖昧な思春期の少女である。イメージをティーンエイジャーの生活でのスナップ写真のように作りこんでいる。シャーマン自身が、空想、憧れ、プライベートやメランコリックな心理的瞬間の若い女性を演じて、時に身体がリクライニングしているフォームで撮影されている。視点が定かでなく、ただ宙を見つめていて表情が読み取れない作品もある。通常は男性写真家が男性目線で女性を撮影するところ、ここでは女性が写真家とモデルのピンナップの両方の役割を担っている。フェミニズム的な要素を取り込んで、男性向けのセンターフォールド写真の要件を満たしたイメージを作り上げるという手が込んだ仕掛けのある作品なのだ。

「Untitled #93, 1981」 Sotheby’s NY, 2014-5-14

本シリーズの写真にはヌードや明らかに性的なものはない。シャーマンは、エロティシズムを直接的感じないイメージをあえて提示し、そのなかに見る側が反応する様々な構成要素を確信犯で仕込んでいる。色彩、光、トリミング、空間、アイコンタクト(またはその欠如)、服装、髪型、姿勢、背景の細部などだ。そして期待と違うようなイメージを見せることで、伝統的な淫らでエロティックな想像や衝動を持つようなセンターフォールドの見方への誘いを中断させ、代わりに、描かれた女性の内面を熟考するよう見る者を誘うのだ。作品の様々な要素を見る側に読み解かせることで、メディアにおける女性の描かれ方を批評。また同時にそれがいかに現代社会でのジェンダーの前提、女性への期待、女性らしさの認識が作られてきたかを明らかにしている。私たちが無意識のうちの持つ、これらの前提や思い込みに疑問を投げかけながら、アート作品での提示を通して、見る側に気付かせようとしているのだ。

本作では、彼女自身がモデルで、演技をし、演出をして、写真家として撮影している。彼女はその役割に最大限の注意を払いながら、さまざまな装いを練り上げ、それぞれの写真作品を作り上げていく。スタジオセットを設営し、衣装を制作し、照明をデザインし、そして最終的には、アシスタントを使うことなく、孤独な世界で、完全に一人で写真作品を完成さている。作品制作のあらゆる側面をコントロールすることで、写真が「真実」のメディアであるという思い込みに挑戦しているともいえる。今では写真はパーソナルな表現であることは当たり前の認識だが、当時は写真が真実を提示するメディアであるような幻想がまだ残っていたのだ。

「MoMA One on One Series」 「Cindy Sherman Centerfold (Untitled #96) 」

作品を依頼したArtforum誌の編集者は、当時の社会状況から本シリーズが社会から誤解されるリスクが高いと感じ、雑誌への掲載を見送った。その後、1981年11月にニューヨークのメトロ・ピクチャーズ・ギャラリーで本シリーズが初公開された時、編集者の予想通りに様々な議論が巻き起きたとのことだ。ある批評家は、ソフトコア・ポルノのフェミニズム的パロディと評価、また女性を被害者として描き、見る側に同一視や興奮を誘うものだという批判もされたという。シャーマンは、逆にこの話題性豊富なシリーズによりアート界で大きく注目するようになり、特に「Untitled #96」は象徴的な作品となったのだ。実際、1997年にロサンゼルス現代美術館とシカゴ現代美術館が主催したシャーマンの主要な巡回展のカタログの表紙画像に選ばれている。また2021年にはニューヨーク近代美術館がアート市場で有名作品を特集して本形式で紹介する「MoMA One on One Series」で取り上げて「Cindy Sherman Centerfold (Untitled #96) 」を刊行させている。シャーマンのキャリア上では、「Centerfolds」シリーズは、映画での役割を演じるアーティストの初期の作品と、その後に彼女が取り組み続けてきた他の多くの複雑な主題との間の方向転換が行われた重要作品と見なすことができると評価されている。オークション市場での高額落札にはこのような背景が関係しているのだ。

1985年以降、シャーマンは恐怖を表現する作品を制作、扮装もマスクやシリコンを使うなどより大胆にグロテスクになり、映画から離れてジャンキー、フリークス、死体まであらゆるタイプの人物に変身していく。その後、「Fashion Series」、「Fairy Tales Series」、「History Portraits Series」、「Sex Pictures Series」、「Society Portraits Series」に取り組んでいく。彼女の一連の変身する写真はウォーホールらのポップ・アーティストの流れをついでいると考えられている。映画、広告、ポルノ、ファッション、歴史などを作品に取り込むことでマス・メディアが作り上げた女性に対する固定観念を自らの肉体と変身を通してアート作品化し、世の中に提示し続けているのだ。

リチャード・プリンスのカウボーイ・シリーズ
オークション高額落札の背景を考察する

2024年の写真関連オークション。最高落札額は、既報のようにリチャード・プリンス(1949 – )による1997年のカウボーイ作品だった。クリスティーズ・ロンドンで209.7万 ポンドで(ドル換算260万ドル強)で落札、プリンスのカウボーイ作品は2年連続の1位獲得となった。また2024年の2位と3位もプリンスのカウボーイ作品だった。

ちなみにこのシリーズの最高落札額は、2014年5月12日にクリスティーズ・ニューヨークで落札された「Untitled (Cowboy), 1998」の$3,749,000。プリンス作品の最高落札額は、同じく2014年5月12日にクリスティーズ・ニューヨークで落札された「Spiritual America, 1981」の$$3,973,000.となる。

いまでは「Cowboy(カウボーイ)」は、「Nurse paintings(ナース)」、「Girlfriends(ガールフレンド)」、 「Joke paintings(ジョーク)」と並んで、彼を代表する長寿の人気シリーズとなっている。本作はマルボロ・タバコの広告を複写して拡大したシリーズとなる。実際のところ、何でこのシリーズのコレクター人気がこれほど高いのか、多くの日本人のアート写真ファンは不思議に思っているだろう。今回は、高額落札の背景を検証してみよう。

Christie’s NY, Richard Prince「Untitled (Cowboy), 1998」

まずマルボロのキャンペーンについて確認しておく。カウボーイの「マルボロ・マン」キャンペーンは、1955年から1999年まで展開されたもの。世界で最も成功した広告手法のひとつといわれている。この広告戦略のおかげで、1972年に同社は世界ナンバーワンのタバコブランドとなり、以来その地位を維持している。今日、マルボロは世界中で230億ドルを稼ぎ出し、もちろん健康被害が知られているタバコ製品を販売している。

1970年代半ば、リチャード・プリンスは、タイムライフ・パブリケーションズ(現タイム社)に勤務し、毎日出版物に目を通していた。彼はアメリカ文化の原型をシンプルかつ喚起的に描いたマルボロの広告に創作の可能性を見出すのだ。プリンスは元の広告に微妙な変更を加え、画像を拡大して、文字部分を切り取った後、再び写真撮影した。
彼は広告作品を商業的な文脈から取り出し、自身の「Untitled (Cowboy) 」シリーズとして再ブランディングし、ギャラリーで紹介することにより「アート」作品に作り変えたのだ。

1980年代に発表された初期「カウボーイ」シリーズにより、プリンスはポストモダン表現として知られるアプロプリエーション・アートの代表的なアーティストの一人として評価されるようになる。
アプロプリエーション・アートとは、人間が作り出した視覚文化の表現を適切に採用、借用、再利用し、それらをサンプルとして利用して表現すること。プリンスはいまでは、「Untitled Film Stills」シリーズで知られるシンディ・シャーマンやジョン・バルデッサリらとともに、ピクチャーズ・ジェネレーションと呼ばれるアーティスト・グループの主要メンバーであり、アメリカのメディア文化を批判的に分析するアーティストだと知られるようになっている。

Christie’s London, Richard Prince「Untitled (Cowboy), 1997」

このマルボロ・マンの広告の複写である「カウボーイ」シリーズは、アメリカの白人男性の男らしさを理想化したものといわれている。ラルフ・ローレン・ブランドは象徴的なポロ用の小馬のイメージを使用してブランドを識別させ、関連付けているが、マルボロ・マンもそれと同様の戦略なのだ。プリンスのカウボーイたちは、ブーツにテンガロンハットをかぶり、ステレオタイプのカウボーイ像をイメージさせるあらゆる典型的な道具を身につけた男たちとして描かれている。広告の舞台はアメリカ西部で、サボテンや転がる草に挟まれた石の露頭がある乾燥した風景で、夕日が背景であったりする。マルボロの広告はディテールにまで細心の注意を払って演出されているのだ。

時代的な背景を見てみよう。20世紀になり、カウボーイは神話的なオール・アメリカン・ヒーローとなり、男らしさ、逆境への勝利、勇敢さの象徴として、ハリウッド映画や人気のコミック・ブックに登場するようになる。風景の美しさを背景にした孤独なカウボーイの大規模な映画的表現が、乗り越えられない困難にもかかわらず、たった一人でそれらに立ち向かう逞しい理想的なアメリカ白人男性の理想像を提示しているのだ。そしてこのイメージはマルボロ・タバコ会社によって、無骨で個性的なアメリカン・ヒーローの典型的な男性像はとし流布されるようになる。そのような理想像を支持しあこがれる男性はマルボロ・タバコを好むという広告戦力なのだ。

Christie’s NY, Richard Prince「Untitled (Silhouette Cowboy), 1998」

プリンスはこのような神話的なアメリカ西部のカウボーイなどの探求を続け、作品でこのステレオタイプの「馬に乗ったマッチョな男」という商業的描写が、本当に独創的でリアルであるかを私たちに問いかけているわけだ。
ニューヨーク・メトロポリタン美術館の写真学芸員であるマリア・モリス・ハンブルクは、「彼は 、メディアがいかに 現代の社会において絶対不可欠な存在であり、私たちの生活に徹底的に浸透しているかを、より早く非常に早熟な方法で理解したのです」と発言、またソロモン・R・グッゲンハイム美術館のナンシー・スペクターは、「プリンスが既存の写真を流用することは、決して単なるコピーではない。むしろ、イメージから一種の写真的無意識を抽出し、その意味と制作に関する抑圧された真実を前面に押し出している。」と評価している。(N. Spector, in Richard Prince: Spiritual America, exh. cat., Solomon R. Guggenheim Museum, New York, 2007, p. 26)。

また21世紀のアメリカでは、中間層が没落し、格差が拡大したことで、このような理想的なマッチョで強い自信にあふれた男性などは存在しないだろう。今はなきかつての古き良き時代の憧れの存在が作品で表現されているからこそ、多くの人がプリンスの「カウボーイ」シリーズに魅了されるのだと思われる。

このような過去を懐かしむメンタリティーは高額な作品が買えない一般人にも見られるようだ。人気はフォトブック市場にも波及している。2020年にプリンスのカウボーイ・シリーズを収録した「Richard Prince: Cowboy」( Prestel 刊)という分厚いフォトブックが刊行された。発売当時、アマゾンでは7,600円程度で購入できた。その後、瞬く間に完売してレアブックとなり、今では古書市場で最低でも500ドル(約7.5万円)もする高騰ぶりだ。

作品サイズも「カウボーイ」シリーズの魅力のひとつだ。1位作 (127 x 191.6cm.)、2位作 (123.5 x 185.5 cm.)、3位作 (121.6 x 182.8 cm.)の絵画同様の大判サイズで制作されている。またエディションが2点、アーティスト・プルーフ1点という希少性が極めて高い作品でもある。これも高額落札の背景にあるのだろう。
「ファインアート写真の見方」(玄光社刊)で分類したように、写真家の創作に対するアイデア/コンセプトが明快なファインアート分野の現代写真のうち、サイズが巨大で、エディションが少ない作品は「現代アート系」、サイズが従来の20世紀写真と同様でエディションが多めの作品は「21世紀写真」としている。

クリスティーズのオークションカタログの解説では2位の「Untitled (Cowboy)、1999」を取り上げ、カウボーイ・シリーズで展開されアメリカ西部の壮大なスケールのパノラマ的シーンは、トーマス・コールなどアメリカ風景画家のグループによる、19世紀中頃の美術運動ハドソン・リバー派の偉大な風景画を思い起こさせるとしている。作品中に存在するカウボーイを通して、圧倒的な自然の素晴らしさの中では人間は取るに足らない存在であることを伝えていると指摘している。自然を人間が支配するという西洋の合理主義的な発想に疑問符を投げかける、環境保護的な文脈での作品評価の可能性を示している。これは、3位作品の
「Untitled (Silhouette Cowboy), 1999」にも当てはまるだろう。

Christie’s NY, Richard Prince「Untitled (Cowboy), 1998」

アート市場の中心地はアメリカ市場である。どうもプリンスのカウボーイ人気は、彼の広告目的のメディアが作り出したステレオタイプのカウボーイ像に対する批判精神とともに、古き良き時代を象徴したそれらの懐かしいイメージが圧倒的に数が多い白人のアメリカ人男性コレクターの心に刺さるからのようだ。
またトランプ大統領が再選出されたように、中間層が没落して格差が拡大し、明るい未来像が描けなくなったような社会的背景、また環境問題への配慮の視点も影響しているのだと思われる。日本人には今一つ人気の背景がわかりにくいのも当然だろう。

2024年ファインアート写真・オークション落札ベスト3

1.リチャード・プリンス「Untitled (Cowboy), 1997」
クリスティーズ・ロンドン、“20th/21st Century: London Evening Sale”
2024年10月9日
£2,097,000 (約4.14億円)

2.リチャード・プリンス「Untitled (Cowboy), 1999」
クリスティーズ・ニューヨーク、“Christie’s 21st Century Evening Sale”
2024年11月21日
$1,865,000.(約2.84 億円)

3.リチャード・プリンス「Untitled ( Silhouette Cowboy), 1999」
クリスティーズ・ニューヨーク
“Post-War and Contemporary Art Day Sale”
2024年11月22日
$1,744,000.(約2.66億円)

(為替レート/ドル円152.58円、ポンド円197.70)
三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる2024年の平均TTS為替レート

2024年アート写真オークション高額落札
リチャード・プリンスのカウボーイ作品が上位を独占

まずはアート市場の中心地である米国の2024年経済を振り返ってみよう。実質GDP成長率は減速傾向だったものの景気基調は底堅く、インフレも緩やかに減速してきた。米国の中央銀行にあたるFRBは9月に利下げを開始、その後は景気への影響を確認しながら小幅利下げを続けるスタンスになった。経済のソフトランディングが視野に入ってきたといえよう。株式相場は、8月に景気減速懸念から一時大きく調整したがその後は持ち直し、年間を通して見れば堅調な相場展開となった。1月2日の始値から12月20日の終値までをみると、ナスダック総合株価指数は約31.5%、S&P500種株価指数は約24.9%、ダウ工業株30種平均は約14%上昇している。

一方で日本経済は、日銀が17年ぶりに利上げを決め、久しぶりに「金利のある世界」が戻ってきた。日経平均株価は一時史上最高値を更新し、ドル円為替相場は、一時1ドル=160円台を付けるなど歴史的な円安・ドル高水準となった、その後は円高に反転する場面もあり、振れ幅の大きな一年だった。日本経済は、内需を中心に緩やかに回復している感じだろう。2024年の年間平均TTS 為替レートは、対ドル152.58円、対ユーロ165.45円、対英ポンド197.70円(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)で、日本人コレクターにとっては2023年よりもさらに厳しい円安水準となった。

2024年の写真関連オークションは、最初の約9か月は低調な落札が続き、100万ドル越えはわずかに2件だった。しかし、10月、11月の秋のオークションでは、100万ドル越えの落札が相次いだ。最高落札額は、リチャード・プリンスによる1997年のカウボーイ作品だった。クリスティーズ・ロンドンで209.7万 ポンドで(ドル換算260万ドル強)で落札、プリンスのカウボーイ作品は2年連続の1位獲得となった。2024年の2位と3位もプリンスのカウボーイ作品だった。

4位はウィリアム・エグルストンの「Untitled, c.1971-1974」。飛行機の中でカクテルを飲んでいるところを撮影した代表作ロス・アラモス・シリーズ収録作。この写真は長らく見過ごされていて、約40年後に再発見され、初めて出版、展示されたのは2003年だったことが知られている。フレームサイズ60 x 44 in(約152 x 112 cm)、2012年制作のエディション1/2のピグメント・プリント、落札予想価格70~90万ドルのところ、手数料込み1,441,500ドル(約2.19億円)で落札。これは彼のオークション最高額落札記録。本作は、2012年3月12日にクリスティーズ・ニューヨークで開催された、デジタル写真の価値基準を大きく変えた「Photographic Masterworks by William Eggleston Sold to Benefit the Eggleston Artistic Trust」で購入された作品。当時の落札価格は386,500ドル、所有期間12年で大きな値上がりとなった。本作の出品は、写真のカテゴリーではなく、クリスティーズ・ニューヨーク行われた「21st Century Evening Sale」だった。エグルストンの大判サイズ写真が、現代アート表現の一部だと認識されている証拠だといえるだろう。
また2024年のオークションハウスの実績面では、上位10位のうちトップ8位までがクリスティーズが独占した。

2022年はマン・レイの「Le Violin d’Ingres, 1924」が、約1,240万ドル、エドワード・スタイケンの「The Flatiron, 1905」が約1,180万ドルという、写真としては異例の1000万ドル越えの超高額落札が2件あった。しかし、2023年に続いて2024年も、2022年の高額落札で歴史的な貴重作品の出品が続くという見通しが見事に裏切られた。2024年の最高落札額はほぼ2021年を下回るレベルだった。貴重な高額評価の作品を持つコレクターは経済や相場見通しに慎重で出品を控えたのだと思われる。

2024年オークション高額落札ランキング

1.リチャード・プリンス「Untitled (Cowboy), 1997」

Richard Prince, Christie’s London

クリスティーズ・ロンドン、
“20th/21st Century: London Evening Sale”
2024年10月9日
£2,097,000 (約4.14億円)

2.リチャード・プリンス「Untitled (Cowboy), 1999」

Richard Prince, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク、
“Christie’s 21st Century Evening Sale”
2024年11月21日
$1,865,000.(約2.84 億円)

3.リチャード・プリンス「Untitled (Cowboy), 1999」

Richard Prince, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク、
“Post-War and Contemporary Art Day Sale”
2024年11月22日
$1,744,000.(約2.66億円)

4.ウィリアム・エグルストン「Untitled, c1971\1974」

William Eggleston, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク、
“Christie’s 21st Century Evening Sale”
2024年11月21日
$1,441,500.(約 2.19 億円)

5.ダイアン・アーバス
「Identical twins, (Cathleen and Colleen), Roselle, New Jersey, 1966」

Diane Arbus, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク
“21st Century Evening Sale”
2024年5月14日
$1,197,000.(約1.82億円)

6.エドワード・ウェストン「Shell (Nautilus), 1927」

Edward Weston, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク
“20th Century Evening Sale”
2024年5月16日
$1,071,000.(約1.64億円)

7.リチャード・アヴェドン
「Marilyn Monroe, Actress, New York City, 1957」

Richard Avedon, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク
“21st Century Evening Sale”
2024年5月14日
$882,500.(約1.34億円)

8.シンディー・シャーマン「Untitled #94, 1981」

Cindy Sherman, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク
“Post-War and Contemporary Art Day Sale”
2024年11月22日
$806,400.(約1.23億円)

9.アンドレアス・グルスキー「New York, Mercantile Exchange, 2000」

Andreas Grusky, Phillips London

フィリップス・ロンドン
“Modern and Contemporary Art Evening Sale”
2024年10月10日
£609,600 (約1.2億円)

10.アンセル・アダムス「Aspens, Northern New Mexico (Vertical), 1958」

Ansel Adams, Sotheby’s New York

サザビーズ・ニューヨーク
“Ansel Adams: A Legacy | Photographs from the Meredith Collection”
2024年10月16日
$720,000.(約1.09億円)

(為替レート/ドル円152.58円、ユーロ円165.45円、ポンド円197.70)
三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる2024年の平均TTS為替レート

「DUFFY… PORTRAITS」展開催!
ダフィの60~70年代セレブたちのカッコいいポートレイト

新年のごあいさつが遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。

ブリッツ・ギャラリーはダフィー(Brian Duffy 1933-2010)の写真展「DUFFY… FASHION / PORTRAITS」(ダフィー…ファッション/ポートレイト展)のパート2「PORTRAITS(ポートレイツ)」を2025年1月15日から開催します。ダフィーは60~70年代に活躍した英国人写真家。彼は、デビット・ベイリー、テレス・ドノヴァンとともに60年代スウィンギング・ロンドンの偉大なイメージ・メーカーであるとともに、有名なスター・フォトグラファーでした。

ダフィーはパート1で展示したファッションとともに、各界で活躍していた時代を代表するセレブリティーのポートレイトを撮影しています。特に知られているのはデヴィッド・ボウイ(1947.1.8 – 2016.1.10)とのセッションです。70年代に、“ジギー・スターダスト Ziggy Stardust”(1972年)、“アラジン・セイン Aladdin Sane”(1973年)、“シン・ホワイト・デューク The Thin White Duke”(1975年)、“ロジャー Lodger”(1979年)、“スケアリー・モンスターズ Scary Monsters”(1980年)の5回の撮影を行っています。特にアラジン・セインのアルバムジャケットに使用された写真は極めて有名で、「ポップ・カルチャーにおけるモナリザ」とも呼ばれています。2013年夏、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館で開催された“DAVID BOWIE is”展では、ダフィーによるアラジン・セイン・セッションでのボウイが目を開いた未使用カット作品が展覧会のメイン・ヴィジュアルに採用され話題になります。同展は2017年東京で巡回開催されています。

ダフィー写真展パート2では、珠玉のポートレイツ合計約30点が展示されます。シドニー・ポワティエ、マイケル・ケイン、アーノルド・シュワルツェネッガー、テレンス・スタンプ、ブリジッド・バルドー、サミー・デイヴィス・ジュニア、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ニーナ・シモン、ウィリアム・バロウズ、デビー・ハリー、アマンダ・リア、ジョアンナ・ラムリー、ブラック・サバス、ポール・ジョーンズ(マンフレッド・マン)などが含まれます。また、本展ではデヴィッド・ボウイの作品の特集コーナーを設置、5回のセッションで撮影された珠玉の14点を紹介します。

ダフィーのポートレイトの特徴はどんな有名な被写体でも彼の前ではとてもリラックスしていることです。つまり彼は人たらしで、相手の気分を乗せることに長けていたのでしょう。カメラの前の被写体は時に調子に乗って自然でユニークな動きを見せています。ファインアートになるポートレイツは、写真家と被写体が同等な関係性であり、お互いが見たことがないようなビジュアルを作り上げるのだという共通意識を持つことが重要になります。つまり二人は共犯関係で、写真は一種のコラボ作品なのです。だから彼のポートレイトはカッコよく、見る人を魅了するのです。
そのような関係性がないほとんどのポートレイトは単なるセレブの広報や記録を目的とするブロマイド的なつまらない写真になってしまいます。しかし、現代では写真家と被写体がこのような関係性を構築するのは非常に困難でしょう。80年代以降は、大衆消費社会の到来とともにファッションと同様に音楽や映画はビックビジネスへと発展していき、セレブは多くの取り巻きに囲まれるようになります。写真家にとっては自由にコミュニケーションをとって関係性を構築する余地が次第に少なくなっていくのです。

本展で展示されるのは、作家の意思を受け継いだ息子クリス氏が運営するダフィー・アーカイブが監修/制作したエステート・プリント作品です。また日本のコレクター向けに、今回のブリッツでの写真展限定オープン・エディション・プリント(サイン入り作品証明書付き)もリーズナブル価格で特別販売されます。パート1で展示したファッション写真も写真展開催期間中はご注文可能です。またボウイの作品は、ファッション写真よりも小さいスタンダード・サイズ(約19X19cm 、19X12.7cm)のプリントの額装作品も用意しています。(フレーム約28X 36cmサイズ)

ダフィーによる、60~70年代の時代を代表する各界セレブリティーたちの珠玉のポートレイツ作品をぜひご高覧ください!

DUFFY…PORTRAITS ダフィー…ポートレイト展
2025年1月15日 (水)~3月22日 (土)
1:00PM~6:00PM/休廊 月・火・/入場無料
ブリッツ・ギャラリー
〒153-0064  東京都目黒区下目黒6-20-29

公式サイト