日本の写真オークション最前線
「BLOOM NOW」
@SBIアートオークション

欧米では写真はファインアートのひとつの表現方法として定着している。ギャラリーのプライマリーとともに、オークションのセカンダリー市場も大きな取り扱い規模を誇る。
2024年、私どもは欧米市場で開催された約60の写真関連オークションをフォローした。トータルで7663点が出品され、5313点が落札。不落札率は約30.67%だった。ドル、ポンド、ユーロでの落札なので、円換算して総売り上げを集計すると約126.3億円。2024年は円安が大きく進んだので円建ての数字はかなり増加した。

SBIアートオークションで開催された「BLOOM NOW」のカタログ

翻って日本では、残念ながら現在では写真専門のオークションは開催されていない。実は2006年~2007年にかけて、東京オークション・ハウス・アール・ローカスで写真専門のオークションが開催されていた。主に海外の有名写真家の作品を取り扱うライブ・オークションだった。しかし、開催回数が増えるに従い、作品の落札予想価格が、海外相場より高めに設定されるようになった。たぶん委託者の購入価格以上での売却希望が反映されたことによったと思われる。すでにインターネットは普及していたので、コレクターの大半を占める海外からの入札が入りにくい状況だった。同オークションは、日本で写真コレクションの浸透と拡大目指した意欲的な試みだったが、景気の低迷と落札率の低迷で撤退を余儀なくされた。

東京オークション・ハウス・アール・ローカス

その後、大手のシンワ・アート・オークション、アイアート・オークション、SBIアートオークションが20世紀、21世紀アート・カテゴリーの一部で写真作品を取り扱ってきた。しかし、国際的に人気の高い外国人写真家は少なく、ほとんどが荒木経惟、森山大道、杉本博司、植田正治、森村泰昌などの作品だった。

ところが今年の3月8日にSBIアートオークションで開催された「BLOOM NOW」では、久しぶりに世界的アーティストたちの写真作品が出品されて注目された。これは世界中のコレクターが注目する「アートフェア東京」の開催時期に合わせて、同じ東京国際フォーラムで毎年行われる同社が一番力を入れているオークションになる。カタログには、「日本のマーケットでは流通量が少ない国際的なブルーチップアーティストの作品等を含む、およそ90点の魅力ある作品を皆さまにお届けします」と紹介文が掲載されている。

写真関連では、杉本博司、ウォルフガング・ティルマンス、テリー・オニール、リチャード・アヴェドン、アンドレアス・グルスキー、ゲルハルト・リヒター、JR、荒木経惟、今坂庸二郎の作品が出品された。いまの世界のアート市場は、政治経済などの外部環境の不透明さから、様子見気分が強い。本オークションでも特に落札予想価格の上限を超えるような勢いはなかった。しかし、ほとんどの作品が落札予想価格の範囲内で落札された。一般的に日本での写真作品の落札率は低いので、関係者は胸をなでおろしたことだろう。

Andreas Grusky, “Em Arena II, Amsterdam, 2000”, SBI Art Auction Tokyo, “Bloom Now”

落札結果だが、現代アート系では、アンドレアス・グルスキーの「Em Arena II, Amsterdam, 2000」が写真作品の最高額の落札だった。Chromogenic print mounted on plexiglas、イメージサイズ 229.7X161.8cm、エディション6の大判作品で、落札予想価格20,000,000~25,000,000円のところ、23,000,000円だった。
ゲルハルト・リヒターの「MV. 34, from Museum Visit, 2011」、Lacquer on colour photograph、イメージサイズ 10 X 15 cm作品は、落札予想価格7,000,000~14,000,000円のところ、8,050,000円で落札、
杉本博司の「Mediterranean Sea, Cassis, 1989」、Gelatin Silver print、イメージサイズ 42.3X54.2cm、エディション25作品は、落札予想価格1,800,000~2,800,000円のところ、4,140,000円で落札された。
20世紀写真では、リチャード・アヴェドンのアイコニックな「Nastassja Kinski and the Serpent, Los Angels, California, June 14, 1981」は、残念ながら不落札だった。これも超有名作のテリー・オニールの「Brigitte Bardot, Spain, 1971」、イメージサイズ 35.9X54.7cm、作家とバルドーのサイン入り、エディション50 作品は、落札予想価格1,200,000~1,800,000円のところ、1,380,000円で落札された。

Terry O’Neill, “Brigitte Bardot, Spain, 1971”

写真関連では、9点中8点が落札。開催日前の週からに為替市場が一転して円高傾向になり、外国人入札者にはやや不利な状況だったといえるだろう。オークションは複数の入札者が競り合うことで価格が上昇していく。そして写真コレクションの中心地は圧倒的に北米になる。今回のオークションは東京時間の13時スタート。欧州、英国のコレクターは早起きすれば参加可能だったが、写真コレクターが最も多い米国は深夜の時間帯になってしまう。写真に関して限定して考えると、北米を意識したオークション開始時間を検討してもよいかもしれない。

どちらにしても、日本ではSBIアートオークション以外は、あまり高額で売れない写真の取り扱いに積極的ではない。しかし、バブル時代から20世紀後半にかけて、海外の優れた写真作品が大量に日本で輸入販売されてきたのだ。21世紀に入り25年が経過した。これらをコレクションした人たちはかなり高齢になり、コレクションの整理を検討しだす時期だと予想される。今後は外国人コレクターが好むような優れた世界基準の写真作品のオークション出品は増えていくのではないか? 日本での今後の写真関連オークション市場の拡大に期待したい。

(落札価格は手数料込)

シンディ・シャーマンのキャリア初期作品
オークション高額落札の背景を考察する

「Untitled #94, 1981」 Christie’s NY、”Post-War and Contemporary Art Day Sale”、2024-11-22

前回、2024年のオークション高額落札ランキングで上位を占めたリチャード・プリンスのカウボーイ・シリーズの市場人気の背景を考えてみた。
実はもう一人忘れてはいけない重要なアーティストがいる。2024年のランキングで「Untitled #94, 1981」が8位の$806,400.(約1.23億円)で落札された、米国人女性アーティストのシンディ・シャーマン(SHERMAN, Cindy)だ。写真関連作品オークション歴代高額落札でもベスト10に2作品が入っている。6位が「Untitled #96, 1981」で、2011年5月8日にクリスティーズ・ニューヨークで$3,890,500、そして7位が「Untitled #93, 1981」で、2014年5月14日サザビーズ・ニューヨークにおいて$3,861,000で落札されている。
この上記3点はいずれも80年代初頭に制作された「Centerfolds」(Untitled #85–#96)シリーズの約61X120cm サイズ、エディション10のカラー(color coupler print)作品となる。ちなみに2014年5月12日にクリスティーズ・ニューヨークで落札された、リチャード・プリンスのカウボーイ・シリーズの最高額落札「Untitled (Cowboy), 1998」は、$3,749,000.で、歴代9位なのだ。

「Untitled #96, 1981」 Christie’s NY、 2011-5-8

シンディ・シャーマンは1954年ニュージャージー生まれ。現代社会を取り巻くマス・メディアの状況に対応したピクチャーズ・ジェネレーション(リチャード・プリンス、ルイーズ・ローラー、シェリー・レヴィン、ロバート・ロンゴを含むグループ)の最も重要なアーティストの一人だ。彼女を有名にしたのが23歳のときに始め、1977年から1980年まで主に野外で制作されたモノクロ写真の「Untitled Film Still」(アンタイトルズ・フィルム・スチール)シリーズ。 スチール(still)とは、動画に対する語で、動きのない静止画のこと。これは仮想のスチール映画写真で、50年代のハリウッドやヨーロッパのB級映画のワンシーンを想像させる設定で、彼女がマリリン・モンローやソフィア・ローレンなどのような様々な出演女優そっくりに扮装して自らを撮影した8×10インチサイズのモノクロ写真シリーズ。B級映画に描かれている多様な女性のステレオタイプのアイデンティティを自分自身で演じることで表現、当時のアート界で高く評価された出世作だ。1995年にはニューヨーク近代美術館が「Untitled Film Still」シリーズのAP(アーティスト・プルーフ)を一括購入しており、その後は作品価格が上昇傾向をたどってきた。2014年11月12日のクリスティーズ・ニューヨークのオークションでは、8X10“インチサイズの本シリーズからの21点が$6,773,000で落札されている。

“Untitled Film Stills”, Christie’s NY, 2014-11-12

彼女の作品の市場での高い評価には時代背景が大きく関係しているので確認しておこう。1960年代後半から1970年代前半にかけて、女性解放運動が世界中で広まった。フェミニズムの意味をネットで調べると”政治的・経済的・個人的・社会的な面におけるジェンダーの平等を確立することを目指す一連の社会運動と思想のこと”と書かれている。いまの時代の女性には当たり前なのだが、実際のところ80年代までアメリカでも、フェミニズムは一部の女性たちのもので、公的な場で問題にすべきことではないという考えが強かったのだ。シンディ・シャーマンの作品が、まだ保守的な考えが残っていた時代の米国で生み出された点は押さえておきたい。

1980年代初頭、シャーマンは影響力のあるアートマガジン「Artforum(アートフォーラム)」掲載用に新作の制作を依頼される。彼女は横長フォーマットの、「プレイボーイ」のような男性向けエロティック雑誌のセンターフォールドを参考にした作品制作に取り組み、合計12枚の大型カラー写真(Untitled #85–#96)が「Centerfolds」シリーズとして制作される。前作の「Film Stills」シリーズとは異なり、この作品に映し出されているのは、男性視線を意識して用意されたセクシーで魅惑的な女性ではなく、感情的に曖昧な思春期の少女である。イメージをティーンエイジャーの生活でのスナップ写真のように作りこんでいる。シャーマン自身が、空想、憧れ、プライベートやメランコリックな心理的瞬間の若い女性を演じて、時に身体がリクライニングしているフォームで撮影されている。視点が定かでなく、ただ宙を見つめていて表情が読み取れない作品もある。通常は男性写真家が男性目線で女性を撮影するところ、ここでは女性が写真家とモデルのピンナップの両方の役割を担っている。フェミニズム的な要素を取り込んで、男性向けのセンターフォールド写真の要件を満たしたイメージを作り上げるという手が込んだ仕掛けのある作品なのだ。

「Untitled #93, 1981」 Sotheby’s NY, 2014-5-14

本シリーズの写真にはヌードや明らかに性的なものはない。シャーマンは、エロティシズムを直接的感じないイメージをあえて提示し、そのなかに見る側が反応する様々な構成要素を確信犯で仕込んでいる。色彩、光、トリミング、空間、アイコンタクト(またはその欠如)、服装、髪型、姿勢、背景の細部などだ。そして期待と違うようなイメージを見せることで、伝統的な淫らでエロティックな想像や衝動を持つようなセンターフォールドの見方への誘いを中断させ、代わりに、描かれた女性の内面を熟考するよう見る者を誘うのだ。作品の様々な要素を見る側に読み解かせることで、メディアにおける女性の描かれ方を批評。また同時にそれがいかに現代社会でのジェンダーの前提、女性への期待、女性らしさの認識が作られてきたかを明らかにしている。私たちが無意識のうちの持つ、これらの前提や思い込みに疑問を投げかけながら、アート作品での提示を通して、見る側に気付かせようとしているのだ。

本作では、彼女自身がモデルで、演技をし、演出をして、写真家として撮影している。彼女はその役割に最大限の注意を払いながら、さまざまな装いを練り上げ、それぞれの写真作品を作り上げていく。スタジオセットを設営し、衣装を制作し、照明をデザインし、そして最終的には、アシスタントを使うことなく、孤独な世界で、完全に一人で写真作品を完成さている。作品制作のあらゆる側面をコントロールすることで、写真が「真実」のメディアであるという思い込みに挑戦しているともいえる。今では写真はパーソナルな表現であることは当たり前の認識だが、当時は写真が真実を提示するメディアであるような幻想がまだ残っていたのだ。

「MoMA One on One Series」 「Cindy Sherman Centerfold (Untitled #96) 」

作品を依頼したArtforum誌の編集者は、当時の社会状況から本シリーズが社会から誤解されるリスクが高いと感じ、雑誌への掲載を見送った。その後、1981年11月にニューヨークのメトロ・ピクチャーズ・ギャラリーで本シリーズが初公開された時、編集者の予想通りに様々な議論が巻き起きたとのことだ。ある批評家は、ソフトコア・ポルノのフェミニズム的パロディと評価、また女性を被害者として描き、見る側に同一視や興奮を誘うものだという批判もされたという。シャーマンは、逆にこの話題性豊富なシリーズによりアート界で大きく注目するようになり、特に「Untitled #96」は象徴的な作品となったのだ。実際、1997年にロサンゼルス現代美術館とシカゴ現代美術館が主催したシャーマンの主要な巡回展のカタログの表紙画像に選ばれている。また2021年にはニューヨーク近代美術館がアート市場で有名作品を特集して本形式で紹介する「MoMA One on One Series」で取り上げて「Cindy Sherman Centerfold (Untitled #96) 」を刊行させている。シャーマンのキャリア上では、「Centerfolds」シリーズは、映画での役割を演じるアーティストの初期の作品と、その後に彼女が取り組み続けてきた他の多くの複雑な主題との間の方向転換が行われた重要作品と見なすことができると評価されている。オークション市場での高額落札にはこのような背景が関係しているのだ。

1985年以降、シャーマンは恐怖を表現する作品を制作、扮装もマスクやシリコンを使うなどより大胆にグロテスクになり、映画から離れてジャンキー、フリークス、死体まであらゆるタイプの人物に変身していく。その後、「Fashion Series」、「Fairy Tales Series」、「History Portraits Series」、「Sex Pictures Series」、「Society Portraits Series」に取り組んでいく。彼女の一連の変身する写真はウォーホールらのポップ・アーティストの流れをついでいると考えられている。映画、広告、ポルノ、ファッション、歴史などを作品に取り込むことでマス・メディアが作り上げた女性に対する固定観念を自らの肉体と変身を通してアート作品化し、世の中に提示し続けているのだ。

リチャード・プリンスのカウボーイ・シリーズ
オークション高額落札の背景を考察する

2024年の写真関連オークション。最高落札額は、既報のようにリチャード・プリンス(1949 – )による1997年のカウボーイ作品だった。クリスティーズ・ロンドンで209.7万 ポンドで(ドル換算260万ドル強)で落札、プリンスのカウボーイ作品は2年連続の1位獲得となった。また2024年の2位と3位もプリンスのカウボーイ作品だった。

ちなみにこのシリーズの最高落札額は、2014年5月12日にクリスティーズ・ニューヨークで落札された「Untitled (Cowboy), 1998」の$3,749,000。プリンス作品の最高落札額は、同じく2014年5月12日にクリスティーズ・ニューヨークで落札された「Spiritual America, 1981」の$$3,973,000.となる。

いまでは「Cowboy(カウボーイ)」は、「Nurse paintings(ナース)」、「Girlfriends(ガールフレンド)」、 「Joke paintings(ジョーク)」と並んで、彼を代表する長寿の人気シリーズとなっている。本作はマルボロ・タバコの広告を複写して拡大したシリーズとなる。実際のところ、何でこのシリーズのコレクター人気がこれほど高いのか、多くの日本人のアート写真ファンは不思議に思っているだろう。今回は、高額落札の背景を検証してみよう。

Christie’s NY, Richard Prince「Untitled (Cowboy), 1998」

まずマルボロのキャンペーンについて確認しておく。カウボーイの「マルボロ・マン」キャンペーンは、1955年から1999年まで展開されたもの。世界で最も成功した広告手法のひとつといわれている。この広告戦略のおかげで、1972年に同社は世界ナンバーワンのタバコブランドとなり、以来その地位を維持している。今日、マルボロは世界中で230億ドルを稼ぎ出し、もちろん健康被害が知られているタバコ製品を販売している。

1970年代半ば、リチャード・プリンスは、タイムライフ・パブリケーションズ(現タイム社)に勤務し、毎日出版物に目を通していた。彼はアメリカ文化の原型をシンプルかつ喚起的に描いたマルボロの広告に創作の可能性を見出すのだ。プリンスは元の広告に微妙な変更を加え、画像を拡大して、文字部分を切り取った後、再び写真撮影した。
彼は広告作品を商業的な文脈から取り出し、自身の「Untitled (Cowboy) 」シリーズとして再ブランディングし、ギャラリーで紹介することにより「アート」作品に作り変えたのだ。

1980年代に発表された初期「カウボーイ」シリーズにより、プリンスはポストモダン表現として知られるアプロプリエーション・アートの代表的なアーティストの一人として評価されるようになる。
アプロプリエーション・アートとは、人間が作り出した視覚文化の表現を適切に採用、借用、再利用し、それらをサンプルとして利用して表現すること。プリンスはいまでは、「Untitled Film Stills」シリーズで知られるシンディ・シャーマンやジョン・バルデッサリらとともに、ピクチャーズ・ジェネレーションと呼ばれるアーティスト・グループの主要メンバーであり、アメリカのメディア文化を批判的に分析するアーティストだと知られるようになっている。

Christie’s London, Richard Prince「Untitled (Cowboy), 1997」

このマルボロ・マンの広告の複写である「カウボーイ」シリーズは、アメリカの白人男性の男らしさを理想化したものといわれている。ラルフ・ローレン・ブランドは象徴的なポロ用の小馬のイメージを使用してブランドを識別させ、関連付けているが、マルボロ・マンもそれと同様の戦略なのだ。プリンスのカウボーイたちは、ブーツにテンガロンハットをかぶり、ステレオタイプのカウボーイ像をイメージさせるあらゆる典型的な道具を身につけた男たちとして描かれている。広告の舞台はアメリカ西部で、サボテンや転がる草に挟まれた石の露頭がある乾燥した風景で、夕日が背景であったりする。マルボロの広告はディテールにまで細心の注意を払って演出されているのだ。

時代的な背景を見てみよう。20世紀になり、カウボーイは神話的なオール・アメリカン・ヒーローとなり、男らしさ、逆境への勝利、勇敢さの象徴として、ハリウッド映画や人気のコミック・ブックに登場するようになる。風景の美しさを背景にした孤独なカウボーイの大規模な映画的表現が、乗り越えられない困難にもかかわらず、たった一人でそれらに立ち向かう逞しい理想的なアメリカ白人男性の理想像を提示しているのだ。そしてこのイメージはマルボロ・タバコ会社によって、無骨で個性的なアメリカン・ヒーローの典型的な男性像はとし流布されるようになる。そのような理想像を支持しあこがれる男性はマルボロ・タバコを好むという広告戦力なのだ。

Christie’s NY, Richard Prince「Untitled (Silhouette Cowboy), 1998」

プリンスはこのような神話的なアメリカ西部のカウボーイなどの探求を続け、作品でこのステレオタイプの「馬に乗ったマッチョな男」という商業的描写が、本当に独創的でリアルであるかを私たちに問いかけているわけだ。
ニューヨーク・メトロポリタン美術館の写真学芸員であるマリア・モリス・ハンブルクは、「彼は 、メディアがいかに 現代の社会において絶対不可欠な存在であり、私たちの生活に徹底的に浸透しているかを、より早く非常に早熟な方法で理解したのです」と発言、またソロモン・R・グッゲンハイム美術館のナンシー・スペクターは、「プリンスが既存の写真を流用することは、決して単なるコピーではない。むしろ、イメージから一種の写真的無意識を抽出し、その意味と制作に関する抑圧された真実を前面に押し出している。」と評価している。(N. Spector, in Richard Prince: Spiritual America, exh. cat., Solomon R. Guggenheim Museum, New York, 2007, p. 26)。

また21世紀のアメリカでは、中間層が没落し、格差が拡大したことで、このような理想的なマッチョで強い自信にあふれた男性などは存在しないだろう。今はなきかつての古き良き時代の憧れの存在が作品で表現されているからこそ、多くの人がプリンスの「カウボーイ」シリーズに魅了されるのだと思われる。

このような過去を懐かしむメンタリティーは高額な作品が買えない一般人にも見られるようだ。人気はフォトブック市場にも波及している。2020年にプリンスのカウボーイ・シリーズを収録した「Richard Prince: Cowboy」( Prestel 刊)という分厚いフォトブックが刊行された。発売当時、アマゾンでは7,600円程度で購入できた。その後、瞬く間に完売してレアブックとなり、今では古書市場で最低でも500ドル(約7.5万円)もする高騰ぶりだ。

作品サイズも「カウボーイ」シリーズの魅力のひとつだ。1位作 (127 x 191.6cm.)、2位作 (123.5 x 185.5 cm.)、3位作 (121.6 x 182.8 cm.)の絵画同様の大判サイズで制作されている。またエディションが2点、アーティスト・プルーフ1点という希少性が極めて高い作品でもある。これも高額落札の背景にあるのだろう。
「ファインアート写真の見方」(玄光社刊)で分類したように、写真家の創作に対するアイデア/コンセプトが明快なファインアート分野の現代写真のうち、サイズが巨大で、エディションが少ない作品は「現代アート系」、サイズが従来の20世紀写真と同様でエディションが多めの作品は「21世紀写真」としている。

クリスティーズのオークションカタログの解説では2位の「Untitled (Cowboy)、1999」を取り上げ、カウボーイ・シリーズで展開されアメリカ西部の壮大なスケールのパノラマ的シーンは、トーマス・コールなどアメリカ風景画家のグループによる、19世紀中頃の美術運動ハドソン・リバー派の偉大な風景画を思い起こさせるとしている。作品中に存在するカウボーイを通して、圧倒的な自然の素晴らしさの中では人間は取るに足らない存在であることを伝えていると指摘している。自然を人間が支配するという西洋の合理主義的な発想に疑問符を投げかける、環境保護的な文脈での作品評価の可能性を示している。これは、3位作品の
「Untitled (Silhouette Cowboy), 1999」にも当てはまるだろう。

Christie’s NY, Richard Prince「Untitled (Cowboy), 1998」

アート市場の中心地はアメリカ市場である。どうもプリンスのカウボーイ人気は、彼の広告目的のメディアが作り出したステレオタイプのカウボーイ像に対する批判精神とともに、古き良き時代を象徴したそれらの懐かしいイメージが圧倒的に数が多い白人のアメリカ人男性コレクターの心に刺さるからのようだ。
またトランプ大統領が再選出されたように、中間層が没落して格差が拡大し、明るい未来像が描けなくなったような社会的背景、また環境問題への配慮の視点も影響しているのだと思われる。日本人には今一つ人気の背景がわかりにくいのも当然だろう。

2024年ファインアート写真・オークション落札ベスト3

1.リチャード・プリンス「Untitled (Cowboy), 1997」
クリスティーズ・ロンドン、“20th/21st Century: London Evening Sale”
2024年10月9日
£2,097,000 (約4.14億円)

2.リチャード・プリンス「Untitled (Cowboy), 1999」
クリスティーズ・ニューヨーク、“Christie’s 21st Century Evening Sale”
2024年11月21日
$1,865,000.(約2.84 億円)

3.リチャード・プリンス「Untitled ( Silhouette Cowboy), 1999」
クリスティーズ・ニューヨーク
“Post-War and Contemporary Art Day Sale”
2024年11月22日
$1,744,000.(約2.66億円)

(為替レート/ドル円152.58円、ポンド円197.70)
三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる2024年の平均TTS為替レート

2024年アート写真オークション高額落札
リチャード・プリンスのカウボーイ作品が上位を独占

まずはアート市場の中心地である米国の2024年経済を振り返ってみよう。実質GDP成長率は減速傾向だったものの景気基調は底堅く、インフレも緩やかに減速してきた。米国の中央銀行にあたるFRBは9月に利下げを開始、その後は景気への影響を確認しながら小幅利下げを続けるスタンスになった。経済のソフトランディングが視野に入ってきたといえよう。株式相場は、8月に景気減速懸念から一時大きく調整したがその後は持ち直し、年間を通して見れば堅調な相場展開となった。1月2日の始値から12月20日の終値までをみると、ナスダック総合株価指数は約31.5%、S&P500種株価指数は約24.9%、ダウ工業株30種平均は約14%上昇している。

一方で日本経済は、日銀が17年ぶりに利上げを決め、久しぶりに「金利のある世界」が戻ってきた。日経平均株価は一時史上最高値を更新し、ドル円為替相場は、一時1ドル=160円台を付けるなど歴史的な円安・ドル高水準となった、その後は円高に反転する場面もあり、振れ幅の大きな一年だった。日本経済は、内需を中心に緩やかに回復している感じだろう。2024年の年間平均TTS 為替レートは、対ドル152.58円、対ユーロ165.45円、対英ポンド197.70円(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)で、日本人コレクターにとっては2023年よりもさらに厳しい円安水準となった。

2024年の写真関連オークションは、最初の約9か月は低調な落札が続き、100万ドル越えはわずかに2件だった。しかし、10月、11月の秋のオークションでは、100万ドル越えの落札が相次いだ。最高落札額は、リチャード・プリンスによる1997年のカウボーイ作品だった。クリスティーズ・ロンドンで209.7万 ポンドで(ドル換算260万ドル強)で落札、プリンスのカウボーイ作品は2年連続の1位獲得となった。2024年の2位と3位もプリンスのカウボーイ作品だった。

4位はウィリアム・エグルストンの「Untitled, c.1971-1974」。飛行機の中でカクテルを飲んでいるところを撮影した代表作ロス・アラモス・シリーズ収録作。この写真は長らく見過ごされていて、約40年後に再発見され、初めて出版、展示されたのは2003年だったことが知られている。フレームサイズ60 x 44 in(約152 x 112 cm)、2012年制作のエディション1/2のピグメント・プリント、落札予想価格70~90万ドルのところ、手数料込み1,441,500ドル(約2.19億円)で落札。これは彼のオークション最高額落札記録。本作は、2012年3月12日にクリスティーズ・ニューヨークで開催された、デジタル写真の価値基準を大きく変えた「Photographic Masterworks by William Eggleston Sold to Benefit the Eggleston Artistic Trust」で購入された作品。当時の落札価格は386,500ドル、所有期間12年で大きな値上がりとなった。本作の出品は、写真のカテゴリーではなく、クリスティーズ・ニューヨーク行われた「21st Century Evening Sale」だった。エグルストンの大判サイズ写真が、現代アート表現の一部だと認識されている証拠だといえるだろう。
また2024年のオークションハウスの実績面では、上位10位のうちトップ8位までがクリスティーズが独占した。

2022年はマン・レイの「Le Violin d’Ingres, 1924」が、約1,240万ドル、エドワード・スタイケンの「The Flatiron, 1905」が約1,180万ドルという、写真としては異例の1000万ドル越えの超高額落札が2件あった。しかし、2023年に続いて2024年も、2022年の高額落札で歴史的な貴重作品の出品が続くという見通しが見事に裏切られた。2024年の最高落札額はほぼ2021年を下回るレベルだった。貴重な高額評価の作品を持つコレクターは経済や相場見通しに慎重で出品を控えたのだと思われる。

2024年オークション高額落札ランキング

1.リチャード・プリンス「Untitled (Cowboy), 1997」

Richard Prince, Christie’s London

クリスティーズ・ロンドン、
“20th/21st Century: London Evening Sale”
2024年10月9日
£2,097,000 (約4.14億円)

2.リチャード・プリンス「Untitled (Cowboy), 1999」

Richard Prince, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク、
“Christie’s 21st Century Evening Sale”
2024年11月21日
$1,865,000.(約2.84 億円)

3.リチャード・プリンス「Untitled (Cowboy), 1999」

Richard Prince, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク、
“Post-War and Contemporary Art Day Sale”
2024年11月22日
$1,744,000.(約2.66億円)

4.ウィリアム・エグルストン「Untitled, c1971\1974」

William Eggleston, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク、
“Christie’s 21st Century Evening Sale”
2024年11月21日
$1,441,500.(約 2.19 億円)

5.ダイアン・アーバス
「Identical twins, (Cathleen and Colleen), Roselle, New Jersey, 1966」

Diane Arbus, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク
“21st Century Evening Sale”
2024年5月14日
$1,197,000.(約1.82億円)

6.エドワード・ウェストン「Shell (Nautilus), 1927」

Edward Weston, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク
“20th Century Evening Sale”
2024年5月16日
$1,071,000.(約1.64億円)

7.リチャード・アヴェドン
「Marilyn Monroe, Actress, New York City, 1957」

Richard Avedon, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク
“21st Century Evening Sale”
2024年5月14日
$882,500.(約1.34億円)

8.シンディー・シャーマン「Untitled #94, 1981」

Cindy Sherman, Christie’s New York

クリスティーズ・ニューヨーク
“Post-War and Contemporary Art Day Sale”
2024年11月22日
$806,400.(約1.23億円)

9.アンドレアス・グルスキー「New York, Mercantile Exchange, 2000」

Andreas Grusky, Phillips London

フィリップス・ロンドン
“Modern and Contemporary Art Evening Sale”
2024年10月10日
£609,600 (約1.2億円)

10.アンセル・アダムス「Aspens, Northern New Mexico (Vertical), 1958」

Ansel Adams, Sotheby’s New York

サザビーズ・ニューヨーク
“Ansel Adams: A Legacy | Photographs from the Meredith Collection”
2024年10月16日
$720,000.(約1.09億円)

(為替レート/ドル円152.58円、ユーロ円165.45円、ポンド円197.70)
三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる2024年の平均TTS為替レート

「DUFFY… PORTRAITS」展開催!
ダフィの60~70年代セレブたちのカッコいいポートレイト

新年のごあいさつが遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。

ブリッツ・ギャラリーはダフィー(Brian Duffy 1933-2010)の写真展「DUFFY… FASHION / PORTRAITS」(ダフィー…ファッション/ポートレイト展)のパート2「PORTRAITS(ポートレイツ)」を2025年1月15日から開催します。ダフィーは60~70年代に活躍した英国人写真家。彼は、デビット・ベイリー、テレス・ドノヴァンとともに60年代スウィンギング・ロンドンの偉大なイメージ・メーカーであるとともに、有名なスター・フォトグラファーでした。

ダフィーはパート1で展示したファッションとともに、各界で活躍していた時代を代表するセレブリティーのポートレイトを撮影しています。特に知られているのはデヴィッド・ボウイ(1947.1.8 – 2016.1.10)とのセッションです。70年代に、“ジギー・スターダスト Ziggy Stardust”(1972年)、“アラジン・セイン Aladdin Sane”(1973年)、“シン・ホワイト・デューク The Thin White Duke”(1975年)、“ロジャー Lodger”(1979年)、“スケアリー・モンスターズ Scary Monsters”(1980年)の5回の撮影を行っています。特にアラジン・セインのアルバムジャケットに使用された写真は極めて有名で、「ポップ・カルチャーにおけるモナリザ」とも呼ばれています。2013年夏、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館で開催された“DAVID BOWIE is”展では、ダフィーによるアラジン・セイン・セッションでのボウイが目を開いた未使用カット作品が展覧会のメイン・ヴィジュアルに採用され話題になります。同展は2017年東京で巡回開催されています。

ダフィー写真展パート2では、珠玉のポートレイツ合計約30点が展示されます。シドニー・ポワティエ、マイケル・ケイン、アーノルド・シュワルツェネッガー、テレンス・スタンプ、ブリジッド・バルドー、サミー・デイヴィス・ジュニア、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ニーナ・シモン、ウィリアム・バロウズ、デビー・ハリー、アマンダ・リア、ジョアンナ・ラムリー、ブラック・サバス、ポール・ジョーンズ(マンフレッド・マン)などが含まれます。また、本展ではデヴィッド・ボウイの作品の特集コーナーを設置、5回のセッションで撮影された珠玉の14点を紹介します。

ダフィーのポートレイトの特徴はどんな有名な被写体でも彼の前ではとてもリラックスしていることです。つまり彼は人たらしで、相手の気分を乗せることに長けていたのでしょう。カメラの前の被写体は時に調子に乗って自然でユニークな動きを見せています。ファインアートになるポートレイツは、写真家と被写体が同等な関係性であり、お互いが見たことがないようなビジュアルを作り上げるのだという共通意識を持つことが重要になります。つまり二人は共犯関係で、写真は一種のコラボ作品なのです。だから彼のポートレイトはカッコよく、見る人を魅了するのです。
そのような関係性がないほとんどのポートレイトは単なるセレブの広報や記録を目的とするブロマイド的なつまらない写真になってしまいます。しかし、現代では写真家と被写体がこのような関係性を構築するのは非常に困難でしょう。80年代以降は、大衆消費社会の到来とともにファッションと同様に音楽や映画はビックビジネスへと発展していき、セレブは多くの取り巻きに囲まれるようになります。写真家にとっては自由にコミュニケーションをとって関係性を構築する余地が次第に少なくなっていくのです。

本展で展示されるのは、作家の意思を受け継いだ息子クリス氏が運営するダフィー・アーカイブが監修/制作したエステート・プリント作品です。また日本のコレクター向けに、今回のブリッツでの写真展限定オープン・エディション・プリント(サイン入り作品証明書付き)もリーズナブル価格で特別販売されます。パート1で展示したファッション写真も写真展開催期間中はご注文可能です。またボウイの作品は、ファッション写真よりも小さいスタンダード・サイズ(約19X19cm 、19X12.7cm)のプリントの額装作品も用意しています。(フレーム約28X 36cmサイズ)

ダフィーによる、60~70年代の時代を代表する各界セレブリティーたちの珠玉のポートレイツ作品をぜひご高覧ください!

DUFFY…PORTRAITS ダフィー…ポートレイト展
2025年1月15日 (水)~3月22日 (土)
1:00PM~6:00PM/休廊 月・火・/入場無料
ブリッツ・ギャラリー
〒153-0064  東京都目黒区下目黒6-20-29

公式サイト

「DUFFY… FASHION / PORTRAITS Part-1」
ダフィーの傑作ファッション写真を見逃すな!

ブリッツ・ギャラリーは、主に60 ~ 70年代にかけて、ファッション雑誌、広告、ボートレイトの分野で活躍した英国人写真家ダフィー(Brian Duffy 1933-2010)の写真展「DUFFY… FASHION / PORTRAITS」(ダフィー…ファション/ポートレイツ展)を開催中。ファッション写真中心に展示するPart-1はいよいよ12月22日まで。お見逃しのないように!

彼のファッション写真の特徴は洋服をメインに撮っていないこと。60 ~ 70年代にかけての撮影では、写真家に多くの自由裁量が与えられていた。いまのように、エディター、アート・ディレクター、ファッション・ブランドが撮影に口をはさむことがあまりなかったのだ。ファッション写真は作り物のイメージだからアート性がないという指摘があるが、当時の状況は全く違っていた。広い意味で仕事の写真撮影だが、写真家の自己表現がある程度発揮できたのだ。ダフィーは、ドキュメントの手法をファッション分野に取り入れることで、時代性を作品に落とし込んでいるといえるだろう。いま市場で愛でられているファインアート系のファッション写真は、実はこのように撮影ができた時代の作品が中心になっているのだ。かつてアメリカ人作家スーザン・ソンダクは“偉大なファッション写真は、ファッションを撮影した写真以上のものだ”という発言している。つまり洋服の情報を正確に伝えるファッション写真が存在している一方で、最先端の写真家による洋服販売目的にあまりとらわれないファッション写真が存在するという意味だ。まさにダフィーのこの時代の写真そのものだろう。

その後、大衆消費社会の到来とともにファッションはビックビジネスへと発展していき、写真家の創造力を発揮する余地が次第に少なくなっていく。同時に各種圧力団体による社会的抗議活動が活発化して、雑誌や広告ではタバコや過度の性的表現が自己規制の対象になる。80年代以降、特に規制が厳しいアメリカの雑誌や広告のファッション写真が単なる洋服の情報を伝える面白みがない表現になってしまうのだ。

今回展示しているダフィーの作品では、当時の活気あるロンドンなどの都市のストリートに漂っていた気分や雰囲気が見る側に伝わってくる。ダフィーにとってそれを感じ取り、伝えるツールがモデルでありファッションだった。彼は時代をドキュメントする手段としてファッション写真を撮影していた。

そして彼が積極的に取り入れていたのが、当時の大衆の憧れだったラグジュアリー・カーのジャガーEタイプ、アストン・マーチン、メルセデス・ベンツなど。そして一般大衆にもなじみのある、ミニ、アルファスッド、スクーターのヴェスパなどもファッション写真の小物として取り入れている。元祖スーパーモデルのジーン・シュリンプトンがミニの運転席に座っている写真などは、60年代を生きる若い働く英国女性が、好みのファッションを身にまとい、自分の愛車で自由に動き回るライフスタイルを見事に表現している。また写真集「DUFFY…PHOTOGRAPHER」の表紙のクルマはジャガーEタイプ。お洒落なファッションのショーファー(運転手)とモデルとの気見合わせで、当時の憧れを表現している。

ダフィーが撮影しているモデルのジーン・シュリンプトン(Jean Shrimpton、1942年11月7日生まれ)にも注目したい。彼女は今までの貴族的でグラマラスな雰囲気のモデルとは異なり、長い脚とスリムな体型が特徴。60年代のスウィンギング・ロンドンのアイコンで元祖スーパーモデルなのだ。英国発祥のミニスカートの伝道師としても知られている。シュリンプトンは、写真家デビッド・ベイリー(David Bailey)が見出したと思われているが、実はそれ以前にまだ無名の彼女を起用していたのはダフィーだった。その後に、ベイリーのミューズとして知られるようになる。彼女のニッネームは「The Shrimp」、和訳するとエビちゃん。ある写真家が日本のモデル蛯原友里が彼女にスタイルやヘア・メイクが似ていると指摘していた。本展では、シュリンプトンがモデルのファッション写真コーナーも設置されている。興味深いのは、写真を見比べるに、展示作品がすべて同じモデルだと全く気付かないこと。つまり制作側の意図により、ヘア・メイクやファッションで自由自在に雰囲気やイメージを作り上げることができるモデルだったのだ。同じ英国人モデルのケイト・モスの元祖ともいえるだろう。

ダフィーはその他にも当時を代表するモデルたちを撮影している。昨年に亡くなった、英国生まれの歌手、モデル、俳優のジェーン・バーキン(Jane Birkin, 1946-2023)。フランスの老舗メゾンエルメスの定番バッグ「バーキン」の由来にもなったのはあまりにも有名だろう。ダフィーは、若かりしまだ20歳前後の彼女を1965年に撮影している。そのほかにも、ドイツ出身の元祖スーパーモデルのヴェルーシュカ( Veruschka, 1939-)や、イナ・バルケ(Ina Balke, 1937 )なども起用している。

ダフィーが撮影したカラー写真にも注目してほしい。彼の輝かしい業績にピレリー・カレンダーの撮影を1965年と1973年に行ったことがある。同カレンダーは、イタリアタイヤメーカーのピレリーが1964年から制作されている。一般販売は行われてなく、取引先や重要顧客に配られている。かつてリチャード・アヴェドン、ハーブ・リッツ、ブルース・ウエーバー、ピーター・リンドーバークなど超有名写真家が手掛けている。ちなみに2025年は、イーサム・ジェームス・グリーンが担当。時代が反映された有名写真家によるイメージは、過去に何度も写真集化されている。最近では、2015年に過去50年の作品を収録した「Pirelli. The Calendar. 50 Years And More」(Taschen刊)が刊行。本展ではダフィーが1973年度に撮影した2点を展示している。その他、フレンチ・エルやテレグラフ・マガジンでのカラーによる仕事も紹介。1978年の黄色いアルファスッドを背景に取り込んだ作品などは、何気ないストリートの雰囲気の中で撮影されたように感じるが、実はすべてが完全に計算されつくされているのです。ヴォーグ誌のアート・ディレクターだったアレクサンダー・リーバーマンが、理想の写真だと語ったといわれる”最高のセンスをもったアマチュアで、カメラマンの存在を全く感じさせない(写真)”を思い越す、見ていて飽きない素晴らしいファッション写真の傑作だ。

作品のコレクション情報も伝えておこう。展示作品には、3種類の購入オプションがある。

・Signed Limited Edition Print
有名な代表作品の限定/銀塩写真で、ブライアン・ダフィーのサイン、
アーカイブのスタンプ、クリス・ダフィー直筆サイン入り証明書付き
シートサイズ35X24cm、35X28cm(長方形)、30X30cm(スクエア)
Edition 12~18

・Unsigned Limited Edition Print
主に代表作以外の作品となり、シートにサインはなし、
アーカイブのスタンプ、クリス・ダフィー直筆サイン入り証明書付き
シートサイズ35X24cm、35X28cm(長方形)、30X30cm(スクエア)
Edition 15
デジタル・アーカイバル・プリント

・Open Edition Print /オープン・エディション作品
(ブリッツ・ギャラリーの写真展用限定販売プリント)
アーカイブのスタンプ、財団のクリス・ダフィー直筆サイン入り証明書付き
シートサイズ31X21cm(長方形)、27X27cm(スクエア)
デジタル・アーカイヴァル・プリント、16X20“で額装済

販売価格は、美術館やシリアスなコレクター向けの銀塩プリントによるダフィーのサイン入りのリミテッド・エディションは約50万円からと高額になる。しかしその他の仕様の作品はかなりお買い求めやすい価格設定になっている。特にコレクション初心者向けのブリッツでの写真展限定のカスタム・プリントは、ダフィー・アーカイブの協力により実現したリーズナブル価格の作品。こちらはオープン・ンエディション作品なのだが、アーカイブの作品証明書が付く。展覧会の会期中のみ受注生産作品となる。おかげさまで初心者はもちろんシリアスなコレクターにも大好評だ。

本展パート1ではダフィーの珠玉の28作品を展示、店頭では素敵な写真展カタログも限定数製作して販売中。パート1の会期は12月22日まで、ダフィーのファッション写真の傑作を日本で見る機会はたぶんこれが最後になるだろう。目黒方面にお出かけの際は、ぜひご来廊ください。お見逃しのないように!

パート2では、デヴィッド・ボウイをはじめとしたダフィーの珠玉のポートレイト作品を1月15日より展示する。

20世紀の写真ギャラリー経営
アナログ時代の仕事術(2)

ニューヨークのフォトフェア ”フォトグラフィー・ショー”

21世紀のいま、ネット普及により海外アート情報は現地に行かなくても低コストで手に入るようになった。一方で展覧会やフォトブックの情報は膨大になりすぎて、人々の関心が一気に希薄化している。
私はこの分野を専門にしているのだが、すべての展示や新刊フォトブックの中身を確認するなど不可能だ。質の良い情報の理解と評価にはある程度時間を使っての内容の吟味が必要になる。超多忙な現代人は溢れる情報に対して瞬間的な感情による反応だけになりがちだ。特にSNSではその傾向が顕著になっている。情報の良し悪しの時間をかけての判断がますます行われ難くなっている。

私たちはどうしても、知名度のあるアーティスト、有名美術館、ブランド・ギャラリー、人の目を引くビジュアルに関連する情報に偏って反応しがちになる。新興ギャラリーや出版社が斬新な視点を持った若手アーティストを写真展やフォトブックで紹介しても、その情報が多くが人の目に留まらないで消えていく状況なのだ。
そして一方では多くの業界関係者は、最近は良い作品や優れた新人がいない、文化が停滞していると嘆いている。いま多くの情報の受送信を担う商業的なインターネット環境では、主流でないアートの内容が注目されにくい構造になっているのだ。

ニューヨーク/ソーホー地区のフォト・ギャラリー

また作品の海外での市場価格も誰でも簡単に入手可能になった。20世紀は売り手と買い手の持つ情報が非対称性だった。つまりアート作品やフォトブックについて、両者が持つ情報に大きな格差があり、国内コレクターが海外の作品相場を簡単に知るすべはほとんどなかったのだ。
いまや個人でも海外からの直接購入が可能になったので、輸入業者の利益率は大きく下がった。輸入作品の国内販売価格は、いまでは現地価格に送料を上乗せするくらいになっている。かつては、現地価格に20~50%程度のマージンを上乗せして国内価格が決められていた。インターネット普及による情報の民主化により利益率は一貫して下がり続けた。独自の専門分野を持たない、小売り流通企業経営による高コスト商業ギャラリーは2000年代にはすべてが撤退していった。
企業系ギャラリーは、アートで自身の差別化を目的に運営されるラグジュアリー・ブランド系のみになっている。

マンハッタンの野外アート

また写真メディアのアナログからデジタル化への移行にともない、作品種類も多様化した。現代アート系、ファインアート系、コレクタブル系、インテリア系が生まれた。また低価格の写真関連商品を取り扱うショップ/専門店も現れては消えていく状況繰り返されている。20世紀の海外都市のハイストリートによくあったポスター/フレーム販売業者の新形態だといえるだろう。

特に市場が未整理の日本の業界では、いま作品がランダムに局地的に存在する傾向が顕著だ。それぞれの業者がエゴを抑えて、業界全体を発展させようという機運が盛り上がった時期もあった。しかし伝統的なハイコンテクスト的社会であることと、最近のリベラルな考えが相まって、様々な組織、写真家、業者がバラバラに混在/乱立する状況になっている。グローバルな共通の価値評価基準である、作品制作の背景にあるアイデア/コンセプトの共通理解と、その延長線上の市場確立は成功しなかった。残念ながら90年代の混とん状態に戻ってしまった。

いま作品の情報量が増大し、選択肢が膨大になった。このような状況では、コレクターの将来に残るコレクション構築を手伝うファインアート系ギャラリーの役割は極めて重要になっていると思う。今まで以上に専門性を明確にする必要性に迫られている。そしていまの社会の価値観を見極め、作品への高い目利き力が求められるようになったと感じている。予算額が決まっている美術館は運営自体が目的化する傾向があり、次第に魅力がなくなっていくことがある。最近は、ギャラリーでも同じような状況に陥ることがあり、非常に危険だと考えている。継続を目的化して、運営趣旨を逸脱して取り扱い作品を選ぶようになる事態はぜひ避けたいものだ。情熱を持って語れる取り扱い作品がなくなった時がギャラリスト引退の時だと思う。

20世紀の写真ギャラリー経営
アナログ時代の仕事術(1)

ロンドンの老舗フォト・ギャラリーのハミルトンズ

私どものギャラリーは開業以来、主に海外アーティストの作品を日本に紹介してきた。ネットが存在しなかった20世紀後半にどのように仕事を行ってきたかを記録を残す意味も込めて紹介しておこう。

すべてはニューヨーク、ロンドンなどの気になる写真家の作品の取り扱いギャラリー訪問から始まる。日本の新設ギャラリーが信用を得る方法はただ一つ、何回か現地を訪問して、そのたびに作品購入して顔を覚えてもらい個人的な信頼関係を構築していくのだ。
日本での写真展開催には、海外から作品を借りてくる必要がある。信頼されることで作品を提供してくれるようになるのだ。通常は、ギャランティーという、作品の一部買い取りが借りる条件となる。

NYで開催される世界最大のフォトフェアのフォトグラフィー・ショー


いまは海外のギャラリーやアーティストのスタジオとの連絡はeメールだが、インターネット普及前の連絡はFAXだった。事務の流れは、まずワープロでレターを書くことから始まる。翻訳ソフト/サイトなどないので辞書片手に悪戦苦闘したものだ。文章をプリントアウトしてFAXで先方に送る、そして返答も同じくFAXでの受け取りだ。写真作品を取り扱うので、画像を先方に送る機会も多い。それもすべてモノクロのFAXでの時間もコストもかかる受送信だった。毎朝の送られてきた受信FAXの確認、機械のロール紙管理は重要な仕事だった。その上、FAXはすべてアナログなので、膨大な量の紙が残ることになる。毎日、送受信しているeメール、受信トレイやフォルダーに保存されているものすべてが紙として物理的に残ることを想像して欲しい。いまのメールと同様に5年くらいは保存していたので、その量は膨大になった。保存方法も物理的なフォルダーやファイルに紙を入れて残していた。

NYの書店Rizzoli、ちょうどアヴェドンの写真集” An autobiography”が刊行された時

海外の最新写真展情報を得る手段は、実際に現地に行くしかなかった。現地ギャラリーに行って、お願いすると日本にも写真展のDMを郵送してくれた。彼らも情報提供の手段はDM郵送しかなかったのだ。それも顧客に存在感をアピールするためにデザインやサイズにはかなりこだわりがあった。海外の家庭では、美しいデザインのカードはインテリア内に飾る習慣があり、それを意識していると聞いたことがあった。それらのカードは今でも保存している。機会があれば展示やブログなどで紹介したいと考えている。

ファインアート写真の中心地はNYだったので、春か秋のオークションやフォトフェアーには可能な限り出張して情報収集と作品/フォトブック仕入れを行っていた。90年代前半、ドル円の為替レートは125~140円程度に推移していたが、その後は円高になって少し仕入れが楽になった。いまの為替レートは当時以上にドル高/円安だ。海外から作品を輸入するには厳しい環境だといえるだろう。業界を見渡すに、最近は外国人写真家の日本での展示が美術館、ギャラリーでも減ってきている。東京都写真美術館では、いまアレック・ソスの展覧会を開催中だが、外国人写真家の個展は約5年ぶりだそうだ。 

90年代、広尾時代のブリッツの展示風景、デボラ・ターバヴィル展

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  20世紀には写真展をアピールする方法もいまとは全く違っていた。ギャラリーは公式サイトやメールマガジンなどのメディアを持たなかったので、既存の新聞や雑誌メディアに情報拡散を依存していた。写真展のプレスキットは、展示内容を紹介するプレスリリースと代表的ビジュアルを紹介するプレスプリントによる。プレスプリントは、オリジナル作品を複写して、封筒に入るサイズのサービス版くらいの紙焼きを用意していた。それらを思いつく限りのメディアに郵送していたのだ。特に新しいギャラリーは、どこかのメディアで紹介されない限り誰にも存在が知られることがなかったのだ。したがってギャラリー来廊者の個人情報は非常に貴重だった。
若い人は芳名帳という言葉を知っているだろうか。ギャラリー来場者が名前や住所などの個人情報を記載する一種の名簿で、ギャラリーの入り口付近には必ず置かれていた。レンタルギャラリーが多い日本では、知り合いが見に来たことを主催者の写真家に伝える意味で用意されていた。来場者の情報収集のために芳名帳は必需品で、店頭では次回展の案内のDMを郵送するので、と伝えて名前と住所を書いてもらうように営業したものだ。そして、実際に写真展のDMはすべての芳名帳記入者に郵送していた。来廊者にも自分の個人情報公開に関する意識は今のように高くはなった。カメラ付き携帯電話など存在しないので、芳名帳の記載者情報が外部に漏れる心配もあまりなかったのだ。

次回、アナログ時代の仕事術(2)に続く

2024年秋NY写真オークション・レヴュー
サザビーズのアンセル・アダムス・セールがホワイト・グローブ達成

2024年秋の大手業者によるニューヨーク定例アート写真オークション。今回は10月上旬から中旬にかけて、複数委託者、単独コレクションによるライブとオンラインの合計6件が開催された。

クリスティーズは、10月2日に“An Eye Towards the Real: Photographs from the Collection of Ambassador Trevor Traina”(132点)を、フィリップスは、10月9日に春に続く単独コレクションのセール“Photographs from the Martin Z. Margulies Foundation Part II”(122点)と、複数委託者による“Photographs”(205点)を、サザビーズは、10月16日に“Ansel Adams: A Legacy | Photographs from the Meredith Collection(Online)”(96点)、10月17日に複数委託者による“Photographs(Online)”(122点)、10月18日に“The World of Eugène Atget: Photographs from The Museum of Modern Art(Online)”(60点)を開催した。

さてオークション結果だが、3社合計で737点が出品され、557点が落札。全体の落札率は約75.6%と春の約73.5%よりも若干改善した。ちなみに2024年春は出品776点で落札率73.5%、2023年秋は出品668点で落札率70.4%だった。
総売り上げは約1466万ドル(約22億円)、今春の約1159万ドル、昨秋の約903万ドルより増加している。
落札作品1点の平均落札金額は約26,328ドルで、今春の約20,600ドル、昨秋の約19,217ドルより増加している。過去10回のオークションの落札額平均と比較したグラフを見ても、7期ぶりに増加に転じている。

業者別では、売り上げ1位は久しぶりに約684万ドルを達成したサザビーズ(落札率82%)、2位は約456万ドルのフィリップス(落札率68%)、3位は約325万ドルでクリスティーズ(落札率80%)という結果だった。年間ベースでドルの売上を見比べると、2024年ニューヨーク・セールの年間売り上げは約2626万ドル(落札率約74.5%)だった。ちなみに2023年は約1865万ドル(落札率約73.7%)、2022年は約2029万ドル(落札率67.4%)だった。
後で詳しく触れるが、これらの好調な結果はすべてサザビーズで開催された珠玉のアンセル・アダムス作品セールの影響によるものだ。同セール単体で96点が完売、約456万ドルを売り上げている。これがなければ、総売り上げ、落札率、平均落札金額ともに、ほぼ最近のトレンドに沿った結果となる。

今シーズンの目玉は前述したサザビーズで開催されたアンセル・アダムスの単独セールだった。
「Ansel Adams: A Legacy, Photographs from the Meredith Collection」と銘打って開催されたセールは、オークションに出品されるアンセル・アダムス写真コレクションとしては、最も重要なもののひとつであるとの前評判だった。同コレクションは、アンセル・アダムス本人が選び、後にフレンズ・オブ・フォトグラフィーに贈られた写真で構成されている。フレンズ・オブ・フォトグラフィーは、写真というメディアへの情熱を追求する写真家の多くの世代にインスピレーションを与えた非営利団体。そこには、1960年代初期のプリントから大判の壁画サイズの1970年代のプリントまで、珠玉の美しい作品が含まれている。象徴的な「Moonrise, Hernandez, New Mexico」、ドラマチックなヨセミテ渓谷の景色、そして非常に貴重な太平洋岸のサーフ・シークエンスなど、アンセル・アダムスの最も愛されている写真を包括的に概観するコレクションになっている。
出品点数は96点、すべてが落札される業界用語のホワイト・グローブを達成。総売り上げは約456万ドル、1点の平均落札額47,580ドルだった。そして高額落札の上位3位までが同オークションに出品されたアンセル・アダムス作品だった。

アンセル・アダムスに続いた高額落札4位は、クリスティーズは、10月2日に“An Eye Towards the Real: Photographs from the Collection of Ambassador Trevor Traina”に出品されたアンドレアス・グルスキー作品の$352,800、高額落札第5位は、フリップス“Photographs”に出品されたアルフレッド・スティーグリッツ作品の$304,800だった。

Sotheby’s NY, “Ansel Adams: A Legacy | Photographs from the Meredith Collection(Online)”

1.Ansel Adams, “Aspens, Northern New Mexico (Vertical), 1958”
Sotheby’s NY, lot63
mural-sized gelatin silver print
image: 33⅜ by 26⅜ in. (84.8 by 67 cm.)
Executed in 1958, probably printed in the 1970s.
落札予想価格 $150,000~250,000 .-
$720,000(約1.08億円)

Sotheby’s NY, “Ansel Adams: A Legacy | Photographs from the Meredith Collection(Online)”

2.Ansel Adams, “Surf Sequence, San Mateo County Coast, California, 1940”Sotheby’s NY, lot19
5 gelatin silver prints(5点セット)
images approximately 11 by 13 in. (27.9 by 33 cm.)
Executed in 1940, printed between 1981 and 1982.
落札予想価格 $200,000~300,000 .-
$576,000 (約8640万円)

Sotheby’s NY, “Ansel Adams: A Legacy | Photographs from the Meredith Collection(Online)”

3.Ansel Adams, “Moon and Half Dome, Yosemite National Park, California, 1960”
Sotheby’s NY, lot15
mural-sized gelatin silver print
image: 29¼ by 26 in. (74.3 by 66 cm.)
Executed in 1960, probably printed in the 1960s.
落札予想価格 $100,000~200,000.-
$384,000 (約5760万円)

Christie’s NY, “An Eye Towards the Real: Photographs from the Collection of Ambassador Trevor Traina”

4.Andreas Gursky, “Dortmund, 2009”
Christie’s NY, lot77
chromogenic print
image: 113 ½ x 80 in. (288.2 x 203.2 cm.)、edition 2/4
落札予想価格 $300,000~500,000 .-
$352,800 (約5292万円)

Phillips NY, “Photographs”

5.Alfred Stieglitz, “From the Back Window–291–Snow Covered Tree, Back-Yard, 1915”
Phillips NY, lot282
Platinum print
9 5/8 x 7 5/8 in. (24.4 x 19.4 cm)
落札予想価格 $250,000~350,000.-
$304,800 (約4572万円)

米国の中央銀行に当たるFRBは9月に0.5%の利下げを決断した。一方、先行きに関しては経済活動は案外腰が強く、大幅利下げの予想が少なくなっている。今後の利下げ幅の判断に関しては経済指標次第という曖昧さが残る状況だ。また来年には新大統領が就任することから、米国政治・経済を巡る先行きの不透明感は強い。そのような外部環境では、高額価格帯市場では今回のアンセル・アダムス・セールのように資産価値が確かな作品に人気が集中し、若手新人のコレクションは様子見するような状況がしばらくは続きそうだ。一方で、中低価格帯市場で価値ある作品を狙っている買い手には有利な状況だともいえるだろう。外部環境の不透明さが解消されてくると市場が活性化するのではないだろうか。しかし日本のコレクターは、いまだに続いている円安により、積極的購入には動き難くい状況だと思われる。

(1ドル/150 円で換算)

「DUFFY… FASHION / PORTRAITS」開催!
ダフィーによる60~70年代の珠玉のファッション/ポートレイト

ブリッツ・ギャラリーは、主に60 ~ 70年代にかけて、ファッション雑誌、広告、ボートレイトの分野で活躍した英国人写真家ダフィー(Brian Duffy 1933-2010)の写真展「DUFFY… FASHION / PORTRAITS」(ダフィー…ファション/ポートレイト展)を2024年10月から開催する。本展ではダフィーのキャリアの軌跡を本格的に紹介。彼の作品をパート1ではファッション写真中心に、パート2ではポートレイト写真を中心に展示する。彼は、デビット・ベイリー、テレス・ドノヴァンとともに60年代スウィンギング・ロンドンの偉大なイメージ・メーカーだった。また彼ら自身も、被写体の有名俳優、ミュージシャン、モデルと同様のスター・フォトグラファーだった。3人の写真家はそれまで主流だった、ライティングで厳密にコントロールされた写真スタジオでのポートレイト撮影を拒否。ファッション写真にドキュメンタリー的な要素を取り込んで、業界の基準を大きく変えた革新者だった。彼らこそは、いまでは当たり前のストリートでのファッション・フォトの先駆者たちだったのだ。

ダフィーのキャリアは、ザ・サンデータイムズの仕事から始まる。その後1957~1963年まではブリティシュ・ヴォーグ誌で仕事を行い、ジーン・シュリンプトンなどのトップ・モデルを撮影。60年代はフランスのエル誌など英国以外の雑誌、新聞で活躍する。70年代以降は、ベンソン&ヘッジス、スミノフの広告キャンペーン、2度に渡るピレリー・カレンダー(1967年、1973年)の仕事で知られている。本展パート1では、これらのファッション写真を中心に約28点を展示する。特に、時代の憧れであったスポーツカーとファッションの斬新な融合が見どころだ。ジャガーEタイプ、アストン・マーチン、メルセデス・ベンツ、ミニ・クーパー、アルファスッドなどが積極的に作品に取り上げられている

またダフィーは時代を代表する、シドニー・ポワティエ、マイケル・ケイン、トム・コートニー、サミー・デイヴィス・ジュニア、ニーナ・シモン、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、チャールストン・ヘストン、ウィリアム・バロウズ、アーノルド・シュワルツェネッガー、ブリジッド・バルドーなどのセレブリティーを撮影している。特にミュージシャンのデヴィッド・ボウイ(1947.1.8 – 2016.1.10)と深い交流があり、70年代には“ジギー・スターダスト Ziggy Stardust”(1972年)、“アラジン・セイン Aladdin Sane”(1973年)、“シン・ホワイト・デューク The Thin White Duke”(1975年)、“ロジャー Lodger”(1979年)、“スケアリー・モンスターズ Scary Monsters”(1980年)の5回の撮影セッションを行っている。特にアラジン・セインのアルバムジャケットに使用された写真は極めて有名で、「ポップ・カルチャーにおけるモナリザ」とも呼ばれている。これらの珠玉のポートレートはパート2で約25点が展示される。ボウイの特集コーナーも設置する予定だ。

ダフィーは、撮影に多くの自由裁量が与えられたファッションやポートレイト写真の延長線上にアート表現の可能性があると信じていた。しかし彼の活躍した時代のファイン・アート写真界では、モノクロの抽象美やプリントのクオリティーを愛でるものが主流だった。作り物のイメージであるファッション写真にアート性はないと考える人も多かった。ファッション写真家が繊細な感性から紡ぎだす、時代の気分や雰囲気はアート表現だとは認識されていなかったのだ。彼は、「In my time there was no such things Art photography(私の時代にはアート・フォトグラフィーのようなものは存在していなかった)」と語っている。アート志向が強いダウィーは写真表現の未来に絶望する。そして1979年には写真撮影の仕事をやめてしまい、スタジオ裏庭で多くのネガを燃やしてしまう。ファッションやポートレートがファイン・アートとして業界や市場で認識されるのは1990年代になってから。いまでは最も注目されるコレクション分野に成長している。

しかしこれには後日談がある。2006年から息子のクリスがダフィーの資料精査を開始するのだ。幸運にも全てのネガが消失していないことが判明し、新たに多くのネガが再発見された。その後2011年に、ダフィー作品は「DUFFY… PHOTOGRAPHER」(ACC Art Books)として写真集化が実現するのだ。その後、60年代ブームの訪れとともに、当時に活躍したベイリー、ドノヴァンに次ぐ第3の男として再注目され、写真展が世界中で数多く開催されるようになる。2013年夏、ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館で開催された“DAVID BOWIE is”展では、ダフィーのアラジン・セイン・セッションでのボウイが目を開いた未使用カット作品がメイン・ヴィジュアルに採用され大きな話題になり、ダフィー人気が再燃するのだ。(同展は2017年東京で巡回開催)。

ブリッツでは、2014年の「DUFFY… PHOTOGRAPHER」(ダフィー・フォトグラファー展)、2017年の「Duffy/Bowie-Five Sessions」(ダフィー・ボウイ・ファイブ・セッションズ展)以来の開催となる。本展で展示されるのは、作家の意思を受け継いだ息子クリス・ダフィーが運営するダフィー・アーカイブが監修/制作したエステート・プリント作品。また日本のコレクター向けに、今回のブリッツでの写真展限定プリントもリーズナブルな価格で特別販売される。サイズ約31 X 21cm/27 X 27cm、プリントにアーカイブのエンボス/サイン入り作品証明書付きとなる。コレクター初心者には最適の写真作品だろう。60年代~70年代の気分や雰囲気が楽しめる、ダフィーによる珠玉のファッション/ポートレート作品をぜひご高覧ください。

DUFFY…FASHION/PORTRAITS ダフィー…ファッション/ポートレイト展
Part 1 FASHION : 2024年10月16日 (水)~12月22日 (日)
Part 2 PORTRAITS : 2025年1月15日 (水)~3月22日 (土)
1:00PM~6:00PM/休廊 月・火・/入場無料


ブリッツ・ギャラリー
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