「時間~TIME 鋤田正義写真展」
京都で開催

新型コロナウィルスの感染拡大の影響で延期されていた「時間~TIME 鋤田正義写真展」。4月3日から美術館「えき」KYOTOで開催されることが発表された。1980年3月、ボウイは広告の仕事で京都を訪れている。彼は仕事が終わった後に、鋤田を京都に招待して共にプライベートな時間を過ごしている。鋤田はロックのカリスマの鎧を脱いだ素のボウイを、京都の街並みを背景にドキュメント風に撮影。数々の名作がこの時のセッションから生まれている。電話ボックス、古川町商店街、阪急電車、旅館で写された写真などは、ボウイのファンなら見覚えがあるだろう。

2020年、鋤田はコロナ禍の京都で約40年前にボウイを撮影した場所を再訪している。展覧会タイトルのように、ボウイを通して悠久の都「京都」における、写真による時間経過の可視化に挑戦している。展覧会ディレクションは、プロデューサー立川直樹氏が行っている。会期中は、鋤田正義と立川直樹とのトークイベント開催の可能性も模索されているとのこと。しかし新型コロナウィルス感染拡大の影響で詳細は現時点では決まっていないそうだ。もし開催が決定された場合は、以下の美術館公式サイトで情報が発表される見込みだ。

以下が立川直樹氏の展覧会の紹介文。
この展覧会はその時にボウイと訪れた場所を鋤田が40年の時を超えて撮影した写真の組み合わせにより歴史や、文化、伝統、前衛が入り交じった京都の地で”時間”と題して開催される。BOWIE X KYOTO X SUKITAという時空を超えたコラボレーションは、2人のマスターの魂の交歓が結実したもので魔法のような時間に観客を誘ってくれる。(プロデューサー 立川直樹)

なお鋤田正義のキャリアを回顧する写真集「SUKITA ETERNITY」だが、こちらも新型コロナウィルスの感染拡大により出版予定が遅れている。全ての作品セレクション、デザイン、色校正が終了し、やっと印刷が開始されたところだ。残念ながら京都の展覧会には発売は間に合わないと思われる。しかし、春以降の発売時にはブリッツで記念写真展などの開催を構想中。楽しみにしていてください!

・「時間~TIME 鋤田正義写真展」
2021年4月3日~5月5日
美術館「えき」KYOTO

https://kyoto.wjr-isetan.co.jp/museum/exhibition_2104.html

ルース・オーキン単独オークション開催
アート写真オークションレビュー

2021年のファインアート写真オークションが2月2日から始まった。中堅業者のボナムス・ニューヨークで米国人女性写真家(Ruth Orkin, 1921-1985)の単独オークションが開催された。彼女は女性フォトジャーナリストの草分け的な存在。フリーランスとして雑誌の「ライフ」、「ルック」などの仕事で世界中で撮影旅行を行っている。フォトブックでは、ニューヨーク市のアパートからセントラルパークをカラーで撮影した「A World Through My Window」(Harper Collins, 1978)が知られている。1995年にはニューヨークの国際写真センター(ICP)で回顧展が開催されている。今回の単独オークションは、彼女の生誕100年を記念するとともに、最近の20世紀に活躍した女性写真家の再評価の流れの一環だと思われる。ファインアート市場がまだ成熟していなかった1985年に亡くなっていることからサインが入ったプリント作品の流通量は多くないと思われる。

今回の総売り上げは約17.63万ドル(約1851万円)、54点が出品されて33点が落札、落札率は約61.1%だった。最高額は彼女の代表作<<An American Girl in Italy (1951)>> で、US$ 52,812(約554万円)だった。

Bonhams NY, Photographs by Ruth Orkin, “American Girl in Italy, 1951”

フローレンスの市街地を、一人のアメリカ人女性がやや不安げに大勢のイタリア人男性に声をかけられる中をさっそうと歩く作品。女性の海外一人旅の楽しさを表現した彼女の名作。本作は演出されたものではないという、文脈が語られることで魅力が一層高まる作品だ。

興味深いのは、本オークションには同作のモダンプリントが複数点出品されていたこと。上記の最高額で落札されたのは80.7 x 122cmサイズの、サイン付き大判作品だった。一方で10.5 x 21.2cmサイズの、クレジット、写真家アドレス、スタンプのみ、サインなしの作品はUS$ 1,020(約10.7万円)、28 x 35.5cmサイズのサイン入り作品は US$ 12,750(約133万円)だった。作品のサイズ、サインの有無が相場に与える影響が明確に反映されていたと思う。

本オークションは、彼女の関連アイテムも一緒に出品している。オーソン・ウェルズから彼女への手紙、作品が掲載されたカタログ、カメラとカメラバックも出品されていた。1955年に購入されたニコンF、50㎜と135㎜レンズ、カメラバックは、 US$ 1,402(約14.7万円)で落札されている。
同ロットには、「A Photo Journal, Viking Press, 1981」に掲載された、以下のような彼女のコメントが紹介されていた。
“写真を撮るということは、被写体の人に「これを見てください」「あれを見てください」とお願いすることだと思っています。自分が撮った写真が、それを見た人に自分が意図したことを感じてもらえれば、目的は達成されたことになります。”
作品売買の場であるオークションだが、そこでも作品の価値を高めるために様々な写真家の情報が提供されていのだ。

(為替 1ドル105円で換算)

セレブリティー写真のアート性
テリー・ニール作品人気の秘密

現在開催中のテリー・オニール追悼写真展。予約制で開催しているので、会場では熱心なコレクターや来場者と話す機会が多い。もちろん感染対策を講じた上でソーシャル・ディスタンスを強く意識して対応している。
会話の中でよく良く受ける質問は、「ポートレート写真はファインアートなのか」というものだ。実はそれに対する回答と、展示の見どころを2015年のテリー・オニール来日記念展開催時のブログに書いている。今回は当時のブログに加筆して改めて以下に紹介しておく。読んだ後に来廊するとテリー・オニール写真展がより堪能できるだろう。

2015年来日時のテリー・オニール

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(2015年4月28日掲載分を加筆)

世の中には各界のセレブリティ―を撮影したポートレート写真を取り扱うギャラリー、販売店が数多くある。そのなかには単なるスナップ写真で、被写体が写っていることのみに価値が置かれたブロマイド的写真も多くある。しかしその一部には、写真家の作家性と被写体の知名度がともに愛でられた、ファインアート作品として認知されている写真もある。これは、ファッション写真と同様の構図だ。そこにも単に洋服の情報を提供するだけのものと、撮影された時代性が反映されたアート系ファッション写真が混在している。

セレブリティ―を撮影したポートレート写真がファインアート作品になるかどうかは、被写体、クライエント、エディター、デザイナー、写真家など、撮影に関わる人たちの関係性と、それぞれの創作意図により決まってくる。まず被写体と写真家が同等のポジションでないと優れた写真は撮影できない。多くの場合、写真撮影される機会が多い有名人は、どのようなアングルやポーズが最も見映えが良いかを熟知している。被写体が写真家をリードして、一般受けするありきたりの写真を撮らせることが多い。それらは被写体情報がメインのアーティストの広告宣伝用写真といえるだろう。しかし彼らがキャリアの転換点などで、いままでにない新しい姿の写真を撮って欲しいと考えるときがある。そのような時に世界的に知名度が高い有名写真家に撮影を依頼する場合が多い。だいたい彼らは既に友人関係であり、そのようなセッションではセレブリティーの意識が全く違う。彼らは写真家とともに一種のアート作品を共に制作するような意図を持つ。それらは写真家の自己表現の作品であるとともに、被写体とのコラボ作品にもなり得るのだ。

テリー・オニールを例に詳しく説明してみよう。
中流家庭出身のオニールが、セレブリティ―たちと親しくなれたのは幸運に恵まれたからだ。時は1963年のロンドン。彼は新聞社の若手スタッフ写真家だった。若者に人気のあるバンドがアビーロード・スタジオでレコーディングしているので撮影することになった。彼はミュージシャンらと同年だったことから早々に現場に派遣される。当時はミュージシャンの写真の重要度は低く、若い写真家に振り分けられていたのだ。
それが、1962年にシングル・デビューしたばかりのザ・ビートルズだった。諸説あるが、その時は1963年春に英国で発売されるファースト・アルバム「プリーズ・プリーズ・ミー」の収録だったと言われている。彼がスタジオの裏庭で撮影した写真はバンドの公式写真となり、それが初めての一般紙でのバンドの紹介となり、掲載紙は瞬く間に完売したという。

それがきっかけとなり、彼はまだ無名のザ・ローリング・ストーンズやデビット・ボウイを撮影することになる。彼らが親しくなったのには年齢が近いからだけではなかった。実はテリー・オニールは、写真家になる前はジャズ・ドラマーを目指していた。彼は当時のバンド・メンバーより、自分の方が技術は上だったと語っている。彼らはともにミュージシャン仲間だという意識があったからすぐに親しくなったのだろう。
周知の通りに、ザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズ、デビット・ボウイはその後に世界的なスターに上り詰めていく。それに伴って、彼らを初期から撮影していたテリー・オニールの写真家のステイタスも上昇していったのだ。そして、撮影の依頼は音楽界だけにとどまらず、映画界、政界からも殺到するようになる。その後に世界的な女優フェイ・ダナウェイと一時期結婚していたことで、彼自身がセレブリティ―写真家として広く認知されることになるのだ。
英国エリザベス女王、自動車レースの最高峰Fー1ドライバーの集合写真、英国歴代首相、007シリーズなど、特別な舞台での撮影に彼は英国を代表する写真家として指名されるようになる。
テリー・オニールのライフタイムプリント作品の中には、ブリジット・バルドー、ロジャー・ムーア、ラクウェル・ウェルチ、フェイ・ダナウェイなどの被写体自身もサインをいれた、作家とのダブル・サイン作品もある。彼がどれだけ親しい関係を継続してきたかの証しだろう。

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撮影を依頼するクライエント側と写真家との関係性はどうだろうか。作品のアート性は撮影時にどれだけ自由裁量が写真家に与えられるかによる。有名写真家になるほど、撮影スタイルが確立している。依頼者は完成する写真が想像できるので写真家の自由度が高くなる。テリー・オニールの活躍した60~70年代の主流はグラフ雑誌のフォトエッセーだった。ファッション、ポートレートは、はるかに写真家の自由度は高かったといわれている。
その後80年代から次第に撮影に指示や制限が加えられるようになっていく。ファッションやミュージックがビック・ビジネスとなり、そのヴィジュアルを取り扱う出版社やエディターが様々な事態を想定して自己規制を行うようになったのだ。健康被害を思い起こすタバコ、宗教的、人種差別、性差別などに事前に配慮したヴィジュアルが求められるようになるのだ。その後、自由な表現を追求したい写真家とエディター、エージェント、クライエントとの戦いが繰り返されることになる。多くの写真家は、この分野の自由な表現の可能性に見切りを捨てて業界を去ったり、ファインアートを目指すようになる。
21世紀になりデジタル化が進行したことで、写真家に与えられる自由裁量はさらに狭まっているのは多くが知るところだ。最近ではクライエント、デザイナー、エディタ―の指示でカメラを操作するオペレーターのような存在になっている。このような不自由な状況では、かつてのようにポートレート写真から時代に残るようなアート作品が生まれ難くなってしまった。テリー・オニールがキャリア後期にあまり撮影をしなくなった理由は、年齢だけではないのだ。最後の自分が納得のいった仕事はネルソン・マンデラの撮影だったという。

セレブリティ―写真がアートになるには、上記の前提とともに写真家の持つ創造性も重要となる。テリー・オニールは、世界的なセレブリティ―たちの自然な表情を引き出して撮影することで定評があった。彼のドキュメンタリー性を兼ね備えた作風が広くアート界でも認識されているのだ。彼は自然な表情を撮影するための環境造りが重要で、あとは瞬間を切りとるだけだと語っていた。最も尊敬する写真家はユージン・スミス。彼も撮影環境作りを重視し、被写体が写真家を意識しなくなるまでカメラを取り出さなかったという。テリー・オニールも、同じアプローチを実践していたのだ。彼は時に被写体と行動を共にし、また姿を隠したりしてシャッターチャンスを待ったという。

“Frank Sinatora on the Boardwalk, Miami, 1968” (c)Terry O’Neill/Iconic Images 本作は未展示

彼は写真家として成功する秘訣は、自らの存在を消し、あまり目立たないことだと語っている。その意味は最初は良くわからなかった。来日時に本人といろいろ話してみて、被写体にとって写真家が自然の存在になることで良い写真が初めて可能になるという意味だと分かった。彼の写真は、セレブリティーが被写体のドキュメンタリーなのだ。そしてセレブリティ―の顔自体が時代性を反映していることはよく知られている。アーヴィング・ペンは、それを意識したうえで白バックで有名人のポートレートを近寄って撮影している。時代の顔を切り取ったテリー・オニール作品も、同様に広義のアート系ファッション写真であるとも解釈できるのだ。

ポートレートがファインアート作品と評価されるには、それらの写真を受け入れるオーディエンスとその時代背景も重要になる。戦後から90年代前半までは、先進国の多くの人たちが、「明日はより経済的に豊かになれる」という共通の将来の夢が持てた時代だった。そのような時代の気分が反映されていたのが、テリー・オニールの写真だった。いまは人々が持つ価値観は多様化してばらけてしまった。現代の写真家が、それらを世の中から見つけ出して作品として提示するのが極めて難しくなった。
21世紀は、多くの人に共通に愛でられるような、ファインアート作品になり得るポートレート写真、ファッション写真が非常に生まれにくくなった。それゆえ、多くの人が共通の夢が見れた時代に対する懐かしさを持つようになる。それらはザ・ビートルズやデヴィッド・ボウイなどのロック音楽や、60~80年代のファッション写真であり、テリー・オニールのポートレート写真なのだ。

このような世界的な流れは今でも続いている。テリー・オニール作品の人気は死後も全く衰えを見せない。「Bardot, Spain 1971」などの代表作は大手業者によるオークションでも高額で落札されている。一般の人にとって、セレブリティーが被写体の写真はみんな同じブロマイド的写真にみえるかもしれない。しかし、数多あるポートレート写真の中に、将来的に資産価値を持つファインアート系の作品も混在しているのだ。

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今回のテリー・オニール追悼写真展はそのような作品を発見する機会にしてほしい。現在の新型コロナウイルスの感染拡大の状況では、なかなかギャラリーには来にくいと思う。しかし、展示は3月下旬まで行っている。春になって、状況が落ち着いたらぜひ見に来て欲しい。

テリー・オニール 写真展
「Terry O’Neill: Every Picture Tells a Story」
ブリッツ・ギャラリー
2021年 1月15日(土)~3月28日(日)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 完全予約制 / 入場無料

2020年オークション高額落札ランキング
20世紀ファッション写真が大健闘 アヴェドンが第1位!

2020年は、ファイン・アート写真市場にとって波乱の1年だった。2月にロンドンで開催された大手業者の現代アート系オークションまでは通常通りに実施された。しかし3月には、ニューヨーク、ロンドンなどで新型コロナウイルスの感染が拡大、都市のロックダウンが発生。通常は春と秋に行われるオークション・スケジュールは中止または延期を余儀なくされた。そしてオークションは、多くの人が集まる華やかなライブから、無参加者のオンライン/電話へと大きく運営システムが変化することになる。またスケジュールの遅れから、通常は夏休みに入る7月まで、また年末の12月になってからも、単独コレクション、企画もののオンライン・オンリーの複数セールが複数業者により開催される事態となった。少なくとも、2020年は各オークションハウスの努力により、オンライン・オークションが十分に機能することは明確になった。

2020年は世界中の写真作品中心の37のオークションをフォローした。いまや現代アート系オークションの一部にアーティストによる写真作品や高額な20世紀写真が当たり前に出品されている。それらを取り出して、集計に加えるという考え方もあるが、ここでは比較可能な統計数字の一貫性を保つために除外している。ただし、高額ランキングには現代アート系オークションの落札結果を反映させている。しかし、例えばジョン・バルデッサリ(1931-2020)の作品などには、写真素材を使ったコンセプチュアルな混合作品がある。それらを写真作品に含めるかどうかの解釈は分かれると思う。またオークションは世界中で開催されている。今回の集計から漏れた高額落札もあるかもしれない。もし漏れた情報に気付いた人はぜひ連絡してほしい。また為替レートは年間を通じて大きく変動している。どの時点のレートを採用するかによって、ランキング順位が変わる場合もある。それらの点はどうかご了承いただきたい。
以上から、本ランキングは写真作品の客観的なランキングというよりも、アート・フォト・サイトの視点によるものなのだ。

さて2020年のオークション市場で特筆すべきは、オンラインのシェアー急拡大だ。出品点数ベースで約45.7%、落札金額ベースで33%となった。昨年までは、オンライン・オークションは低価格帯作品を取り扱う場だった。コロナウイルス感染拡大で状況は様変わりした。2019年のオークション・データと比較すると、2020年の特徴が見えてくる。出品点数は5452点から6276点に増加、落札率は約65.94%から67.88%に上昇している。開催地の通貨が違うので円貨換算して比較した落札金額合計は、73.13億円から50.8億円に約31%減、1点の単純落札単価も203万円から119万円に大きく減少している。相場の見通しが極めて不透明なことから、高額評価の作品の委託者は出品を先送りする傾向が明確に見られた。
逆に中低価格帯の作品は換金売り的な売却も目立った。出品数は高額価格帯が減少し、中低価格帯が増加したのだ。

落札ランキングでは、ここ数年の市場の低迷から特に現代アート系の高額落札件数が大きく減少している。2016年以来、300万ドル越えの高額落札は記録されていない。2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響による市場の先行き不透明感から、現代アート系の高額作品の不落札が相次いだ。その影響から年後半には高額の写真作品の出品取り止めが多く見られた。
2020年の現代アート系第1位は、ササビーズ・ニューヨークで6月29日に開催された“Contemporary Art Evening Auction”に出品されたリチャード・プリンスの約152X228cmサイズ、エディション1/2のタイプCプリント作品「Untitled (Cowboy),2015」で、約128万ドル(@110/約1.4億円)だった。しかし総合順位では第2位となる。

Sotheby’s NY, “Contemporary Art Evening Auction”, Richard Prince, 「Untitled (Cowboy),2015」


2020年の高額落札は、7月10日にクリスティーズが実施した企画オークション“ONE, a global 20th-cantury art auction”に出品されたリチャード・アヴェドンの代表作「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1979」。約203X161cmサイズ、エディション9/10の銀塩プリント作品で、落札予想価格は80~120万ドルのところ、なんと作家最高落札額の181.5万ドル(約1.99億万円)で落札されている。

Christie’s “ONE, a global 20th-cantury art auction”, Richard Avedon「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1979」

2019年は、総合の高額落札ベスト10のうちの20世紀写真系が1位を含む7作品を占めた。2020年も、20世紀写真系が1位を含む5作品を占めている。特にササビーズ・ニューヨークで12月に開催されたアンセル・アダムスの単独セールの“A Grand Vision: The David H. Arrington Collection of Ansel Adams Masterworks”では、高額落札が相次いだ。総合3位になったのは、60年代にプリントされた、約98X131cmサイズの銀塩プリント作品の「The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942」で、98.8万ドル(約1.08億円)の作家最高落札額を記録している。

2020年は、各オークションハウスの努力により、セカンダリー市場はコロナ禍でもオンライン・オークションなどを取り入れることで十分に機能することが証明された。2021年も同じようなやり方が踏襲しつつも、新たな企画の試行錯誤が行われると予想される。ただし、委託者は引き続き高額評価の作品の出品を先送りするだろう。

一方でプライマリー市場のギャラリーは、業務の100%オンライン化は難しい。新型コロナウイルス感染拡大が一向に収まる気配を見せない中で、2021年の展示企画に本当に頭を悩ませていると聞いている。多くの集客なしでも経営が持続可能な企画を考えないといけないのだ。特に若手新人を中心に取り扱っているところが厳しいと思う。今春以降の市場動向に注視していきたい。

総合順位

1.リチャード・アヴェドン
「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955」
クリスティーズ “ONE, a global 20th-cantury art auction”
2020年7月10日開催
約1.99億円

2.リチャード・プリンス
「Untitled (Cowboy), 2015」
ササビーズ・ニューヨーク “Contemporary Art”
2020年6月30日開催
約1.4億円

3.アンセル・アダムス
「The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942」
ササビーズ・ニューヨーク “A Grand Vision”
2020年12月14日開催
約1.08億円

Sotheby’s NY,“A Grand Vision: The David H. Arrington Collection of Ansel Adams Masterworks”, Ansel Adams 「The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942」

4.アンセル・アダムス
「Half Dome, Merced River, Winter, Yosemite Valley, 1938」
ササビーズ・ニューヨーク “A Grand Vision”
2020年12月14日開催
約7,540万円

4.アンセル・アダムス
「Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941」
ササビーズ・ニューヨーク “A Grand Vision”
2020年12月14日開催
約7,540万円

6.バーバラ・クルーガー
「Untitled (Don’t Shoot), 2013」
クリスティーズ・ニューヨーク “Post-War and Contemporary Art”
2020年10月7日開催
約7,425万円

7.ゲルハルド・リヒター
「Untitled (Park), 1990」
クリスティーズ・ニューヨーク “Post-War and Contemporary Art”
2020年2月12~13日開催
約7,045万円

8.ラースロー・モホリ=ナジ
「Photogram cover for the magazine Broom, 1922」
ササビーズ・ニューヨーク “Photographs”
2020年3月24日~4月3日開催
約5,764万円

9.ティナ・モドッティ
「Interior of Church Tower at Tepotzotlan, 1924」
ササビーズ・ニューヨーク “Photographs from the Ginny Williams Collection”
2020年7月14日開催
約5,500万円

9.杉本博司
「North Atlantic Ocean, Cape Breton Island, 1996」
クリスティーズ・ニューヨーク “Post-War and Contemporary Art”
2020年10月7日開催
約5,500万円

為替レート(1ドル/110円、1ポンド/140円)

新年ブリッツの予定:テリー・オニール 追悼写真展
“Terry O’Neill:
Every Picture Tells a Story”

国内外の珠玉の作品を展示している「Pictures of Hope」展は12月20日まで予約制で開催中。どうぞお見逃しないように!

2021年は、2019年11月16日に81歳で亡くなった、英国人写真家テリー・オニール(1938 – 2019)の追悼写真展 「Terry O’Neill : Every Picture Tells a Story 」を開催する。なお、本展はいまだに収束の兆しが見えない新型コロナウイルス感染防止対策を行った上で、完全予約制での開催となる。東京での感染状況の悪化によっては中止や延期になる可能性もある。

2015年に来日したテリー・オニールさん、写真展会場にて

テリー・オニールは、ブリッツで過去に何度も写真展を開催している思い出深い写真家だ。ギャラリーが広尾にあった1993年に「TERRY O’NEILL : Superstars of 70s」、目黒に移ってからは 「50 Years in the Frontline of Fame」(2015年)、「All About Bond」(2016年)、「Rare and Unseen」(2019年)を行っている。2015年には待望の初来日を果たしている。
写真展のタイトルは、2015年にテリー・オニールと共に来日したアイコニック・イメージ代表のロビン・モーガン氏が行った講演のタイトルから取らしてもらった。「Every Picture Tells a Story」は、「1枚1枚の写真が物語を語る」といった意味。彼によると、コレクターが好むのは、作品を壁に飾った時に、ゲストに対して撮影時の様々な背景や裏話が語れる写真。テリー・オニールの写真の人気が高い一因は、様々なエピソードが語れる写真だからだという。そして、彼の代表作が生まれたエピソードを本人との対話の中で披露してくれた。
撮影秘話があるのは、写真家と被写体とのコミュニケーションが濃密だった事実の裏返しだ。ただ有名人を仕事で撮影したり、スナップしただけだと何もエピソードは生まれないだろう。その後、同名の写真集「Terry O’Neill: Every Picture Tells a Story」(ACC、2016年刊)が」刊行されている。

かつて有名人を撮影したオリジナルプリントは、有名人のブロマイド写真と同じでアート性が低いと考えられていた。しかし世の中の価値観が大きく変化し、写真家と被写体との間に強いコミュニケーションがあった上で撮影されたポートレート系作品のオリジナリティーが認識されるようになった。いまそれらは有名人が生きた時代と、写真家の作家性が反映されたアート表現だと考えられ、大手のアート写真オークションでも頻繁に取引されている。
テリー・オニールは、この分野における先駆者だったのだ。2019年に本人が亡くなったことで、オニールの作品相場は上昇傾向、特にバルドー、シナトラなどの代表作の大判サイズに人気が集まっている。

ササビーズ・ロンドンの2020年10月14日に開催された「Photographs」オークションでは、約146X121cmサイズ、エディション50の「Brigitte Bardot, Spain, 1971」が、27,720ポンド(@145/約401万円)で落札されている。

“Brigitte Bardot, Spain, 1971″(C)Terry O’Neill / Iconic Images

本展ではテリー・オニールの約60年にわたる長いキャリアの中から、ブリジッド・バルドー、オードリー・ヘップバーン、フェイ・ダナウェイ、エリザベス・テイラー、ポール・ニューマン、ショーン・コネリー、ロジャー・ムーア、ケイト・モス、ナオミ・キャンベル、ザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズ、ザ・フー、デヴィット・ボウイなどを撮影したベスト作品約30点(モノクロ/カラー)を展示する予定。すべて生前に制作され、本人のサインが入った貴重な作品(ライフタイム・プリント)の展示となる。

“Faye Dunaway, 1977” (C)Terry O’Neill / Iconic Images

本展をきっかけに、多くの人がセレブリティーたちの数多くの代表イメージは、実はオニール撮影だったという事実を発見できると思う。

テリー・オニール 写真展
「Terry O’Neill: Every Picture Tells a Story」
(エヴリ・ピクチャー・テルズ・ア・ストーリー)

ブリッツ・ギャラリー
2021年 1月15日(土)~3月28日(日)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日
完全予約制 / 入場無料

2020年秋/ロンドン・パリ アート写真オークションレビュー

通常は11月に開催されるフォトフェアー「Paris Photo」に合わせて行われる大手業者によるパリ/ロンドンの定例公開アート写真オークション。今シーズンは、春と同様にコロナウイルスの影響により、開催時期の変更、オンライン開催などと各社がそれぞれの対応を行った。

フィリップスは、“Photographs”オークションを日程前倒しで9月25日にロンドンで開催。ササビーズは、10月14日にロンドンで“Photographs”をオンライン開催、クリスティーズは、11月10日にパリで“Photographies”を開催している。
個別の結果は、業者によってかなりばらつきがあった。

フィリップス・ロンドンの“Photographs”は、予想外に良い結果で市場関係者を驚かせた。総売り上げ約270万ポンド(約3.78億円)、173点が出品されて149点が落札、落札率は約86.1%と良好な結果だった。
高額落札には、リチャード・アヴェドン、マリオ・テスティーノ、ハーブ・リッツなどのアート系ファッション写真が続いた。最高額はマリオ・テスティーノの、“Exposed, Kate Moss, London, 2008”だった。

Phillips London “Photographs”, Mario Testino “Exposed, Kate Moss, London, 2008”

これは230X170cm、エディション2の大判カラー作品。ヴォーグ誌英国版の2008年10月号に掲載された作品。落札予想価格8~12万ポンドのところ、23.5万ポンド(約3,290万円)で落札された。
続くはリチャード・アヴェドンの“Brigitte Bardot, hair by Alexandre, Paris, January 27, 1959”。約58.7X51cmサイズ、エディション35もモノクロ銀塩作品。ハ―パース・バザー誌1959年3月号に掲載された作品。落札予想価格18~22万ポンドのところ、21.25万ポンド(約2,975万円)で落札されている。

一方で、ササビーズ・ロンドンのオンライン開催の“Photographs”は苦戦を強いられた。総売り上げ約107.7万ポンド(約1.50億円)、149点が出品されて77点が落札、落札率は約51.6%と非常に厳しい結果だった。
特に高額価格帯が不調で、最高額の落札予想作品だった、今年亡くなったピーター・ベアードの巨大サイズ作品“Large Mugger Crocodile, Circa 15-16 Feet, Uganda,1966”は、落札予想価格10~15万ポンドだったものの不落札。トーマス・シュトルートの“MUSEE D’ORSAY I’, PARIS, 1989”も、落札予想価格8~12万ポンドだったが不落札だった。最高額で落札されたのは、これもフィリップス・ロンドンと同じマリオ・テスティーノの、“Exposed, Kate Moss, London, 2008”だった。こちらは、サイズが多少小さい180X125cm、エディション3の作品。落札予想価格6~8万ポンドのところ、7.56万ポンド(約1,058万円)で落札された。
この中で好調な結果を残したのが、ウォルフガング・テイルマンズ。8点が出品されて7点が落札。そのうち5点が落札予想価格上限越えの高値による落札だった。

Sotheby’s London “Photographs”, Wolfgang Tillmans ““PLAN, 2007”

最高額は人気の高い抽象作品“PLAN, 2007”。61X50.7cmサイズの1点もの作品。落札予想価格3~4万ポンドのところ、4.78万ポンド(約669万円)で落札された。

クリスティーズ・パリの“Photographies”は、結果が極端だった上記2つのオークションと比べるとちょうど平均的だった。総売り上げ約209.9万ユーロ(約2.62億円)、129点が出品されて90点が落札、落札率は約69.7%だった。
最高額はヘルムート・ニュートンの代表作“Elsa Peretti as a Bunny, Costume by Halston, New York, 1975”だった。

Christie’s Paris “Photographies”, Helmut Newton “Elsa Peretti as a Bunny, Costume by Halston, New York, 1975”

これは102X67cmの大判作品。落札予想価格12~18万ユーロのところ、なんと40万ユーロ(約5000万円)で落札された。同作は2005年10月にクリスティーズ・ニューヨークで開催された“The Elfering Collection”に出品され9.84万ドルで落札されている。為替レートの違いで単純比較はできないが、円貨に直すとが2005年当時のドル円は1ドル/114円だったので、約1,121万円、2020年11月のユーロ円レートが125円なので約5,000万円になった計算になる。約15年で1年複利で約10.482%で運用できた計算になる。
続いたのはアーヴィング・ペンの「Small Trades」シリーズからの約49X37cmサイズのプラチナプリント“Lorry Washers, London, 1951”。落札予想価格6~8万ユーロのところ、11.875万ユーロ(約1484万円)で落札されている。ちなみにペンの同シリーズからは4点が出品されているがいずれも落札予想価格範囲内から上限越で落札。高額落札順位では2位~5位を占めていた。

今秋のロンドンとパリで開催された大手業者によるオークションでは、コロナ禍でもファインアート写真市場が十分に機能していることが明らかになった。開催地の通貨が違うので円貨換算して昨年同期と単純比較すると、合計売上は2019年の約7.64億円に対して2020年は7.87億円とほぼ同額。落札率は2019年の約75.6%に対して、2020年は約70%となっている。米国市場の売り上げが落ち込んでいるのと比べて英国/欧州市場は検討したと評価できるだろう。セカンダリー市場はオンラインなどを取り入れることで、コロナ禍でも十分対応できることが証明された。この非常時における関係者の努力に心より敬意を表したい。
ただし落札作品の内容を見ると、絵柄が分かりやすい有名写真家のアイコン的アート系ファッション写真が高額売り上げの上位を占めていた。人気作と不人気作の2極化が続いているのだ。今後もこの傾向が続くのか、来春以降の市場動向を注視していきたい。

(1ポンド・140円、1ユーロ・125円で換算)

2020年秋ニューヨーク
アート写真オークションレヴュー
コロナ禍でも市場は機能/売上額は減少

通常は10月に集中的日程で行われる大手業者によるニューヨーク定例公開アート写真オークション。今シーズンは春と同様に、コロナウイルスの影響により、開催時期の変更、オンライン開催などと各社がそれぞれの対応を行った。

クリスティーズは、9月30日に複数委託者による“Photographs”を、10月14日には単独コレクションからのセール“The Unseen Eye: Photographs from the W.M. Hunt Collection”をともにオンラインで開催した。
ササビーズは “Photographs”を、“Contemporary Photographs”と“Classic Photographs”の2部にわけて10月1日に開催。
フィリップスは、“Photographs”オークションを日程を10月14日にずらして開催している。

今秋のオークションは、コロナウイルスの影響が本格的に反映される初めての機会として注目された。結果は、3社合計で709点が出品され、480点が落札。不落札率は約32.3%だった。最終的な出品点数は2019年秋の772点(不落札率33.4.8%)から若干減少。不落札率はほぼ同様な水準で推移している。しかし2020年春の、1079点で799点落札、不落札率約25.6%と比べると、出品数が約34%減少、落札率も約6.7%悪化している。総売り上げは、約765万ドル(約8.42億円)で、2020年春の約1368万ドル(約15億円)、2019年秋の約1381万ドル(約15.2億円)から大きく減少。落札作品1点の平均落札額は約16,000ドル。2020年春の約17,000ドル、2019年秋の26,800ドル、2019年春の約38,000ドルルから大きく減少している。

各シーズンごとの合計売上の数字を比較すると、リーマンショック後に急激に落ち込んだ2019年春の約582万ドル以来の低い結果だった。2020年春秋合計のニューヨーク大手オークション売上は約2133万ドルで、2019年の年間約3528万ドルから約39.5%減少した。これも2009年の約1980万ドル以来の低水準だった。2020年のコロナウイルスの影響は、売り上げで見るとリーマンショック級のインパクトを市場に与えたということだろう。市場の先行きの見通しが不透明なときには、貴重な高額評価の作品は市場に出てこなくなる。どうしても中低価格の作品中心の売買となり、落札単価が下がり全体の売上高は減少する。

Phillips NY “Photographs”, László Moholy-Nagy, “Fotogramm1925-1928”

今シーズンの写真作品の最高額は、フィリップス “Photographs”オークションに出品されたラースロー・モホリ=ナジ(1895-1946)の、“Fotogramm, 1925-1928,1929”だった。落札予想価格8万~12万ドルのところ37.5万ドル(約4125万円)で落札された。
続いたのはクリスティーズ “Photographs”に出品されたリチャード・アヴェドンの大判156.2 x 149.8 cmサイズの“Tom Stroud, oil field worker, Velma, Oklahoma, June 12, 1980,1985”。落札予想価格8万~12万ドルのところ35万ドル(約3850万円)で落札された。本作は2000年10月13日のクリスティーズ・ニューヨークのオークションで3.525万ドルで落札された作品。ちなみに1年複利で諸経費を無視して単純計算すると約20年で約12.16%で運用できたことになる。

Christie’s NY “Photographs”, Richard Avedon “Tom Stroud, oil field worker, Velma, Oklahoma, June 12, 1980,1985”

ササビーズの“Classic Photographs”には、アンセル・アダムスの39.7X48.9cmサイズの30年代後半から40年代前半にプリントされた貴重な
“Clearing Winter Storm, Yosemite National Park, California, 1937”が出品された。こちらは落札予想価格20万~30万ドルのところ約27.7万ドル(約3047万円)で落札されている。

Sotheby’s NY “Classic Photographs” Ansel Adams “Clearing Winter Storm, Yosemite National Park, California, 1937”

今秋のオークションでは高額落札が期待された作品の不落札が目立った。
フィリップスでは、アンドレス・グルスキーの“Sao Paulo, Se, 2002”、落札予想価格40万~60万ドル、ササビーズの“Classic Photographs”に出品されたダイアン・アーバスの“A Family on their Lawn One Sunday in Westchester, N.Y., 1968”と、ヘルムート・ニュートン“Charlotte Rampling at the Hotel Nord Pinus II, Arles, 1973”がともに落札予想価格30万~50万ドルだったが不落札だった。

いまグルスキーをはじめドイツのベッヒャー派の作品相場は10年前と比べて大きく下落しているという。2011年に現代ドイツの写真家の作品はオークションで合計2,100万ドルを売り上げているが、2019年には総額が50%近く減少し、1,060万ドルになったとアートネット・ニュースは報じている。(アートネット価格データベースによる)今シーズンは相場がやや調整局面の中で、更なるコロナウイルスの影響による心理的要因が重なり、売り手も買い手が積極的にならなかったのだろう。だがグルスキーなどの市場での高評価に変わりはない。彼の人気の高い作品は既に美術館などの主要コレクションに収蔵されており、それらは再び市場に出ることがない。もし代表作がオークションに出品されることがあれば売上高も再び上昇するだろう。

いまニューヨークの株価は金融緩和の継続やワクチン開発期待を背景に高値で推移している。株価とアート市場とは関連があると言われている。富裕層のコレクターは株を持っているからだ。来春のシーズンには、コロナウイルスの感染者数が減少に転じ、株価も順調に推移すれば、高額作品の出品も増えてオークションの売り上げも回復してくるのではないだろうか。
ちなみにリーマンショック後の2019年春には売り上げが激減したものの、秋には急回復している。

(1ドル/110円で換算)

「テリ・ワイフェンバック/
Saitama Notes」  
@さいたま国際芸術祭2020

「さいたま国際芸術祭2020」は、今春に開催予定だったが新型コロナウイルスの感染拡大を受け延期になっていた。このたびウィズコロナ時代に対応したオンラインとオンサイト2つの作品鑑賞スタイルを採用し、感染予防のために完全予約制(日時指定)により開催が決定した。私どもの取り扱い作家テリ・ワイフェンバックの「Saitama Notes」シリーズもメイン会場の旧大宮区役所での展示がついに実現した。
今回のディレクターは映画監督の遠山昇司氏。彼はもともとワイフェンバック作品を写真集で見ていて、彼女の世界観を気に入っていたとのこと。彼が掲げたテーマは「花/flower」で、ぜひ彼女に埼玉の自然と花(特に桜)を撮って欲しい、という熱い希望により今回のプロジェクトは実現した。

テリ・ワイフェンバックとディレクター遠山昇司氏、2019年3月28日県庁にて

ワイフェンバックは2019年春に来日して浦和市に滞在。約2週間にわたり埼玉県各地を回り、見沼田んぼ周辺、見沼自然公園、名もなき小道などを積極的に散策して、桜の花などを含む自然風景を撮影した。
彼女の作品スタイルは日本の埼玉でも不変だ。誰も見たことのないような同地域の自然風景が作品化されている。撮影はソニーのα7Rシリーズで行われ、インクジェットプリントで出力後にアルミ複合板にマウント加工して、様々なサイズの約37点の作品が展示されている。
テストプリントを彼女の住むパリに何度も送り、スカイプを利用して色校正の指示を受けて手直しを行い、最終の展示作品を日本でプリント制作した。日本の業者は特に大きなサイズのプリントの場合、色を濃い目に調整しがちだ。彼女からは、多くのテストプリントの濃度が濃すぎると指摘された。
彼女の初期写真集の印刷は色彩が濃い目にプリントされている。それが意図的と勘違いする人もいるが、実際のオリジナルプリントはもっと色彩が抑えられているのだ。写真集とオリジナルプリントは全くの別物だと理解していると彼女は語っている。

会場の旧大宮区役所では、昭和の残り香が残る、やや廃墟然とした会場のたたずまいを、作品一部に取り込んで表現しているアーティストが多かった。しかしテリ・ワイフェンバックのスペースだけは壁面と照明がほぼ美術館同様に設営されている。主催者の作家への高いリスペクトを感じた。展示会場の一部には窓部分があり、外光を取り入れる会場の設計になっている。これは当初開催が予定されていた3月~4月にかけては、窓越しに桜並木が見られることによって企画された。窓越しの桜と、ワイフェンバックの大判の桜の作品のコレボレーション的な効果を考えたアイデアだった。 会期が秋になってしまい、残念ながら本物の桜との夢のコラボは実現しなかった。

2019年春の撮影直後には、彼女は埼玉の作品は2002年のイタリアで撮影された写真集「Lana」の延長線上にあると感じると語っていた。光の具合と空気の湿り気はイタリアと埼玉ではかなり違う。しかし展示作品のベースとなる画像をパソコン画像上で順番に見ていくと「Lana」と同じような印象の作品が多いと感じた。しかし、実際の展示を見た印象は予想とかなり違っていた。大きなサイズの、やや抽象的な作品を組で見せたり、咲いて散っていく桜の作品を並べて時間の流れとともに見せたり、つぼみの芽吹きや花が咲いていく過程を連作で提示し自然のダイナミックな動きを可視化し、壁面ごとに見せ方を工夫したかなりリズミカルな展示になっている。会場のレイアウトもすべてワイフェンバックのディレクション。これはアナログ時代には制作できなかった大判サイズの作品制作がデジタル技術の進歩により可能になったのだと思う。

彼女は写真のデジタル化により、鳥のような動きの速い被写体や、また光が弱い時間帯での撮影が可能になり、また抽象的作品の制作がより容易になった。同時にプリント作品制作と展示においてもより自由な表現が可能になったのだ。アナログ時代の彼女の展示では、大きめのタイプCプリントで制作された作品は整然とフレームに入れられて並べられていた。アーティストは自分のシャッターを押した時の感動を写真展でできるだけ忠実に再現したいと考える。しかし、アナログ時代はプリントサイズなどに限界があり、ある程度の妥協が求められたのだろう。

デジタル時代になり、IZU PHOTO MUSEUMで開催された「The May Sun」展あたりから、彼女は表現の一部として自由に空間を演出するようになった。今回は本人不在にもかかわらず、彼女の意図がほぼ正確に反映された展示になっていると思う。会場設営の実務を的確に行った実行委員会のチームがとても良い仕事をしたと評価したい。

本展では、アーティストの感動から生み出された自然風景の作品が、どのように解釈されて実際の展示に落とし込まれるかが見事に例示されている。展示自体も本展の見どころになっている。風景で作品を制作している写真家は必見だろう。今回の写真作品は、特徴がないと見逃されていた埼玉の自然風景が、多くのアマチュア写真家に再発見されるきっかけになるのは間違いないだろう。私は主催者に、絶対にテリ・ワイフェンバックの撮影した場所を地図化して一般に公表すべきだと提案したくらいだ。北海道にはマイケル・ケンナが写真撮影したということでアマチュア写真家の聖地となった洞爺湖畔などの地がある。埼玉にもテリ・ワイフェンバックが撮影したことで有名になる場所がいくつも生まれるのではないだろうか。彼女の写真を見たことで、個人的にも見沼自然公園とその周辺には行ってみようと考えている。

最近のワイフェンバックは、日本でのプロジェクトが続いている。2015年に静岡、奈良、そして2019年に埼玉を撮影している。特に、2015年に伊豆三島に長期間滞在して撮影された「The May Sun」は、彼女のライフワーク的な風景作品に重要な意味をもたらすことになる。彼女は場所の持つ気配を感じ取って写真表現するのを得意とする。2005年には、オランダ北東部のフローニンゲン(Groningen)で行われた「Hidden Sites」プロジェクトに参加。時代の変遷により歴史から消えた場所(Hidden Sites)の気配を写真作品で新たに蘇らせている。伊豆三島では、歴史を大きく遡って古の日本人が伊豆の山河に感じた神々しさ、言い変えると八百万の神を意識し、自然に美を見出す「優美」の表現に挑戦している。西欧人作家による日本の伝統的な美意識への気付きは極めて重要だ。同作は視点を変えると、自然を神の創造物ととらえ、人間が支配管理するという近代西洋の考え方の限界を提示しているとも解釈できる。初期作から続く日常の自然風景の作品は、日本の自然美が加わったことで、いま世界的に広がっている地球の温暖化対策や環境保護という大きなテーマにつながったのだ。
今回も全く同じスタンスで埼玉を撮影している。一貫した大きなテーマは不変で、その延長線上として埼玉の春の美しい自然風景を紡ぎだしたのが今回の展示なのだ。IZU PHOTO MUSEUMでの「The May Sun」の作品展示を見た人なら、会場に足を踏み入れた瞬間にその意味が直感的に理解できるのではないだろうか。
会期は11月15日まで、週末はあと2回だけ。ぜひお見逃しなく!

「さいたま国際芸術祭2020 (花 / flower)」
「テリ・ワイフェンバック/Saitama Notes)」
開催期間:2020年10月17日(土)- 11月15日(日)/完全予約制(日時指定)
会場:メインサイト 旧大宮区役所2階

公式サイト

予約サイト

「さいたま国際芸術祭2020」が
10月17日から開催決定!
「テリ・ワイフェンバック/
Saitama Notes」が初公開


Saitama Triennale 2020 / Photo: MARUO Ryuichi

今春開幕を予定していた数々のアート関連イベントは、新型コロナウィルスの感染拡大と政府の緊急事態宣言発令により中止や延期になった。

「さいたま国際芸術祭2020」も、今回のディレクター遠山昇司が掲げるテーマ「花/flower」をもとに、当初3月14日~5月17日に開催される予定だった。残念ながら感染者の急増を受けて延期となってしまった。
私どもの取り扱い作家テリ・ワイフェンバックも、「Saitama Notes」シリーズをメイン会場の旧大宮区役所で展示する予定だった。実は作品展示は既に終了していたのだが、延期の決定を受けていったん全作品を撤収したという経緯がある。現在パリ在住のワイフェンバック本人も3月5日に来日してオープニングに備える予定だったが、こちらも急遽キャンセルになってしまった。


Saitama Triennale 2020 / Photo: MARUO Ryuichi

約6か月が経過しても新型コロナウィルスの感染拡大はまだ収束していない状況だ。私たちはウイルスと共存しながら社会活動を行うニューノーマルの時代を生きなくてはならなくなった。
「さいたま国際芸術祭2020」も、すでに多くの作品が完成していたことから、新型コロナウィルス禍が続く中、感染予防に対応した新しいスタイルでの開催を迫られた。当初予定していた50組以上のアーティストやプロジェクトが参加する大規模での開幕は残念ながら変更され、ウィズコロナ時代に対応したオンラインとオンサイト2つの作品鑑賞スタイルを採用し、感染予防のために完全予約制(日時指定)で開催することになった。


Saitama Triennale 2020 / Photo: MARUO Ryuichi

テリ・ワイフェンバックの「Saitama Notes」シリーズも、当初の予定通りメインサイト(旧大宮区役所)で展示される。これは彼女が2019年春に来日して浦和に滞在し、約2週間にわたり埼玉県各地を精力的に回り、桜の花などを含む自然風景を撮影した珠玉の作品。彼女の作品スタイルは日本の埼玉でも不変だ。誰も見たことのないような埼玉の自然風景が作品化されている。
「さいたま国際芸術祭2020」開催期間はわずか1か月に短縮されたので、ぜひお見逃しのないように!完全予約制(日時指定)で入館日の2日前までに予約が必要となる。オンラインでワイフェンバック作品のエッセンスを伝える動画も最近公開された。


Saitama Triennale 2020 / Photo: MARUO Ryuichi

ブリッツも同芸術祭での展示に合わせて、ブリッツ・アネックスでテリ・ワイフェンバック作品を展示する。内容は今春に2週間開催して延期になり、その後に予約制で再開した「Certain Places」からのセレクションとなる。コンパクトに彼女の写真家キャリアを回顧できる内容だ。ただしスペースの関係で春に紹介された全作品の展示は行わない。作品はもちろん購入可能、希望作品の海外からの取り寄せも行う。限定数だが、写真集や過去のカタログの販売も行う。一部にはサイン本も含まれる。今春の写真展に来られなかったワイフェンバックのファンはぜひこの機会に来廊してほしい。
ブリッツで現在開催中の「Pictures of Hope」展と同じく完全予約制となる。

また伊豆三島のヴァンジ彫刻庭園美術館でも、テリ・ワイフェンバック作品を含むグループ展「センス・オブ・ワンダー もうひとつの庭へ」が10月31日まで開催中だ。

本来は春に、三島、東京、大宮の3か所でワイフェンバック作品の同時展示を企画していた。新型コロナウイルスの影響で延期されていたが、やっと10月にそれが実現することになった。しかし残念ながら作家本人の来日は中止となってしまった。

1.「さいたま国際芸術祭2020 (花 / flower)」
 「テリ・ワイフェンバック/Saitama Notes)」
開催期間:2020年10月17日(土)- 11月15日(日)
*完全予約制(日時指定)
会場:メインサイト:旧大宮区役所
   アネックスサイト:旧大宮図書館
   スプラッシュサイト:宇宙劇場、大宮図書館、埼玉会館ほか

公式サイト

予約サイト

2.「テリ・ワイフェンバック/Certain Places(アンコール開催)」
開催期間:2020年10月17日(土)- 11月15日(日)
     1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 入場無料 
*完全予約制(日時指定)   
会場 : ブリッツ・アネックス

(ご注意)今春に開催した「Certain Places」からのセレクションです。ただしスペースの関係で春に紹介したすべての作品の展示は行いません。

ブリッツ・ギャラリー公式サイト

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3.「センス・オブ・ワンダー もうひとつの庭へ」
参加作家:テリ・ワイフェンバック、杉戸洋、須藤由希子、ロゼリネ・ルドヴィコ、クリスティアーネ・レーア、須田悦弘、川内倫子
開催期間:2020年3月20日(金)- 10月31日(土)
     10:00~17:00/ 休廊 水曜日 / 入館料 大人1200円

・公式サイトhttps://www.clematis-no-oka.co.jp/vangi-museum/

80年代にアフリカ系米国人の希望を作品化
中村ノブオ「ハーレムの瞳」

今年はアフリカ系米国人に対する警察の残虐行為に抗議して、米国各地でデモが相次いだ。その後、非暴力的な市民的不服従を唱えるブラック・ライヴズ・マター (BLM)運動が世界中で注目されるようになった。また全米オープンテニス優勝者の大坂なおみ氏が、黒人襲撃の抗議のために過去の犠牲者の名前を記したマスクを着用したことも大きなニュースとして紹介された。
私が少し驚いたのは、多くの企業が自らの政治的な立場を明らかにしたことだった。従来は、異なる考えを持つ関係者への配慮から、企業は社会的な問題にはニュートラルな立場を貫いていた。つまりなにも発言しないということだ。アート業界でも差別に反対する声明が多くのアーティスト、ギャラリー、美術館から発せられた。私のもとにも自らの立場を明確にするメッセ―ジが書かれたメールが各所から数多く届いた。沈黙することは現状容認を意味するという強い意思表示が感じた。

私はこの一連の動き見て、即座に中村ノブオの写真作品「ハーレムの瞳」を思い出した。そして、どんな形でもこの時期に日本の人に彼の作品を見せなければならないと考えた。

ⓒ Nobuo Nakamura

同作は80年代にニューヨークのハーレムで暮らす人たちの日常を、社会の内側からディアドルフ8X10”大型カメラでドキュメントしたもの。アフリカ系米国人たちへの高いリスペクトが感じられる作品としていま現地でも再注目されている。作品が永久保存されているブルックリン国立博物館が最近発行した、ブラックコミュニティーと権利を主張する為に「みなで選挙に行きましょう!」と呼び掛けるニュースレターにも、中村の作品が紹介されている。

ⓒ Nobuo Nakamura

中村ノブオは、1946年福島県三春町出身。東京写真専門学校卒業後、1970年に何もコネクションを持たずにプロの写真家を目指して無謀にもニューヨークへ渡る。写真で独立するという自らの強い信念が幾多もの幸運を呼び寄せ、広告写真家のアシスタントに採用される。その後、写真撮影の経験を積み1981年にはフリーカメラマンとして憧れの地で独立する。
30歳代の中村が写真家の可能性を試すために行なったのが、当時は治安が極端に悪かったアフリカ系米国人が多く住むハーレムでの写真撮影だった。若きチャレンジ精神豊かな中村は、大胆にも誰も行なっていない8X10”の大型ビューカメラでの撮影に挑戦する。ハーレムでの撮影といえばブルース・デビッドソン(1933 – )の「East 100th Street」(1970年刊)が有名だが、彼はリンホフ・テヒニカの4X5”カメラを使用している。中村によると、ハーレムのストリートで三脚を立て、暗幕の中でピントを合わせるときは、緊張で心臓の鼓動が聞こえ、冷や汗が流れたそうだ。どこからともなくブルースが流れるハーレムの町中での撮影中、中村の頭の中では日本ブルース、演歌のメロディーが流れていたそうだ。色々な幸運に恵まれて週末のハーレムでの撮影が数年間続く。治安が悪いことを恐れて隠し撮りしなかったこと、奥さん、子供を同伴させたこと、撮影した被写体の人には後日写真をプリントしてプレゼントしたこと、などが住民の暖かい撮影のサポートが得られた理由だったかもしれない、と中村は語っている。

ⓒ Nobuo Nakamura

様々な努力の結果、彼はハーレムの住民のコミュニティーの中に見入り込むのに見事に成功している。彼の作品のモデル達は皆リラックスしている。その表情には緊張感を全く感じられないどころか、笑顔が見られる作品も多い。中村のカメラはハーレムの人々の隠された穏やかな人間性までも引き出しているのだ。当時の事情を知らない若い人は、作品を見て「笑顔が絶えないハート・ウォーミングな街ハーレム」のような印象を持つのではないだろうか。中村の作品は、当時の「危険で怖いアフリカ系米国人が住む街ハーレム」は、アップタウンに住む白人や旅行者の抱いていたイメージだった事実を明らかにしてくれる。
またハーレムに住む人々のドキュメントは、まるで綿密に何気なさが計算された高度なファッション写真のようにも見えてくる。いや1980年代のニューヨークの雰囲気、気分、スタイルをとらえた一流のアート系ファッション写真としても通用するだろう。

ⓒ Nobuo Nakamura

1980~1984年に撮影された一連の作品はニューヨークの写真界で高く評価され、ブルックリン国立博物館、ニューヨーク市立図書館ショーンバークセンター、ニューヨーク市立博物館などでコレクションされている。また中村が1984年に帰国後、1985年に写真集『ハーレムの瞳』(築摩書房刊)としてまとめられている。80年代中ごろに帰国し東京に事務所を開き、その後は広告分野で活躍。2000年に新宿コニカ・プラザで個展「MIHARU」を開催している。
ブリッツでは、アート・フォトサイト・ギャラリーで2004年に「New York City Blues」、2006年に「How’s your Life?」を開催。「Pictures of Hope」展では、中村ノブオ「ハーレムの瞳」を特別展示。代表作と貴重なヴィンテージ・プリントを特集して展示している。80年代にいち早くアフリカ系米国人の未来への「Hope(希望)」を意識して作品制作を行っていた中村の業績にぜひ再注目したい。

「Pictures of Hope」-ギャラリー・コレクション展 –
2020年9月18日(金)~ 12月20日(日)
予約制で開催/1:00PM~6:00PM/休廊 月・火曜日/入場無料
ブリッツ・ギャラリー

・来場予約は公式サイト予約フォームからどうぞ