さて私が提案している定型のファインアート写真のZen Space Photographyは実践自体を通して、思い込みにとらわれない生き方を提供してくれかもしれないのだ。まず頭に浮かんでくる思考/邪念を消しさり、無心状態で自然や世界と対峙して、心が動いて「はっ、ドキッ」とする瞬間を見つけようとする。この一連の行為は自分を発見する入り口になる可能性があるかもしれない。 まず最初のステップは、自分は何が得意で苦手で、どんな個性や興味を持つ人間かを知ることになる。表現や創作は自分がどのような意思を持った人間かを発見する行為。その中で写真が最も手軽に実践できる技術なのだ。言い方を変えると、ここで提案しているのは、定型ファインアート写真の制作を通して、思い込みにとらわれずに、自分発見に取り組み、その先に自分探しを行うことなのだ。
Sotheby’s NY, “On the Road: Photographs by Robert Frank from the Collection of Arthur S. Penn”
2023年のファインアート写真のオークションがいよいよスタートした。 2月22日、サザビーズ・ニューヨークで20世紀写真を代表するスイス人写真家ロバート・フランク(1924-2019)の主要作品109点のセールが行われた。「オン・ザ・ロード(On the Road: Photographs by Robert Frank from the Collection of Arthur S. Penn)」と命名された同セールは、世界で最も大規模なロバート・フランク作品の個人コレクションのアーサー・ペン(Arthur S. Penn)コレクションからの出品。
Sotheby’s NY, “On the Road: Photographs by Robert Frank from the Collection of Arthur S. Penn”
20世紀を代表する写真作品として知られる“Hoboken N. J.’ (Parade),1955”や、「The
Americans」などの主要写真集に収録されている作品、コニーアイランド、ロンドンのビジネスマン、ウェールズの鉱夫のシリーズ、1950年代後半の映画的な「From the Bus」シリーズからの印象的な写真、そして家族の肖像写真まで、ロバート・フランクの輝かしい写真家キャリアを網羅する出品内容になっている。
Sotheby’s NY, “On the Road: Photographs by Robert Frank from the Collection of Arthur S. Penn”
しかし今回のオークション、ロバート・フランクの質の高い作品が多い単独セールだったが、かなり厳しい落札結果だった。 109点のうち落札は53点で、落札率は50%割れの約48.6%。総売り上げは991,235ドル(約1.28億円)だった。最高額の落札が期待された注目作の“Hoboken N. J.’ (Parade), 1955”。1978年までにプリントされた20.6X31.1cmサイズ作品で、落札予想価格12万~15万ドルの評価だったが不落札だった。 1万ドル以下の低価格帯の落札率は60%台だったものの、1万~5万ドルの中間価格帯、5万ドル以上の高額価格帯の落札率が約50%程度と不調が目立った。
Sotheby’s NY, “On the Road: Photographs by Robert Frank from the Collection of Arthur S. Penn”
最高額落札は2作品が同額の63,500ドル(約825万円)で並んだ。 “From the Bus NYC’ (Woman and Man on the Sidewalk), 1958”は、落札予想価格6万~9万ドル、もう一点の“Chicago (Car), 1956”は、落札予想価格4万~6万ドル。2点とも50年代から60年代にプリントされたヴィンテージ・プリントの可能性の高い作品だった。今回のサザビーズの企画は、市場の閑散期の活性化を狙った珠玉のロバート・フランク・コレクションの単独オークションだった。しかし開催時期がちょうど経済状況の先行きの不透明が強まったに時期と重なり、不運だったといえるだろう。
日本人の文化的な背景を考慮したときに考えついたのが、定型のファインアート写真の可能性。最初から作品テーマやアイデアなどを用意しておき、写真を撮る人はそれを意識したうえで、そのルールに従って創作を行うというアイデアだ。 前回はその中の一つの可能性として「Zen Space Photography」という、一種の風景や都市ストリートを撮影するなかで、心で「はっ、ドキッ」とする瞬間を写真でとらえる考え方を提案し、概要を解説した。定型詩の短歌や俳句で、普段は見過ごしがちな季節の移ろいや自然の美しさを発見して表現するのと同じアプローチだと考えてほしい。
写真を撮る行為自体が、「今という瞬間に生きる」禅の奥義と重なるので、この「Zen・禅」というキーワードと定型写真とは親和性があると考えたのだ。今回は「Zen
Space Photography」の心構えを以下にまとめてみた。
・意識のコントロール 浮かんでくる様々な思考/雑念と関わらにようにし、判断を避けて注意を払わないでそのままにしておき、次第に頭から消し去る。それは今この瞬間に生きるという、瞑想やマインドフルネスの実践に近いともいえる。既存のどんなシーンにもとらわれない、エゴを捨てる、よい写真、他人の評価、作品の販売の可能性などを気にしない。これが実践できるようになれば、本当に自分らしい人生を送れるようになる。そのような生き方を目指すために写真撮影による「Zen Space Photography」に取り組むのだと解釈してもよいだろう。 この行為の実践自体が、第1回で解説したように、定型ファインアート写真「Zen Space Photography」の作品コンセプトになる。
“A Visual Inventory” by John Pawason、
対で提示された写真にはそれぞれ撮影時のインプレッションが書かれている
・注意点 しかし、さあこれから「Zen Space Photography」を撮ろうとするのは、どうしても気負ってしまうだろう。最初は、自分の意識が消えて良い作品ができたと、この行為自体を”意識”する場合が多いのではないだろうか。 禅には野狐禅(やこぜん)という言葉がある。本当の悟りに達していないのに、自分だけは悟ったと思い込んで自己満足に陥いる状態。これは自意識がまだ消えていないのに、無我の境地で作品ができたと勘違いする状況だ。自分や他人の能力を的確に把握できないことで起こる、認知バイアスとして知られる、ダニング=クルーガー効果に近い状況だとも考えられるだろう。普段はあまり強く意識することなく、よい作品を制作するんだと、エゴむき出しにならないように、気軽に取り組めばよい。
2.作品の編集/エディティング 過去の撮影したアーカイヴスの中からの、無心で撮影された写真を探し、セレクションを行う。無意識のうちに偶然出会ったシーンを切り取った写真は、後から見直すと「Zen Space Photography」かもしれない。
3.他人の写真を見立てる/鑑賞する 自分以外の写真家や他の一般人が撮影した写真の中にも「Zen Space Photography」は存在する。それらを「見立てる」、また鑑賞して楽しむ可能性もあるだろう。 ソール・ライター、ウィリアム・エグルストン、ルイジ・ギッリ、リチャード・ミズラック、テリ・ワイフェンバックなど。またスティーブン・ショアーやマイケル・ケンナの初期作などの写真の中にも発見できる。
4.どのように始めるか 上記の”注意点”で触れたように、最初はどうしても写真撮影時に様々な邪念が浮かんでくるだろう。この心掛け自体が、新たな思い込みになるかもしれない。また禅問答のようになってきたが、「Zen Space
Photography」の追求は、もしかしたら禅の修行やマインドフルネスの実践に近いかもしれない。ぜひ一生追求するライフワーク的な行為だと認識してほしい。
ここでの提案に興味ある人は、まず過去に撮影した写真アーカイブの、上記の「Zen Space Photography」の視点で見直しから始めてはどうだろう。もしかしたら全く違う時間、場所空間で撮った写真の中に精神性のつながりが発見できかもしれない。また好きな写真家やフォトブックがあれば、それらの要素を取り込んでオマージュ的な作品への取り組みも可能性があると考える。 杉本博司も写真技法を日本古来の和歌の伝統技法である「本歌取り」の技法を取り入れて、創作の幅を大きく広げている。2022年9月に姫路市立美術館で「杉本博司 本歌取り」展を開催したのは記憶に新しい。定型ファインアート写真でも好きな写真や撮影スタイルの「本歌取り」的な作品から開始してもよいだろう。
杉本博司 “本歌取り”
そして、次のステップについても述べておきたい。自分の中に明確な社会における問題点がテーマや問いとして生じてきたら、それを意識して世界や宇宙に対峙して撮影を行って欲しい。 テリ・ワイフェンバックも初期作品は「Zen Space Photography」的なアプローチで自分の周りの世界と接していた。その後に独自の宇宙や自然のヴィジョンを確立させ、今度はその視点で世界と接して創作表現を行っている。それは正当なファインアート写真の製作アプローチになるのだ。以上は、私が考えた日本的なファインアート写真のたたき台になる。久しぶりに小難しい考えを展開してきたが、いかがだっただろうか?興味ある人はいろいろな意見や感想をぜひ聞かせてほしい。反応が多ければ、勉強会などの開催を検討したいと考えている。
写真はビジュアルなので、本当に様々な定型創作の可能性はあるだろう。その中の一つとして私の頭の中でまとまってきたのが「Zen Space Photography」という、風景や都市ストリートを撮影する写真の考え方だ。風景写真では、文脈の中で写真家のメッセージが提示されるケースはあまりない。強いてあげると、グローバル経済や、環境破壊、地球温暖化などの非常に大きな問題になってしまう。それ以外は、カメラやレンズの性能検査になる、コンテスト応募用のアマチュア写真となる。この分野は定型ファインアート写真と相性が良いのではないかと考えたのだ。また都市やストリートのスナップの中にも同様の写真が含まれるだろう。 まずキーワードの、ややわざとらしく感じる「禅/Zen」。写真を撮ること自体が、「今という瞬間に生きる」禅の奥義につながる。「いまに生きる」手段の実践として、瞑想や座禅のように、写真撮影自体には可能性があるのだ。 定型のテーマ作りでヒントになったのは以前に「Heliotropism」というテリ・ワイフェンバックとのグループ展を行ったアメリカ人写真家ケイト・マクドネルの以下のような認識だ。「いまの宇宙/世界/自然界のどこかで、誰も気付かない、見たことがないようなシーンが発生していて、存在するはず。世の中の美しさやきらめき、つかの間の閃光など。私たちの知らないうちに世界のどこかで発生して、誰も気づかないうちに消えてしまっている」
しかし実際のところ、そのような奇跡的なシーンは簡単に、また頻繁に私たちの目の前に出現しないだろう。さらに探求していたら、ミニマリズム建築家として知られるジョン・ポーソンの2012年の写真集「A Visual Inventory」に行き着いて、その著作からもヒントをもらった。彼は1996年にPhaidon社から出版された「Minimum」で、様々な歴史的・文化的文脈におけるアート、建築、デザインにおけるシンプリシティという概念を検証し、それが体現したビジュアルを1冊の本にまとめている。ミニマムの視点で見立てたモノ、建築。アート、自然や都市のシーンを提示しているのだ。「A Visual Inventory」では、 自らが長年に渡り、世界中で撮影したスナップ・ショットを見開きのペアの写真にまとめて発表している。彼は、建築家やデザイナーとしての仕事に役立つようなパターン、ディテール、テクスチャー、空間の配置、偶然の瞬間を常に探し求めている。被写体は、モノの表面テクスチャーのクローズアップ、建築物の外観やインテリアのディテール、自然や都市の風景などまで。主観を排して、実際の事物に即して撮影しているのが特徴。トリミングなしの写真は、私たちが実際に見ている何気ないシーンに近いと感じられる。彼は「その瞬間には二度と起こらないようなことを、いつも見ているのだということを強く意識しています」と語っている。この本に含まれているのは、一部にデザイン的な視点の強いものあるが、ほとんどが「Zen Space Photography」の範疇に含まれると直感した。ポーソンの写真は、マクドネルが語る、「誰も気付かない、見たことがないようなシーン」は、何か特別なものではなく、普段は見過ごしてしまうような世界に現れるシーンの中にも存在する事実を教えてくれる。
「A Visual Inventory」John Pawson, Page 20-21
先日、世田谷美術館で開催されていた「藤原新也 祈り」展を鑑賞してきた。藤原は写真家というよりも、文章を書く作家、画家、書道家として多分野で創作しているアーティストだ。同展は半世紀にわたる彼が世界を見てきた批判的な視点を、写真、文章、書で本格的に回顧する展覧会だった。展示作品の一部には、文章が添えられていない、テーマが明確に提示されないスナップ、風景、ストリートなどの写真が含まれていた。それらは撮影場所などでカテゴライズされて展示されているのだが、まさにここで展開している「Zen Space Photography」に他ならないと直感した。それは、いろいろな人の作品の中に発見できるのだ。
「藤原新也 祈り」展 図録 世田谷美術館
人間は普段生活しているとき、常に頭で思考している。そして自らの作り上げた思考のフレームワークを通して、世界の中にある自分の見たいものだけに反応している。思考の過程で様々な解釈が行われるのだが、それは過去の経験との比較になる。自分の過去の経験の範囲内で比較対象がないシーンは見えていないのだ。「Zen Space Photography」の、心で「はっ、ドキッ」とする瞬間を撮影する行為は、思考にとらわれていない、今という瞬間に生きているときのビジュアルを記憶する行為になる。 通常のファインアート作品は、新しい視点の提示を通して見る側に自らの思い込みに気づくきっかけを提供する。ここで提案しているのは、思い込みにとらわれていない精神状態で撮影した写真を、決まり事として提示すること。撮影者が無心の状態で自然や世界と対峙して、心が動いた瞬間をとらえたビジュアルは、本人がエゴを捨て評価を求めないがゆえに、すべて「Zen Space Photography」になるなのだ。そのような無の状態での撮影の実践自体が、自らを客観視している行為だと理解して取り組めばよい。 本作では、それらが社会生活の中で様々な思い込みにとらわれている人たちに提示されるわけだ。デフォルトの撮影意図を理解したうえで接すれば、彼らにとっても、自分を違う視点から見直すきっかけになるかもしれない。これが定型ファインアート写真「Zen Space Photography」の作品コンセプトになる。この「禅/Zen」のタイトルゆえに、禅問答的になっているのをどうかご容赦いただきたい。 (以上が第1回。次回は 「Zen Space Photography」の心構えや実践のアイデアを詳しく解説する予定だ )
2022年アート写真市場では、2点の1000万ドル越えの落札作品が最大の話題になった。ちなみにいままでの写真のオークション最高額は、2011年11月にクリスティーズ・ニューヨークで落札されたアンドレアス・グルスキー「Rhein II」の433.8万ドルだった。2022年はいきなり以前の最高額の2倍以上の高額落札が2点もあったのだ。 年間最高額の1241万ドルを記録したマン・レイ作品「Le Violon d’Ingres, 1924」は、5月にクリスティーズ・ニューヨークで開催された“The Surrealist World of Rosalind Gersten Jacobs and Melvin Jacobs”セールに、年間2位の1184万ドルのエドワード・スタイケン作品「The Flatiron, 1904/1905」は、11月にクリスティーズ・ニューヨークで行われた故マイクロソフトの共同創業者ポール・アレン(1953-2018)の“Visionary: The Paul G. Allen Collection Parts I and II”セールに出品された。いずれも写真に特化したカテゴリーのオークションではない。 ポール・アレン・コレクションのセールは、ゴッホ、セザンヌ、スーラ、ゴーギャン、クリムトなどの20世紀美術界巨匠のモダンアート絵画とともにスタイケンの写真作品が出品されている。落札額の1184万ドルは、同オークションでスタイケンと同時期に活躍した画家ジョージ・オキーフ(GEORGIA O’KEEFFE /1887-1986)の油彩画「Red Hills with Pedernal, White Clouds」の1229.8万ドルとほぼ同じ額になる。これは20世紀写真の貴重なヴィンテージプリントは、1点もの絵画と同じ価値があるという意味でもある。 アート作品のカテゴリー分けは固定的に決まっているわけではなく、いつの時代でも流動的に変化している。2022年は、写真とその他の分野のアート作品とのカテゴリー分けがより一層困難になった。かつては独立した分野として存在していた写真が、完全に大きなアート作品分野の中の一つの表現方法になったと理解してよいだろう。アート史で、写真家と画家が同じアーティストとして取り扱われるようになったともいえる。
1.マン・レイ「Le Violon d’Ingres, 1924」 クリスティーズ・ニューヨーク、“The Surrealist World of Rosalind Gersten Jacobs and Melvin Jacobs”、2022年5月14日 $12,412,500.(約16.43億円)
Man Ray「Le Violon d’Ingres, 1924」Christie’s NY
2.エドワード・スタイケン 「The Flatiron, 1904/1905」 クリスティーズ・ニューヨーク、“Visionary: The Paul G. Allen Collection Parts I and II”、2022年11月9日 $11,840,000.(約15.67億円)
Edward Steichen
「The Flatiron, 1904/1905」Christie’s NY
3.マン・レイ 「Noire et Blanche, 1926」 クリスティーズ・ニューヨーク、“20th Century Evening, 21st Century Evening, and Post-War & Contemporary Art”、2022年11月17-18日 $4.020,000.(約5.32億円)
Man Ray 「Noire et Blanche, 1926」Christie’s NY
4.ヘルムート・ニュートン 「Big Nude III (Variation), Paris」 クリスティーズ・ニューヨーク、“21st Century Evening and Post-War and Contemporary Art Day Sales”、2022年5月10-13日 $2,340,000.(約3.09億円)
Helmut Newton「Big Nude III (Variation), Paris」 Christie’s NY
5.バーバラ・クルーガー 「Untitled (My face is your fortune), 1982」 サザビーズ・ニューヨーク、“Contemporary Evening and Day Auctions”、2022年11月16-17日 $1,562,500.(約2.06億円)
Barbara Kruger「Untitled (My face is your fortune), 1982」 Sotheby’s NY
6.リチャード・プリンス 「Untitled(Cowboy), 1998」 サザビーズ・ロンドン、“Modern and Contemporary evening”、20221年6月29日 GBP942,500.(約1.56億円)
Richard Prince「Untitled(Cowboy), 1998」Sotheby’s London
7.リチャード・アヴェドン 「The Beatles Portfolio: John Lennon, Ringo Starr, George Harrison and Paul McCartney, London, 1967/1990」 フィリップス・ロンドン、“Photographs”、2022年11月22日 GBP809,000.(約1.34億円)
Richard Avedon「The Beatles Portfolio: John Lennon, Ringo Starr, George Harrison and Paul McCartney, London, 1967/1990」Phillips London
8.シンディー・シャーマン 「Untitled, 1981」 クリスティーズ・ニューヨーク、“21st Century Evening and Post-War and Contemporary Art Day Sales”、2022年5月10-13日 $882,000.(約1.16億円)
Cindy Sherman「Untitled, 1981」Christie’s NY
9.リチャード・プリンス 「Untitled (Cowboys), 1992」 サザビーズ・ニューヨーク、“Contemporary Art Day Auction”、2022年5月20日 $724,000.(約9594万円)
Richard Prince「Untitled (Cowboys), 1992」Sotheby’s NY
10.ゲルハルド・リヒター 「Ema (Akt auf einer Treppe) (Ema <Nude on a Staircase>), 1992」 サザビーズ・ロンドン、“Contemporary Evening and Day Auctions”、2022年10月14-15日 GBP567,000.(約9407万円)
Gerhard Richter「Ema (Akt auf einer Treppe) (Ema <Nude on a Staircase>), 1992」Sotheby’s London
クリスティーズ・ニューヨークは、11月9日に故マイクロソフトの共同創業者ポール・アレン(1953-2018)の「Visionary: The Paul G. Allen Collection」オークションを2回のパートで開催した。 アレン氏は1975年、高校時代からの友人ビル・ゲイツ氏とマイクロソフトを設立。その後、IT業界の先駆者として活躍したが、2018年にがんによる合併症で65歳で亡くなった。今回のオークションでは、ゴッホ、セザンヌ、スーラ、ゴーギャン、クリムトなどの傑作5点の絵画が1億ドル以上で落札され大きな話題となった。最高額はジョルジュ・スーラの「Les Poseuses, Ensemble (Petite version)」で、1億4920万ドルで高額落札された。第1部、第2部と合わせると合計売上高は16億2224万9500ドル(約2271億円)に達し、これは単一のオークションでの最高の合計売上だと発表されている。
Christie’s NY, IRVING PENN, “12 Hands of Miles Davis and His Trumpet, New York, July 1, 1986”
・アーヴィング・ペン(IRVING PENN, 1917-2009) “12 Hands of Miles Davis and His Trumpet, New York, July 1, 1986” セレニウムトーン・シルバー・プリント 落札予想価格 30,000~50,000ドル 落札価格 195,300ドル
Christie’s NY, MAN RAY,” Swedish Landscape, 1925″
・マン・レイ(MAN RAY, 1890-1976) “Swedish Landscape, 1925” 1点ものシルバー・プリント 落札予想価格 300,000~500,000ドル 落札価格 189,000ドル (購入履歴) “Photographs from the Collection of 7-Eleven, Inc., Sotheby’s, New York” 2000年4月5日、lot 26. 落札価格 258,750ドル(落札予想価格 120,000~180,000ドル)
ワイフェンバックは、2002年にイタリア北部の南チロル地方の自治体のラーナ(Lana)で集中的に撮影を行い、美しい写真集「Lana」Nazraeli Press)を制作している。今回は場所をさいたま市に移して、全く同様のスタイルと、被写体へのアプローチで同地を撮影している。作品からは「Lana」に近い、光と乾いた空気感が感じられる。タイトルの撮影地情報がなければ、見る側はイタリアやフランスのネイチャー・シーンだと勘違いするのではないか。同じ日本での作品でも、夏場の伊豆三島周辺で撮影された「The May Sun」では、対照的に湿った空気感が表現されている。
本展の象徴的な写真に、女性が手に桜の花を持ったイメージがある。先日、なんと手のご本人が来廊してくれた。作品の前で彼女の手を記念撮影してワイフェンバック本人に送ったところ、「このモデルのOさんはとても良いスピリチュアルな感覚を持っている。彼女と、その手と再会できて嬉しいです!」とのメッセージが返ってきた。人によっては、このような写真はアマチュアが好む、ややわざとらしい演出した作品だと感じる人もいるかもしれない。しかし、彼女はモデルのOさんに演技をさせたわけではない。彼女が、空間を舞う桜の花に手を差し伸べて、花弁が手のひらに落ちたシーンに、ワイフェンバックは一種の自然と人間との精神的な交わりを感じてシャッターを押したのではないだろうか。 彼女は以前に伊豆の三島に滞在して名作「The May Sun」を制作した時に、自然に神を感じる、古の日本の伝統的な美意識の「優美」を意識するようになった。たぶん日本人の血に流れる、自然に精神的なものを感じる感覚を、桜の舞う瞬間に直感したのではないだろうか。
「Saitama Notes」は、前作「Cloud Physics」で明らかになった、気候変動問題や自然環境保護という大きなテーマを踏襲している。彼女は前作で「私が言葉ではなく、写真で表現したいのは、気候変動によって失われるものは美しさだということです」というメッセージを寄せている。いま世界規模で様々な気候変動問題や地球温暖化による環境破壊が起きている。彼女はその残酷かつ悲惨な最前線を撮影するのではなく、あえて美しい理想化された自然を意識的に切り取って作品化している。私たちは彼女のヴィジュアルを見るに、こんな美しい地球の風景や、精一杯生きている鳥や植物たちを大切にしないといけないと、心で直感的に理解できるのだ。 本作は、個別作品としては「The May Sun」の続編にあたり、撮影アプローチは、イタリアで撮影した「Lana」やオランダを撮影した「Hidden Sites」の流れを汲んでいるといえるだろう。
ぜひワイフェンバックが見つけ出した、さいたま市の知られざる自然美をぜひご高覧ください!
「Saitama Notes」テリ・ワイフェンバック 写真展 Part 1「Flowers & Trees」 2022年 10月14日(金)~ 12月25日(日)
Part 2「Cherry Blossoms」 2023年 1月14日(土)~ 4月2日(日)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 入場無料
〇ギャラリー店頭では、テリ・ワイフェンバックの最新刊”GIVERNY, A YEAR AT THE GARDEN”(ATELER EXB,2022年刊) “(直筆サイン入り)を限定販売中です。
Bonhams NY, Rodney Graham, 「Typewriter with Flour, 2003」
10月11日にボナムスが「Photographs」オークションを開催。88作品が出品されて落札率は約43%、総落札額は34.1万ドルにとどまった。低価格帯作品の出品が約62%だった。最高額落札は、カナダ出身でコンセプチュアルな写真作品で知られる現代アーティスト、ロドニー・グラハム(Rodney Graham)の、「Typewriter with Flour, 2003」。落札予想価格1.2~1.5万ドルのところ、46,955ドル(約680万円)で落札されている。残念ながら13点出品されたポール・ストランド作品は9点が不落札。特に注目された、1点もののヴィンテージのプラチナ・プリント「Central Park, New York,1915」は、落札予想価格5~7万ドルだったが不落札。
Swann Auction Galleries, Dorothea Lange, 「Migrant Mother, Nipomo, California (Destitute pea pickers in California. Mother of seven children. Age 32), 1936」
スワン・オークション・ギャラリースは、10月20日に「Fine Photographs」を開催。314点が出品されて落札率は約66.8%、総落札額は約115万ドルだった。 低価格帯作品の出品は約63%だった。 今回の目玉は中堅業者のオークションでは珍しいドロシア・ラングの有名作品「Migrant Mother, Nipomo, California (Destitute pea pickers in California. Mother of seven children. Age 32), 1936」の、極めて貴重なヴィンテージプリントの出品。落札予想価格10~15万ドルのところ、なんと30.5万ドル(約4425万円)で落札されている。これはニューヨーク市公立図書館ピクチャー・コレクションのキュレーターで、20世紀写真の歴史的かつ貴重なコレクションを作り上げたロマーナ・ジャヴィッツ(Romana Javitz)が所有していた由緒正しき作品。