スティーブ・シャピロの写真作品を
日本初公開
同時代に活躍した鋤田正義との二人展開催

ブリッツ・ギャラリーは、10月18日から、鋤田正義(1938 -)と米国人写真家スティーブ・シャピロ(1934 – 2022)による二人展「SUKITA X SCHAPIRO PHOTOGRAPHS」を開催する。シャピロ作品の展示は日本初となる。

今回の二人の写真家の作品には個人的に強い思い入れがある。実は私のデヴィッド・ボウイのライブ初体験は、1978年12月の武道館公演だった。78年のアメリカン・ツアーの2枚組ライブアルバム「STAGE(ステージ)」を踏襲したもので、CDではオフイシャルではないが2枚組の「Stage At Budokan Live In Japan」の内容となる。時期的には、ちょうど1977年にベルリン時代の名盤、「Low(ロウ)」と「Heroes (ヒーローズ)」が発売された直後だった。ライブのオープニング曲は「Low(ロウ)」に収録されている「Warszawa」だったと記憶している。実は、この2枚のアルバム・カバーを撮影したのが今回紹介する二人の写真家で、前者がスティーブ・シャピロで、後者が鋤田正義だった。

1978年のボウイ日本公演のカタログ

鋤田とシャピロは、活動した拠点は異なるものの、ほぼ同時代に活躍した写真家だ。二人のキャリアはとても似通っており、ともに社会問題のスナップから写真家としての活動を開始している。シャピロは、アンリ・カルティエ=ブレッソンに憧れて写真家を志し、ウィリアム・ユージン・スミス(1918-1978)から写真技術や取り組み姿勢を学んでいる。ジョニー・デップ主演でユージン・スミスの後半生を映画化した「MINAMATA-ミナマタ-」が公開されたのは記憶に新しいところだろう。鋤田もユージン・スミスを、自分が影響を受けた写真家に挙げており、写真集「SUKITA ETERNITY」 プリント付き特別限定版の「Tate Modern, 2008」は、ユージン・スミスの代表作「楽園への歩み、ニューヨーク郊外、1946」のオマージュで、果てしない未来がある子供二人を、意識的に人生の残り時間が限られた老人二人に置き換えたと語っている。様々なストーリーが連想され浮かび上がってくる、とても味わい深い作品なのだ。

左がユージン・スミス作品、右側が鋤田正義作品

二人の写真家の活躍した範囲は、ともにドキュメンタリー、ポートレート、映画のスチールにわたる。シャピロが激動する60年代に全米を旅して撮影した作品は「AMERICAN EDGE」(Arena Edition, 2000年)にまとめられている。同書は絶版で、いまではプレミアム付きで売られているレアブックだ。鋤田も50年~60年代に、戦後混乱期の地元福岡のストリート・シーンや長崎の被爆者や原子力潜水艦入港反対の社会問題を撮影、それらは「SUKITA : ETERNITY」(玄光社, 2021年)の「EARLY WORK」の章で初めて公開された。

また二人は70年代にデヴィッド・ボウイと数々の重要なコラボレーションを行っている。1974年、シャピロはロサンゼルスでデヴィッド・ボウイと濃厚なフォトセッションを行い、その成果はアルバム「Station to Station」 (1976年)、「Low 」(1977年)に生かされている。鋤田は1977年にイギー・ポップとともに来日したボウイを撮影。その濃密なセッションの写真は「Heroes」 (1977年)のアルバム・カバー写真になっている。本展ではその時のアザー・カットも紹介される。  

また、映画関連の仕事では、シャピロはフランシス・フォード・コッポラ監督の「The Godfather」(1972年)や、マーティン・スコセッシ監督の「Taxi Driver」(1976年)の現場を撮影。映画ファンならだれでも見覚えがある上記作の代表的なスチール写真は実はシャピロによるものなのだ。本展でも、パート2で「The Godfather」のマーロン・ブランドの作品が展示される予定だ。

一方、鋤田は寺山修司と交流があり、長編映画「書を捨てよ町へ出よう」(1971年)の撮影監督を務めている。またジム・ジャームッシュ監督の映画「ミステリー・トレイン」(1989年)、是枝裕和監督の映画「ワンダフルライフ」(1999年)、「花よりもなほ」(2006年)のスチール撮影を行っている。

シャピロは2022年に87歳で亡くなっている。その後、残された家族により彼の遺志を継ぐSteve Schapiro Estate(スティーブ・シャピロ・エステート)が設立され活動を行っている。同エステートは、残されたシャピロの遺作を熱心な写真や映画/ロックファンが多い日本で紹介されることを強く希望。鋤田が、同世代でボウイの撮影をはじめ、自分と同様のキャリアを歩んだシャピロに共感し、自作との共同展示を発案してブリッツでの二人展開催が実現した。将来的には個展開催の可能性を模索するものの、まずは知名度の高い鋤田との二人展開催で日本での写真家シャピロの知名度浸透を図ることにしたわけだ。

 本展はボウイ・ファンや写真のコレクター/ファンにとって見どころ満載の内容だ。鋤田正義はデヴィッド・ボウイやデヴィッド・シルヴィアンとのセッションでの未発表作や代表作のアザー・カット作品、ポートレート写真で時間経過を可視化した2枚組作品、ライフワークとして取り組んでいるドキュメンタリー作品などを代表作とともに展示する。また2023年に亡くなった、鋤田と生前に親交があったミュージシャンの鮎川誠、高橋幸宏、坂本龍一を追悼するコーナーをパート1で設けて作品展示も行う。

 日本初公開となるスティーブ・シャピロ作品は、70年代の代表的なデヴィッド・ボウイ作品を中心に紹介する。しかし、ボウイの写真展にはしたくないというエステートの意向から、その他アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)、ニコ(Nico)、ルネ・マグリッド(René Magritte)、モハメド・アリ(Muhammad Ali)、バーブラ・ストライサンド(Barbra Streisand)、マーロン・ブランド(Marlon Brando)などのポートレート、写真集「AMERICAN EDGE」や「Seventy Thirty」に収録されている激動するアメリカの珠玉のドキュメント作品もパート2で展示する。コンパクトに彼のキャリアを垣間見ることができる作品セレクションとした。

 本展ではモノクロ・カラーによる様々なサイズの約60点の作品を2回に分けて展示する。年内開催のパート1では、主にボウイのカラー作品を中心に紹介。2024年開催のパート2では作品を入れ替えて、二人の原点となるドキュメンタリー系、ボウイや有名人ポートレートのモノクロ作品を中心に展示する。

 デヴィッド・ボウイや有名映画監督たちを魅了した、同時代に活躍した日米二人のアーティストの珠玉の写真表現をぜひ堪能してほしい。

SUKITA X SCHAPIRO:PHOTOGRAPHS
鋤田 正義 / スティーブ・シャピロ
Part 1 : 2023年10月18日(水)~12月24日(日)
Part 2 : 2024年1月13日(土)~3月24日(日)
1:00PM~6:00PM/ 水曜~日曜 月曜火曜は休廊  /入場無料

ブリッツ・ギャラリー
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