Bonhams NY, Rodney Graham, 「Typewriter with Flour, 2003」
10月11日にボナムスが「Photographs」オークションを開催。88作品が出品されて落札率は約43%、総落札額は34.1万ドルにとどまった。低価格帯作品の出品が約62%だった。最高額落札は、カナダ出身でコンセプチュアルな写真作品で知られる現代アーティスト、ロドニー・グラハム(Rodney Graham)の、「Typewriter with Flour, 2003」。落札予想価格1.2~1.5万ドルのところ、46,955ドル(約680万円)で落札されている。残念ながら13点出品されたポール・ストランド作品は9点が不落札。特に注目された、1点もののヴィンテージのプラチナ・プリント「Central Park, New York,1915」は、落札予想価格5~7万ドルだったが不落札。
Swann Auction Galleries, Dorothea Lange, 「Migrant Mother, Nipomo, California (Destitute pea pickers in California. Mother of seven children. Age 32), 1936」
スワン・オークション・ギャラリースは、10月20日に「Fine Photographs」を開催。314点が出品されて落札率は約66.8%、総落札額は約115万ドルだった。 低価格帯作品の出品は約63%だった。 今回の目玉は中堅業者のオークションでは珍しいドロシア・ラングの有名作品「Migrant Mother, Nipomo, California (Destitute pea pickers in California. Mother of seven children. Age 32), 1936」の、極めて貴重なヴィンテージプリントの出品。落札予想価格10~15万ドルのところ、なんと30.5万ドル(約4425万円)で落札されている。これはニューヨーク市公立図書館ピクチャー・コレクションのキュレーターで、20世紀写真の歴史的かつ貴重なコレクションを作り上げたロマーナ・ジャヴィッツ(Romana Javitz)が所有していた由緒正しき作品。
2位は、クリスティーズ“Photographs(Online)”の、アルフレッド・スティーグリッツによるプラチナプリント「From the Back
Window-‘291’,1915」落札予想価格30万~50万ドルのところ25.2万ドル(約3654万円)で落札された。
Christie’s NY, Alfred Stieglitz, “From the Back Window – ‘291’, 1915”
同額で2位は、サザビーズ“Classic Photographs(Online)”の、アンセル・アダムスの代表作「The Tetons and The Snake
River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942/1973-1977」。落札予想価格15万~25万ドルのところ25.2万ドル(約3654万円)で落札されている。
Sotheby’s NY, Ansel Adams “The Tetons and The Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942/1973-1977”
4位はサザビーズ“Contemporary Photographs(Online)”のウォルフガング・ティルマンズの抽象作品「Freischwimmer 117,2007」。228×170.2cmの大判サイズ、エディション1、AP1の作品。落札予想価格15万~25万ドルのところ20.16万ドル(約2923万円)で落札されている。ニューヨーク近代美術館で行われている“Wolfgang Tillmans To look without fear”展の影響もあるだろう。
Sotheby’s NY, Wolfgang Tillmans, “Freischwimmer 117, 2007”
春に行われる大手業者によるパリ/ロンドンの定例アート写真オークション。今年は5月に公開とオンラインによるセールが集中して行われた。複数委託者の他に、サザビーズが宇宙関連写真、クリスティーズが単独コレクションからのファッションに特化したものなど、独自の企画ものオークションを開催した。 サザビーズは、5月18日にロンドンで“Moon Shots: Space Photography 1950-1999”、23日に“Photographs”(オンライン)、クリスティーズは、5月24日にパリで“Photographies”と“Fashion Photographs from the Susanne von Meiss collection”(オンライン)、フィリップスは、“Photographs”オークションを5月29日にロンドンで開催した。
Phillips London, Peter Beard “Orphaned cheetah cubs @ Mweiga nr. Nyeri (KENYA) for The End of the Game / Last word from Paradise 1968”
今シーズンに注目されたのはフィリップス・ロンドンに出品された欧州のプライベートコレクターから出品された13点の「IN FOCUS: PETER BEARD」セクションのピータ―・ビアード(1938-2020)作品。不落札はわずか3点、落札率は77%だった。同オークションでは別コレクションからもビアードの代表作の“Orphaned cheetah cubs @ Mweiga nr. Nyeri (KENYA) for The End of the Game / Last word from Paradise 1968”が出品された。同作がビアード作品の落札最高額となった。サイズ 122 x 171.8 cmの1点もの作品で、落札予想価格2万~3万ポンドのところ、上限の約4倍の12.6万ポンド(約1990万円)で落札されている。2020年の死後もビアード人気は市場で全く衰えてないようだ。
今回の5つのオークションの最高額は、フィリップス・ロンドンに出品されたギュスターヴ・ル=グレイ(Gustave Le Gray)の“Souvenirs du Camp de Chalons au General Regnaud de Saint-Jean d’Angely (album of 66 albumen prints), 1857”。これは鶏卵氏プリント66点がマウントされた1点ものの写真アルバムとなる。風景が44点、ポートレートが22点が含まれる。落札予想価格10万~15万ポンドのところ、上限の約2倍の32.76万ポンド(約5176万円)で落札されている。
Phillps London, Gustave Le Gray, Souvenirs du Camp de Chalons au General Regnaud de Saint-Jean d’Angely (album of 66 albumen prints), 1857”
Christie’s Paris, Helmut Newton, “Eiffel Tower、Paris, 1974”
ギュスターヴ・ル=グレイとほぼ同じ金額で落札されたのがクリスティーズ・パリに出品されたヘルムート・ニュートンの大判作品“Eiffel Tower、Paris, 1974”。写真集「White Women」(Schirmer-Mosel、1992刊)の収録作品で、イメージサイズは109 x 159 cm、エディション 1/3、落札予想価格は30万~50万ユーロのところ、37.8万ユーロ(約5103万円)で落札された。ル=グレイとニュートンは、採用する為替レートの違いにより順位が変わるので、2作がほぼ同額1位と考えていいだろう。 ちなみにニュートン作品は、2017年4月5日にサザビーズ・ニューヨークで開催された“Photography”で落札予想価格は10万~20万ポンドのところ、34.85万ドルで落札された作品。2017年時点では、すでにニュートンの大判ファッション写真は市場で高騰していた。今回のユーロの落札額は、ドル換算すると約35.2万ドルとなる。手数料などの諸経費などを勘案すると所有期間5年間の収支は若干のマイナスになるだろう。投資の視点で写真作品をコレクションする場合も他の金融資産と同じで、未評価分野の作品の長期保有が基本になるのだ。
Phillips London, Edward Steichen, “Gloria Swanson, New York, 1924”
高額落札の第3位は、フィリップス・ロンドンに出品されたエドワード・スタイケンの“Gloria Swanson, New York, 1924”。サイズは24.1 x 19.1 cm、写真家の未亡人ジョアンナ・スタイケンのコレクションという由緒正しい来歴の作品。落札予想価格は24万~34万ポンドのところ、27.72万ポンド(約4379万円)で落札された。
Phillips London ULTIMATE 野口里佳”フジヤマ [Fujiyama] A Prime #1 1997″
さて今回注目したいのは、野口里佳の”フジヤマ [Fujiyama] A Prime #1 1997″の高額落札だ。同作は、作品集「鳥を見る」(2001年、P3 and enviroment刊)に収録された、101.6 x76.2 cmサイズ、エディション5の作品。落札予想価格5千~7千ポンドのところ、上限の約9倍の6.3万ポンド(約995万円)で落札された。今回の落札がきっかけとなり、野口作品が市場でどのように取り扱われていくか注視していきたい。
アートフォトサイトで既報のように、5月14日にクリスティーズ・ニューヨークで開催された「The Surrealist World of Rosalind Gersten Jacobs and Melvin Jacobs」オークションではマン・レイの歴史的名作”Le Violon d’Ingres, 1924″の、極めて貴重なヴィンテージ作品が、写真作品のオークション最高落札額となる12,412,500ドル(@128/約15億8880万円)で落札された。 本作は、サイズ19 x 14 3⁄4 inch (48.5 x 37.5 cm)の1点ものの銀塩写真、落札予想価格は500万ドル~700万ドルだった。 これまでの写真のオークション最高額は、2011年11月にクリスティーズ・ニューヨークで落札されたドイツ人現代アーティストのアンドレアス・グルスキーの”Rhein II”の4,338,599ドル。ちなみにいままでのマン・レイの最高額は、2017年11月9日にクリスティーズ・パリで開催された「Stripped Bare: Photographs from the Collection of Thomas Koerfer」に出品されたヴィンテージ作品“Noire et Blanche, 1926”で、2,688,750ユーロ(@135/約3.63億円)だった。今回の落札はもちろんマン・レイ作品のオークション最高落札額になる。
Christie’s NY, Helmut Newton “Big Nude III (Variation), Paris, 1980”
5月10日に同じくクリスティーズ・ニューヨークで開催された「21st Century Evening」オークションで、唯一出品された写真作品のヘルムート・ニュートン(1920-2004)“Big Nude III (Variation), Paris, 1980”が、落札予想価格は80万ドル~120万ドルのところ2,340,000(@128/約2億9952万円)で落札された。196.2 x 110.8 cmサイズの大判作品で、記録上1点しか存在しないプリントで、1990年に写真家から著名なギャラリストのルドルフ・キッケン(Rudolf Kicken)に寄贈された作品とのこと。今回はニュートン作品のオークション最高落札額になる。ちなみにいままでのニュートン最高額は、2019年4月4日にフィリップス・ニューヨーク「Photographs」オークションに出品された“Sie Kommen, Paris (Dressed and Naked), 1981”。美術館などでの展示用の197.5X198.8cmと196.9X183.5cmサイズの巨大組作品で、落札予想価格60~80万ドルのところ182万ドル(@110/約2億円)で落札されている。
Christie’s NY, Richard Avedon “Blue Cloud Wright, Slaughterhouse Worker, Omaha, Nebraska, August 10, 1979”
続いて5月13日に同じくクリスティーズ・ニューヨークで開催された「Post-War and Contemporary Art Day Sales」オークションで、リチャード・アヴェドン(1923-2004)の「In The American West」シリーズの“Blue Cloud Wright, Slaughterhouse Worker, Omaha, Nebraska, August 10, 1979”が、落札予想価格は25万ドル~35万ドルのところ378,000(@128/約4838万円)で落札されている。142.2 x 113 cmサイズの大判で、エディション6/6の作品。ちなみに2016年11月3日にフィリップス・ロンドンで161,000ポンド(@130/2093万円/@1.25/約201,250ドル)で落札された作品。手数料や保管管理を無視して複利で単純計算すると約6年間で11.08%程度で運用できたことになる。 同オークションでは、シンディー・シャーマン(1954-)のカラー作品“Untitled、1981”も、落札予想価格は40万ドル~60万ドルのところ882,000(@128/約1億1289万円)で落札されている。こちらは61 x 121.9 cmサイズで、エディション1/10の作品。
Christie’s NY, “Photographs from the Richard Gere Collection(Online), ”František Drtikol「Temná vlna (The Dark Wave), 1926」
2022年の大手3業者によるニューヨーク定例アート写真オークションは、昨年同様に各社の判断で、オンラインとライブにより4月に集中して開催された。複数委託者による”Photographs”オークションは、クリスティーズが4月5日(オンライン)、フィリップスは、4月6日(ライブ)、サザビーズは、4月13日(オンライン)に行われた。また前回紹介したように、クリスティーズは4月7日に俳優リチャード・ギア(1949-)の写真コレクションの単独セール”Photographs from the Richard Gere Collection”をオンラインで開催した。今回は4月に行われた4つのオークション結果の分析を行いたい。 ちなみに、平常時はオークション開催時期に同じくニューヨークで行われるファインアート写真の世界的フェアのipad主催のThe Photography show。2022年は、5月20日~22日にニューヨーク市のCenter415で開催される予定だ。
厳しい外部環境の中、高額落札が期待された作品が苦戦し、5万ドル以上の高額作品の不落札率は54.4%と高かった。フィリップス“Photographs”では、シンディー・シャーマンの「Untitled #580, 2016」、落札予想価格25万~35万ドルなど、高額落札が期待された彼女の3作品が不落札、アーヴィング・ペンの「Woman in Chicken Hat (Lisa Fonssagrives-Penn) (A), New York,1949」も、落札予想価格8万~12万ドルが不落札。 サザビーズ“Photographs(Online)”では、リチャード・アヴェドンの代表作「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955/1980」、57.4 x 45.7 cmサイズ、エディション50の作品が、落札予想価格18万~28万ドルのところ不落札。1979年プリントの同じ作品は、クリスティーズ“Photographs(Online)”で、落札予想価格15万~25万ドルのところ、なんと12.6万ドル(約1512万円)で落札されている。 サザビーズのオークションでは、高額落札が期待された、ダイアン・アーバスの本人サイン入りの代表作「Family on Lawn One Sunday in Westchester, N.Y」、イモージン・カニンガムのヴィンテージ・プリント「False Hellebore (Glacial Lily)」が不落札だった。 今春のオークションでは、入札には高値を追うような力強さが欠けており、特に高額価格帯のファッション、ドキュメンタリー系が弱い印象だった。
今シーズンの最高額は、クリスティーズ“Photographs from the Richard Gere Collection(Online)”に出品されたチェコ出身のモダニスト写真家フランチシェク・ドルチコル(František Drtikol)による希少性の高い女性ヌード作品 「Temná vlna (The Dark Wave), 1926」だった。落札予想価格10万~15万ドルのところ35.28万ドル(約4233万円)で落札されている。
Sotheby’s, “Photographs(Online)”, Thomas Eakins「Untitled (Male Nudes Boxing), c1883」
3位もクリスティーズ“Photographs from the Richard Gere Collection(Online)”の、アルフレッド・スティーグリッツ(Alfred Stieglitz)によるオキーフのポートレート「Georgia O’Keeffe, 1918」。落札予想価格30万~50万ドルのところ30.24万ドル(約3628万円)で落札されている。
昨秋にジャスティン・アベルサノ(Justin Aversano/1992-)の、“Twin Flames”シリーズのNFT(Non-Fungible Token)写真作品を出品して話題をさらったクリスティーズ。今春も、複数アーティストによるNFTの12セットとなる「Quantum Art: Season One, 2021-2022」を出品させている。落札予想価格15万~20万ドルのところ16.38万ドル(約1965万円)で落札、これは同社の今シーズンの最高額落札になった。
Christie’s NY, “Photographs”, Various Artists「Quantum Art: Season One, 2021-2022」
2022年春の大手業者によるファインアート写真の定例オークションは、3月下旬から4月中旬にかけてニューヨークで開催された。今シーズンで注目されたのが、米国の俳優リチャード・ギア(1949-)の写真コレクションの単独セール「Photographs from the Richard Gere Collection」だった。クリスティーズが、3月23日から4月7日にかけてオンラインで開催した。
Christie’s, Diane Arbus, “Audience with projection booth, N.Y.C., 1958” Sold at $75,600.
最高額は、チェコ出身のモダニスト写真家フランチシェク・ドルチコル(František Drtikol)による希少性の高い女性ヌード作品 「Temná vlna (The Dark Wave), 1926」だった。落札予想価格10万~15万ドルのところ35.28万ドル(約4233万円)で落札されている。
Christie’s, František Drtikol, “Temná vlna (The Dark Wave), 1926”
Christie’s, Alfred Stieglitz,”Georgia O’Keeffe, 1918″
3位は、エドワード・ウェストン(Edward
Weston)の「Nude on Sand, Oceano, 1936」。落札予想価格7万~10万ドルのところ10.71万ドル(約1285万円)で落札されている。
Christie’s, Herb Ritts, “Djimon with Octopus, Hollywood, 1989”
リチャード・ギアの友人だったハーブ・リッツ作品は12点出品され10点が落札されている。最高額は「Djimon with Octopus, Hollywood, 1989」、83.8 x 68.5 cmサイズでエディション12の作品。落札予想価格2.5万~3.5万ドルのところ4.788万ドル(約574万円)で落札されている。
今年最初の大手業者による写真オークションが2月17日にサザビーズ・ニューヨークで開催された。これは投資家デビッド・H・アリントン・コレクションからのアンセル・アダムス(1902-1984)作品約100点の単独オークションとなる。2020年12月に行われ、約640万ドルを売り上げて大成功を収めた同コレクションからアンセル・アダムス単独の“A Grand Vision: The David H. Arrington Collection of Ansel Adams Masterworks”セールのフォローアップ・オークションとなる。 近年、来歴の良いアンセル・アダムス作品に対する需要は極めて高い。特にサイズの大きな作品は現代アートの視点から再評価が進行して高騰している。いまや彼はアナログ時代に「ゾーンシステム」などの技法を駆使して、銀塩写真の表現の可能性拡大に挑戦してきた先駆的アーティストだと考えられているのだ。今回の結果でも貴重なアダムス作品の人気の高さが改めては確認された。 100点のうち不落札は僅か2点で、落札率は驚異の98%。落札額合計は約380万ドル(約4.37億円)だった。入札も活発で、落札予想価格上限を超える落札も数多く見られた。
Ansel Adams “Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941” / Sotheby’s New York
最高額は、20世紀写真を代表する名作“Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941”。極めて貴重な1940年代にプリントされた、イメージサイズ31.1 X 40.7 cmのヴィンテージ・プリント。落札予想価格50万~70万ドルのところ、50万4,000ドル(約5796万円)で落札された。 アンセル・アダムスの同作“Moonrise”は極めて暗室でのプリントが困難なことで知られている。 かつてアダムスは、“It is safe to say that no two prints are precisely the same.”「正確に同じプリントは2つとないといってもいい」と語っている。実は彼は、1948年12月にネガの再処理という苦渋の決断をしている。それ以降のプリントは数十年にわたり次第に濃くなり、1970年代後半には空が真夜中の黒の様に変化していった。従って、今回のようなオリジナルネガによる空部分があまり濃くない初期プリントは極めて貴重で高価になっているのだ。
実は同作“Moonrise”のオークション最高落札価格は、2021年10月6日にクリスティーズ複数委託者による“Photographs”に出品されたプリント。60年代後半にプリントされた103.8 x 150.4 cmサイズの超大判作品。このサイズは15~20作品位しか存在しないと言われている。落札予想価格50万~70万ドルの上限を超える93万ドルで落札されている。 この落札価格93万ドルと、今回の50.4万ドルとの違いは現代のマーケット状況が反映されている。市場を席巻する現代アート分野のコレクターが好む大判サイズという事実が、かつての20世紀写真でのヴィンテージプリントの貴重性を上回って評価されているのだ。
ちなみにアダムス作品のオークション作家最高額は、サザビーズ・ニューヨークで2020年12月に行われた第1回目のデビッド・H・アリントン・コレクション・セールに出品された、“The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942”。60年代にプリントされた、大判約98X131cmサイズの銀塩作品で98.8万ドルで落札されている。
Ansel Adams “Clearing Winter Storm, Yosemite National Park,c1937” / Sotheby’s New York
さて今回のオークションの高額落札の2位は、“Clearing Winter Storm, Yosemite National Park, c1937”だった。 やや低めの落札予想価格3万~5万ドルのところ、22.68万ドル(約2608万円)で落札されている。 3位は“The Teton Range & the Snake River,1942”で、 こちらも低めの落札予想価格5万~7万ドルのところ、20.16万ドル(約2318万円)で落札されている。
高額落札総合ランキングでは、ここ数年の市場の低迷から特に現代アート系の高額落札件数が大きく減少していた。つまり市況が良くないので、高額評価の作品の出品が控えられていたということ。2016年以来、300万ドル越えの高額落札はなかった。2020年の最高額の落札は、現代アート系のリチャード・プリンスを差し置いて、リチャード・アヴェドン「Dovima with Elephants, Evening Dress by Dior, Cirque d’Hiver, Paris, 1955」の約1.99億円だった。(クリスティーズ、“ONE, a global 20th-cantury art auction”、2020年7月10日) しかし2021年は、好調な現代アート市場の影響により状況が一変した。11月9日にクリスティーズ・ニューヨークで開催された“21st Century Evening Sale”で、久しぶりにシンディー・シャーマンとリチャード・プリンスの作品が300万ドル越えで落札された。特に年後半に現代アート系中心に100万ドル越えの落札が続出した。2020年1位のアヴェドン作品は、2021年では6位でしかない。
総合順位
1.シンディー・シャーマン「Untitled, 1981」 クリスティーズ・ニューヨーク、 “21st Century Evening Sale” 、 2021年11月9日 約3.46億円
4.シンディー・シャーマン「Untitled, 1981」 クリスティーズ・ニューヨーク、 “21st Century Evening Sale” 、 2021年11月9日 約2.27億円
5.ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット「Henry Fox Talbot’s Gifts to his Sister: Horatia Gaisford’s Collection of Photographs and Ephemera, 1820-1824, 1844, 1845-1846」 サザビーズ・ニューヨーク、“50 Masterworks to Celebrate 50 Years of Sotheby’s Photographs”、 2021年4月21日 約2.15億円
6.シンディー・シャーマン「Untitled, 1981」 クリスティーズ・ニューヨーク、 “21st Century Evening Sale” 、 2021年11月9日 約1.74億円
7.ゲルハルド・リヒター「Strip, 2012」 クリスティーズ・ロンドン、“20th/21st Century Evening Sale and Post-War and Contemporary Art ”、 2021年10月15日 約1.4億円
8.バーバラ・クルーガー「Untitled (Your Manias Become Science),
1981」 クリスティーズ・ニューヨーク、 “21st Century Evening Sale” 、 2021年11月9日
約1.28億円
9.ジャスティン・アベルサノ「Twin Flames #83. Bahareh & Farzaneh, accompanied by Twin Flames Full Physical Collection (100 prints), 2017-2018」 クリスティーズ・ニューヨーク、“Photographs”、 2021年10月6日 約1.21億円
10.リチャード・アヴェドン「The Beatles, London, August 11, 1967」 クリスティーズ・ロンドン、“20th/21st Century Evening Sale and Post-War and Contemporary Art ”、 2021年10月15日 約1.12億円
◎出品カテゴリー別ランキング
・19/20/21世紀アート写真(Photographs)
William Henly Fox Talbot, Sotheby`s NY, “50 Masterworks to Celebrate 50 Years of Sotheby’s Photographs”
1.ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット 2.15億円
2.ジャスティン・アベルサノ 1.21億円
3.アンセル・アダムス 1.02億円
4.ダイアン・アーバス 6875万円
5.ヘルムート・ニュートン 6703万円
最高額は、4月21日にササビーズ・ニューヨークで開催された、“50 Masterworks to Celebrate 50 Years of Sotheby’s Photographs”に出品されたウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットのサルトプリントの写真とアルバムのセット作品。落札予想価格30-50万ドルが、195万ドル(約2.15億円)で落札(上記掲載画像はその1点)。
・現代アート系
1.シンディー・シャーマン 3.46億円
2.リチャード・プリンス 3.33億円
Richard Prince”Untitled (Cowboy), 1997″, Christie’s NY , “21st Century Evening Sale”
Phillips London “Photographs”, Irving Penn, “Milkman (A), New York, 1951”
今シーズンで注目されたのは、フィリップス・ロンドンに“ULTIMATE IRVING PENN”と題されて出品されたアーヴィング・ペンのSmall Tradesシリーズの貴重なプラチナ・パラディウム・プリント10点だった。これは1950~51年に撮影され、ペンがプラチナ・パラディウム・プロセスを完成させた1967年に自らが制作に携わってプリントされた作品。ペンは、彼の特徴的なグレーの背景の前に、作業道具を持ち、仕事着でたたずむ様々な職種の人々をヴォーグ誌用に撮影。これらの作品は時代性が反映された一種のファッション写真として制作されたのだ。彼は、世紀の変わり目にパリの職人を撮影したアジェ、そして“American Photographs”のウォーカー・エバンスに触発されてこのプロジェクトに取り組んだという。当初は市場で過小評価されていたが、2009年にJ・ポール・ゲティ美術館で開催された“The Small Trades”展以降に再評価が進み相場は大きく上昇。同展に際して刊行されたフォトブックも完売、いまではレアブック扱いになり、古書市場で値上がりして取引されている。 今回の出品作の特徴は、シートサイズが約57.5 x 46 cmと大きめ、エディション数は少なめで、他作品は世界の主要美術館がコレクションしている貴重作品であること。オークションハウスによると、10年以上にわたって同じプライベート・コレクションに所蔵されており、オークション出品は今回が初めてとのこと。
今回の落札予想価格は、作品により5万~7万ポンド(約760~1064万円)だった。結果は全作が落札、10点のうち7点が落札予想価格の上限を超えた。最高額は、“Milkman (A), New York,1951”で、なんと落札予想価格上限の5万ポンドの約3倍の15.12万ポンド(約2298万円)で落札。“Barber, New York,1951”も、13.86万ポンド(約2106万円)で落札されている。
今回の3つのオークションの最高額は、これもフィリップス・ロンドンに出品されたヘルムート・ニュートンの大判作品“Charlotte Rampling at the Hotel Nord-Pinus, Arles, France 1973”だった。イメージサイズは 161.5 x 111.9 cm、AP 1/2、落札予想価格は25万~35万ポンドのところ、44.1万ポンド(約6703万円)で落札された。ちなみに同作は、2017年10月3日にクリスティーズ・ロンドンで開催された“Christie’s, London, Masterpieces of Design & Photography”で落札予想価格は20万~30万ポンドのところ、33.275万ポンドで落札された作品。手数料などの諸経費などを勘案すると所有期間4年間の収支はだいたいとんとんだろう。
Phillips London “Photographs”, Helmut Newton,
“Charlotte Rampling at the Hotel Nord-Pinus, Arles, France, 1973”
ニュートンに続いたのは、クリスティーズ・パリに出品された、2019年に亡くなったピーター・リンドバークの大判ファッション写真の“Mathilde on the Eiffel Tower (Hommage a Marc Riboud), Paris, 1989”だった。210 x 168 cmサイズのデジタル・プリント作品でエディション1/1という1点ものの貴重作。落札予想価格上限の8万ユーロの約2倍以上の20万ユーロ(約2600万円)で落札されている。
Christie’s Paris, “Photographies”, Peter Lindberg, “Mathilde on the Eiffel Tower (Hommage a Marc Riboud), Paris, 1989”
リンドバークに続いたのが、上記のフィリップスで落札されたアーヴィング・ペンの“Milkman (A), New York,1951”の15.12万ポンド、そして“Barber, New York,1951”の13.86万ポンドとなる。 高額落札が期待されたのは、ササビーズ・ロンドン(オンライン)に出品された、マン・レイの“Erotique Voilee, 1933”。落札予想価格18万~26万ポンド(約2736万~3952万円)だったが不落札だった。
2021年秋の大手業者によるニューヨーク定例アート写真オークション、 今回は9月下旬から10月上旬にかけて、複数委託者、単独コレクションからによる合計7件が開催された。 サザビーズは、9月29日に現代アート系作品中心のプライベート・オークションから“A Life Among Artists: Contemporary Photographs from an esteemed private collection”、10月5日に“Classic Photographs”と、“Contemporary Photographs”を開催。 クリスティーズは、10月6日に複数委託者による“Photographs”、メトロポリタン美術館コレクションからの単独セール“Photography of the Civil War: Property from The Metropolitan Museum of Art”を開催。 フィリップスは、10月7日にプライベート・コレクションからの“Reframing Beauty: A private Seattle collection”、複数委託者による“Photographs”を開催している。 昨年の春以来、オークションハウスはコロナウイルスの影響により、開催時期の変更、オンライン開催などの対応を行ってきた。今秋からほぼ通常通りの開催モードに戻った印象だ。
2位は、同じくクリスティーズに出品されたアンセル・アダムスの名作“Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941”。60年代後半にプリントされた103.8 x 150.4 cmサイズの超大判作品。このサイズは15~20作品位しか存在しないと言われている。落札予想価格50万~70万ドルが、予想上限を超える93万ドル(約1.02億円)で落札された。本作は1996年4月のササビーズ・ニューヨークで取引された作品。当時の落札予想価格は3万~5万ドルだった。
Christie’s NY, Ansel Adams, “Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941”
3位もクリスティーズのダイアン・アーバスの代表作“Child with a toy hand grenade in Central Park, N.Y.C., 1962”。本作は極めて貴重なダイアン・アーバス本人によるプリントされた作品。落札予想価格50万~70万ドルが、予想予想価格の範囲内の62.5万ドル(約6875万円)で落札。
Christie’s NY, Diane Arbus “Child with a toy hand grenade in Central Park, N.Y.C., 1962”