秋のニューヨーク現代アート・オークションでは、11月7日/10日にクリスティーズで「21st Century Evening and Post-War & Contemporary Art Day Sales」、11月14/15日にフリップスで「20th Century & Contemporary Art Evening and Day Sales」、11月15/16日にサザビーズで「Contemporary Art Evening and Day Auctions」が開催。
サザビーズでは、ゲルハルド・リヒターとジョン・バルデッサリの写真作品2点が100万ドル越えで落札された。しかし全般的に動きは低調で、今年5月にクリスティーズ・ニューヨークの「A Century of Art: The Gerald Fineberg Collection Parts I and II」で記録した、リチャード・プリンスの「Untitled (Cowboy), 1999」の、156.25万ドルを超えることはできなかった。
気になったのが、サザビーズのデイ・オークションに、ダイアン・アーバス、ロバート・メイプルソープ、ウィリアム・エグルストン、ナン・ゴールディン、ティナ・モデッティなど、普段は「Photographs」オークション中心に出品される写真家の中間価格帯の作品が含まれていたことだ。業者の判断にもよるが、今後は、幅広い価格帯の20世紀写真が現代アート系や版画などの「Print & Edition」オークションに出品されるケースが増加していく予感がする。
以下が今シーズンの100万ドル越えの写真系作品の詳細となる。2点ともサザビーズ・ニューヨークでの取引となる。
ゲルハルド・リヒター「Strip, 2015」、落札予想価格200万~300万ドルのところ、下限を下回るの127万ドル(約1.84億円)で落札。4つのパートからなる200 X 1101cmサイズの横長のデジタル・プリント作品。
作品解説によると本作「Photo paintings」のぼかしの装置、「Farbens」の規則正しい色彩の配置、そして感覚に没入する「Abstrakte Bilder」など、リヒターのこれまでの最も重要なブレークスルー表現を統合している重要作品。リヒターはスペクトル内の色の順序や帯の太さをランダムにするプロセスに没頭しているとのこと。このシリーズは、テート(ロンドン)、ルイジアナ近代美術館(フンレベック)、アルベルティーナ美術館(ウィーン)、国立国際美術館(大阪)などの一流美術館に収蔵されている。
ジョン・バルデッサリ「Source, 1987」、落札予想価格70万~100万ドルのところ107.95万ドル(約1.56億円)で落札。153 x 121.9 cmサイズ、銀塩写真にペイントされた作品、ブランド・ギャラリーのSonnabend Gallery取り扱ったという来歴だ。
その他作品では、リチャード・プリンスの「Untitled (Fashion) 1982-84」が、76.2万ドル(サザビース)、シンディー・シャーマンの「Untitled, 1978」が、69.3万ドル(クリスティーズ)、バーバラ・クルーガーの「Untitled (Our prices are insane!), 1987」が、57.15万ドル(フィリップス)が落札されている。
2022年アート写真市場では、マン・レイ作品「Le Violon d’Ingres, 1924」とエドワード・スタイケン作品「The Flatiron, 1904/1905」の2点が1000万ドル越えで落札されて大きな話題になった。それに比べると2023年の結果は見劣りするといえるだろう。
2023年を通しての外部の経済環境を見てみると、米国の労働市場は相変わらず底堅く、また財政不安も背景にあり、長期金利の上昇が続いていた。また執拗なインフレ高進による当局の金融引き締めの長期化が世界経済のリスクであるとの見通しから投資家のリスク資産回避の動きがみられた。このような見通しの中、2023年は高額評価の作品のオークション出品が手控えられ、逆に低額作品の出品が増加したのだと思われる。
なお2023年の詳しい市場分析は年初のブログで行う予定だ。
(為替レート 1ドル/145円で換算)