2011年春のNY写真オークション速報 根強い優良作品への需要!

 

さて、現在のアート写真を取り巻く環境はどのようになっているのだろうか。いまのところ米国の経済活動はリーマンショックから立ち直り改善傾向にあるようだ。 しかし、これは金融緩和策による資金の大量供給による効果だ。新たなバブルを起こして需要や雇用を喚起しているのではないか? 新興国の輸出依存、米国の消費拡大と海外の資本依存の構造は以前と変わっていない。金融市場は安定しているものの、問題は根本的に何も改善されていないように感じられる。もしかしたら新たなリスクをはらんでおり、いまの状況は嵐の前の静けさかもしれない。 実際に商品、海外不動産市場などには投機的な価格上昇が起きている。

次のリスクは中国発になるかもしれない。過剰流動性により不動産などの資産バブルが起き、物価も上昇しているのだ。リーマンショック後に行った金融緩和は経済の失速を救ったが再びバブルを発生させた。中国はこの半年で4回の利上げを行っている。明らかにバブル潰しに取りかかっている。 なぜか? それは中東で起きた市民革命の影響だ。貧富の格差拡大、高いインフレ率が革命の背景になっている。中国当局者にとって体制維持が最優先順位。これ以上一般市民の不満を高めることはできないのだ。

中国発バブルは世界のアート市場にも波及している。以前、中国の花瓶が歴史的な高額で落札されたことを紹介したが、いまや中国人コレクターが世界中の市場で圧倒的な存在感を示しているのだ。米国総合誌ザ・アトランティックのアソシエート・ライターのディレック・トンプソン氏は、オークション・ハウスのササビーズの株価上昇からアート・バブル崩壊のにおいを感じ取って記事を書いている。いま、ササビーズの株価がここ数年の高値圏で推移しているのだ。特に今年になってから急上昇している。過去20年間に3つのアートバブルがあった。 それらはササビーズの株価に反映されている。80年代後半の日本のバブル期、90年代後半のITバブル期、そして2006~2007年のリーマンショック前のグローバル経済期だ。いずれもバブルは崩壊して同社の株価も急落している。そして2011年の今が中国発バブル期というわけだ。金に糸目をつけない彼らの買い方はバブル期の日本人に似ていると感じる。しかし、上記の国際的な状況変化から中国主導のアートブームもさらに続くとは思えない。歴史が示すようにバブルは必ずはじける。かつての日本のようにそのただ中にいると分からないのだ。バブル崩壊がなくても、資金流通量が萎んでくるとアート熱は次第に沈静化していくだろう。

さて、春のニューヨーク・アート写真オークションだが、オークションハウスの出品作のエディティングが見事だったという印象だ。市場性の高い作品、貴重な作品を中心に絶妙に品揃いをしている。落札予想価格も市場実勢を的確に反映していた。クリスティーズは、いま売れにくいファッション系写真を単一コレクション形式の”The Feminine Ideal”としてうまくさばいている。この分野では珍しいヴィンテージ・プリントを含んだセールだったことも大きなアピールだった。通常オークションだと売れにくい作品も、知恵を絞ればコレクターを呼び込み、高く売ることが出来るのだ。
また開催時期のNYダウ株価は昨秋の11000ドル前後から約10%上昇。最近の高値近辺の12000ドル台だっことも市場にはフォローだった。結果的には、主要3社ともに落札総額、落札率が上昇している。特にフリップスは好調で、売り上げが45%以上伸び、落札率も94.5%と大幅にアップさせている。
一番高額落札は、クリスティーズに出品されたリチャード・アヴェドンの有名なマリリン・モンローのポートレート。これは、1980年にプリントされた102X76.6cmという巨大作品。予想落札価格上限を大きく上回る$482,500.(約4100万円)で落札されている。次は、ササビーズのカタログ表紙を飾るマン・レイのフォトモンタージュ作品。これも予想落札価格上限の2倍以上の$410,500.(約3489万円)だった。
春のオークションは順調だったものの、コレクターの興味が資産価値が高い優良作品からさらに広がるかは不透明だろう。上記のように先行きに様々な不安要因がある。市場の雰囲気は慎重ながらやや強気に傾きつつあるといった感じだろう。