あけましておめでとうございます。皆様にとって2013年が素晴らしい年になりますようにこころよりお祈り申しあげます。
ササビーズ・ジャパンの石坂泰章社長は直近の同社ニュースレターで2012年のアート市場を振り返り、「グローバルな分野でも、質と値ごろ感に対する選別はより厳しくなっていて、人気化する作品と、そうでない作品の差がはっきりしてきた年でもあった。」と分析している。これはまさにアート写真市場にも当てはまると思う。
それを象徴していたのが12月にニューヨークで開催された二つの写真オークションだ。
12月12日、13日にササビーズで行われた、「A Show Of Hands」。これはヘンリー・ブール(Henry Buhl)の写真作品コレクション437点の一括セール。2004年に、グッゲンハイム美術館をはじめ全米9館および、欧州、アジアを巡回した質の高いコレクションだ。人間の手がモチーフの写真作品を集めたもので、19世紀の写真黎明期から現代までの写真史も網羅している。
コレクターにはまさに最高の来歴を持った高品質の作品が入手できるオークションだったことから、なんと1231万ドル(@85、約10億4700万円)もの売り上げを記録した。ちなみに恒例の秋のオークションのササビーズの売り上げは448万ドルに過ぎない。落札率は約65%と普通だったものの、レアな作品は落札予想価格上限を2倍以上超える高額落札が続出。マン・レイ、エドワード・ウェストンなど予想価格の3倍以上がついたものがなんと8ロットもあった。
また久しぶりに100万ドル超えの作品が登場。ハーバート・べイヤーとラースロー・モホリ=ナジの2作品がともに148万ドル(@85、1億2600万円)をつけた。
一方で12月11日にスワン・ギャラリーで行われた「Fine Photographs & Photobooks」オークションは低調な結果だった。フォトブックを含むトータル417の入札だったが、 普通レベルの作品が中心だったことから落札率は約55%程度とかなり厳しい結果だった。予想落札価格の下限以下での落札も多かった。写真作品よりは流通量が多いフォトブックの不調が目立っていた。ロット数が多く、また低いリザーブ価格が散見されたことは、中間層の写真コレクターによる売却が増えてきたからと予想できる。
米国の「財政の崖」問題はとりあえず解決がみられた。コレクターのアートへのパッションは増税により影響を受ける。現代美術分野では主要顧客である富裕層への増税議論が注目されていたが、アート写真では中間層への影響の方が重要だ。新聞報道によると給与税の減税措置の失効で年間所得5万ドルの中間層世帯では1000ドルの負担増になるという。消費の収縮を連想させるアート写真市場には悪いニュースだ。株価の上昇がそれらのネガティブなセンチメントを打ち消すことを期待したい。
以前の市場見通しで、2013年春のオークションでは特に高額商品の落札予想価格が見直されるだろうと記した。最近の動きをみるに、もしかしたら1万ドル以下(約90万円)の低価格帯作品についても多少下方修正されるかもしれないと感じている。リーマン・ショック前の相場高騰が一種のバブルだったとすれば、昨年の低価格帯の落札予想価格もバブル以前の相場と比べてまだ多少の割高感があるのだ。
海外の良品を物色している日本人コレクターにとっては、春のオークションは買い場探しになるのではないかと考えている。年末年初の急激な円安には驚かさせたが、2004年ころは1ドル100円を超える為替相場だった。実はいまでもまだ十分に円高レベルなのだ。しかし為替の中期トレンドが変わったことは非常に重要だ。アート写真自体の相場が底に近いとするならば、ある程度のレベルで買うと決めて市場と接することが求められる。コレクションで良いものを底値で買うのは本当に難しいのだ。