アート写真の定例オークションは、4月のニューヨーク、5月のロンドン、6月にかけては欧州で開催される。今年はそれ以外に、開催企画の趣旨が似通った興味深いオークションが大手業者のフリップス・ニューヨークとクリスティーズ・パリで開催された。
フリップス・ニューヨークは、“Artist | Icon | Inspiration Women in Photography Presented with Peter Fetterman”を6月7日に開催。これは、フィリップスとギャラリストでコレクターのPeter Fettermanのコラボで実現した企画オークション。写真の歴史における女性の重要な役割に注目して、ドロシア・ラング、ダイアン・アーバス、グラシェラ・イトゥルビデ、キャリー・メイ・ウィームス、サリー・マンなどの女性写真家の作品と、ファッション・ポートレートなどの女優や女性モデルが被写体になったアイコニックな写真作品107点のオークションを実施している。
これは市場で人気が高く売りやすい女性が被写体のアート系のファッション/ポートレート写真と、写真史で活躍した女性写真家の作品を一緒にし、「女性」という非常に幅広いテーマでまとめた企画オークション。「男性」という切口でのオークションだと、女性差別だと言われかねないし、たぶん範囲があまりにも広くて企画として成立しえないだろう。やや皮肉的な見方をすれば、それぞれの分野では十分な作品数集まらなかったことによる苦肉の策という面もあるかもしれない。
アート写真業界的には、写真史での知名度と比べて市場では過小評価されている女性写真家や、男性写真家による知名度の低い女性のポートレートに光を当てようという、市場活性化の意味もあるだろう。
個人的には、女性写真家のサビーヌ・ ヴァイス(Sabine Weiss 1924-)、ヘレン・レヴィット(Helen Levitt 1913-2009)、男性写真家の、エメット・ゴーウィン(Emmet Gowin 1941-)や、ルネ・グローブリ(Rene Groebli 1927-)の女性ポートレートは、市場の見立てによってはもっと注目される可能性があると考えている。出品作品の内容は極めて充実している。今回の作品をベースにしてさらに肉付けをすれば、十分に多くの集客が期待できる展覧会が開催可能だろう。
結果は、落札率71.03%、ちなみに今年の私どもで把握している全オークションの落札率平均は67%。総売り上げは約98.5万ドル(約1.08億円)だった。ほとんどの作品が予想範囲内での落札だった。
最高落札作品は、写真史におけるアイコン的作品のドロシア・ラング(Dorothea Lange、1895-1965)の“Migrant Mother, Nipomo, California,1936”。同作にはラングによる、1953年と1955年の手紙とハガキが付けられている。落札予想価格の範囲内の8.75万ドル(約962万円)で落札された。
それに続いたのは、米国における黒人女性のアイデンティティー提示をテーマにしているキャリー・メイ・ウィームス(Carrie Mae Weems 1953-)の代表作“Untitled (man smoking) from Kitchen Table Series, 1990”。本作は、68.3 x 68.3 cmサイズ、エディション5点、アーティストプルーフ1点の作品。落札予想価格上限のほぼ2倍の7万ドル(約770万円)で落札された。これはアーティストによるオークション落札最高額。
3位になったのはアン・コーリアー(Anne Collier、1970-)の、“Relevance, Supposition, Connection, Viewpoint, Evidence from Questions, 2011”。ほぼ落札予想価格上限の6.25万ドル(約687万円)で落札された。これもアーティストによるオークション落札最高額。
オークション・カタログの表紙作品はアルマ・レビンソン(Alma LAVENSON 1897-1989)の“Self Portrait,1932”、落札予想価格上限を超える1.625万ドル(約178万円)で落札された。
その他では、メキシコ人女性写真家グラシェラ・イトゥルビデ(Graciela Iturbide1942-)の“Mujer angel, Desierto de Sonora, Mexico (Angel Woman, Sonora Desert, Mexico), 1979”が、落札予想価格上限の3倍以上の2万ドル(220万円)で落札された。これもアーティストによるオークション落札最高額となる。
複数の女性写真家がオークション落札最高額記録を更新したことは、本企画がきっかけに彼女たちの作品が注目され、市場でより適正に評価されたということだろう。このように欧米では写真史と市場が互いに影響を与え合っており、過小評価されている分野に光を当てるような試みが繰り返し行われているのだ。
次の「女性やファッション系に特化した企画(2)」では、クリスティーズ・パリで6月19日に開催に開催された、“Icons of Glamour & Style :The Constantiner Collection”の結果を紹介する。
(1ドル/110円で換算)