アート業界は、今後に直面するかもしれない、景気の悪化とともに、企業債務や不動産のバブル崩壊に身構えているようだ。少し前になるが、マスコミ報道では長期金利が短期金利を下回る逆イールドカーブ発生が話題になっていた。米国債市場では2000年や07年の景気拡大終盤で逆イールドが発生し、その後に景気後退に直面している。米国の中央銀行に当たるフェデラル・リザーブによる最近の短期金利の引き下げは「景気後退」を意識したうえでの行動だと言われている。
景気後退やバブル崩壊による不況は、コレクター心理に悪影響を与え、アート業界の売り上げは低迷することになる。CNBCの報道によると、実際に2019年前半は金融市場の乱高下や将来不安から、米国の富裕層がお金を使わなくなったという。アメリカの高級老舗百貨店「バーニーズ・ニューヨーク」は、8月に破産申請しているし、オークションハウスの売り上げも、前年同期比でササビーズの売り上げは約10%、クリスティーズは約22%減少している。アート業界は、不要不急の消費者向けの比較的高額な商品を取り扱っている。不況になると市場で資産価値が認められていない作品が全く売れなくなるのだ。資産価値のある作品だけを取り扱う大手オークションハウスは、相場を下げることで状況にあったレベルの売り上げは確保可能だ。しかし、委託者は安く良いコレクションを売りたくないので出品数が減少して、市場規模が縮小することになる。そして資産価値が未確定のアート作品を取り扱う中堅ギャラリーは売り上げが激減する。若手新人のみを取り扱う業者は売り上げがゼロになることも珍しくない。ギャラリーは固定費がかかるのですぐに経営に行き詰ってしまう。最近のアートネット・ニュースでは「アート市場は新たな不況に向かっているのか?専門家によるギャラリーが低迷時に生き残る9つのヒント」などという不気味な記事が掲載されていた。
オークションが開催中の週も、景気懸念と利下げ観測でNYダウは不安定な動きをしていた。このような状況下で秋のニューヨーク定例オークションが9月27日から10月2日にかけて開催された。
秋のニューヨーク・オークション・レビューの第1回は、まず全体像を明らかにしたいと思う。クリスティーズ、ササビーズ、フィリップスの大手3業者の出品数は772点だった。(2019年春はトータル739点、2018年秋は866点) 大手3社による合計5つのオークションの平均落札率は66.58%。今春の75.24%よりは低下、ちなみに2018年秋は62.36%、2018年春は72.50%だった。業界では不落札率が35%を超えると市況はよくないと言われている。現状は出品作品の約1/3は買い手が見つからなかったということだ。総売り上げは約1381.6万ドル(約15.19億円)で、春の約2146.6万ドル(約23.6億円)から約35%減少。2018年秋の約1648.3万ドルよりも約16%減少している。
過去10回の売り上げ平均額と比較すると、リーマンショック後の低迷から2013年春~2014年春にかけて一時回復するものの、再び2016年まで低迷が続いた。2017年春、秋はやっと回復傾向を見せはじめ、2019年春にはフリップスが開催した逸品をそろえた単独オークションの成功により総売り上げは再び2014年レベルに戻っていた。しかし、2019年秋は2016年以来のレベルに戻ってしまった。オークション・レビューを初めて約20年になる。グラフを見返してみると今秋の総売り上げ約1381.6万ドルは、なんと1999年春の約1584.9万ドル以下のレベルに戻ったことになる。売り上げが減少したというよりも、最近は現代写真の多くがコンテンポラリー・アート系のカテゴリーに出品されていることによる影響が大きいと思われる。このあたりの詳しい分析は今後行いたい。
各社ごとに見てみよう。1年前の2018年秋と比較すると、ササビーズ約6%増加、クリスティーズ約10.5%減少、フリップス約38%減少。2019年春と比較すると、ササビーズ約5.7%増加、クリスティーズ約13.3%減少、フリップス約66%減少となる。特にフリップスの数字の振れ幅が大きい。結局、今秋の実績は過去10シーズン(過去5年)の売り上げ平均と比べてもマイナス・レベルに落ち込んでしまった。
やはりアート業界を取り巻く厳しい先行き予想が心理的に反映された結果だと解釈すべきなのだろうか。
次回は個別業者の高額落札の内容を見てみる。今シーズンは、シンディー・シャーマン、フランチェスカ・ウッドマン、ハンナ・ウィルケ、マリーナ・アブラモビッチなどの女性アーティストの人気が高かった。
オークション最新レビュー(2)につづく
(為替レート/1ドル/110円で換算)