風景写真のフォトブックを分類する
定型ファインアート写真の可能性をさらに考える

いまブリッツ・アネックスにある、膨大なフォトブックの整理整頓を行っている。今まで意識したことはなかったが、その中に風景関係のものが数多くある事実に気付いた。いま提案している、定型ファインアート写真が風景系なので、このカテゴリーを意識するようになったのだろう。このような作業では、つい本の中身を見入ってしまい時間を費やしてしまう。私は「アート写真集ベストセレクション101」(2014年/玄光社刊)というフォトブック・ガイドを書いており、関連情報/資料は豊富に持っている。同書にはフォトブック・ガイド本のガイド情報まで紹介している。

今回の作業で、ブリッツの本棚には多種多様なフォトブック・ガイド本があるものの、風景やシティースケープに特化したものは存在しない事実を発見した。やや意外だったが、たぶん風景写真の定義があいまいで、分類する基準作りが難しいのだと思う。
この分野の写真ですぐに思いつくのは、自然を撮ったランドスケープ、そして都市を撮ったシティースケープ、海を撮ったシースケープなど。AIによると“「landscape」には、「ランドスケープ」、「原風景」、「車窓風景」、「錦秋風景」、「後方風景」、「田園風景」、「里山風景」、「山岳風景」、「前方風景」、「臨海都市風景」、「ビュー」、「景色」、「海中風景」、「森林風景」、「風光」、「山村風景」といった類語があります”、とのことだ。

せっかくの機会なのでブリッツの蔵書をベースにして、もし風景写真関連のフォトブック・ガイドを編集すると、どのような分類方法があるかを考えてみた。そして、私どもが最近提唱している定型ファインアート写真の居場所がそこにあるかについても検証してみた。紹介可能なスペースに限りがあるので、写真集は適当なものを限定数だけ選んで紹介している。

まず上記著作におけるフォトブックの定義を確認しておく。それらはファインアート写真の一種の“マルチプル”として制作されており、写真家が見る側に伝えたい何らかのメッセージが本の形式で写真により提示されている。日本ではきれいな自然などの写真が1冊にまとめられた本が写真集だという先入観が強い。しかしそれらは、英文ではフォト・イラストレイテッド・ブックになり、フォトブックとは明確に区別されるので注意してほしい。
したがって自然美の表現を主目的にするネイチャー系風景写真/アマチュアの風景写真、モノクロ/カラーにより自然美を抽象化する20世紀写真、またインテリア向けの販売目的に製作される、イメージのグラフィック/デザイン性や豊潤な色彩による抽象性が強調された風景写真もここでは含まれないこととする。

さて風景系フォトブックは大きく以下の2分野に分類できるのではないだろうか。
1.作品テーマが明確なもの
風景写真を通して、写真家が表現したいメッセージを見る側に伝えようとするもの。代表例は、ドイツのベッヒャー系といわれている人たちのカラーの巨大サイズの現代写真。人が変えてしまった自然風景、消えゆく西部の残り香/ネオンサイン、古き良き時代のアメリカの都市の記憶、経済グローバル化の影響により変貌する都市や郊外、特定時代の社会の空気感の表現、近代化/都市化により、町のシーンが変貌して変わりゆく状況を提示して(アジェ19世紀のパリの残像、昭和の名残を残すようなシーンのドキュメント)など。
これはファインアート系風景写真だと容易に理解できるだろう。


“Waffenruhe” Michael Schmid, 2018 Koenig Books
“Neue Welt” Wolfgang Tillmans, Taschen 2012
“ Approaching Nowhere” Jeff Brouws, WN Norton 2006
“The New West” Robert Adams, Aperture 2008
“Burtynsky Oil” Edward Burtynsky, Steidl 2009
“New Topographics ” Britt Salvesen, 2010 Steidl
“Archi Tecture” Andreas Gursky, Hatje Cantz Verlag 2008
“Sichtbare Welt: Visible World” Peter Fischli /David Weiss Verlag der Buchhandlung Walther Konig 1999

2.偶然から生まれたシーンに必然的な美を見出す
私が定型ファインアート写真のZen Space Photography的と考えるのが、偶然から生まれたシーンに写真家が必然的な美を見出した作品になる。これは世界に彫刻的な美を持った何かを発見するという趣旨と重なるだろう。
またこのカテゴリーは、さらに2種類に分類できると考える。写真撮影的に、被写体に近寄ったものと、離れてされたものになる。
Zen Space Photography の詳しい定義は、以前のブログ”定型ファインアート写真の可能性/Zen Space Photographyの提案1~4”を参照してほしい。

A.フラクタル的要素を持つシーンの発見(接写/近景)

年代を経て劣化/風化した建物の一部、壁面、ポスターなどの都市に存在するシーンのなかに、際立った色彩やグラフィカルな調和、侘び/寂び/渋みを発見して撮影するもの。「やつれ」、「風化美」という、被写体の持つ古さや使用感、経年変化などの味わい深さを見出しているものもある。

通常よりも被写体に近寄って撮影されており、平面や人工物、空間、人物などの複数要素が重なって偶然に生まれる、複雑性や規則性を持つフラクタル的な微妙な調和の美をとらえた作品だと評価してよいだろう。重要なのは、最初に画面内をデザインしようという意図はなく、空間の瞬間の調和のドキュメントを意図するもの。写真だけで区別するのは難しいが、最初からデザインの視点で撮影されている写真は除外する。

AIによると、“フラクタルとは自己相似性を持つ図形のことで、自然界に多く存在するものの一つ。フラクタルは、繰り返しの規則性を持ちながら、その形状が複雑であるため、美しいとされている。また自己相似性を持つため、どこから見ても同じような形状をしており、その形状が複雑であるため、美しいとされている”と説明されている。

“Places Aaron Siskind Photographs” Aaron Siskind, Light Gallery 1976
“Kodachrome” Luigi Ghirr,i Mack 2013
“Waiting for Los Angeles” Anthony Hernandez, Nazraeli Press 2002
“Pikin Slee” Viviane Sassen, Prestel 2014
“Tingaud Intérieurs” Jean-Marc Tingaud, Contrejour 1991

B.偶然から生まれたシーンにある必然的な美(中景/遠景)

自然が彫刻的とも呼べるような美を偶然に目の前の世界に作り出す。対象は自然や、人工的な都市や建造物、もしくはその組み合わせ。それに太陽光線、月の光、闇、霧、雨や雪、虹、雲などの天候や自然現象が関係して、美を作り出す。

“Written in the West” Wim Wenders, Schirmer Mosel 1987
“Kodachromes” William Christenberry, Harry N.Abrams 2010
“Topologies” Edgar Martin, Aperture 2008
“HENRY WESSEL” Henry Wessel, Steidl 2007
“Early Color” Saul Leiter, Steidl 2006
“Hyper Ballad: Icelandic Suburban Landscape” Takashi Homma, Switch Pub. 1997
“A Visual Inventory” John Pawson, Phaidon 2012
“Landschaften Und Gartenstucke” Simone Nieweg, Schirmer/Mosel Verlag 2003

数多くの写真家/アーティストが、様々な場所や時代に上記の二つのカテゴリーに入る写真作品を撮影している。また二つのカテゴリーにまたがる創作を行っている人も多い。いずれのフォトブックにも、様々な作品タイトルが付けられており、添えられたステーツメントは、社会と接点があると作者が考える創作理由が書かれている。実際にそのような写真集が数多く存在している事実に気付いた。それらは一般的に現代アート系の現代写真だと考えられているようだ。しかし実際のところステーツメント内容は、例えば「最近の自然風景の変動」、「21世紀の日本の風景に伝統的美意識の優美を見出す」、「気候変動による自然への影響」など、社会全体がその重要性を認識しているとても大きいテーマが提示されている場合が多い。
また、情報を収集/調査/整理しながら、その結果と写真作品との関係性が分析されたものではなく、表現者の感覚的なエッセーに近いものが多い。作品の体裁は現代写真的なのだが、テーマ性が不明確で感覚重視の風景作品になっている場合が多いのだ。感覚重視の作品ではテーマ性の見極めが難しい。感覚は人によってすべて違うので、市場で多くの人から評価されるのが極めて難しいからだ。作品のメッセージが社会の価値観と重なることで、初めてテーマが客観性を持ち、同じ価値観を持つ人に共有される可能性が出てくるのだ。
風景分野の現代写真での高額評価は、テーマ性が明確で解りやすく提示されたドイツのベッヒャー系のアンドレアス・グルスキーたちや、杉本博司の「海景」などの作品になる。
しかし今回の分類のような、隠れたテーマ性の存在が全く別の視点から認識されると、このカテゴリーの風景写真が再評価される可能性があると考えている。

なお、ブリッツのフォトブックの整理整頓は現在も進行中。 将来ガイドブックを制作したい、ファッション系と風景系を中心に行っている。今回は風景分野の一部を紹介したが、今後も調査を進めていきたい。この分野の写真に興味ある人はぜひ意見を聞かせてほしい。もちろん調査への協力者は大歓迎だ。