2023年前期の市場を振り返る
アート写真オークション高額落札

アート写真オークションは、今年はパンデミックの影響もなく、2023年前半の主要スケジュールが無事に終了した。通常7月からは、アート界は夏休みシーズンにはいる。次回は秋の大手業者によるニューヨークでの定例オークションとなる。
昨年前期と比べると、私どもがフォローして集計したアート写真関連オークション数は17から21に増加。出品数は2573点から3265点に大きく増えた、落札率は66.5%から71.6%に改善している。ただし、出品数の増加はほとんどが低価格帯で、このカテゴリーだけが671点増加した。
昨年来、インフレと米国の短期金利の利上げ継続、そして今年春には金融不安による信用収縮などが発生した。金融市場で先行きの不確実の高まりは、オークション参加者に心理的な影響を与えたと思われる。特に高額価格帯の作品では、コレクターは売買に対しての慎重姿勢が続いていた。逆に、低価格帯は出品が増加した。前半の総売り上げは約42.5億円で、昨年同期比で約42%アップしている。しかしこれは5月にサザビーズ・ニューヨークで開催された単独コレクションセール「Pier 24 Photography from the Pilara Family Foundation」による1062万ドル(約14.65億円)の売り上げ貢献による。これがなければ2023年前半の売り上げは、ほぼ2022年前半並みになる。
ピア24フォトグラフィー(Pier 24 Photography)は、2010年にサンフランシスコのエンバカデロ沿いの空き倉庫にオープンした写真専門の大規模展示スペース。しかし次回の契約更新で施設の家賃が3倍に上昇する事態に直面し、同館はやむなくリース期間が切れる2025年7月に正式に施設のクローズを決め、美術館コレクションの売却を今回のセールを皮切りに行うことになったのだ。個人コレクターではないので、彼らは経済見通しとは関係なく組織の決定を粛々と実行する。皮肉にもアメリカを襲う高インフレによる影響が、前半のオークション売り上げに大きく貢献していたのだ。そして多くの高額落札も同セールから生まれている。

私どもは現代アート系と19/20/21世紀写真中心のアート写真とを区別して継続分析を行っている。厳密には、アンドレアス・グルスキー、シンディー・シャーマン、マン・レイ、ウィリアム・エグルストン、ダイアン・アーバスなどは作品評価額によって両方のオークション・カテゴリーに出品される。しかし、ここでは統計の継続性などを鑑み、出品されたオークション別ではなく、作品分野別の高額落札作品のランキングを制作している。
それではアート写真オークションでの高額落札からみてみよう。

◎19/20/21世紀アート写真部門

1.ウィリアム・エグルストン
“Untitled, 1970”
クリスティーズ・ニューヨーク、21st Century Evening Sale、5月15日
落札予想価格100万~150万ドル
100.8万ドル(約1.28億円)

2.ダイアン・アーバス
“A box of ten photographs, 197”
クリスティーズ・ニューヨーク、21st Century Evening Sale、5月15日
落札予想価格90万~120万ドル
100.8万ドル(約1.28億円)

3. ロバート・フランク
“’Charleston S. C.’, 1955”
ササビーズ・ニューヨーク、Pier 24 Photography、5月1日~2日
落札予想価格25万~35万ドル、
95.2 万ドル(約1.31億円)
*ロバート・フランクのオークション落札最高額を更新。

4. マン・レイ
“Untitled (Solarized Nude, Paris), 1929”
クリスティーズ・ニューヨーク、21st Century Evening Sale、5月11日
落札予想価格30万~50万ドル
63万ドル(約8505万円)

5.ドロシア・ラング
“Migrant Mother, Nipomo, California, 1936”
ササビーズ・ニューヨーク、Pier 24 Photography、5月1日~2日
落札予想価格20万~30万ドル
60.96万ドル(約8229万円)

5. リー・フリードランダー
“The Little Screens(suite of 52 gelatin silver prints)”
ササビーズ・ニューヨーク、Pier 24 Photography、5月1日~2日
落札予想価格50万~70万ドル
60.96万ドル(約8229万円)

◎現代アート系写真
現代アート系ではリチャード・プリンス作品が150万ドル越えで落札されている。彼の作品は写真でも主に現代アートのカテゴリーで取り扱われている。またアンドレアス・グルスキーの高額評価の作品が市場に戻ってきた。

1.リチャード・プリンス
“Untitled (Cowboy), 1999”
クリスティーズ・ニューヨーク、A Century of Art: The Gerald Fineberg
Collection Parts I and II、5月17~18日
落札予想価格150万~200万ドル
156.25万ドル(約2.1億円)

2.シンディー・シャーマン
“Untitled Film Still #48, 1979”
サザビース・ロンドン、Now Evening, Modern & Contemporary Evening and Day Auctions、6月27~28日
落札予想価格60万~80万ポンド
76.2万ポンド(約1.28億円)

3.アンドレアス・グルスキー
“Chicago, Board of Trade, 1997”
クリスティーズ・ニューヨーク、A Century of Art: The Gerald Fineberg Collection Parts I and II, 5月17-18日
落札予想価格60万~80万ドル
75.6万ドル(約1.02億円)

(1ドル/135円、1ポンド/168円)