コロナウイルスの影響がアート写真界を襲う ギャラリーは慎重に営業継続の方針

コロナウイルスの影響が、集客が多い写真関連の様々な分野で広がっている。
東京都写真美術館は、3月15日までのあいだ、展覧会などの主催事業をすべて休止している。「森村泰昌:エゴオブスクラ東京 2020 さまよえるニッポンの私」を開催中だった原美術館も3月13日まで休館。東急文化村ミュージアムで開催されていた「永遠のソール・ライター」展も3月8日までの開催予定が、2月27日で中止になってしまった。
キャノンギャラリー(品川)、ニコンサロン(銀座・大阪)、ソニーイメージングギャラリー銀座、フジフイルムアンテナスクエア、エプサイトギャラリーなどの企業系ギャラリーもだいたい3月15日前後まで休館となっている。
3月6日から開催予定だった「塩竈フォトフェスティバル2020」 は開催延期。4月18日から開催予定だった「KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭2020」も9月に開催延期。「さいたま国際芸術祭2020」は3月14日からの会期を2週間延期して28日からの開催となった。招待作家のテリ・ワイフェンバックの来日も中止となった。このようは幅広い分野での活動の一斉中止は、まさに前代未聞の事態だといえるだろう。
3月中旬以降もコロナウイルスの状況が急激に改善するとは思われない。開催しても来場者を集中させない工夫などが必要だとも思われる。今後の各館の対応が注目される。

しかし、多くの商業ギャラリーは通常通りの営業を行っており、また写真展開催を予定している。ブリッツも3月14日から、テリ・ワイフェンバック写真展「Certain Places」を開催する方針だ。ただし、多くの人が集まって会話を交わす機会が多いオープニング・レセプションは中止とした。
私どもが写真展を開催するのは、商業ギャラリーが多数の人を集客して入場料や物品販売で稼ぐイベント的なビジネス・モデルではないからだ。だいたいが交通の便の悪い場所にある。入場は無料だし、コレクターやその予備軍、アーティスト、美術系学生など、かなり限られた人の来場を想定している。従って、平常時でもギャラリー内は人で混雑しない。特に平日などは、来場者が合計数人ということも当たり前。
傾向として、来廊者は週末が多く平日は少なめ。また午後の早い時間が多く、遅い時間は少ない。ただし、ギャラリーに来るまでは公共交通機関を利用することになる。移動時には感染リスクはあるので、来廊を検討している人はどうか気を付けて来てほしい。ブリッツの周りには駐車場も比較的多くあるので、クルマ、バイク、スクーター、自転車での来場をおすすめしたい。また、本展は5月24日まで長期間にわたって開催する。コロナウイルスの将来の影響は不透明だが、どうか状況を見極めて来廊を検討してほしい。

テリ・ワイフェンバック写真展「Certain Places」の内容を簡単に紹介しておこう。


Saitama Notes #7859, 2019 ⓒ Terri Weifenbach

ワイフェンバックは、2020年3月28日から開催予定の「さいたま国際芸術祭2020」(5月17日まで)、三島のヴァンジ彫刻庭園美術館で3月20日から開催されるグループ展「The Sense of Wonder」展(8月31日まで)に参加を予定だ。

ブリッツの写真展は、埼玉県、静岡県で行われる作品展示に合わせて開催する。展示内容はコンパクトに彼女の約20年以上のキャリアを回顧する内容となる。「In your dreams」(1997年)、「Hunter Green」(2000年)、「Lana」(2002年)から、20X24″サイズ作品が各1点、「Hidden Sites」(2005年)から3点、「Between Maple and Chestnut」(2012年)から4点、「Another Summer」から9点。以上は貴重なアナログのタイプCプリントとなる。

デジタル・アーカイヴァル・プリント作品では、「Centers of Gravity」 (2017年)から小作品6点、「Des Oiseaux」 (2019年)から9点、「The May Sun」(2017年)から3点、そして2019年春に埼玉県で撮影された新シリーズから未発表5点を展示する。

アーティストがどのように自己表現を行ってきたか、その軌跡をコンパクトに俯瞰できる展示内容になっている。会場では昨年発売になった「Des Oiseaux」(Éditions Xavier Barral/2019年)や過去にブリッツが制作したカタログ類を販売する予定。一部にサイン本も含まれる予定。

「Certain Places」Terri Weifenbach
テリ・ワイフェンバック 写真展
2020年 3月14日(土)~ 5月24日(日)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 入場無料

Blitz Gallery

ギャラリー今後の写真展開催予定
テリ・ワイフェンバック「Certain Places」を開催!

ブリッツの今後の展示予定をお知らせしよう。

Munitions Workshop Building, Wendover Air Base, Utah, 2004 (C)William Wylie

現在開催中のウィリアム・ワイリー写真展はいよいよ最終週。今回は天皇誕生日の振り替え休日となる2月24日(月・祝日)まで開催する。
最先端のモノクロ・インクジェット・プリントによる、イタリアのポンペイ遺跡から米国ユタ州西部のウェンドーバーまで、世界中の建築を撮影した写真作品の展示となる。彼の作品は美術館にも収蔵されており、私は「21世紀写真」のスタンダードだと考えている。アーティストを目指す人、コレクターは、その銀塩写真とは違うプリント・クオリティーをぜひ見てほしい。

次回展は、米国人写真家テリ・ワイフェンバック(Terri Weifenbach)の写真展「Certain Places」。会期は3月14日~5月24日まで。
彼女は、日常にある何気ない自然風景のカラー作品で知られる写真家。ピンボケ画面の中にシャープにピントがあった部分が存在する写真が特徴。夢の中にいるような、瞑想感が漂う光り輝く作品には根強い人気がある。また彼女の作品は、いま世界的に広がっている自然環境保護につながるメッセージを投げかけていることでも知られている。
今回の展示は、彼女の約20年以上にわたる写真家キャリアを振り返る内容となる。2019年春に埼玉県で撮影された新シリーズからの未発表作5点を含む、タイトル名が示すように世界各地で撮影された作品約30点がセレクションされる。今や貴重なタイプCプリントとデジタル・アーカイヴァル・プリントの展示になる。

ART Signtama / さいたま国際芸術祭2020

ワイフェンバックは、2020年3月14から開催される「さいたま国際芸術祭2020」に参加。2019年春に来日し、同芸術祭のテーマ「花 / Flower」を念頭に置いて作品を撮影している。芸術祭では、それらの新作がメイン会場の旧大宮区役所で展示される。彼女はいまパリ在住、スカイプで連絡を取りながら作品の色校正などが急ピッチで進行中だ。
また彼女は、三島のヴァンジ彫刻庭園美術館で3月20日から開催されるグループ展「The Sense of Wonder」展にも参加予定。
ブリッツの写真展は、埼玉県、静岡県で行われる展示に合わせての開催となる。

ただし、「さいたま国際芸術祭2020」には、多数の人が世界中から集まる。市中感染が疑われるコロナウイルスの影響が心配される。

・ブリッツのプレスリリースは以下でご覧いただけます。

http://www.artphoto-site.com/inf_press_86.pdf

・プレス用プリントは以下でご覧いただけます。

http://www.artphoto-site.com/inf_press_86image.pdf

ウィリアム・ワイリー
“Structures and Space”
欧米社会でのアーティストの生きる道

現在、ブリッツでは米国人写真家ウィリアム・ワイリーの「Structures and Space」展を2月24日まで開催中。

ワイリーは米国ヴァージニア大学のアート部門の教授。ブリッツでは2016年に、テリ・ワイフェンバックとの二人展「As the Crow Flies」に「The Anatomy of Trees」シリーズを展示している。同展開催時に来日し、日本大学芸術学部で講演も行った。

彼のいままでのキャリアを見てみると、欧米におけるアーティストのキャリア形成方法が見えてきて興味深い。実は、世界的にも作品販売だけで生活している人はほんのわずかなのだ。少し古い資料になるが、リーマン・ショック前の景気の良い時期にドン・トンプソンより書かれた「The $12 million Stuffed Shark」(2008年刊)というアート市場を分析した本がある。それによると、ニューヨーク・ロンドンには合計約8万人のアーティストがいて、そのうち作品販売で生活している成功したアーティストは0.5%に満たないとしている。約6%は、作品販売以外に、教育者、文章執筆そして協力者の支援により生活しているという。ワイリーはこのカテゴリーに含まれると思われる。そして、その他の膨大な人数のアーティストは、他の仕事を行いながらギャラリーでの作品取り扱いを求めて活動していると書かれている。たぶん現在の状況は、当時よりも悪化していると思われる。
欧米では、たとえ貧乏に甘んじていても自己表現を追求するアーティストの存在を社会全体で支援しようという風潮がある。この思想こそがアーティスト予備軍が多数存在する背景だと私は考えている。多くの人がお金儲けに奔走する資本主義経済の中で、彼らは社会の多様性を担保する存在なのだと理解されている。日本ではアーティストは個性的な人間と思われがちだが、欧米では尊敬される存在なのだ。

日本では写真家はアーティストではない。しかし欧米では写真でアーティスト活動を行い生活しているワイリーのような人が実際に存在しているのだ。優れた活動を行っている人には、彼らの生活ベースを支援するために教育者の仕事が提供される場合が多い。そして、優れたアート・プロジェクトの場合は、各種の公共団体、個人から奨学金などの支援の手が差し伸べられる。その成果は写真集化され、美術館が作品をコレクションされるのだ。ワイリーも、それらの援助により「Riverwalk, Explorations Along the Cache la Poudre River」(2000年)、「Stillwater」(2002年),「Carrara」(2009年)、「Route 36」(2010年)、「Pompeii Archive」(2018年)などのプロジェクトを行い、実績を積み上げてきたのだ。
もちろん誰でもこのようなキャリアを歩めるわけではない。若い時から努力して高いスキルを獲得し、さらに努力を続けた人だけがその成果として、アーティストという生き方が実践できるのだ。このような人の存在が、若い人に対して社会の中のアーティストのロールモデルとして提示されているのだと思う。日本には、写真表現でのアーティストのロールモデルが存在しない、この点が決定的に違うのだ。
そして、欧米のアーティストたちは自分の仕事が社会のためになっているという目的意識を持って活動している。私たちディーラー、ギャラリストはアーティストをその作品の市場価値で評価しがちだ。しかし、アーティストは一つの生き方の実践であることをワイリーの生き方は示してくれる。そのような環境が存在する欧米社会が少しばかり羨ましく感じる。
今回の展示趣旨の一つは、彼のようなアーティストの存在を日本に紹介することにある。日本では、若手や新人支援と言っても、それぞれの組織や個人のムラ作り、派閥作りの延長線上の活動になりがちだ。それぞれのエゴを捨てて、もっと社会的に高い見地から、皆でアーティスト支援を考えてはどうか、という問題提起でもある。

さて「Structures and Space」はワイリーの日本初個展で、世界中で撮影した建築写真の展示となる。本展の重要なキーワードとして彼が挙げているのが「spatial practice」。和訳すると「空間における実践」のような意味となる。少し小難しいので、彼が何を言いたいかを考えてみよう。
ワイリーは、過去10年にわたって建築物が生み出す空間に潜む装飾性を建築物の写真を通して探求してきた。彼の自然光を用いて撮影された作品では、ドイツ、イタリア、米国西部の建築物が際立った特徴と質感を持つ魅力的な存在として提示されてきた。彼は、それらの空間は、人々がその土地に存在していて、生活や活動する場所をどのように組織して、整えるかという熟考の結果に生まれてきたと考えているのだ。作品には、遺跡や廃屋など、もはや人が住んでいないかつての建築物も多く撮影されている。彼はそこに残された空間に、かつて住民が生活していた痕跡を感じ取って作品化しているのだ。地球上で歴史の流れと共に培われてきた文化の多様性を建築写真で表現する意図があるのだろう。私たちは、作品を通してそれらの違いを目の当たりにする。人間を取り巻いていた自然環境が人間の生活に影響を与え、それが建築物の作り上げるスペースを作り上げていたであろうと想像をめぐらすのだ。
本シリーズは、彼のライフワーク的作品だ。世界中のより多くの建築を撮影し続けることで完成度は高まっていくはずだ。ワイリーは日本ひいきでも知られている。実は自身の60歳の誕生日を記念し来日、なんと徒歩で四国八十八箇所巡りを実践している。将来的に「Structures and Space」シリーズに、日本で撮影された建築写真が追加されることを期待したい。

本展にはいくつかの見どころがある。ブリッツのインスタグラムでも取り上げているが、ここでも加筆して紹介しておく。来廊前に読んでもらうと作家や作品への興味が倍増するだろう。

・ポンペイ・アーカイブ

ⓒ William Wylie

「Structures and Space」展の代表作はイタリア・ナポリ近郊にある、ヴェスヴィオ火山の噴火による火砕流で地中に埋もれた古代都市ポンペイの遺跡を約5年にわたり撮ったシリーズ。同作は2018年に「Pompeii Archive」(Yale University Press)として写真集になっている。世界遺産に登録されていることあり、撮影の許可取りが極めて困難だったという。大学教授の肩書が効力を発揮したそうだ。彼は古代イタリアの遺跡で、発掘現場、人や動物のレリーフ、出土品などを広範囲に大判カメラで撮影。今回の建築物の作品では、人々がその地に存在して、活動する場所をどのように組織して、整えてきたかを空間に潜む装飾性から探求している。全展示作の原点とも呼べるシリーズだ。

・高品位のデジタル・プリント
本展の見どころのひとつはワイリーの美しいモノクローム・プリントにある。彼は主に大判フィルム・カメラで写真撮影を行い、インクジェットでプリント制作を行っている。制作時のポイントは、スキャニング、ファイル作り、プリント制作までを専門業者が手掛けている点。彼はヴァージニア大学のアート部門の教授で、高品質の高額の機材が校内に設置されおり利用可能だ。しかし、彼はまだ60歳過ぎなのだが、作品のクオリティーの客観性を担保するために、あえて若い経験豊富な専門業者に作品制作を依頼しているのだ。実際のところ、彼のインクジェット・プリントは美術館にも認められコレクションされている。
本展では、デジタル時代における、美術館収蔵レベルのモノクロ写真のクオリティーを鑑賞することができる。また、展示の一部の「Route 36」シリーズの作品は、アナログのモノクロ銀塩写真となる。二つの新旧のプリント・クオリティーをぜひ見比べて欲しい。それらの優劣を語るのは全く無意味だと直感できるだろう。デジタルでモノクロ写真を制作している人(特に風景)は必見の展覧会といえるだろう。

・米国ウェンドーバー

ウェンドーバーは、米国ユタ州西部の都市。近くの砂漠の中に、第2次大戦時に爆撃機の訓練基地だったウェンドーバー空軍ベース跡がある。エノラ・ゲイ爆撃機(最初の原子爆弾を落とした飛行機)を隠すのに用いられたメタル製格納庫も残っている。彼はもちろん格納庫の写真も撮っているが、本展では展示していない。
ワイリーはこの地の廃墟となった寂れた感じの建物を精力的に撮影。空気が乾燥しているうえ、太陽光線が強いことから、コントラストが強調された作品となっている。本展の案内状にもなったグリッド状の廃屋のタイポロジ―作品もこの地での作品だ。

・Route 36

「Route 36」は2010年に発表されたワイリーの代表作。ルート36はアメリカ中央部を東西に走るハイウェイ、コロラドからオハイオまで距離は約2276キロもある。本作では主にカンザスで撮影が行われている。この道は市街地をバイパスするのではなく、各町中を貫いて通っているのが特徴。彼はそこで、まるで時間が止まっているようなコミュニティに遭遇。大草原の中に、古い映画館、小さなカフェ、美しい高いサイロが集約され存在している場所を発見している。そこで彼は場所特有の雰囲気や気分を感じ取り、写真で表現しようと試みたのだ。2010年にはフォトブック「Route 36」(Flood Edition)が刊行されている。今回は、”Structures and Space”展の一部として、同シリーズからアナログ銀塩モノクロ写真12点をセレクトして展示している。

・抽象作品

今回の建築写真の中で多く見られるのが抽象的な作品だ。古い建築物のクローズアップで表面の質感を表現している、いわゆる定番的な作品もある。しかし、ワイリー作品で魅力的なのは、前景と後景とが画面の中で微妙に重なり合って、3次元の世界を2次元の全く別の抽象空間として表現しているものだ。写真表現の面白さを提示している、ある意味で写真のお手本的な作品といえる。さすがヴァージニア大学の教授だと感心してしまう。また、デジタルによるプリントなので、アナログ銀塩プリントよりも細部の質感までもが的確に表現されており、ヴィジュアルの抽象感が強化されている。ぜひ美しい現物の抽象の写真世界を見てほしい。

「Structures and Space」ウィリアム・ワイリー写真展
Blitz Gallery にて開催中

http://www.blitz-gallery.com/

テリー・オニール追悼
相手を好きになるのが良い写真を撮る秘訣

テリー・オニールの死を惜しむ声が世界中から上がっている。

2015年来日時の写真展会場でのテリー・オニール氏

数々の仕事を一緒に行ったミュージシャンのエルトン・ジョン。彼はいま引退ワールド・ツアーを行っている。テリー・オニールが亡くなった2019年11月16日はニューヨーク・ユニオンデールのナッソー・コロシアムで公演を行っていた。ライブの途中で、テリー・オニールの死に触れて、有名な別れの歌「Don’t Let The Sun Go Down On Me(僕の瞳に小さな太陽)」を捧げている。

テリー・オニール作品の人気はキャリア後半期になって大きく盛り上がった。ここ数年は、世界中のギャラリーで展覧会が開催されるとともに、写真集も相次いで刊行。大手のアート写真オークションで、作品が頻繁に取引されるようになっていた。ポートレート写真には、ブロマイド的な写真が数多く存在している。この分野の写真はアート性が低い、という先入観を持っている人は今でも多い。なぜアート界でテリー・オニールのポートレート写真の人気が高かったのか考えてみたい。

ファッション/ポートレート写真のアート性は撮影を依頼する雑誌や新聞などと写真家との関係性による。これはどれだけ自由裁量が写真家に与えられるか、また写真家が獲得するかという撮影時の環境による。有名写真家になるほど、撮影スタイルが確立している。依頼主は完成する写真が想像できるので写真家に与えられる自由度が高くなる。テリー・オニールの活躍した60~70年代のファッション、ポートレートは比較的に自由に仕事ができたそうだ。花形のグラフ雑誌のフォトエッセーでは編集者の力が強く写真家の自由度はあまりなかった。それに比べて、まだマイナーだったロック系ポートレートでのテリー・オニールの自由度は相当に高かった。彼の名作が生まれた背景にはこのような幸運な撮影環境があったのだ。
また与えられた自由裁量の中で、写真家がどのように作家性を発揮するかも重要になる。テリー・オニールは世界的なセレブリティ―たちの自然な表情を撮影することで定評があった。その一種ドキュメンタリー性を兼ね備えた作風が広くアート界でも認識されているのだ。彼は自然な表情を撮影するためには、被写体との関係性構築と環境作りが重要だと語っていた。それが上手くいけば、あとは瞬間を切りとるだけだという。彼が最も尊敬していたのはマグナム・フォト所属のアメリカ人写真家ユージン・スミス。スミスは撮影環境作りを重視し、被写体が写真家やカメラを意識しなくなるまでシャッターを押さなかったという。テリー・オニールも、同じアプローチを実践。カメラも同じくコンパクトなライカを用いている。彼は時に被写体と長期間にわたり行動を共にし、また姿を隠したりしてシャッターチャンスを待ったという。彼は写真家として成功する秘訣は、あまり目立たないことだといっている。最初、その意味は良くわからなかった。その後に本人と話したことで、被写体にとって写真家が自然の存在になることで初めて良い写真が撮影可能になるという意味だと分かった。また被写体である相手を好きになることも強調している。写真にはすべてが出てしまう、良い写真と悪い写真の違いはすべてそこにある、とも語っている。
彼の写真作品は、セレブリティーが被写体となったドキュメンタリーで、被写体とのコラボから生み出された自己表現であり、各時代を代表する各界の顔が撮影された、当時の気分や雰囲気が反映されたアート系ファッション・ポートレート写真であることがわかる。
大手アート・オークション会社クリスティーズのスペシャリスト・ジュード・ハル(Jude Hull)氏は、彼の写真を「20世紀から時代が経過したいま、テリー・オニールの写真は過去の(時代性が反映された)重要なドキュメントと考えられるようになった」と評価している。

この画像には alt 属性が指定されておらず、ファイル名は TON-Frank-Sinatora-on-the-Boardwalk-Miami-1968.jpg です
Frank Sinatora on the Boardwalk, Miami, 1968/ Iconic Images

80年代以降、撮影依頼者から次第に指示や制限が加えられるようになっていく。ファッションやポートレートを取り扱うメディアがビック・ビジネスとなった。彼らが出版後の様々な事態を想定して自己規制を行うようになったのだ。健康被害を思い起こすタバコ、宗教的、人種差別、性差別などに事前に配慮したヴィジュアルが求められるようになる。その後は、自由な表現を追求したい写真家と、編集者やクライエントとの戦いが繰り返されることになる。多くの写真家は、この分野の自由な表現の可能性に見切りを捨て、業界を去ったりファインアートを目指すようになる。21世紀になりデジタル化が進行したことで、写真家に与えられる自由裁量はさらに狭まっているのは多くの人が知るところだ。最近では、写真家はクライエントやデザイナーの指示でカメラを操作するオペレーターのような存在になっている。このような不自由な状況では、かつてのようにポートレート写真から時代に残るようなアート作品が生まれ難くなってしまった。テリー・オニールがキャリア後期に撮影をしなくなった理由は、年齢のせいだけではないのだ。最後の本人が納得のいった仕事はネルソン・マンデラの撮影だったという。

テリー・オニールが異例ともいえる長期間にわたり業界最前線で活躍してきた点にも注目したい。2015年に東京で開催された写真展では、キュレーションを担当したロビン・モーガン氏は写真展タイトルを 「Terry O’Neill : 50 Years in the Frontline of Fame」(「テリー・オニール:華麗なる50年の軌跡」と意訳した)としている。文字通り、現役として業界の最前線で約50年以上にわたり活躍してきたのだ。多くの写真家は専門分野があり、活躍するのもピーク時期はだいたい10年くらいではないだろうか。特にファッション写真の場合、創造性はいくら優れた写真家でも長続きしないことで知られている。ハ―パース・バザー誌のアレクセイ・ブロドビッチは、寿命は7年くらいだと語っている。

しかし、ポートレート写真では様々な有名人を被写体として撮影することから、写真家は刺激を受けつづけ、創造性への情熱も継続ができる場合が多い。現在ブリッツで展示中のノーマン・パーキンソンも、キャリア途中でファッションからポートレートへ軸足を移して活躍し続けている。
テリー・オニールのポートレートはミュージシャンから始まる。1963年のビートルズの撮影以来、エイミー・ワインハウスまで、常に音楽業界の最前線のミュージシャンを撮影してきた。彼は、幸運にもビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズ、デヴィット・ボウイのヴィジュアル作りに初期段階から関わり、彼らが世界的なロック・スターへと成長していくにしたがって、オニールの写真家の名声も上がっていくのだ。しかし、音楽専門写真家は数多くいる。彼が特別にミュージシャンと親しい関係性を構築できたのは、自身がジャズドラマーでもあり、被写体から同じミュージシャンの仲間だと尊敬されていたからだと思われる。写真家というより、被写体のミュージシャンと同じ目線での撮影が、彼の魅力的な作品の背景にあるのだ。

Kate Moss English fashion model Kate Moss in a black body stocking, March 1993/ Iconic Images

そして、撮影対象の分野が多岐にわたることも大きな特徴だろう。音楽界、映画界はもちろん、なんとサッチャー首相などの英国政界の人々や、エリザベス女王など英国王室も撮影。その範囲は、スーパーモデル、スポーツ/文化界、自動車レース界まで及ぶのだ。だいたい写真家には専門分野がある。彼のような人は極めて稀なのだ。

Hepburn With Dove A contemplative Audrey Hepburn with a dove perched on her shoulder, 1966/ Iconic Images

テリー・オニールの代表作品は既に完売している。これからは、オークションでの取引が中心になると思われる。ただし、エディションが残っている作品については、その範囲内で限定エステート・プリントとして新たに販売されることが決定した。また代表作でない生前のサイン入り作品は、かなり高価になったがロンドンのギャラリーに在庫がある場合がある。興味ある人はぜひブリッツに問い合わせてほしい。

最後に冒頭に紹介したエルトン・ジョンの別れの言葉を紹介したい。「彼は本当に偉大な写真家だった。テリー、あなたの旅がどこに向かっていようとも素晴らしいものでありますように。私へのいままでのすべての仕事に感謝します。」

テリー・オニールが安らかな眠りにつかれるように、心よりお祈り申し上げたい。

テリー・オニール追悼
アート系ポートレート写真の元祖

病気療養中だったテリー・オニールが11月16日ロンドンの自宅で亡くなった。81歳だった。

ブリッツでは、過去に何度も写真展(個展)を開催している。ギャラリーが広尾にあった1993年に「TERRY O’NEILL:Superstars of 70s」、目黒に移ってからは 「50 Years in the Frontline of Fame」(2015年)、「All About Bond」(2016年)、「Rare and Unseen」(2019年)を行っている。
2015年には初来日している思い出深い写真家だ。世界的に知名度があり、華麗なキャリアを持つ人なのに、偉ぶることなく誰にでもとても気さくに接してくれていた。かなりの冊数の写真集のサインにも嫌がることなく笑顔で応じてくれたのが印象に残っている。たぶんどんな有名人に対してでも、同じように普通に接することで被写体の自然体の表情を引き出したのだろうと感じた。

Terry O’Neill “Diamond Dogs, London, 1971” (C) Iconic Images

テリー・オニールには、デヴィッド・ボウイの「ダイヤモンドの犬」(1974年)リリースの際に撮影した有名なアートワークがある。同じくボウイの「ヒーロズ」(1977年)のジャケット写真を撮った鋤田正義との写真展会場での出会いは感慨深いものだった。

二人は同い年ということもあり初対面に関わらずすぐに打ち解けた。後日、友情の印として互いにボウイの写真作品の交換まで行っている。その後も二人の交遊は続き、昨年にはロンドンでの再開が実現している。

Terry O’Neill “Brigitte Bardot, Spain 1971” (C) Iconic Images
Terry O’Neill “Faye Dunaway, Beverley Hills Hotel, 1977” (C)Iconic Images

テリー・オニールは、私にとって思い入れがある写真家だ。実は初めて買った写真がテリー・オニールのブリジット・バルドー「Brigitte Bardot, Spain 1971」とフェイ・ダナウエイ「Faye Dunaway, Beverley Hills Hotel, 1977」のアナログ銀塩作品だった。ロンドンのポートベロ・マーケット近くにあったThe Special Photographers Companyという写真専門ギャラリーで1987年に購入している。

30年前、ファッションやポートレート写真のアート性はまだ市場で全く認識されていなかった。販売価格はバルドー作品が185ポンドと驚くほど安かったと記憶している。亡くなる前の彼のギャラリー店頭価格は16 x 20″サイズで最低1750ポンドからだった。約30年間で相場が約9.5倍に上昇したことになる。ただし上記の2点のような代表作は既に完売している。既に生前からオークションで高額で取引されていた。

かつて有名人を撮影したオリジナルプリントは、有名人のブロマイド写真と同じでアート性が低いと考えられていた。しかし世の中の価値観の変化により、いまでは時代性が反映されたファッション・ポートレート写真にはオリジナリティーとアート性があると認識されるようになったのだ。それらは大手のアート写真・オークションでも頻繁に取引されている。テリー・オニールは、その分野における先駆者だったといえるだろう。作品人気の理由やアート性の詳しい分析は次回に行う予定だ。

今後、テリー・オニール作品は、オークションでの取引が中心になると思われる。代表作は完売しているが、それ以外の作品はロンドンのギャラリーに在庫が残っている場合がある。生前の価格で買える可能性もあるかもしれない。興味ある作品がある人はできるだけ早く問い合わせてほしい。アーティスト本人が亡くなってもその作品は永遠に残るのだ。

なおブリッツではテリー・オニールの代表作「Brigitte Bardot, Spain 1971」、「Faye Dunaway, Beverley Hills Hotel, 1977」の特別展示を行っている。どうぞお見逃しなく!

テリー・オニール氏が安らかな眠りにつかれるよう、心よりお祈りしたい。

ノーマン・パーキンソン 写真展 “Norman Parkinson: Always in Fashion” ブリッツ次回展は10月11日スタート!

ブリッツ・ギャラリーの次回展は、20世紀英国を代表する写真家ノーマン・パーキンソン(1913 – 1990)の日本初個展 「 Always in Fashion 」となる。

ノーマン・パーキンソンは、ファッション/ポートレート分野において、20世紀でもっとも偉大で、影響力を持つ写真家の一人だと言われている。ファッション写真好きの人なら必ず彼の代表作品を見たことがあるはずだと思う。
ファッション写真の歴史を紹介する写真集には、間違いなくパーキンソン作品は収録されている。今回の展示作品に触れて、はじめて見慣れた写真がパーキンソン撮影だったと気付く人も多いだろう。

彼のキャリアを簡単に紹介しよう。1931年、ウェストミンスター・スクールを18歳で卒業。法廷カメラマンの見習いで写真の基礎を学んだのち、1934年にスタジオを開設。1935年に「ハ―パース・バザー」誌に雇われ、1940年まで同誌英国版の仕事を行っている。
彼の写真はキャリア初期から革新的といわれていた。パーキンソンは、スタジオから外に出て、ストリートや、遠隔地のエキゾチックな場所での撮影を最初に行った写真家の一人なのだ。モデルの存在にリアリティーを感じさせる彼の撮影方法は「ドキュメンタリー・ファッション」と呼ばれ注目される。
戦後は、「ヴォーグ」(1945-1960)、「クィーン」(1960-1964)などの世界的なファッション誌で仕事を手掛け、その後は「タウン&カウントリー」などの仕事を行っている。
彼の写真は、ヴィジュアル面から50年代パリのニュー・ルックや60年代のスウィンギング・ロンドン時代の雰囲気作りに関わる。「ファッション写真の父 」とも呼ばれ、その後に登場する若手写真家の撮影スタイルに多大な影響を与えている。英国人写真家では、60年代に登場した、デヴィッド・ベイリー、テレンス・ドノヴァン、ブライアン・ダフィーが有名。パーキンソンの写真には、彼ら3人の特徴だった、勢い、即興性、動きと変化がすでに取り込まれていたのだ。

今回の日本初個展では、1938年から1982年までに撮影されたモノクロ/カラーの代表作約25点を紹介する。
リサ・フォンサグリーヴスやマリー=エレーヌ・アルノーなどがモデルを務める有名ファッション写真から、オードリー・ヘップバーン、ジェリー・ホール、ザ・ビートルズ、デヴィッド・ボウイなどの珠玉のポートレートも含まれる。
すべてが作家の意思を受け継いで運営されているノーマン・パーキンンソン・アーカイブスから提供されるエディション付きエステート・プリント作品。
また2019年夏に刊行された「Norman Parkinson: Always in Fashion」(ACC刊)や、英国から輸入したポストカード類も販売される。

実は本展にはもう一つの見どころがある。ノーマン・パーキンソンのファッション・ポートレート写真と共に活躍した写真家の作品を展示する「華麗なるファッション写真の世界」も同時開催する。リチャード・アヴェドン、ジャンル―・シーフ、メルヴィン・ソコルスキー、ホルスト、ブライアン・ダフィーなどの作品展示を予定している。展示作品数はもう少し増えるかもしれない。
どうか楽しみにしていてほしい。

(開催情報)
「ノーマン・パーキンソン 写真展 」
(オールウェイズ・イン・ファッション)
2019年 10月11日(金)~12月22日(日)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 入場無料

Blitz Gallery

「Blitz Collection: Landscapes」
(ブリッツ・コレクション展:風景写真)
見どころの解説

本展では、アンセル・アダムス、マイケル・デウィック、テリ・ワイフェンバック、ウィリアム・ワイリー、岡田紅陽、伊藤雅浩、ファウンド・フォトなどを多数展示している。点数が多いメイン展示は、アンセル・アダムスと岡田紅陽になる。

アンセル・アダムス作品の展示風景

アンセル・アダムスは写真独自のアート表現を追求。光の状態をフィルムと印画紙に可能な限り精緻に再現するゾーン・システムという独自技法を開発し、自分のヴィジョンをモノクロ写真で再現した。プリントサイズ、感度など、色々な制約があったアナログ銀塩写真時代に、写真表現の可能性拡大に挑戦しているのだ。彼の技法は、アナログによるフォトショップのようだ、などともいわれている。来場者の中からは、彼の写真を見るとまるで視力が良くなったかのように感じる、という意見も聞かれた。
作家性が再評価されたことで、20世紀写真の中でも彼の作品価値は極めて安定している。

“ブリッツ・コレクション展:風景写真”の展示風景

岡田紅陽は、富士山をライフワークのテーマとして約60年以上に渡り撮影してきた。最初は富士の秀麗な姿やフォルムを追求。しかし後期になると次第に自分の精神状態や心情を反映させた富士を撮影するようになる。
今回は、当時のヴィンテージ・フレームで全作品を展示してみた。すべてが絵画用と思われる装飾的な額。写真がアートと考えられていなかった戦後昭和時代の展示方法を提示するという意図もある。金色の飾りやマット表面に布が貼られていたりする。まさに白いブックマットとシンプルなフレームを利用するのと対極の展示方。シンプルな展示の方がモノクロの富士の写真を引き立てるという感想もあるだろう。日本では写真はアート作品だとはあまり考えられていない。したがって岡田紅陽作品も作家性の見立てがあまり行われていない。個人的には過小評価だと考えている。

ウィリアム・ワイリー「The Anatomy of Trees」の展示風景

ウィリアム・ワイリーの「The Anatomy of Trees」では、コロラドの高地平原地帯の魅力的な光で、単独で生育している大木をモノクロで撮影。それぞれの木々の枝ぶりなどの表情を人間の人生に重ね合わせて表現している。8X10″の大判カメラで撮影し、インクジェットで制作。タイトルの和訳は「木々の解剖学」となる。

伊藤雅浩「陽はまた昇る / The Sun Also Rises」東日本大震災(2011/3/11)

伊藤雅浩「陽はまた昇る / The Sun Also Rises」は、21世紀の現代アート的視点で制作された風景作品としてセレクションした。本シリーズの特徴はカメラを使用しないで作品が制作されている点だろう。黒色の背景に分布している様々な大きさのカラフルなサークルは実は日本地図と重なる。伊藤は視覚で把握できない地震の作品化に挑戦。巨大地震の発生日を中心とし、前後6か月間に発生した震度1以上の地震を深度ごとに分類し、さらに各記号の直径を震度で表現し,地震規模と地震分布を可視化している。震源データは気象庁ウェブページ・震度データベースより引用。東日本大震災(2011/3/11)、阪神淡路大震災(1995/01/17)、熊本地震(2016/04/14)など、全9作品を展示。
彼の新作は、地球規模の環境を意識して制作された「植生図シリーズ」。これも21世紀の風景写真として秀逸だ。今回は展示できなかったが、シートで見せることは可能。興味ある人は声をかけてほしい。

今回のコレクション展の見どころは、様々な種類の写真制作方法が一堂に比較して見られることだ。モノクロ写真では、20世紀初頭フランスのファウンドフォト、ゾーンシステムのアンセル・アダムス、岡田紅陽の銀が浮き上がったヴィンテージ写真、正統派のマイケル・デゥイックによる21世紀の銀塩写真、フィルムで撮影してインクジェットで制作されたウィリアム・ワイリーのデジタル・アーカイヴァル・プリントまでが見比べられる。
カラーでは、テリ・ワイフェンバックの、アナログ時代のタイプCプリントから、デジタルカメラによるデジタルCプリントまでを展示。伊藤雅浩は、カメラを使用しないでデータを操作して重いテーマだが美しい抽象作品を作り上げている。

本展からは、プリント制作手法自体に優劣があるのではなく、それぞれの表現が独自の特徴を持っている事実が明確にわかってくる。またデジタル時代が到来してクオリティー自体の追求が困難で、あまり意味を持たない点も浮かび上がってくる。結局、そのうえでアーティスト/写真家が何を写真で表現して伝えたいかが問われるということなのだ。

本コレクション展は、9月29日まで開催。ギャラリーは、今週末の3連休中も23日(秋分の日)を含みオープン。火、水曜が休廊となる。写真での自己表現を考えている人や、アート写真のコレクションを考えている人はぜひ見に来てほしい。

「Blitz Collection : Landscapes」
ブリッツ・ギャラリー

ブリッツ2019年秋の予定
風景写真コレクション展/
ノーマン・パーキンソン展

2019年秋のギャラリーの展示スケジュールをお伝えする。

9月は連休中もオープンして珠玉の風景写真を紹介、10月以降はファッション写真の有名作の展示を行う予定。

(1)「Blitz Collection: Landscapes (ブリッツ・コレクション展:風景写真)」

ⓒ Ansel Adams “Northern California Coast Redwoods, ca.1960″ from Blitz gallery collection

ブリッツ・ギャラリーは、9月12日~29日にかけて、自然風景を撮影した写真作品のグループ展を開催する。
なお本展では、ギャラリーは9月16日(敬老の日)、23日(秋分の日)もオープン。火、水曜が休廊となる。

ランドスケープ写真は、写真が誕生した19世紀から現代まで、数多くの写真家が取り組んできたポピュラーなテーマ。初期段階では美しい自然のシーンを記録し多くの人々に伝える作品が中心だった。アンセル・アダムスは写真独自のアート性を追求。光の状態をフィルムと印画紙に可能な限り精緻に再現するゾーン・システムという独自技法を開発し、自分のヴィジョンをモダンなモノクロ写真で表現した。
岡田紅陽は、富士山をライフワークのテーマとして約60年以上に渡り撮影してきた。最初は富士の秀麗な姿やフォルムを追求します。しかし後期になると次第に自分の精神状態や心情を反映させた富士を撮影するようになる。
21世紀は現代アートが市場を席巻している、写真家たちはパーソナルな視点とアート志向を強く意識し、みずからの世界観やアイデアを表現する一環として風景を撮影している。また21世紀には、地球規模の環境破壊や気候変動などに強い問題意識を持ったアーティストによる風景作品が数多く見られる。もはや風景写真はアマチュア写真家が好むものにとどまらず、現代アートの最先端のジャンルとよべる。

今回のコレクション展では、ブリッツの膨大な収蔵写真作品の中から、クラシック作品から21世紀の現代アート系作品まで、約25点をセレクションして展示。本展をきっかけに、風景写真の世界に新たな魅力を発見してもらえば幸いだ。

(展示予定アーティスト)
アンセル・アダムス、マイケル・デゥイック、テリ・ワイフェンバック、ウィリアム・ワイリー、岡田紅陽、伊藤雅浩、ファウンド・フォトなど多数を展示予定。

(2)「Norman Parkinson : Always in Fashion 」
(ノーマン・パーキンソン展)

From the roof of the Condé Nast building on Lexington Avenue. With a view of the Chrysler and Empire State buildings, New York, American Vogue, 15 October 1949. Iconic Images/The Norman Parkinson Archive

10月11日~12月22日にかけては、20世紀英国を代表する写真家ノーマン・パーキンソン(1913 – 1990)の日本初個展を開催する。
こちらは通常通り、水曜~日曜日の営業、月/火曜日が休廊となる。

パーキンソンは、ファッション/ポートレート分野において、20世紀でもっとも偉大で、影響力を持つ写真家の一人だと言われている。彼の写真は、「ハ―パース・バザー」で活躍していた戦前のキャリア初期から革新的だといわれていた。当時のファッション写真は、光やモデルのポーズを完全にコントロール可能な写真スタジオで行われていた。パーキンソンは、モデルの存在にリアリティーを感じるストリートや、遠隔地のエキゾチックな場所での撮影を最初に行った写真家の一人。彼の写真では、モデルたちは自然かつダイナミックな動きがあり、時にユーモアのセンスを持って表現されていた。彼の方法論は「ドキュメンタリー・ファッション」と呼ばれ注目される。戦後は、「ヴォーグ」(1945-1960)、「クィーン」(1960-1964)などのファッション誌で仕事を手掛け、1964年以降はフリーランスで「タウン&カウントリー」などの仕事を行っています。
今回の日本での初個展では、1938年から1982年までに撮影されたモノクロ/カラーの代表作約25点を紹介。リサ・フォンサグリーヴスやマリー=エレーヌ・アルノーなどがモデルを務める有名ファッション写真から、オードリー・ヘップバーン、ジェリー・ホール、ザ・ビートルズ、デヴィッド・ボウイなどの珠玉のポートレートも含まれる。
すべてが作家の意思を受け継いで運営されているノーマン・パーキンンソン・アーカイブスから提供されるエディション付きエステート・プリント作品。
また2019年夏に刊行された“Norman Parkinson: Always in Fashion”(ACC刊)や、ポストカードも販売する。

(同時開催)「華麗なるファッション写真の世界」

ノーマン・パーキンソンのファッション・ポートレート写真と共に、彼と同時期に活躍した写真家、リチャード・アヴェドン、ジャンル―・シーフ、メルヴィン・ソコルスキー、ホルスト、ブライアン・ダフィーなどの作品の展示を予定している。

ご来廊をお待ちしています!

“ROCK ICONS 2”
(鋤田正義/グイード・ハラリ/フレンズ)
ブリッツ次回展が4月12日スタート!

ブリッツ・ギャラリーの次回展は、昨年に開催して好評だった、鋤田正義とグイード・ハラリによる20世紀ロックの伝説的ミュージシャンたちのポートレート写真展の第2弾、“ROCK ICONS 2(ロック・アイコンズ 2) / SUKITA X HARARI X FRIENDS”となる。日本人の鋤田とイタリア人のハラリは、70年代から90年代までの20世紀ロック黄金期のミュージシャンを世界中で撮影し続けてきた。二人は、撮影スタイルは違うものの、お互いの仕事をリスペクトしあう友人でもある。ハラリは、熱心なロックファンが多い日本での自作紹介を長年にわたり夢見ていた。昨年の“ROCK ICONS / SUKITA X HARARI”展は、ハラリの希望に鋤田が答えることで実現した。

“ROCK ICONS 2”では、二人の日本での未発表作品を中心に紹介する。また今回は、ハラリが自身のイタリアのギャラリーでプロデュースしている写真家のフランク・ステファンコ、メリ・シル、ロバート・ウィテカー、アート・ケイン、カーロ・マサリーニの作品も紹介する。いずれも日本初公開の有名ミュージシャンの珠玉のポートレート作品となる。
展示される多くの作品は、ミュージシャンとの深い信頼関係の中から生まれたコラボレーション作品。それらは単なるスナップではなく、コレクションの対象になっているアート系ポートレート写真となる。

本展で紹介されるミュージシャンは、鋤田正義が、デヴィッド・ボウイ、マーク・ボラン、デヴィッド・シルヴィアン、イギー・ポップ、YMO (イエロー・マジック・オーケストラ)、忌野清志郎など。グイード・ハラリが、ピーター・ガブリエル、ボブ・ディラン、トム・ウェイツ、ルー・リード、ローリー・アンダーソン、パティー・スミス、ケイト・ブッシュ、ロバート・スミス(ザ・キュアー)、フランク・ザッパなど。アート・ケインは、クリーム、ボブ・ディラン、ザ・ローリングストーンズ、ザ・フー、ジム・モリソン。フランク・ステファンコは、ブルース・スプリングスティーン。メリ・シルは、ジェフ・バックリィ。ロバート・ウィテカーは、ザ・ビートルズ。カーロ・マサリーニはフレディー・マーキュリーなどとなる。
本展では、モノクロ・カラーのよる様々なサイズの約60点を展示する。会期途中に一部作品の入れ替えも行う予定。

今回もほとんどの作品が販売される。小さいシート・サイズの8X10″(約20X25cm)、エディション100の作品なら、あの鋤田正義でもまだ2万円台から購入可能なものがある。超有名作の、ボウイの阪急電車、渋谷公会堂のライブの作品でも、まだ約20万円~購入可能だ。

最近、20世紀写真のアート写真市場は動きが鈍くなっている。その中で人気が衰えないのが、ミュージシャンを含むアート系ポートレート写真だ。今回はその分野の写真作品を数多く取り揃えることができた。たぶんブリッツにおける最高枚数の作品展示だと思う。
好評だったグイード・ハラリのデザインによる写真展カタログも会場で限定数販売する。

“ROCK ICONS 2 / SUKITA X HARARI X FRIENDS”
鋤田 正義 / グイード・ハラリ / フレンズ
2019年4月12日(木)~ 7月14日(日)
1:00PM~6:00PM
休廊 月・火曜日/入場無料

ザ・プリンシズ・トラスト・コンサートの集合写真
テリー・オニールが紡ぎだす80年代後半の英国

1月に掲載したテリー・オニール写真展の見どころで、テリー・オニールがライブ・エイドの集合写真を撮影していたと紹介した。彼の写真集“Terry O’Neill’s Rock ‘n’ Roll Album” (2014年、ACC Editions刊)には、ミュージシャン17名のカラー写真を収録。椅子に座ったティナ・タナ―を中心に、ポール・マッカトニー、エルトン・ジョン、ロッド・スチュアート、エリック・クラプトン、フィル・コリンズなどが写っている。記載されているタイトルは“Musicians involved in Live Aid, 1985”となっている。2枚目は、“Terry O’Neill: The A-z of Fame”(2013年、ACC Editions刊)に“Princes Diana and Live Aid”というタイトルでモノクロの集合写真が収録されている。

最近、非常に当時の事情に詳しい専門家のお客様からの指摘で、それらの写真は同じチャリティー・コンサートではあるものの、ザ・プリンシズ・トラストの支援イベントであることが判明した。写真集の記載内容は間違いだった。これは英国のチャールス皇太子が1976年に失業者など弱い立場の若者世代の支援目的のために設立した財団。発足したのは、ちょうど経済が悪化して失業者が増加し、いわゆる英国病に苦しんでいた時代だ。写真集のキャプションには、“ライブエイド”との記載があり、参加者がライブエイドとかなり重なることから信じてしまった。間違った情報を提供したことを心よりお詫びしたい。

正確には、カラーの方が1986年6月20日、ロンドンのウェンブリー・アリーナで行われた、ザ・プリンシズ・トラスト10周年記念コンサートでの集合写真。その模様はLP、CD化されている。ティナ・ターナー、エルトン・ジョン、ポール・マッカートニー、ロッド・スチュアート、エリック・クラプトン、ミッジ・ユーロ、ハワード・ジョーンズ、レベル42、ポール・ヤングなどが参加している。

モノクロの方は1988年6月5~6日に同じくザ・プリンシズ・トラストのもとに集結したミュージシャンによるロンドン・ロイヤル・アルバート・ホールでのチャリティー・コンサートでの集合写真となる。参加者は、ビージーズ、エルトン・ジョン、ポール・マッカートニー、レオナード・コーエン、ジョー・コッカー、マーク・ノップラー、ピーター・ガブリエル、フィル・コリンズ、トゥパウ、エリック・クラプトン、ミッジ・ユーロ、ハワード・ジョーンズ、リック・アストリーなど。ネットを調べたら、こちらは映像がレイザーディスクで発売されていた。

同じ記事で、1985年の「ライヴ・エイド」に行ったものの、クイーンやデヴィッド・ボウイを撮った写真が見つからなかったと書いた。しかし、彼らを撮っていないわけがないので、過去の写真を今一度調べてみた。
やはり、以前紹介したのと別のフィルムで撮影していたことを発見した。登場リストによるとクイーンは6時40分、デヴィッド・ボウイは7時20分の出演予定となっている。夏場のロンドンは日没がかなり遅い。しかし、6時を過ぎるとさすがに日が陰り、ステージは照明がメインのライティングになった。当時のカメラはもちろんアナログで、それも感度の低いデイライト用のコダックのカラー・フィルムを使用して望遠レンズでの撮影だった。クィーンの時はまだ回りが明るかったので、フレディー・マーキュリーの姿は確認できる。

ピアノを弾いている写真は、たぶんボヘミアン・ラプソディーの時だと思う。

しかし、その後のボウイはもうかなり暗いなかでの動きのあるパフォーマンスだった。 存在は確認できるがかなりブレ・ボケになっている。

その他、スティング、ポール・ヤングの姿も撮影されていた。

80年代初め、クラッシュのブリクストンでのコンサートに行った。当時の全員立ち見の会場内には、社会への不満の鬱積とそれを音楽で発散しようという人たちのエネルギーが充満していた。
しかし80年代半ば以降のチャリティーコンサート、例えば私の行ったライブエイドなどでの英国人の熱狂は、パンクロックのコンサートとは全く違っていた。ちょうど当時の英国は、北海油田からの原油産出による財政赤字の削減効果が出始め、英国病克服を目指すサッチャー首相による新自由主義的な各種政策の効果が出始めていた時期だった。経済状況が急激に改善したわけではなかったが、人々が未来に対して希望を持ち始めていた。実際に90年代以降の英国は、長期にわたり経済成長を継続していくことになる。経済状況の推移を聞いてもあまりピンとこないが、時代ごとのロック・ポップ音楽の状況に置き換えてみると実感がわいてくる。
そしてテリー・オニールの50年以上に渡る写真作品も、そのような音楽とともにあった、各時代の気分や雰囲気が反映されているのだ。撮影された時代を生きた人ならば、写真から音楽が蘇り、当時の記憶が思い出されるのではないか。私はそれこそが、彼の写真集人気が非常に高く、比較的高額なのに売れている理由ではなかと思う。

テリー・オニール 写真展
“Terry O’Neill: Rare and Unseen”
(テリー・オニール : レア・アンド・アンシーン)
3月24日(日)までブリッツで開催中
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 入場無料