感動を起点にディープなテーマ探求を始動させる
丸山 晋一の写真世界

いまや写真は広い意味での現代アート表現のひとつになっている。現代アートでは表現者は作品を制作する理由や考え方を自らが語ることが求められる。いわゆる、作品のテーマ性の提示であり、これが社会でどれだけ共有されるかで評価が決まる。このような状況で、多くのアーティスト志望者は世の中を驚かすような斬新なアイデアをひねり出そうと頭でっかちになる。どうしても色々と考えすぎる傾向が強くなるのだ。
ところで、私たちは本当に誰も思いつかないようなオリジナルな何かを生み出せるのだろうか。私たち思い浮かべる考えの多くは、すでに社会で一般的に共有されているのではないか。また日本で生まれ育った人は、どうしても日本の文化/習慣や歴史の影響から逃れることはできないだろう。資本主義世界に生まれたら、微塵も疑うことなく、周りの人と競争してお金儲けを目指す。そしてそれらの思考や行動の背景にある自分の個性や自由な想像力だと思っていたものは、おおむね社会や組織での役割や関係性の中でしか存在しない。自分が気付かないだけで、子供からの成長過程に環境に影響を受けて作り上げられた私的な幻想、つまり思い込みにすぎないのだ。

だから作品作りでは、最初から何か新しいものを生み出そうと、いろいろとアイデアを考えすぎてはいけない。
美術家の杉本博司は、人類誕生前、そして人類滅亡後の世界にも存在する普遍的な風景として代表作「海景」を制作している。これは人類が存在しない、つまり「思考」が存在しない世界のシーンの表現を目指しているのだろう。頭で「思考」に依存しない作品の可能性を考えているのだ。非常に高レベルの創作だといえるだろう。

私がワークショップなどでいつも引用するのは、米国人写真家ジョエル・マイロウィッツさんの言葉だ。仕事のインタビューで若手/新人へのアドバイスを求めたとき、彼は米国の学生がテーマ性やコンセプト重視により頭でっかちになっている事例を挙げて、一番重要なのは、感動なのですと明言した。私は、米国では若手や新人アーティストは自分が作り出したテーマで見る側を説得しようとしていて、作品の説明がまるで相手を論破するディベートのようになっているのだ、と理解した記憶がある。
彼はまず頭で考えるのではなく、心で感じるのが重要だと指摘したのだ。つまり感動を起点にして思考を展開していくことで、過度の思い込みにとらわれない自由な創作の可能性が開かれるかもしれないということ。そして次に、一般的な創作の過程へと移っていくのだ。つまり表面的な関心を探究したいテーマへと展開していき、関連情報の収集・調査そして整理・分析を行い、作品制作へとつなげていくのだ。

“Ryoanji, 2010”

私は丸山晋一は、過度に思考にとらわれずに作品の課題を見つけ出し創作につなげている写真家だと理解している。彼は、“肉眼では見えない、儚すぎる、そのような隠れた美を発見し捉えたい”という撮影意図があると語っている。これまでの作品は人間の目では見られない美を写真というテクノロジーによって可視化する挑戦だったといえるだろう。
“空書”では、空間に水と墨を放つことで、肉眼では捕らえられない瞬間的に浮かび上がり消えていく造形をハイスピードストロボを駆使して写真で捉えている。
“Water Sculpture”は、空中に撒かれた水が形成する一瞬のフォルムを彫刻に見立て表現する試み。
“Nude”は、踊る女性の連続する動きとフォルムの美しさを可視化しようとした作品。
“Light Sculpture”は、虹の発生する原理を利用して、そこから生まれる美をとらえる長期プロジェクト。水玉に光が当たって色が現れる現象に注目して水滴の中の色の可視化する究極のビジュアル制作にも挑戦。その一貫として、誰も見たことがない、満月の真夜中に滝にかかるきれいな虹の風景撮影を厳密な計算と周到な準備の上でニュージーランドで行っている。

・「AIでなんでも画像が作れる時代に、あえて真夜中に虹を撮るためにニュージーランドで30時間挑戦した話

“Light Sculpture #31 Wishbone Falls, 2020”

今回の展示作品のなかで、やや趣向が違うのが小さいサイズの28点をタイポロジー的に展示している“Japanese Beer、2014”だ。他とは制作アプローチが違い、思考から作品テーマが導かれたように感じられる。しかし、ビールの作品に取り掛かるきっかけは、当時アメリカに在住していた丸山が感じた驚きにある。それは日本の成熟した消費社会の先進性、タレントを起用した商品差別化のマーケティング技術、優れた製造開発力、微妙な違いを味わうことができる日本の食文化への感嘆なのだ。アメリカには日本のような税率で区別された膨大な種類のビールは市場に存在しないのだ。

本作では、多くのブランドの多種多様のビールをグラスに注いで撮影している。丸山は、それぞれの銘柄の色味や質感の特徴や違いが可視化できるのではないかと予想して取り組んだのだと思う。様々なビール缶のパッケージを撮影してグリッド状で提示する可能性も考えたそうだが、あえて中身のビール自体を同じグラスに泡と液体を同じ比率で注いで撮影して、タイポロジー的に表現する方法を採用している。今回の展示は28点だ、総作品数はなんと80点もある。完璧な泡の比率のビールを繰り返し同じ手法で撮影し続ける行為は、一種の修行のような厳しい行為だったことが容易に想像できる。当時の撮影現場を知る人の話によると、集中している丸山の姿に狂気を感じたという。
その結果は展示作品を見てもらえば明らかなのだが、中身の色味には際立った違いが出現しなかったのだ。多くのビールは全く同じものにさえ見える。ちなみにギャラリー内では、QRコードが掲示されており、個別作品の展示画像をスキャンすると缶の画像が重なりビールの銘柄がわかるというARの仕掛けも用意されている。

あれだけ缶のパッケージデザインでは自己主張しているビールなのだが、その中身自体には大きな違いがない事実が視覚的に浮かび上がってくる。もちろん、ビール会社はそれぞれには微妙な味の違いがあると主張するだろう。しかし、多少味が違うこれだけの多くの銘柄が存在する理由を誰も明確に説明できないだろう。結果的に本作では日本という高度消費社会で、企業が商品の僅かな差別化で競い合って利益追求している状況が可視化されているのだ。
地球規模の持続可能な社会作りや環境保護問題を考えたとき、私たちは市場での過度の競争追求を問い直さなければならないという事実を直感的に思い知らされる。丸山は本作で“肉眼では見えない、隠れた社会の真実”を可視化しているのだ。このような、誰も否定できないような地球規模の大きな作品テーマを取り上げるのは極めて難しい。丸山は、本作でも感嘆を起点に実験的手法の実践を通して見事に作品メッセージを私たちに伝えてくれる。

丸山の創作では、完成した作品自体に意味を見出すのではなく、作品制作への取り組みを通して、自分発見や自分探しの追求を目指そうとする姿勢が見て取れる。“肉眼では見えない、隠れた美や真実”の可視化を目指す創作行為自体が大きなテーマとなっているのだ。また制作に取り組む際の尋常でない執念と行動力、その結果生まれる美しいビジュアルにギャラリー来場者は心動かされる。それとともに、彼が自らの感動/感嘆を起点として試行錯誤を行い、探し当てた宇宙観をもとに、思考にとらわれない科学的アプローチで創作を実践している点も見逃せないだろう。いま停滞している現代アート表現の新たな展開の可能性を秘めていると思う。彼の創作のこの部分が的確に理解されると、市場での作品評価はさらに高まっていくのではないだろうか。

日本での久しぶりの個展となる。ぜひ丸山晋一の“空書”から進化していった一連の創作の軌跡を堪能してほしい。

「Shinichi Maruyama Photographs 2006-2021」
丸山 晋一 写真展
2023年 4月22日 ~ 7月30日
1:00PM~6:00PM / 木曜~日曜
(月/火曜休廊/ ご注意 水曜予約制)/ 入場無料

https://blitz-gallery.com/exhi_096.html

テリ・ワイフェンバック
「Saitama Notes」展
写真展の見どころ解説

ブリッツ・ギャラリーでは、テリ・ワイフェンバック写真展「Saitama Notes」を開催中だ。彼女は、2020年にさいたま市で開催された「さいたま国際芸術祭2020」に参加。総合ディレクターの映画監督/遠山昇司氏が芸術祭のテーマに選んだ「花 / Flower」を意識して、2019年春に同地を訪れ作品を撮影している。しかし2020年春に予定されていた芸術祭は新型コロナウイルスの感染拡大により開催が延期。写真作品は2020年11月にメイン会場の旧大宮区役所で短い期間だけ展示された。コロナ禍の中、残念ながら多くの人は会場に足を運ぶことができなかった。

本展は、同作を改めて本格的に紹介する写真展。パート1では「Flowers & Trees」を、パート2では、桜の開花時期に合わせて「Cherry Blossoms」を開催する。デジタル・アーカイバル・プリント作品による様々なサイズの約37点が2パートに分けて展示される。

ワイフェンバックは、2002年にイタリア北部の南チロル地方の自治体のラーナ(Lana)で集中的に撮影を行い、美しい写真集「Lana」Nazraeli Press)を制作している。今回は場所をさいたま市に移して、全く同様のスタイルと、被写体へのアプローチで同地を撮影している。作品からは「Lana」に近い、光と乾いた空気感が感じられる。タイトルの撮影地情報がなければ、見る側はイタリアやフランスのネイチャー・シーンだと勘違いするのではないか。同じ日本での作品でも、夏場の伊豆三島周辺で撮影された「The May Sun」では、対照的に湿った空気感が表現されている。

今回は「さいたま国際芸術祭2020」で展示した大判サイズの作品を再構成して紹介している。彼女の個展では、通常は作品をブックマットに入れ、額装して展示している。本展では写真サイズが大きいので、裏打ちして作品表面をそのまま見せる方法を採用している。フレームの枠から解放された、大きなサイズの写真はいつもの彼女の作品とはかなり趣が違う。彼女はもともと画家志望で、写真での抽象画の表現を意識していた。ピンボケ画面の中にシャープにピントがあった部分が存在するカラー写真が特徴だが、それはアナログ・カメラとフイルム時代に抽象的な表現を行う手段として行っていたのだ。デジタル・カメラで制作された今回の展示作は彼女の抽象表現の意図がより明確に感じられる。写真の展示であるという先入観を持たないと、多くの作品はまるで自然を被写体にした抽象画のように感じられるのだ。そのような印象を持つ理由は、作品の色味が大きく関係していると思う。つまり、例えば大判の広告写真などの場合、プリンターは濃く出力したがる傾向がある。広告の場合、商品アピールが極めて重要なのでプリントが薄いと失敗だと考えられがちなのだ。しかし、今回のワイフェンバック作品はそれらと比べるとかなり、色の濃度が穏やかなのだ。
私は、プルーフを本人と確認するオンライン会議やプリント出力に立ち会った。彼女は、何度も「density」に注意と、プリントの色の濃度を押さえることを指示していた。実際の、抽象画のような印象のプリントを見て、彼女の的確な指示に納得した。もし、もっと色の濃度が高かったら、大判のポスター写真っぽい印象になっていたと思われる。ぜひギャラリーで実際の作品を見て欲しい。

本展の象徴的な写真に、女性が手に桜の花を持ったイメージがある。先日、なんと手のご本人が来廊してくれた。作品の前で彼女の手を記念撮影してワイフェンバック本人に送ったところ、「このモデルのOさんはとても良いスピリチュアルな感覚を持っている。彼女と、その手と再会できて嬉しいです!」とのメッセージが返ってきた。人によっては、このような写真はアマチュアが好む、ややわざとらしい演出した作品だと感じる人もいるかもしれない。しかし、彼女はモデルのOさんに演技をさせたわけではない。彼女が、空間を舞う桜の花に手を差し伸べて、花弁が手のひらに落ちたシーンに、ワイフェンバックは一種の自然と人間との精神的な交わりを感じてシャッターを押したのではないだろうか。
彼女は以前に伊豆の三島に滞在して名作「The May Sun」を制作した時に、自然に神を感じる、古の日本の伝統的な美意識の「優美」を意識するようになった。たぶん日本人の血に流れる、自然に精神的なものを感じる感覚を、桜の舞う瞬間に直感したのではないだろうか。

「Saitama Notes」は、前作「Cloud Physics」で明らかになった、気候変動問題や自然環境保護という大きなテーマを踏襲している。彼女は前作で「私が言葉ではなく、写真で表現したいのは、気候変動によって失われるものは美しさだということです」というメッセージを寄せている。いま世界規模で様々な気候変動問題や地球温暖化による環境破壊が起きている。彼女はその残酷かつ悲惨な最前線を撮影するのではなく、あえて美しい理想化された自然を意識的に切り取って作品化している。私たちは彼女のヴィジュアルを見るに、こんな美しい地球の風景や、精一杯生きている鳥や植物たちを大切にしないといけないと、心で直感的に理解できるのだ。
本作は、個別作品としては「The May Sun」の続編にあたり、撮影アプローチは、イタリアで撮影した「Lana」やオランダを撮影した「Hidden Sites」の流れを汲んでいるといえるだろう。

ぜひワイフェンバックが見つけ出した、さいたま市の知られざる自然美をぜひご高覧ください!

「Saitama Notes」テリ・ワイフェンバック 写真展
Part 1「Flowers & Trees」 
2022年 10月14日(金)~ 12月25日(日)

Part 2「Cherry Blossoms」
2023年 1月14日(土)~ 4月2日(日)

1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 入場無料 

〇ギャラリー店頭では、テリ・ワイフェンバックの最新刊”GIVERNY, A YEAR AT THE GARDEN”(ATELER EXB,2022年刊) “(直筆サイン入り)を限定販売中です。

ブリッツ今秋の予定!
フォトフェア参加/ワイフェンバック展開催

〇日比谷OKUROJI PHOTO FAIR 2022に参加

Norman Parkinson

ブリッツは、10月7日から10日にかけて開催される「日比谷OKUROJI PHOTO FAIR 2022」に参加する。展示予定作品が揃ってきたのでお伝えしよう。

展示は、「ファッション写真のセレクション」と、取り扱い作家の、鋤田正義、テリ・ワイフェンバック、マイケル・ドウェックの作品展示となる。

ファッションでは、ジャンルー・シーフ、ノーマン・パーキンソン、ホルスト、フランク・ホーヴァット、デボラ・ターバヴィル、ピーター・リンドバーク、ハーマン・レナードなどを展示する。今回はすべてモノクロの銀塩写真の作品となった。非常に美しいプリントのクオリティーをぜひご堪能いただきたい。

Deborah Turbeville

鋤田正義は約30年以上前に本人により手焼きされた1点ものの貴重なヴィンテージ作品の展示となる。デヴィッド・ボウイ、マーク・ボランなどの作品が含まれる。その他、彼の代表作や、昨年に出版された「SUKITA:ETERNITY」の特装版に付属する3種類のプリントの現物を紹介する。写真のコレクションを始めたいと考えている人の最初の1枚には最適の、極めてお買い得のオリジナルプリントだ。昨今の円安で、海外作品の輸入価格は軒並み急上昇している。鋤田作品は、主要な販売市場は欧米となるが、今回の特装版は円貨で販売価格が決められている。もしプリントの絵柄が好きならば、絶対に狙い目だといえるだろう。

テリ・ワイフェンバックは、彼女の近年の代表シリーズの「Between Maple and Chestnut」、「The May Sun」、「Des oiseaux」、「Saitama Notes 」、「Cloud Physics」からのセレクションとなる。

ⓒTerri Weifenbach

マイケル・ドウェックは、「The End : Montauk NY」からの作品を持っていくつもりだ。

フォトフェア開催中は、私はだいたい会場にいる予定だ。
いままでのコロナ禍の2年間では、ワークショップやセミナーが開催できなかった。今回のフェアでは、可能な限りコレクションに興味ある人に対応したい。「ファインアート写真の見方」に関する質問も大歓迎だ。会場で見かけたら遠慮なく声をかけてください!

日比谷OKUROJI PHOTO FAIR 2022開催概要
■会 場: 日比谷OKUROJI G-13, G-14, G-15, H03近辺
東京都千代田区内幸町1-7-1
■会 期: 2022年10月7日(金)~ 2022年10月10日(月・祝)
10/7(金) 14:00〜18:00プレビュー 18:00〜20:00オープニング
10/8(土) 12:00〜19:00フェア開催
10/9(日) 12:00〜19:00フェア開催
10/10(月・祝) 12:00〜18:00フェア開催 
■入場料: 無料
公式サイト


〇テリ・ワイフェンバック「Saitama Notes」展開催

ⓒ Terri Weifenbach

ブリッツは、テリ・ワイフェンバックの写真展「Saitama Notes」を10月14日から開催する。ワイフェンバックは、2020年にさいたま市で開催された「さいたま国際芸術祭2020」に参加。総合ディレクターの映画監督の遠山昇司氏が芸術祭のテーマに選んだのは「花 / Flower」。遠山監督は2017年にIZU PHOTO MUSEUMで開催された「The May Sun」などを見て、ワイフェンバックの世界観に共感していた。招待作家として彼女に白羽の矢が立ったのだ。彼女は2019年春、ちょうど桜開花時期の前後にさいたま市を訪れ撮影を集中的に行った。
しかし2020年春に予定されていた芸術祭は新型コロナウイルスの感染拡大により開催が延期され、写真作品は2020年11月にメイン会場の旧大宮区役所で短い期間だけ展示された。コロナ禍の中、残念ながら多くの人は会場に足を運ぶことができなかった。
本展は、同作を改めて本格的に紹介する写真展。パート1では「Flowers & Trees」を、そしてパート2 では、桜の開花時期に合わせて「Cherry Blossoms」を開催する。

ワイフェンバックは2002年にイタリア北部の南チロル地方の自治体のラーナ(Lana)で撮影を行い、美しい写真集「Lana」(Nazraeli Press)を制作している。今回は撮影場所をさいたま市に移して、全く同様のスタイルと、被写体へのアプローチで同市内の各地を撮影した。タイトルの撮影地情報がなければ、見る側はイタリアやフランスのネイチャー・シーンだと勘違いするのではないだろうか。さいたま市の撮影場所は、市民の森・見沼グリーンセンター、深井家長屋門、氷川女體神社、井沼方公園、見沼通船堀、見沼代用水東縁、見沼代用水西縁、見沼氷川公園、見沼自然公園、見沼臨時グラウンド、武蔵第六天神社、尾島農園、さぎ山記念公園 青少年野外活動センター、芝川第一調節池、田島ケ原サクラソウ自生地など。今回の写真展をきっかけに、美しい自然を持つさいたま市が間違いなく再発見され、これらの地はワイフェンバックが撮影した聖地となり、自然を被写体にするアマチュア写真家が巡礼する場所になるかもしれない。本展では、「Saitama Notes」シリーズから、デジタル・アーカイヴァル・プリント作品による大小様々なサイズの約37点が2回のパートで展示される。一部の主要作品は2会期にわたって重複展示される。
会場では彼女が美術館の依頼でフランス・ジベルニーの庭の花や草木を撮影した最新写真集”GIVERNY, A YEAR AT THE GARDEN”(ATELER EXB,2022年刊)も販売予定。

「Saitama Notes」テリ・ワイフェンバック 写真展

Part 1「Flowers & Trees」
2022年 10月14日(金)~ 12月25日(日)

Part 2「Cherry Blossoms」
2023年 1月14日(土)~ 4月2日(日)

1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 入場無料
Blitz Gallery

以上、たくさんの方のご来場をお待ちしています!

ブリッツの最新情報/今秋の予定 日比谷OKUROJI PHOTO FAIR 2022に参加

ブリッツは、10月には「日比谷OKUROJI PHOTO FAIR 2022」に参加する。
これは日比谷の奥にある高架下「日比谷OKUROJI」に7つのギャラリーと8つの出版社/書店が集結にて開催される写真に特化した新しいアートフェア。
この開催場所はまだあまりなじみがないかもしれない。東京の中心地である日比谷・銀座の「奥」にあることに加え、高架下通路の秘めたムードを「路地」という言葉に置き換えることで「日比谷OKUROJI」と命名されたとのことだ。JR東日本(山手線、京浜東北線、東海道本線)と、JR東海(新幹線)が通る鉄道高架橋の下を300メートルにわたる施設となる。この地の象徴的な煉瓦アーチは、1910年(明治43年)にベルリンの高架橋をモデルにドイツ人技師の指導のもと建設されている。
なお同フェアは同時期に東京駅付近にて行われる「T3 PHOTO FESTIVAL」と連携して開催される。  

昨今のアートフェアはだいたい高額な入場料がかかるもの。しかし、同フェアはなんと入場無料となる。ぜひ多くの写真コレクションに興味ある人やプロ/アマチュア写真家に遊びに来て欲しい。

ブリッツの展示予定作品に触れておこう。目玉になるのは、鋤田正義の初公開となる約30年以上前に本人により手焼きされた1点ものの貴重なヴィンテージ作品5点の展示となる。デヴィッド・ボウイ、マーク・ボランなどの作品が含まれる。その他作品のセレクションは現在進行形。テリー・オニール、ハーマン・レナード、ノーマン・パーキンソンや、ブリッツの人気作家テリ・ワイフェンバック、マイケル・ドウェック、珠玉のファッション写真のセレクションも持ち込む予定にしている。
また昨年に出版された鋤田正義の「SUKITA:ETERNITY」の特装版。こちらの3種類のプリントを見たことがないという顧客からの意見があるので、同フェアには現物を持ち込むつもりだ。こちらは一部のセットは残数が極めて少なくなっている。興味ある人はぜひ実際のプリントを見極めてコレクションの対象として検討して欲しい。

フォトフェア開催中は、私はだいたい会場にいる予定。可能な限りコレクションなどの質問に対応したい。遠慮なく声をかけてください。

〇日比谷OKUROJI PHOTO FAIR 2022開催概要
■会 場: 日比谷OKUROJI
東京都千代田区内幸町1-7-1
■会 期: 2022年10月7日(金)~ 2022年10月10日(月・祝)
■ギャラリー:
Blitz Gallery
BLOOM GALLERY
KANA KAWANISHI GALLERY
PGI
POETIC SCAPE
The Third Gallery Aya
和田画廊
■出版社:
ふげん社
銀座 蔦屋書店
KANA KAWANISHI ART OFFICE
リブロアルテ
PURPLE/赤々舎
青幻舎
Shelf
torch press   ※アルファベット順

■入場料: 無料
■主 催: 日比谷OKUROJIアートフェア実行委員会
■会場協力: 株式会社ジェイアール東日本都市開発
■後 援: 千代田区
■同時期開催連携イベント: T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2022
公式サイト

〇ブリッツ・ギャラリー今秋の予定
次回は10月14日からテリ・ワイフェンバック「Saitama Notes」展となる。今回は2つのパートに分けて、展示架け替えを行って来年まで開催する予定。開催の詳細については次回に案内したい。詳細

鋤田正義”SUKITA ETERNITY”展
名古屋で8月に開催!

鋤田正義は、自らの半生を振り返ったとき、ずっと「あこがれ」を追い求めてきたと語っています。その強い思いが彼のニューヨーク/ロンドン進出へと突き動かしたのです。そして彼のキャリアを本格的に回顧する集大成が、写真集「SUKITA  ETERNITY」(ACC Art Books/玄光社)なのです。この写真集刊行により、初期のプロヴォーグ的ドキュメント作やライフワーク的な風景作品が紹介され、鋤田作品の全体像がはじめて明らかになりました。被写体の内面を引き出した代表作のポートレート写真にとどまらず、その多彩な作品の作家性の再評価が始まるきっかけとなりました。
デヴィッド・ボウイは鋤田のことを“may he click into eternity”と語っています。写真集のタイトル「ETERNITY SUKITA」は、編集に携わったカンベル・ガン氏の発案によりこの言葉から取られています。これは、鋤田は悠久の時を刻むようにシャッターを切る、というような意味になります。

写真集「SUKITA  ETERNITY」が世界同時発売したのが2021年の7月でした。コロナ禍に関わらず、いままでに刊行記念の写真展や作品展示のイベントを、ブリッツ・ギャラリー、銀座蔦屋書店、六本松蔦屋書店などで行ってきました。「SUKITA  ETERNITY」のデヴィッド・ボウイ作品やプリント付き特装版は、いま美術館「えき」KYOTOで7月24日まで開催中の「時間~TIME BOWIE×KYOTO×SUKITA リターンズ 鋤田正義写真展」でも紹介されています。

発売から約1年が経過して、東京、福岡、京都を経て、ついに刊行記念写真展が名古屋で開催されます。実は、名古屋/中部地方には数多くの鋤田正義ファンがいます。2018年には、デヴィッド・ボウイを撮影した、テリー・オニール、ダフィー、などの複数写真家のグループ「BOWIE:FACES」名古屋展に鋤田は参加。参加写真家を代表して鋤田が伏見の電気文化会館で行ったトークイベントは大盛況でした。
今回の「SUKITA  ETERNITY」展も、「BOWIE:FACES」と同じ納屋橋 髙山額縁店2Fで行われます。展示作は写真集に収録された、デヴィッド・ボウイ、イギー・ポップ、マーク・ボラン、YMO、忌野清志郎などのミュージシャンの代表的ポートレート作品を中心にセレクションされました。またキャリアを通して撮影してきた風景、ストリートなどのパーソナル作品など、様々なサイズの約30点が展示予定です。

「BOWIE:FACES」展、@納屋橋 髙山額縁店

また本展でぜひ注目して欲しいのは写真集のプリント付きの限定特装版です。豪華な布張りの特製ケース付きのコレクターズ・アイテムで、付属する3点のプリント作品の現物が名古屋で初めて展示されます。
作品は“David Bowie, Dawn of Hope, 1973”、“David Bowie, from ‘Heroes’ Session, 1977”、“Tate Modern, 2008” の3種類です。これら写真作品は特装版のみでの販売となります。すべて鋤田正義の直筆サイン入り。写真サイズは8X10″(約20.3X25.4cm)。特装版は3仕様が用意されていて、コレクター向けに全作が収録される3枚セット(A)が70点、特にボウイ・ファンのために、
“David Bowie, Dawn of Hope, 1973” と “Tate Modern, 2008” の2枚セット(B)が90点、 “David Bowie, from ‘Heroes’ Session, 1977” と
“Tate Modern, 2008” の2枚セット(C)が40点用意されています。

SUKITA:ETERNITY 特装版の収録プリント

鋤田正義の約40X50cm、エディション30の作品は、約22万円(税込み)。特装版のプリントサイズは小さいですが、3枚セットが74,800円(税込み)、2種類ある2枚セットが44,000円(税込み)で購入可能。極めてお値打ちの価格設定になっています。これには、日本でも写真がファインアート作品としてコレクションの対象になってほしいという鋤田の願いが込められています。一部セットは残り僅かになっています。ぜひ会場で現物の価値を見極めてください。鋤田やボウイファンはもちろん、写真を初めて買う人にも最適な作品だと言えるでしょう。

・名古屋展開催情報
2022年8月6日(土)-14日(日)
9:00-19:00(日曜/12:00-19:00)(*ご注意 最終日は17:00まで)
会場:納屋橋 髙山額縁店2F 
〒450-0003 愛知県名古屋市中村区名駅南一丁目1-17
写真展詳細

「ファインアート写真の見方」刊行記念
著者によるトークイベントを名古屋で開催

*新型コロナウイルス感染拡大の状況を鑑み、本イベントの開催は中止となりました。何卒ご了承ください。

(ご注意)
新型コロナウイルスの感染状況によっては、写真展/イベントが中止/延期になる場合があります。予めご了承ください。

美術館「えき」KYOTOのボウイ展がリターンズ!
鋤田がボウイ目線で約40年後の京都を撮影

デヴィッド・ボウイは、京都をこよなく愛したことで知られている。山科区に住居を持っていたという都市伝説もあるくらいだ。その発信源だといわれているのが、鋤田正義がボウイをまるで京都で暮らしているかのように撮影した一連のスナップなのだ。1980年3月、ボウイは宝酒造(伏見区)の焼酎「純」の広告の仕事で京都を訪れている。ロケ地はボウイが指定した正伝寺だった。ボウイは鋤田をアーティストとして尊敬していたから、広告撮影はあえて彼に依頼しなかったことが知られている。日本とは違い、欧米ではアーティストは自己表現を追求する人だと考えられており、めったに広告の仕事を行わないのだ。

(C)SUKITA

ボウイは仕事が終わった後に、鋤田を京都に招待して共にプライベートな時間を過ごしている。鋤田は自らの提案で、ロックのカリスマの鎧を脱いだ普段着のボウイを、京都の街並みを背景にドキュメント風に撮影した。数々の歴史的名作がこの時の撮影から生まれている。
名盤「ジギー・スターダスト」裏カヴァーのオマージュのテレフォン・ボックスでの電話通話、町屋の並ぶ路地の散策、古川町商店街での鰻の八幡巻きの買い物、阪急電車による移動、旅館での浴衣姿などの写真は、ボウイのファンなら見覚えがあるだろう。自然なたたずまいのボウイの姿を見た人が、彼が京都に暮らしていると思ったのも納得する。

(C)SUKITA

2019年から3回にわたり、鋤田はコロナ禍の京都で約40年前にボウイを撮影した場所を再訪する。彼はボウイの新旧の写真を通して悠久の都「京都」における、時間経過の可視化に挑戦した。“京都は変わってないと思っていたが、3回撮ってみたら、変わっていた……”と鋤田は語っている。(カタログから)
展覧会ディレクションは、プロデューサー立川直樹氏。カタログに掲載されている同氏のエッセーは、とても読み応えがある。

実は2021年4月3日に開幕した写真展「時間~TIME BOWIE×KYOTO×SUKITA」は新型コロナウイルス感染拡大により、5月の大型連休前に急遽中断となってしまった。大型連休に訪問予定だった多くのファンは、残念ながら同展を見ることができなかったのだ。その後アンコール開催の声が多数寄せられたことから、同展は「時間~TIME BOWIE×KYOTO×SUKITA リターンズ 鋤田正義写真展」として、再び開催されることになった。展覧会のフライヤー中央部には黄色の文字で「リターンズ」と追加記載がされている。今回はボウイの名盤「ジギー・スターダスト」誕生50年の年でもあることから、この時代の作品が前回よりも多数展示されているとのことだ。残念ながら、本展では鋤田正義のトークイベントやサイン会は予定されていない。しかし、会場では同展カタログの他に、昨年7月に刊行された「SUKITA:ETERNITY」のサイン本やプリント付き特装版が予約販売される予定だ。

京都ではちょうどアンビエント・ミュージックの第一人者で、ボウイのベルリン3部作の制作に関わったブライアン・イーノの音と光の展覧会「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」が8月21日まで、京都中央信用金庫 旧厚生センターで開催中だ。鋤田はイーノが手掛けたボウイの「Heroes」のカバーを撮影している。京都は鋤田に、ボウイ、イーノとの不思議な縁をもたらしている。

展覧会を見て回って時間があったら、ぜひボウイが訪れた、画材屋「彩雲堂」、老舗蕎麦屋「晦庵 河道屋」、正伝寺なども訪れたい。

時間~TIME BOWIE×KYOTO×SUKITA リターンズ
鋤田正義写真展
美術館「えき」KYOTO(ジェイアール京都伊勢丹7階隣接)
2022年6月25日(土)~7月24日(日)

【展示作品】
出展数:約200点
①1980年3月29日、京都で撮影したボウイ=39点
②2020~2021年 京都撮りおろし作品=115点
③ボウイとの仕事、ボウイゆかりの地など=22点
④ボウイ(タペストリープリント)=4枚

開催情報

フォトブック・コレクションへの誘い
Blitz Photobook Collection 2022 開催中!

ブリッツでは国内外の貴重な写真集、限定本、サイン本、プリント付き写真集を紹介する「ブリッツ・フォトブック・コレクション2022」を開催している。

5月はブリッツにとって写真集を紹介する季節だ。私どもは、1990年代から2000年代にかけて、かなり積極的に貴重な絶版写真集を取り扱っていた。特に2000年代には、いまはなき渋谷のパルコパート1のロゴスギャラリーで「フォトブック・コレクション」展を5月の連休明けに開催していた。2004年から2010年までに7回行っている。
インターネットの普及前の時代は、絶版になった人気写真集の入手はかなり困難だった。今では信じられないだろうが、海外の専門店が定期発行する在庫目録を郵送してもらい、希望する本をファックスで注文していた。決裁はクレジットカードで、荷物が届くのに早くても1か月くらいかかったものだ。
画像などないので、本の状態は受け取るまでは正確には分からなかった。「Very Good」という海外の状態表記が、日本人の感覚ではかなり傷みがある「普通」状態なのだと実体験を通して学んだものだ。その後、インターネットが一般に普及するようになり、大手のアマゾンやヤフオクでも絶版写真集を取り扱うようになる。市場での本の相場は、だれでもネット検索で調べられるようになる。その結果、利益率が大幅に縮小して、ビジネスとして成立しなくなるのだ。ブリッツは2010年代には絶版写真集の輸入販売からは撤退することになる。そして、ギャラリーでは数年に1回程度、オリジナル・プリントとともに絶版写真集を展示するイベントを開催するようになる。この辺の経緯は「ファインアート写真の見方」(玄光社2021年刊)に詳しく書いた。興味ある人はどうか読んで欲しい。

過去20年ぐらいで写真のデジタル化が進行し、写真表現は写真家以外の幅広い分野のアーティストに広く取り入れられるようになった。いまでは写真はアート表現のひとつの方法として一般化しているといえるだろう。そして多数のヴィジュアルをシークエンスで紹介する写真集フォーマットがアーティストの世界観やコンセプトを伝えるのに適していると認識されるようになった。いまでは、ファインアート系の写真を収録した写真集は、単なるコレクターの資料ではなく、それ自体が資産価値を持ったアート作品と認められているのだ。海外市場では、いま一般的な写真を多数収録したフォト・イラストレイテッド・ブックと区別されて、それらはフォトブックと呼ばれるようになった。

今年の企画では、フォトブックと写真のオリジナル・プリント作品の関係性を探求した。ブリッツが取り扱う写真家/アーティストの名作フォトブックと、収録されている写真作品を壁面で紹介するコーナーを設けている。またコレクター人気の高いファインアート系ファッション写真のコーナーも設置。多くの名作と関連フォトブック、60年代のヴィンテージ・ファッション・マガジンを紹介している。もちろん、すでに絶版になって入手が困難なレアブックも多数展示している。いま海外では、優れたフォトブックはオークションでも取り扱われるようになり、コレクション市場も拡大している。販売価格が数万円するフォトブックも数多く存在している。コレクターはそれらをコレクションの資料ではなく、フォトブック形式のエディション数が大きな写真のマルチプル作品だと考えているのだ。本としては高価だが、ファインアート作品だと認識すると非常にリーズナブルなのだ。特にコレクターは高価でもサイン本を購入する傾向が強いのだ。

ファインアート系写真のコレクションに興味を持っている人は多いだろう。しかし、有名写真家の作品は以前と比べてかなり高価になってしまった。また最近の円安傾向や輸送費高騰により、特に海外作品の価格の上昇傾向が強まっている。しかし、フォトブックのコレクションならまだリーズナブルな価格のものが数多くある。さすがに海外の有名アーティストのプリント付きのフォトブックとなると価格は決して安くはない。しかし、最近はそれらを外貨資産を持つような意識で抵抗なくコレクションする人も見られるようになった。まずはフォトブックから始めて、次第に高額な写真作品をコレクションするようになる人が日本でも増加している印象だ。フォトブック分野は、コレクター初心者にとっては、アート・コレクションが低予算で始められる最後の魅力的分野だといえるだろう。今回のイベントがそのきっかけになることを願いたい。

・写真家別のフォトブック&オリジナルプリント コーナー
テリ・ワイフェンバック
「Between Maple and Chestnuts」、「Cloud Physics」、「Instruction Manual」や過去のレアブックなど

マイケル・ドウィック
「The End: Montauk NY」(10周年記念版)、「Mermaids」など

鋤田正義
「Sukita : Eternity」、「Bowie Icons」、「Bowie X Sukita」など

テリー・オニール
「Rare and Unseen」、「Every picture tells a story」、「Terry O’Neill’s Rock ‘n’ Roll Album」など

・ファッション写真コーナー
ノーマン・パーキンソン、ホルスト、ジャンルー・シーフ、ダフィー、デボラ・ターバヴィル、ベッテイナ・ランスなどの写真作品、60年代のヴィンテージ・ファッション・マガジン、各種ファッション系フォトブックを展示

・サイン入りフォトブック
リチャード・アヴェドン、アーヴィング・ペン、ウィリアム・エグルストン、メルヴィン・ソコルスキー、ジャック・ピアソン、マリオ・ソレンティ、ライアン・マッキンレイ、トッド・ハイド、シンディー・シャーマンなど

・オリジナル・プリント付フォトブック
メルヴィン・ソコルスキー、マイケル・デウィック、テリー・オニール、鋤田正義、テリ・ワイフェンバック、アレック・ソスなど

(ブリッツ・フォトブック・コレクション 2022)
2022年 5月11日(水)~ 6月26日(日)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜 /入場無料 

マイケル・ドウェックの名作解説(3) “Habana Libre”(2011年作品)

ブリッツ・ギャラリーは、米国ニューヨーク出身の写真家/映画監督マイケル・ドウェック(1957-)の写真展「Michael Dweck Photographs 2002-2020」を開催中。彼が監督/制作した第2作目の長編ドキュメンタリー映画「The Truffle Hunters (白いトリュフの宿る森)」の日本での劇場公開記念展となる。

本展では、「The Truffle Hunters (白いトリュフの宿る森)」からの作品と共に、ドウェックのいままでの主要シリーズ「The End: Montauk, N.Y.」、「Mermaids」、「Habana Libre」のアイランド三部作から、代表作も含めた27点を展示中。最近になってドウェックの存在を知った人は、今までの作品をあまり知らないだろう。本展開催に際して、彼の代表作が生まれた背景や評価されている理由を解説してきた。

第3回はアイランド3部作の完結編「Habana Libre」を取り上げる。
ブリッツでは、写真集「Habana Libre」(Damiani/2011年)の刊行に際して、2011年12月から2012年2月かけて写真展を開催している。同作でドウィックが舞台に選んだのは共産主義国家のキューバ。彼は2009年以来、同地を8回も訪問しフィルム約500ロール分の撮影を行っている。本作で撮影されているのは、ナイトクラブのパーティー、若者のナイトライフ、スケートボーダー、ファッションショー、音楽ライブ、ビーチライフ、サーフィンなどのシーン。まるでマイアミや南米リオデジャネイロなどの観光地のような写真作品だが、撮影場所はキューバなのだ。
本作で、ドウィックは階級がないはずの共産主義国キューバに存在するクリエィティブな特権階級のファッショナブルな生活を探求している。西側はもちろん、キューバでも知られていない同国内のシークレット・ライフを初めて紹介するドキュメント作品なのだ。 ドウィック によると、かれらのコミュニティーはまるで多分野の芸術家、文化人が集った30年代のパリのサロンの雰囲気を彷彿させたとのこと。

ⓒ Michael Dweck

「Habana Libre」も 、前2作と同様に被写体はモデルのようなカッコイイ人たちばかりだ。しかし決してファッション写真の様なモデルを起用して撮影した作り物のイメージではない。
撮影にはキューバ政府が非常に協力的だったという、カメラ機材の持ち込みにも配慮があったそうだ。その背景には、当時高齢だった最高指導者フィデル・カストロ(1926-2016)後のキューバの青写真があったようだ。将来的に文化観光事業を国の根幹の産業に育てたいという意図があり、ドウィックのキューバでの作品制作はその意図に合致していたのだろう。
キューバというと、ライ・クーダとヴィム・ヴェンダース監督による「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の、古い街並みと50年代の古いアメリカ車が走っているイメージがあるだろう。いまでも多くの住民は経済的には非常に貧乏だという。しかしキューバ社会には、本作で紹介されたような、アーティスト、作家、俳優、モデル、ミュージシャンたちの階級が存在するのだ。彼らの生活で重要なのはお金ではなく、社会的コネクションなのだという。それは、お互いの才能を認め合った多分野のクリエイティブな人たちのコミュニティーなのだ。なんとその中には、革命家のチェ・ゲバラ、フィデル・カストロの息子二人も含まれている。ドウィックは彼らの貴重なポートレートも撮影、それらは写真集に収録されている。
この分野の人材が育ったのは、1959年の革命以来、キューバ政府が文化振興に力を入れたという歴史的背景があるそうだ。この状況を的確に言い表しているのが、“キューバは経済的には貧乏だが、人材的には豊かだ” というキューバUNICEFの副代表Viviana Limpias氏のコメント(同名写真集に収録)。これは、お金がなくてもそれぞれが自分を磨いて魅力的になれば、周りに人が集まり幸せになれる、ということ。これこそは、過度にお金を追求し続ける現代アメリカ人に対しての、本作を通してのドウィックからのメッセージではないだろうか。
なお同写真展はハバナのFototeca de Cuba museumでも2012年に開催されている。これはキューバ革命後、アメリカ人写真家による初めての個展だったという。米国とキューバとの文化的な関係性を取り上げるとともに、オバマ政権下の2015年の国交再開を示唆した作品として注目された。

ⓒ Michael Dweck

会場では、写真集「Hbana Libre」(2011年Damiani刊)の限定100部のプリント付き、サイン入り特装版が限定数販売されている。彼のほとんどの作品は今やかなり高額になっている。この特装版は極めてお買い得といえるだろう!

ⓒ Michael Dweck

〇開催情報

「Michael Dweck Photographs 2002-2020」
(マイケル・ドウェック 写真展)
2022年 2月16日(水)~ 4月24日(日)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 入場無料
(*ご注意)新型コロナウイルスの感染状況によっては入場制限や予約制を導入します。詳しくは公式サイトで発表します。

ブリッツ・ギャラリー
〒153-0064 東京都目黒区下目黒6-20-29

映画「白いトリュフの宿る森」
公式サイト

マイケル・ドウェックの名作解説(2) “Mermaids”(2008年作品)

ブリッツ・ギャラリーでは、米国ニューヨーク出身の写真家/映画監督マイケル・ドウェック(1957-)の写真展「Michael Dweck Photographs 2002-2020」を開催中。彼が監督/制作した第2作目の長編ドキュメンタリー映画「The Truffle Hunters (白いトリュフの宿る森)」の日本での劇場公開記念展となる。
本展では、「The Truffle Hunters (白いトリュフの宿る森)」からの作品と共に、ドウェックのいままでの主要シリーズ「The End: Montauk, N.Y.(ジ・エンド・モントーク、N.Y.)」、「Mermaids(マーメイド)」、「Habana Libre(ハバナ・リブレ)」のアイランド三部作から、代表作も含めた27点を展示している。
ブリッツのマイケル・ドウェック写真展は、2016年の「Michael Dweck : Paradise Lost」以来となる。最近になって彼の存在を知った人は、今までの作品をあまり知らないだろう。本展開催に際して、彼の代表作が生まれた背景や評価されている理由を解説する。

第2回は彼の第2作目で、出世作となった「Mermaids」を取り上げる。ブリッツでは、写真集「Mermaids」(Ditch Plain Press/2008年)の刊行に際して、2008年10月から12月かけて「American Mermaids」展として開催している。ドウェックは、デビュー作に続き本作でも、現代に残る古きよき時代の憧れのアメリカン・イメージの追求行っている。マーメイドというと、ロン・ハワード監督によるダリル・ハンナ主演の映画「スプラッシュ」や、ディズニー映画の「リトル・マーメイド」など、若く美しい女性像が思い浮かべる人が多いだろう。

ⓒ Michael Dweck 禁無断転載

本作では、現代に生きる実際のマーメイドたちのドキュメントを通して、理想のアメリカン・ガール像の提示に挑戦している。最初、本作を見た多くの人はモデルをプールで泳がせて撮影した作り物の作品だと勘違いした。本作ではフロリダ州の小さな漁村アリペカが主要な舞台になっている。被写体はすべて澄み切った水と共に実際に生活している現地の女性たちで、本作は彼女たちのドキュメンタリー作品なのだ。彼女たちは「ウォーターベイビース」と呼ばれており、まるで水中が住みかのように生活し、5~6分間も水中に潜ることができるとのこと。ドウェックは、現地の美女たちを現代のマーメイドに見立てているのだ。
ブロンドヘアーの女性たちはブルーやグリーンの美しい水中空間を背景に、光、影、反射、水のレンズ効果を駆使することでまるで抽象絵画のように表現されている。夜間の水中撮影では、彼女たちの美しい肉体フォルムが闇の中に、シンプルかつモダンに浮かび上がる。マーメイドたちは完璧なボディーフォルムを際立たせるために、大掛かりな投光機材を現場に持ち込んで撮影が行われたという。しかし、彼女たちの素顔がシルエットになり良く見えないなのが本作の特徴でもある。価値観が多様化した現代では、誰もが認める絶対的な美人などもはや存在しないだろう。見る側は顔がはっきり見えないマーメイドのイメージに想像力が掻き立てられ、それぞれが持つ理想のアメリカン・ガール像を重ね合わせる仕掛けなのだ。本作はマーメイド像を通して現代の価値観の多様化を表現する広義のファッション写真ともいえるだろう。
欧米文化の影響を受けた日本人にとってもマーメイドは憧れの西洋女性像の象徴だ。同展の来場者や写真集購入者は、自分の持つ理想像をドウェックのマーメイドたちの姿に重ね合わせたのではないだろうか。

ⓒ Michael Dweck 禁無断転載

ⓒ Michael Dweck 禁無断転載

2015年、ドウェックはシルエットで泳ぐマーメイドの姿を使ったサーフボード型の手作りオブジェの制作に挑戦する。このころになると、写真のデジタル技術が大きく進歩し、アーティストはアナログ時代の技術上の様々な制限から解放されて作品を自由に思い通りに制作できるようになる。デジタル写真の持つ様々な可能性が探求され、数多くのハイブリッドな作品が登場した時期と重なる。ドウェックの写真彫刻は、非常に手間がかかり、制作コストも高額だった。まずマーメイドのイメージをシルクにアーカイバル・ピグメントを使用してプリントし、ボード型のポリエステル・フォームに巻き付ける。その後、グラスファイバーと7層の高光沢樹脂でコーティングされている。本作はインクジェット技術の進歩により可能になった写真彫刻なのだ。
これらは写真のマルチプル作品として市場でも高く評価されている。2017年11月2日のフィリップス・ロンドンの“Photographs”オークションでは、サーフボード3枚に“Mermaid 18b”作品がプリントされた“Triple Gidget from Sculptural Forms, 2015”が、57,500ポンド(1ポンド150円/約862万円)で落札されている。従来の写真作品というよりも、写真表現を使った現代アート作品だと市場では認識されているのだ。

現在開催中の写真展では写真集「Mermaids」(Ditch Plain Press/2008年)と「Mermaids 18」 の大判ポスターを限定数だけ販売中。

〇開催情報「Michael Dweck Photographs 2002-2020」
(マイケル・ドウェック 写真展)
2022年 2月16日(水)~ 4月24日(日)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 入場無料
(*ご注意)新型コロナウイルスの感染状況によっては入場制限や予約制を導入します。詳しくは公式サイトで発表します。
会場:ブリッツ・ギャラリー
〒153-0064 東京都目黒区下目黒6-20-29 アクセス

〇映画「白いトリュフの宿る森」大ヒット上映中
上映情報は公式サイトでご確認ください。

マイケル・ドウェックの名作解説(1) “The End: Montauk, N.Y.”

ブリッツ・ギャラリーは、米国ニューヨーク出身の写真家/映画監督マイケル・ドウェック(1957-)の写真展「Michael Dweck Photographs 2002-2020」を2月16日から開催する。

彼の日本語表記だが、今回から「ドウェック」とした。これは本展が彼が監督/制作した第2作目の長編ドキュメンタリー映画「The Truffle Hunters (白いトリュフの宿る森)」の日本での劇場公開を記念して開催されるから。映画での表記に合わせて変更した。
ブリッツが彼の写真展「ザ・サーフィング・ライフ」展を開催したのは2006年5月になる。実はその前、ある洋服ブランドの青山本店のリニューアル・オープンに合わせて、彼の作品が展示された。その時の表記「デウィック」をずっと踏襲して使用してきたと記憶している。

さて、本展では、「The Truffle Hunters (白いトリュフの宿る森)」作品と共に、ドウェックのいままでの主要シリーズ「The End: Montauk, N.Y.(ジ・エンド・モントーク、N.Y.)」、「Mermaids(マーメイド)」、「Habana Libre(ハバナ・リブレ)」のアイランド三部作から、代表作も含めた27点を展示している。
写真から映像作品まで、幅広い分野で活躍するヴィジュアル・アーティストのドウェックのいままでのキャリアを本格的に回顧する写真展となっている。早いもので彼の最初の写真展示から約16年が経過している。また多くのフォトブックはレアブックとなり、高額になっている。最近になって彼の存在を知った人は、今までの作品をあまり知らないだろう。本展に際して、彼の代表作が生まれた背景や評価されている理由を解説したいと思う。

まず第1回は彼のデビュー作「The End: Montauk, N.Y.」を取り上げる。


Sonya Poles, Montauk, New York, 2002 ⓒ Michael Dweck 禁無断転載

本作の撮影場所モントークは、ニューヨーク州ロングアイランドの東端に位置する。島の一番最後の地であることから「The End」と呼ばれており、作品タイトルはこれを意味する。ブリッツでは、2006年5月に行った写真展「ザ・サーフィング・ライフ」で一連の作品を紹介している。代表的ビジュアルは、写真集「THE END:MONTAUK N.Y.」(2004年、Harry N. Abrams 刊)の表紙のイメージ。オールヌードの若い女性がサーフボードを抱えて走る写真なのだが、卑猥さなど微塵も感じない透明感あふれる健康的で美しいモノクロ作品だ。当時のギャラリーのオーディエンスは、男女を問わず本作を「エロカッコイイ」と呼んで評価していた記憶がある。また写真集を見た多くの人は、プロのモデルをモントークで撮影したファッション写真だと信じていた。実は本作はドキュメント写真のアプローチで制作されている。この象徴的イメージを含めて、写真集収録写真の被写体はすべてモントークで暮らすローカル・サーファーだったのだ。

モントークはニューヨーク市マンハッタンから100マイルほどにある。ニューヨーク生まれのドウェックは、1975年以来この地を頻繁に訪れてきたという。かつては地元の人だけがサーファーを楽しんでいる静かな漁村だったそうだ。よそ者の視線を気にする必要がないので、水着を付けないでサーフィンが出来るほど自由な環境が本当にあったという。みんなが仲間同士で、そのコミュニティーの中で部外者を寄せつけずに、自分たちだけのルールを守り自由気ままに生きていたのだ。90年代になり、ヤッピーたちがマンハッタンから大挙してモントークを訪れるようになる。いまではイーストコースとのサーファーズ・パラダイスになっている。古くからこの地を知るドウェックは、町の魅力が急激に失われていくことに危機感をいだく。彼は消えゆく古き良き時代のシーンをドキュメントしようと考え、2000年初めにプロジェクトを開始するのだ。
ドウェックはまず、サーファー・コミュニティーに入り込み、彼らとの関係性構築を模索する。サーファーたちの佇まいや表情が自然に感じられるのは、彼がコミュニティーの内側から撮影していることによる。彼らにとって、ドウェックは仲間の一人であり、もはやカメラの存在を意識しなくなっているのだ。このスタイルは、その後のドウェック 作品でも不変だ。映画「The Truffle Hunters (白いトリュフの宿る森)」でも、イタリア北部のトリュフハンターの老人たちと親しくなってから撮影を開始している。

彼が撮影を始めた時、すでにモントークはかなり観光地化が進行していた。しかし、平日の早朝や夕方などの時間帯には、かつての時代の残り香が残るシーンの断片が見られたのだ。オール・ヌードの若い女性がサーフボードを抱えて砂浜を颯爽とジャンプしながら走っている代表作もその一部なのだ。彼のカメラはそれらのシーンを追い求め続け、最終的に写真集の形式でモントークを人々が真に自由に生きる理想郷として描き出したのだ。
写真集が刊行されるや否や、多くのアメリカ人はドウェックの写真世界に完全に魅了されてしまった。それはドウェックの写真世界の中に、多くの人が幼少時代に垣間見た、今はなき理想のアメリカンシーンを見出したからにほかならない。また2001年に起きたアメリカ同時多発テロ事件により、当時の多くのアメリカ人が自信を失っていた。古き良き時代とは、かつて世界を主導した力強いアメリカ像と重なったことも作品の高い人気の背景にあっただろう。
ドウェックは日本人にとっても魅惑的な写真世界を提供している。彼が追い求めていたシーンは、多くの日本人が戦後に抱いていた理想とするアメリカンシーンでもある。テーマのサーフィン自体が戦後の日本人が憧れたアメリカ文化の象徴そのものだ。若い美しい男女がサーフィンを楽しみながら自由に生きるようなライフスタイルは、共同体のくびきの中で生きていた日本人が憧れる世界なのだ。テーマとしては、巨大消費システムに組み込まれたツーリズム、そして地域コミュニティーの崩壊を考えさせられる作品だと言えるだろう。

会場では「The End: Montauk, N.Y.」10周年特別版などの写真集を限定数販売する。2004年刊の、帯付のオリジナル版は、発売後わずか数週間で 5000 部を完売したという。いまでもレアブック市場で高額で販売されている。たぶん状態が非常に良い本の実売価格は500ドル(約5.75万円)~だろう。2015年に10周年記念の拡大版が刊行されたがすぐに完売。今回が限定2000部の待望の第3刷となる。

〇「The End: Montauk,N.Y.」10 周年記念 増補版
“The End: Montauk, N.Y. 2015” by Michael Dweck 10th Anniversary Expanded Edition(third edition/printing)
エッセー:マイケル・ドウェック(Michael Dweck)、
ピーター・ベアード(Peter Beard)、
ラスティー・ドラム(Rusty Drumm)
刊行:Ditch Plains Press、限定2000部
ハードカバー、サイズ 27.94 x 35.56 cm、約226ページ、モノクロ約260点、カラー15点、3点の折込ページ、オリジナル同様の半透明の帯付。
予価 22,000円(税込み)

〇開催情報

「Michael Dweck Photographs 2002-2020」
(マイケル・ドウェック 写真展)
2022年 2月16日(水)~ 4月24日(日)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 月・火曜日 / 入場無料
(*ご注意)新型コロナウイルスの感染状況によっては入場制限や予約制を導入します。詳しくは公式サイトで発表します。

ブリッツ・ギャラリー
〒153-0064 東京都目黒区下目黒6-20-29

〇映画「白いトリュフの宿る森」公式サイト