2014年現代アート・オークション 現代写真はどのようになっているのか?

米国の中央銀行にあたるFRBは、いまや金融緩和策の出口を模索している。しかし、金融緩和による株高や貴重な現代アート作品の高騰はまだ続いているといってよいだろう。株が高値圏にいる限りアート市場も安泰のようで、ここ数年続いている市場の2極化傾向にも変化はないようだ。

2014年5月にニューヨークで行われた一連の現代アート・オークションは凄いことになっている。クリスティーズが一晩で驚異的な
約745百万ドル(約745億円)を売り上げるなど、今シーズンに行われた4つのイーブニング・セールでなんと、前例のない約1,373百万ドル(約1373億円)の総売り上げを記録している。アンディー・ウォーホール、マーク・ロスコ、ジェフ・クーンズ、ジャン・ミチェル・バスキアなどが相変わらず高額で落札される一方で、バーネット・ニューマン、フランク・ステラ、アレクサンダー・カルダーなどがオークション落札新記録を達成している。

その中には写真が表現に使用された作品も含まれる。それらの動向を簡単に見てみよう。

写真でも市場の2極化傾向に変化がない様子だ。目立ったのはリチャード・プリンスとシンディー・シャーマンの人気の高さだろう。

クリスティーズで5月12日に開催された”If I Live I’ll See You”オークションでは、 リチャード・プリンスの初期作品”Spiritual America,
1983″が落札予想価格範囲内の3,973,000ドル(約3億9730万円)で、149 x 99 cmサイズの”Untitled (Cowboy), 1998″も3,749,000ドル(約3億7490万円)で落札。ちなみに、彼の絵画作品”Nurse of Greenmeadow”は8,565,000ドル(約8億5650万円)という高額で落札されている。ササビーズの5月14日と15日のコンテンポラリー・アート・オークションでは、シンディー・シャーマンが好調だった。”Untitled #93, 1981″が落札予想価格上限を超える3,861,000ドル(約3億8610万円)で落札されている。これは1998年に Sender collectionが、わずか96,000ドル(約960万円)で落札したものとのことだ。リチャード・プリンスも相変わらず人気が高く、”Untitled (Cowboy), 2000″が、落札予想価格上限約2倍の3,077,000ドル(約3億770万円)で落札された。

フリップスの5月15日と16日のコンテンポラリー・アート・オークションでは、全般的に写真系の目玉作品はなく低調だった。トップはシンディー・シャーマンなどに影響与えたことで知られるジョン・バルデッサリの2つのパーツからなる”Green  Gown (Death), 1989″。落札予想価格下限近くの389,000ドル(約3890万円)で落札されている。

最近、ある大手オークションハウスの写真担当者と意見交換する機会があった。私が色々なところで主張しているように、彼も現代アート、現代写真、クラシック写真などの境界線があいまいになってきていると感じているようだった。いまのオークションは、コンテンポラリー・アート、フォトグラフス、フォトブックなどのカテゴリーで分かれているが、この区分は将来的に崩れてくるという見方をしていた。実際、いまや出品される作品数の減少から19世紀写真というカテゴリーは消滅しつつある。それは20世紀のヴィンテージ・プリントにも当てはまる。将来的に、春と秋に定期的に行われているフォトグラフスは年1回になる可能性もあるようだ。その代わりに、種類別に、時代のイコン的な作品、ファッション写真などを集めた独自企画のオークションが増えてくる可能性が高いとのことだ。実際、オークションハウスの作品出品にその傾向があるのをここ数年強く感じている。
また、コンテンポラリー・アート分野では、写真表現を使うアーティストが非常に多いので、たとえばデイ・セールは写真関連だけになる可能性もあるようだ。
デジタル革命第2ステージを迎えて、ギャラリー店頭市場では写真とその他のアート作品との境界線があいまいになってきた。今後は、セカンダリー市場であるオークションでも、カテゴリーの大幅な見直しが進行していくのだろう。